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数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


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第26話 二日目(第3章 第5話)

「……フィオちゃんの肩、気持ちよかった?」

朝ごはんのスープを受け取った瞬間、セラが、にっこりと笑って言った。

匙が、手の中で止まった。

「……起きてたの?」

「明け方に、ちょっとだけ目が覚めたの。天幕から顔出したら、焚火の前に、影が一つしかなくてさ。よーく見たら、二つがくっついてたのよね」

笑顔は、いつもと同じだった。でも、その白金の光は、わずかに、ぶすっと膨らんでいた。昨日のフィオの光と、同じ膨らみ方だった。

「……あの、それは、ルークさんが疲れてたので……」

竈の前で、フィオが小さく言った。でも、その声は、いつもより少しだけ胸を張っていた。言い訳の形をしているのに、ちっとも言い訳に聞こえない。

「ふーん。へー。そっかー」

セラは、スープを一口すすってから、ぶすっと言った。

「……フィオちゃんのスープ、おいしいのが、なんか悔しい」

それは、本当においしかった。干し肉と、昨日採った青眉草の余りを少しだけ刻んで入れてある。少し青臭いのに、不思議と体が温まる味だった。

グレタさんが、少し離れた岩の上で、自分の木の碗を無言で傾けていた。その碗にも、フィオのスープが、ちゃんと入っている。一つ多めに作って、黙って届けたのだ。

グレタさんは、何も言わなかった。ただ、碗を空にしてから、フィオの方へ、ほんの少しだけ、うなずいてみせた。

二日目の課題は、旧街道に沿って森の奥へ半日進み、「古い物見塔の跡」までたどり着くことだった。そこで二晩目の野営をして、三日目の朝、予告なしの課題を受け取る。

それだけのはずだった。

「――来ます。前から、森狼が五匹。……こっちを狙ってない。ただ、走ってます」

出発して、まだ一刻もたたないうちの、三度目の警告だった。

「……セラ、右の二匹だけ。針でいい。他の三匹は、たぶんそのまま通り過ぎる」

「りょーかい!」

白金の針が二本。森狼が二匹、草むらに転がる。残りの三匹は、僕たちのことなど見もせずに、旧街道を町の方へと駆け抜けていった。

その後ろ姿を、グレタさんが、じっと見送っていた。

「……昨日より、多いわね」

独り言のような声。そして、その帳面に、何かを書き込んだ。

「……それに、どれも外へ向かっている。奥から、町の方へ」

東の森の、あの異変だ。大熊のときと同じ。魔物たちが、奥から外へと逃げている。

そして昨夜、フィオが感じた、「たくさんの太鼓」。

午前中だけで、予定にない魔物と、六回ぶつかった。

そのたびに、フィオが告げ、僕が見て、セラが撃つ。昨日と同じように。一度も誰も怪我をしなかった。セラの手も、赤くならなかった。

でも――こめかみの奥の砂は、一粒ずつ、確実に積もっていった。

一つの戦いで、二人の光を見る。フィオの光がどちらへ引き絞られ、セラの手のひらの光がどれだけ揺れているか。それを、一瞬も目を離さずに追い続ける。それが六回。

昨日の一日分を、半日で使った気がした。

「……るーく。ちょっと、こっち来て」

昼の休憩。旧街道の脇の、苔むした倒木の前で、セラが手招きしていた。

言われるままに近づくと、彼女は倒木に腰を下ろして、自分の膝を、ぽんぽん、と叩いた。

「はい。ここ。寝て」

「……えっ」

「昨日はフィオちゃんの肩でしょ? だから今日は、あたしの膝。これで、おあいこ!」

何のおあいこなのか、よくわからなかった。

「……セラ、僕は大丈夫だから――」

「だいじょうぶじゃない人は、みんなそう言うんだよ。……あたしも、そうだったもん」

その声が、少しだけ、低くなった。

……そうだ。この子は、二十日前、あの草地で、焦げた手を背中に隠して、そう笑ったのだ。

「……五十数える間だけ。それでいいから」

観念して、そっと頭を下ろした。

やわらかくて、温かかった。太陽の匂いがした。

見上げると、赤い髪の向こうに、木漏れ日が揺れている。その光を背にして、セラが、じっとこちらを見下ろしていた。

「……一、二、三……」

小さな声で、本当に数え始めた。

そして、その手が、そっと、僕のこめかみに触れた。包帯の取れた、まだ少しだけ赤い手のひら。そのひんやりした指先が、ゆっくりと、こめかみをなぞっていく。

「……十、十一……昨日の夜、ルークがあたしの手を塗ってくれたときの、お返し。……十二……」

こめかみの奥の砂が、少しだけ、さらさらと流れていく気がした。

目を閉じる。まぶたの裏に、白金の光。すぐ、そこに。穏やかな、蠟燭のような光。

「……二十……二十一……」

数える声が、少しずつ遠くなっていく。

――そして、「五十」という声を、僕は結局聞かなかった。

「……セラさん。もう、百を超えてます」

「しーっ。いいの、数え間違えたことにするの」

そんな二人の声が、夢の向こうで聞こえた気がした。

「……今日は、譲ります」

フィオのその声が、少しだけ悔しそうで、少しだけ笑っていたのも。

目を覚ますと、旧街道の向こうから、白い外套が歩いてくるところだった。

慌てて身を起こす。セラが「あー」と不満そうな声を上げた。

「――やあ。邪魔をしたなら、すまない」

セドリックは、一瞬だけ眉を上げて、それから、何も見なかったという風に穏やかに笑った。その後ろの三人の仲間も、彼らの審査官も、姿勢が一つも崩れていない。

「君たちも、物見塔の跡へ?」

「はい」

「では、一つだけ伝えておこう」

セドリックの声が、わずかに引き締まった。

「昨夜、Bの審査の区域で、何かがあったらしい。今朝、審査官同士で連絡が回った。大型の魔物の痕跡があったと。――我々の区域まで来ている魔物の数が多いのも、たぶんそのせいだ」

フィオが、びくりと肩を跳ねさせた。

「……それを、わざわざ教えに?」

「審査で競うのは、パーティの力だ。知っているべきことを知らないで倒れた相手に勝っても、何の証明にもならないよ」

それは、勝ち誇った声ではなかった。ただ、そういうものだと、心から信じている声だった。

そして――その視線が、僕の顔で止まった。

「……それと。君は、昨日より顔色が悪いな」

穏やかな声だった。でも、その一言は、審査官の帳面の一行よりも、ずっと重かった。

「白翼」が去っていくのを見送って、しばらくしてから。

今度は、反対の方角から、別の一団がやってきた。

「――やあ、ルーク!」

アルベルトさんだった。

「暁の翼」は、Bの審査の区域を移され、旧街道を迂回して、別の入り口へ向かうところだという。

「昨夜は大変だったんだ。野営地のそばを、恐ろしく大きな何かが通っていってね。――でも、大丈夫だったよ。ヴァルターが、すぐに全員を風下へ移してくれたから」

その笑顔は、後ろの仲間たちも含めて、余裕があった。金色の光も、ここしばらくで一番、くすみが少ない。うまく行っているのだ。――たぶん、後ろに立つ鉄灰色の男のおかげで。

「そっちはどうだい? ――無理はしないでね。君に何かあったら、僕は悲しいから」

いつかと同じ言葉。同じ、穏やかな笑顔。

アルベルトさんが歩き出し、仲間たちがそれに続く。

その最後尾。鉄灰色の鎧が、僕のすぐ横で、一瞬だけ歩みを緩めた。

初めて、その口が開いた。

「――見続けるのは、疲れるだろう」

低く、乾いた声だった。

それだけ言うと、ヴァルターは、誰の返事も待たずに、仲間たちの後を追っていった。

背中が、ひやりとした。

――なぜ。人の光を「見続ける」ことの重さを。

それは、アルベルトさんにも、グレンさんにも、この二人にさえも、話したことはない。セラに触れて鼻血を出した夜のことも、審査の三日前の夜のことも。

それを、最初から知っている者がいる。

「……ルーク?」

セラが、心配そうに、僕の袖を引いた。

フィオの琥珀色の光が、ヴァルターの去った方角へ、細く、冷たく、張り詰めていた。

物見塔の跡にたどり着いたのは、日暮れの少し前だった。

石を積んだ円い土台だけが、苔に覆われて残っている。その内側は風が届かず、野営にはちょうどいい。

天幕を張り、竈を作り、水を汲む。体は、昨日と同じように動いてくれた。

でも、積んだ薪の高さを、一度、数え間違えた。水袋を一つ、置く場所を間違えた。

そんなことは、五年間で一度もなかった。

その夜、見張りの交代を待つ間。

「……ルークさん、でしたね」

焚火の光の外側から、グレタさんの声がした。

二日間で、彼女の方から名前を呼ばれたのは、初めてだった。

「……はい」

グレタさんは、二人が眠っている天幕の方をちらりと見てから、僕の向かいに腰を下ろした。

「口は出さないと約束したけれど。――これは審査ではなく、命の話だから、言います」

その帳面が、彼女の膝の上で、閉じられたままだった。

「あなたは、一日目に、右手でこめかみを押さえたのが三回。今日は、十一回。そのうち八回は、戦いの直後です」

――数えられていた。

「それに、今日は野営の準備で、二つ間違えた。昨日のあなたなら、一つも間違えなかったことを」

何も、言い返せなかった。

グレタさんは、その沈黙を、ただ受け止めた。

「あなたが何を見ているのか、わたしにはわからない。でも、あなたが何かをずっと見続けていて、それがあなたを削っていることだけは、わかる」

そして、その目が、まっすぐに僕を見た。

「明日、あなたが倒れそうだとわたしが判断したら、その場で、『灯火』の審査を打ち切ります。――それでも、よろしいですね」

「……はい」

そう答えるしか、なかった。

グレタさんは、うなずいて立ち上がった。そして、自分の天幕に戻りかけて、一度だけ、振り返った。

「……あの二人は、もう気づいていますよ。あなたが隠しているつもりのことは、たいてい、そばにいる人には全部見えているものです」

その後ろ姿が、闇の中に消えていく。

焚火の前で、一人、自分の手を見つめた。

左の手首に、銀色の細い紐。三人おそろいの、お守り。

――そばにいる人には、全部見えている。

それはたぶん、僕が一番よく知っているはずのことだった。

――夜明け前。

「――ルークさんっ!」

フィオの声で、飛び起きた。

天幕の外。琥珀色の光が、森の奥へと、痛いほどに引き絞られていた。

「……来ます。人です。二人。……すごく、弱ってる」

その言葉のとおりだった。

物見塔の跡の石積みの向こうから、二つの人影が、もつれるようにして現れた。

一人は、領都の審査官の外套を着ていた。その肩を、若い冒険者が片腕で支えている。二人とも、泥と血にまみれていた。

グレタさんが、もう駆け寄っていた。

「――ハンス!?」

その審査官は、グレタさんの顔を見て、その場に膝をついた。

「……グレタか……Bの審査だ。もう一組の……『灰狼団』の……」

若い冒険者が、その後を引き取った。口元が、震えていた。

「……夜中に、崖が崩れたんだ。その下から……何かが。……リーダーたちが、崩れた岩の向こうに、取り残されて……俺たちだけ、助けを呼びに……」

そこで、若い冒険者は、僕たちの後ろ、まだ暗い森の奥を振り返った。

「……頼む。この近くにいるのは、Dの審査のパーティだけなんだ」

空が、少しずつ白んでいく。

三日目の朝。予告なしの課題を受け取るはずだった、その朝。

グレタさんが、ゆっくりと立ち上がり、僕たち三人を振り返った。

その銅色の光が、この三日間で初めて、揺らいでいた。

「……予告していた課題は、取り消します。――代わりに、これを、三日目の課題とします」

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