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数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


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第2話 杖を捨てろ

「……は?」

少女はぽかんと口を開けた。それから、ぷっと吹き出す。

「あはは! なにそれ、新しい慰め方? これ、学院から持ってきた一番いい杖だよ? ……折れちゃったけど」

「うん。でも、君には小さい」

「……へんな人」

少女は涙を手の甲でごしごし拭って、いつもの笑顔に戻った。いや、戻ろうとしていた。

「あたし、セラ。暴発のセラって言えば、この町じゃちょっとした有名人だよ。えへへ」

「僕はルーク。……さっきまで、暁の翼で荷物持ちをしてた」

「さっきまで?」

「抜けてきたんだ。君とパーティを組みたくて」

セラの笑顔が止まった。

「……からかってる?」

「からかってない」

「だってあたし、測定不能だよ? 学院も追い出されたし、どこのパーティも入れてくれないし、そもそも魔法、一回もちゃんと撃てたことないし」

指を折って数える声が、少しずつ小さくなる。

僕は彼女の前にしゃがんだ。

「セラ。少しだけ、僕の目を見てくれる?」

「え、な、なに急に」

「お願い」

戸惑いながらも、彼女はこちらを見た。翠色の瞳と、目が合う。

その瞬間、白金の光が流れ込んできた。頭の奥に、言葉が浮かぶ。

――素質:底なしの魔力。

――開花の条件:杖を捨て、自らの手で放つこと。

こめかみが、ずきりと痛んだ。思わず顔をしかめる。

「だ、大丈夫?」

「平気。……わかったよ、セラ」

僕は痛みをこらえて、言った。

「杖を捨てて。手から直接、魔法を撃つんだ」

沈黙。

セラは数秒固まったあと、ぶんぶんと首を横に振った。

「むりむりむり! 杖なしの魔法なんて、学院で一番最初に禁止されることだよ!? 『魔力が暴れて腕が吹き飛ぶ』『下品な野良魔術師のやり方』って、先生たちみんな言ってた!」

「君の魔力は、杖に入りきらないくらい大きい。だから杖が壊れて、暴発してるんだ」

「……なんで、そんなことわかるの」

まっすぐな問いだった。僕は少しだけ迷って、正直に答えた。

「見えるんだ。人の才能が、光みたいに」

笑われる、と思った。五年間、ずっとそうだったから。

でも彼女は、笑わなかった。

「……あたしのは、何色?」

「白金。今まで見た誰よりも、まぶしい」

セラは自分の両手をじっと見つめた。煤で汚れた、小さな手だった。

「……変な人」

さっきと同じ言葉なのに、声が少し震えていた。

「杖なしは、まだ怖い。でも――パーティは、組んでみてもいいよ。お試しで!」

ぱっと顔を上げて、彼女は笑った。今度の笑顔は、少しだけ本物に見えた。

翌朝。ギルドの掲示板の前に二人で立つと、周りからひそひそ声が聞こえた。

「おい見ろ、荷物持ちと暴発女だ」「本当に組んだのかよ」「一週間どころか三日だな」

セラは「えへへ、有名人!」と胸を張っている。強い。

「ルークくん、セラちゃん。おはよう」

カウンターからノーラさんが手招きした。

「最初の依頼を探してるのよね? これなんてどうかしら」

差し出されたのは、東の森での薬草採取。Fランク向けの、一番簡単な依頼だ。

「……地味!」

「最初は地味なくらいがいいの。それに、東の森なら人も来ないから――少しくらい魔法の練習をしても、怒られないわよ?」

ノーラさんは片目をつぶった。この人はいつも、言葉にしないところで助けてくれる。

ギルドを出たところで、セラが「ちょっと寄り道!」と僕の袖を引いた。連れていかれたのは、大通りの端にある古い杖屋だった。

「杖、昨日折れちゃったから。魔法使いが杖なしで依頼に行くなんて、ありえないでしょ?」

「でもセラ、杖は――」

「わかってる、わかってる。でもさ」

セラは棚に並んだ杖を眺めながら、少しだけ声を落とした。

「杖を持ってないと、あたし、魔法使いじゃなくなっちゃう気がするんだ」

店主の老人が、セラの赤い髪を見て鼻を鳴らした。

「暴発の嬢ちゃんか。うちの上等な杖を壊されちゃかなわん。一番安いのにしときな」

セラは「えへへ、ですよねー」と笑って、店の隅の樽に突っ込まれた細い杖を一本抜き出した。銅貨を数える。財布の中身を、ほとんど全部出していた。

「僕が出すよ。少しなら貯めてある」

五年間の荷物持ちの給金は本当にわずかだけど、使い道もなく貯まっていた。

「だめ」

セラがきっぱりと首を振った。

「パーティ組んで一日目で、借りなんて作りたくない。あたし、自分の分はちゃんと自分で稼ぐ冒険者になるの」

笑顔のままだったけれど、その声には曲がらない芯があった。僕はそれ以上、何も言えなかった。

(この子は、施しがほしいわけじゃないんだ)

誰かに必要とされたい。誰かと対等に並びたい。白金の光の奥にあるものが、少しだけ見えた気がした。

東の森は、ベルナの町から歩いて一刻ほどの場所にある。

「ルーク、見て見て! これ薬草? これは?」

「それは毒草。こっちが薬草だよ。葉の裏に白い筋があるほう」

「すご! なんで知ってるの!?」

「五年間、ずっと荷物持ちだったから。採取も野営の準備も、全部僕の仕事だった」

セラは籠を抱えて、森の中を跳ねるように進んでいく。思い込んだら一直線で、僕が呼び止める前に、もう次の茂みに頭を突っ込んでいる。

……振り回されるって、こういうことか。

それでも、悪い気はしなかった。誰かと並んで歩くのは、久しぶりだった。

「ねえ、ルーク」

休憩した木陰で、セラが水筒から口を離して言った。

「ルークの光は、何色なの?」

「え?」

「人の才能が光って見えるんでしょ。じゃあ、ルークのは? やっぱり荷物持ちの才能? 茶色とか?」

「茶色……」

思わず苦笑する。それから、少し迷って答えた。

「わからないんだ。自分のだけは、見えない。鏡を見ても、水たまりを覗いても、何も光ってない」

「……ふうん」

セラは首をかしげ、じーっと僕の顔を見つめた。近い。

「な、なに」

「見えないだけで、ないとは限らないじゃん」

あっけらかんとした声だった。

「あたしだって、測定器には映らなかったけど、ルークには見えたんでしょ? だったら、ルークのも、どこかにちゃんとあるよ」

「……」

「よし、決めた! ルークの才能は、あたしが見つけてあげる!」

セラは勢いよく立ち上がり、ぐっと拳を握った。

「見えないのに、どうやって?」

「気合い!」

「気合いかあ」

笑ってしまった。でも、胸の奥が少しだけ温かかった。

五年間、誰にも言えなかったことを、言った。そして、笑われなかった。

籠が半分ほど埋まった頃、僕は足を止めた。

地面に、大きな足跡がある。蹄の形。それも、人の頭ほどの大きさ。

(この森に、こんな大きな魔物はいないはずだ)

周りの木の幹を見る。高い位置に、何かを擦りつけた跡。樹皮が剥がれ、鉄のような匂いがした。

「セラ、静かに。戻ろう」

「え? でもまだ籠が――」

その言葉が終わる前に、森が揺れた。

木々をへし折りながら、それは現れた。

灰色の巨体。全身を鉄のような外殻に覆われた猪。突き出た牙は、僕の腕よりも太い。

鎧猪。本来なら、もっと深い森の奥にしかいない魔物だ。Fランクの冒険者が出会っていい相手じゃない。

「下がって、セラ!」

「だ、大丈夫! あたしだって魔法使いだもん!」

セラが、今朝買い直したばかりの杖を構える。安物の、細い杖。

「待って、その杖じゃ――」

「ファイアボール!」

杖の先に火球が膨れ上がる。

大きい。今までよりもずっと。セラが本気で、全力を込めている。

だからこそ――杖が耐えられなかった。

ぴしり、と乾いた音がした。

杖が、根元から粉々に砕け散った。

行き場を失った炎が、セラの手元で弾ける。彼女の体が吹き飛び、地面を転がった。

鎧猪が、低くうなる。

その赤い目が、倒れたセラをまっすぐに捉えていた。

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