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数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


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第6話 見ていいよ

夜の通りを、僕は走った。

光を追うのは得意だ。五年間、この力でできたのはそれくらいだったから。

白金の光は、町の門ではなく、町外れの空き地にあった。一昨日の夜、初めて彼女と言葉を交わした場所。

草むらの端に、小さな包みが置いてある。彼女の全財産なのだろう。夜が明けて門が開いたら、そのまま出ていくつもりだったのだ。

そして空き地の真ん中で、セラは両手を前に突き出していた。

手のひらに、白い炎。

いや、炎と呼ぶには大きすぎた。それは彼女の肩幅を超え、頭上を超え、脈打つように膨らんでいく。

「だめ……だめ、小さく……っ!」

彼女が押し殺した声で呻く。でも光は止まらない。このままじゃ、彼女自身が飲まれる。

「セラ!」

叫んだ瞬間、彼女の肩が跳ねた。

振り向いた拍子に、手が空へと向く。白金の光は夜空へまっすぐに立ち昇り、雲を一つ穿って、消えた。

静寂。

それから、セラはへたりと地面に座り込んだ。

「……なんで、来たの」

「手紙、読んだから」

「読まなくてよかったのに。……ううん、読まないで寝ててほしかったのに」

彼女は膝を抱えて、顔を埋めた。

僕は少し距離を開けて、隣に座った。草の匂いがした。遠くで、夜鳥が鳴いている。

「……あたしの村ね、すごく小さいんだ」

しばらくして、セラが口を開いた。

「羊と麦と、ちっちゃい教会があるだけ。でもあたし、村で一番魔力があったの。十七歳のとき、村の人たちがみんなでお金を出し合って、王都の入学試験に送り出してくれたんだ」

「……うん」

「出発の日、お母さんが言ったの。『セラはすごい子だから、大丈夫』って」

セラの声は、不思議なほど平坦だった。

「入学試験で測定器を壊したとき、みんな騒いだ。未知の才能だって。でも、入ってみたら、何もできなかった。杖を握るたびに爆発して、先生に怒られて、みんなに笑われて――」

「……」

「だから、笑ったの。あたしも一緒に。笑ってれば、『気にしてない元気な子』でいられるから。村には毎月、手紙を書いたよ。『毎日たのしい!』って」

そこで、彼女の声が初めて揺れた。

「退学になったこと、まだ書けてないんだ。……すごくないあたしは、帰るところもない」

僕は何も言えなかった。言える言葉を、持っていなかった。

「……ねえ、ルーク」

セラが顔を上げた。涙の跡が、月明かりに光っている。

「目を見たら、才能の条件がわかるんだよね。……もっと、見えたりするの?」

不意を突かれて、心臓が跳ねた。

嘘をつくこともできた。でも、この子には、嘘をつきたくなかった。

「……触れると、心の奥まで見える。その人が隠してるものとか、才能を邪魔してるものとか」

「じゃあ、昨日握手したときも――」

「見てない。決めてるんだ。相手がいいって言ったときしか、見ないって」

昔、一度だけ、うっかり見てしまったことがある。その人が誰にも言えずにいたことを、僕は知ってしまった。それ以来、その人は二度と僕の目を見なかった。

見えることは、助けにもなる。でも、刃にもなる。

セラは、しばらく自分の手を見つめていた。

それから、ゆっくりと、その手を僕の方へ差し出した。

「……見ていいよ」

「セラ、でも――」

「あたしも、わかんないの。なんで今日、魔法がぐちゃぐちゃになったのか。自分のことなのに、全然わかんない」

差し出された手が、小さく震えている。

「ルークなら、見られてもいい」

僕は、その手をそっと握った。

――流れ込んできた。

麦の穂が風に揺れる村。教会の鐘。羊の声。馬車に乗る小さなセラを、たくさんの人が手を振って見送っている。『セラはすごい子だから』――温かい声。

場面が変わる。広い教室。破裂音。煙。『またか。欠陥品に教えることはない』――冷たい声。笑い声。その中で笑っている、自分の声。

夜の寮。ランプの下で手紙を書く小さな背中。『毎日たのしい!』――その文字の上に、ぴちょんと落ちる、一粒の水。

そして、一番奥。

真っ暗な場所で、膝を抱えた幼い少女が、ずっと同じ言葉を繰り返していた。

――すごくないと、いらない子になる。

――失敗したら、みんないなくなる。

その言葉に応えるように、白金の光が、少女を包み込もうと渦を巻いている。守ろうとしている。必死に。だからこそ、恐れが大きいほど、光は暴れる――。

「――っ、はあっ……!」

手を離した瞬間、頭の中で何かが割れるような痛みが走った。

視界が白く明滅する。後頭部を半分かち割られたような痛みだ。こんなに深く見たのは、生まれて初めてだった。

「ルーク!?」

「大丈夫……それより、わかったよ」

僕は息を整えて、彼女を見た。

「セラの魔法が乱れるのは、才能が足りないからじゃない。『すごくなきゃいけない』って思うほど、君の魔力は君を守ろうとして暴れるんだ。今日、ユリウスに会ってから、ずっとそうだったよね」

セラが、息を呑む。

「……それじゃあ、あたしは一生――」

「だから、言うよ」

僕は、五年分の勇気を全部かき集めた。

「僕には、君が必要だ」

セラの目が、大きく見開かれる。

「すごいからじゃない。……いや、すごいんだけど。それだけじゃなくて。昨日、僕の荷物を持ってくれたセラに、隣にいてほしいんだ」

「……」

「失敗してもいい。暴発してもいい。それは、君がいなくなっていい理由にはならないよ」

長い沈黙があった。

それから、セラの顔がくしゃくしゃになった。

泣いているのか、笑っているのか、たぶん両方だった。

「……ルーク、それ、ずるいよぉ……」

「ずるい?」

「ずるい! そんなこと言われたら、出ていけないじゃん!」

そう叫んでから、セラはまじまじと僕の顔を見て、突然、吹き出した。

「……って、ルーク、鼻血!」

「え?」

拭うと、手の甲が赤く染まった。さっきの代償だ。いいことを言ったつもりだったのに、皆目格好がつかない。

「もう、じっとして!」

セラは自分の袖で、乱暴に僕の鼻を拭った。痛い。でも、笑っている彼女の顔は、今日見た中で一番本物だった。

そのあと、セラはもう一度だけ、手のひらを上に向けた。

灯ったのは、小さな白い光だった。

それはふわりと浮かび上がり、二つに分かれ、四つに分かれ、気づけば、空き地いっぱいに蛍のような光の粒が漂っていた。

どれも揺れない。暴れない。

「……きれい」

自分で撃った光を見上げて、セラが呟いた。

「うん。きれいだ」

帰り道、セラは包みを抱えて、少し照れくさそうに言った。

「……パーティやめるの、やめる」

「やめるのをやめるの?」

「そう! だから銅貨も返してもらうからね!」

翌朝。

寝不足のままギルドに入ると、ホールの中央に人だかりができていた。

学院の教官と、その隣に立つユリウス。向かいには、めったに姿を見せないギルド長まで出てきている。

「――以上が、学院からの依頼です」

教官が言った。

「実地訓練の仕上げとして、東の森の奥で学生と冒険者の合同討伐を行いたい。案内と護衛を務めていただく冒険者には、通常の三倍の報酬をお支払いします」

三倍。冒険者たちがざわめく。その中には、アルベルトさんたち「暁の翼」の姿もあった。

「それと、もう一つ」

ユリウスが、一歩前に出た。

その冷たい視線が、ホールの入り口を――僕の隣に立つ少女を、まっすぐに指した。

「そこの測定不能も、参加させてもらう。――欠陥品の魔法がどれほど危険か、辺境の諸君にもよくわかるだろう」

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