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数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


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第5話 笑顔の下

銀髪の少年の目が、セラを捉えた。

ほんの一瞬、眉が動く。それから、道端の石ころでも見るように、視線をそらした。

「……まだ生きていたのか。欠陥品」

それだけだった。白馬は歩みを止めず、列はギルドの方へと過ぎていく。

蛇のように長い列の最後の一人が通り過ぎてから、ようやくセラが息を吐いた。

「……あはは! びっくりした!」

ぱん、と自分の頰を叩いて、彼女は笑った。

「学院の同級生なの。ユリウス・グランツさま。伯爵家のご子息で、学年首席。すごい人なんだよ、あんな年でもう中級魔法を三つも使えるんだから!」

「……セラ」

「さ、ギルド行こ! 今日もばりばり稼がなきゃ!」

セラは先に立って歩き出した。いつもより、少しだけ速い足どりで。

ギルドは、今まで見たことがないほど混んでいた。

学院の訓練隊が、実地訓練のための臨時登録をしているのだ。揃いのローブの学生たちが列を作り、一人ずつあの水晶に手をかざしていく。

どの数字も、この町の冒険者たちよりずっと高い。そのたびに、壁際で見守る冒険者たちからため息が漏れた。

そして最後に、あの銀髪の少年が前に出た。

手をかざす。水晶が澄んだ青に輝き、数字が浮かぶ。

――魔力:A。総合評価:B。

ギルド中がどよめいた。十八でB。この町に、そんな数字を出せる冒険者は一人もいない。アルベルトさんでさえCだ。

「当然の結果だ」

少年――ユリウスは、眉ひとつ動かさずに言った。

「才能は血に宿る。グランツ家は三百年、王国に魔術師を送り出してきた。――平民とは、生まれたときから器が違う」

その視線が、ギルドの隅に立つセラを、まっすぐに射抜いた。

「たとえば、そこの女だ」

周りの目が、一斉にセラへ向く。

「入学試験で測定器を壊した。未知の才能かもしれないと、学院は特待で平民を取った。結果はどうだ? 一年間、一度もまともに魔法を撃てず、実技試験で教室の壁を吹き飛ばして退学だ」

くすくすと、学生たちの間から笑いが漏れる。彼らにとっては、お馴染みの笑い話なのだろう。

「測定器が壊れたのは、才能があるからじゃない。そもそも血を持たない者の魔力が、歪んでいるからだ。――辺境の諸君も、せいぜい巻き込まれないようにすることだ」

しん、と静まり返る。

その中で、明るい声が響いた。

「えへへ、そうなんですよー!」

セラだった。頭をかきながら、いつもの笑顔で。

「あたし、欠陥品で! みなさん、ご迷惑おかけしましたー!」

どっと笑いが起きた。学生たちも、冒険者たちも。「自分で言ってりゃ世話ないよ」「気楽なもんだ」

笑いの中で、僕だけがそれを見ていた。

カウンターの影。誰にも見えない低い位置で、セラの手が、スカートの裾をぎゅっと握りしめている。

その指が、小刻みに震えていた。

白金の光が、今にも消えそうな蠟燭のように、揺らいでいた。

「……セラは、鎧猪を倒しました」

気づいたら、口が動いていた。

笑い声が、潮が引くように止んだ。ユリウスの冷たい瞳が、初めて僕を捉えた。

「……誰だ、君は」

「ルークです。セラの――パーティの仲間です」

「測定値は」

「……Fです」

ユリウスは、ふっと鼻で笑った。

「Fランクが、測定不能の欠陥品をかばう。辺境らしい美談だな」

彼はそれ以上、僕たちに興味を失ったようだった。教官らしい大人に一礼して、学生たちを引き連れてギルドを出ていく。

その背中を見送りながら、僕はふと引っかかりを覚えていた。

彼の体から立ち上る、水色の光。

攻撃の才を持つ者は、たいてい赤や橙に光る。でも彼の光は、静かな湖のような色をしていた。それはどこか、盾を構え続けるグレンさんの姿を思い出させた。

自分に合わないものを、無理やり身にまとっているような――。

「ルーク! 依頼、これにしよ!」

セラの声で、考えが途切れた。

彼女が掲示板から剥がしてきたのは、市場の倉庫の鼠退治だった。

その日のセラは、よくしゃべった。

倉庫へ向かう道でも、鼠を追いかけているときも、帰り道も。市場の果物屋のこと、学院の寮の食事がまずかったこと、故郷の村の羊のこと。一瞬でも黙ったら、何かに追いつかれてしまうとでもいうように。

倉庫の裏で、小さな炎の練習もした。

昨日は蠟燭のように安定していた白い火が、今日は大きくなったり小さくなったり、せわしなく揺れた。一度は、突然拳ほどに膨らんで、セラが慰てて握り潰した。

「あはは、今日は調子悪い日! そういう日もあるよね!」

セラは笑った。でも僕には、その炎の揺れ方が、ギルドで震えていた彼女の指先と同じに見えた。

魔法は、心とつながっている。

そういえば、昨日森で彼女が初めて完璧な魔法を撃てたときも、「ルークは、まぶしいって言った」と叫んでいた。

その夜。麦穂亭の食堂で、セラはスープを半分残した。

「えへへ、お昼に食べ過ぎちゃった!」

お昼に食べたのは、黒パン一切れだけだ。僕は知っていたけれど、何も言えなかった。

「それじゃあ、おやすみルーク! 明日もがんばろーね!」

大きく手を振って、彼女は階段を駆け上がっていった。その明るさが、かえって胸に引っかかった。

(もう少し、何か言えばよかったんじゃないか)

でも、何を? 「本当は傷ついてるでしょう」とでも? それを言ったら、彼女が必死に守っている笑顔を、僕が剥ぎ取ることになる。

見えているからといって、それを口にしていいとは限らない。

その線引きがわからないまま、僕は自分の部屋で天井を眺めていた。

どれくらい経っただろう。

閉じたまぶたの裏で、何かが動いた。

この力は、壁も床も関係ない。近くにいる人の光は、目を閉じていてもぼんやり感じられる。宿の主人の穏やかな緑。向かいの部屋に泊まっている行商人の黄色。

そして――隣の部屋にあったはずの白金が、ゆっくりと、宿の外へ遠ざかっていく。

僕は飛び起きた。

廊下に出て、隣の扉を叩く。返事はない。取っ手を回すと、鍵はかかっていなかった。

部屋は、空っぽだった。

寝台は一度も使われた様子がない。小さな机の上に、昨日割り勘した銅貨が、きっちりと半分積まれていた。

その下に、一枚の紙切れ。

丸っこい、元気な文字だった。

『ごめんね。やっぱりあたし、ルークに迷惑かけちゃう。ルークは、もっといいパーティに入ってね。』

文字の最後が、小さくにじんでいた。

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