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数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


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第4話 測定不能

「……ルーク?」

アルベルトさんは、ジョッキを置いてゆっくりと歩いてきた。人垣が自然に割れる。町で評判のCランク冒険者が通るとき、みんなそうする。

彼はカウンターの牙を見下ろし、それから僕を見た。

もう、いつもの笑顔に戻っていた。

「すごいじゃないか、ルーク。鎧猪の牙なんて、よく見つけたね」

「見つけたんじゃなくて、セラが倒したんです」

「うんうん、わかってるよ」

アルベルトさんは優しくうなずいた。子どもの嘘を聞き流す大人のように。

「東の森だろう? あそこに鎧猪が出たなら、きっとどこかのパーティが深手を負わせて、取り逃がしたんだ。弱っていたところに運よく出くわした――そういうこともあるよ」

周りから「ああ、なるほど」「それならわかる」と安堵の声が漏れた。

その一言で、空気が変わった。さっきまでのどよめきが、「なんだ、まぐれか」という笑いに変わっていく。

「ちがうよ! あたしが、この手で――」

セラが身を乗り出す。アルベルトさんは、困ったように眉を下げた。

「君が暴発させた魔法が、たまたま当たったのかもしれないね。でも、それを実力だと思うのは危ないよ。次は運が味方してくれない」

そして、僕の肩に手を置く。昨日と同じように。

「ルークも。危ないことはもうやめなよ。君に何かあったら、僕は悲しい」

それだけ言うと、彼は仲間の待つテーブルへ戻っていった。

悪意はない。たぶん、本当にない。

ただ、あの人の中では、僕はいつまでも「守ってやるべき役立たず」のままなのだ。

「……お二人とも、ちょっといいかしら」

ノーラさんの声で、我に返った。彼女は牙を持ち上げ、断面をじっと見つめていた。

「規則でね、本来のランクより上の魔物を倒したと申告があったら、測定をやり直すことになってるの。実力があるなら、数値にも出るはずだから」

カウンターの奥に、水晶の球をはめ込んだ台座がある。冒険者なら誰もが一度は手をかざす、測定器だ。

周りの冒険者たちが、わらわらと集まってくる。見物のつもりだ。

「まずはルークくんから」

僕は手をかざした。水晶がぼんやりと曇り、数字が浮かび上がる。

魔力、筋力、俊敏さ。どれも五年前とほとんど変わらない。

――総合評価:F。

「ま、そうだろうな」「荷物持ちは荷物持ちだ」

笑い声が起きる。わかっていたことだ。僕の光は、僕にも測定器にも見えない。

「次、セラちゃん」

セラが一歩前に出た。いつもの笑顔だけど、口の端が少しこわばっている。学院でも、冒険者登録のときも、この水晶は彼女を「故障」と判定してきたのだ。

彼女が手をかざす。

瞬間、水晶が真っ白に輝いた。

ギルド中の影が消えるほどの光。数字が浮かび上がりかけて、ぐちゃぐちゃに崩れ、――ぴしり、と音がした。

水晶の表面に、細いひびが走っていた。

――測定不能。

静まり返ったギルドに、誰かの声が響いた。

「……また壊しやがった」

どっと笑いが起きた。「暴発女は測定器まで暴発させるのか」「修理代、誰が払うんだよ」

セラは「えへへ……ごめんなさーい」と頭をかいた。

でも僕には見えていた。水晶が輝いた瞬間、その光は彼女の白金と同じ色をしていた。壊れたのは、測れなかったからじゃない。測る器が、小さすぎたんだ。

杖と同じように。

この世界の「器」は、たぶん、ある大きさまでのものしか測れないようにできている。

「……結果はこうよ」

ノーラさんが、記録用紙にペンを走らせた。

「牙は本物。だから鎧猪の素材の買い取り金は、きちんとお二人に払います。でも、測定で数値が確認できない以上、討伐実績としては認められない。ランクは二人ともFのままよ」

そう言ってから、彼女はちらりと周りを見た。野次馬が「ほらな」と満足して散っていく。

それを確かめて、ノーラさんは声を落とした。

「――これは窓口としての答え。ここからは、わたし個人の意見。」

彼女は牙の断面を指でなぞった。

「この焦げ跡、外側から焼かれたんじゃない。一瞬で芯まで熱が通ってる。弱った魔物をつついたくらいじゃ、こうはならないわ」

「ノーラさん……」

「わたしは信じるわ。セラちゃんが倒したって」

セラの顔が、ぱあっと明るくなった。

「ノーラさん、大好き!」

「はいはい。……それとルークくん」

ノーラさんは、今度は僕の顔をまじまじと見た。

「脇腹。かばってるでしょう。今夜は大人しく寝ること。いいわね?」

……この人には、何も隠せない。

その夜。

僕たちは、ギルドの裏通りにある安宿「麦穂亭」の食堂で、二人だけの小さな祝いの宴を開いた。

鎧猪の素材を売ったお金は、思っていたよりずっと多かった。二人で一か月、美味しいものを食べられるくらい。

「半分こで、ちゃんと割り勘!」

セラは銅貨を一枚ずつ二つの山に分けていく。細かい。実に細かい。昨日、「借りは作らない」と言ったのは本気だったらしい。

「……ランク、上がらなかったね」

僕が言うと、セラは銅貨を数える手を止めた。

「いいの。あたしはわかってるもん。ルークもわかってる。ノーラさんも。三人もいる!」

指を三本立てて、得意げに笑う。

「昨日まで、ゼロだったんだよ? すごい増え方じゃない?」

その計算に、僕は少しだけ笑ってしまった。そうだ。昨日の今頃、僕はエールのジョッキを運んでいた。たった一日で、ぜんぶが変わった。

「それにね、あたし、決めたんだ」

セラは、スープを一口すすってから言った。

「数字で認めてもらえないなら、認めるしかないってところまで、積み上げればいいんだよ。一体じゃまぐれ。十体なら実力!」

「その前に、小さい魔法の練習だね。森に道を作るのは、一日一回まで」

「えー!」

セラは頰を膨らませて、それからけらけら笑った。

食堂のランプの下で、彼女の白金の光は、昨日より少しだけ穏やかに揺れていた。震えては、いなかった。

部屋に戻ると、壁の小さな鏡に自分の顔が映った。

やっぱり、何も光っていない。

でも、帰り道にセラが言った「ひとつ見つけたかも」という言葉が、頭の片隅にひっかかっていた。結局、何を見つけたのかは教えてくれなかったけれど。

翌朝。

脇腹の痛みは、ポーションのおかげでほとんど引いていた。麦穂亭を出て大通りを歩いていると、前を行くセラが「あっ」と声を上げた。

町の南門から、馬車の列が入ってくる。

磨き上げられた黒い車体。扉には、金色の三日月と杖の紋章。その後ろに、揃いのローブを着た若者たちが、整列して歩いている。

通りの人々が道を開け、ひそひそと囁き合う。

「王立魔法学院だ」「辺境で実地訓練だとよ」「貴族の子弟ばかりだぞ」

列の先頭。ひときわ立派な白馬に、銀色の髪の少年が乗っていた。端正な顔立ち。胸には、他の学生よりひときわ大きな金の記章。

その体からは、水色の光が、淡く立ち上っていた。

「……セラ?」

隣を見る。

セラは、笑っていなかった。

水をかぶったみたいに顔から血の気が引き、その視線は、銀髪の少年に釘付けになっていた。

「……ユリウスさま」

かすれた声で、彼女はその名を呼んだ。

そのとき、白馬の上の少年が、ゆっくりとこちらを振り向いた。

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