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数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


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第14話 道は、わたしが(第2章 第4話)

日は、もう山の端にかかりかけていた。

町までは半日。今から助けを呼びに戻っても、ギルドが人を集めてここへ来るのは、早くても明日の昼だ。

その間、空洞の底にいる三人は、あの「息をする何か」と一緒に、一晩を過ごすことになる。

「……セラ」

「うん。わかってる」

セラは、もう立ち上がっていた。

「あたしも行く。あの人たち、感じ悪かったけど――感じ悪いのと、死んじゃっていいのは、全然ちがうもん」

その言い方が、あまりにも彼女らしくて、こんなときなのに少しだけ肩の力が抜けた。

僕は、入り口の脇に置かれた「鋼の轍」の荷車へ向かった。

つるはし。太い縄が三巻き。予備の照明の魔道具が二つ。錆び止め、楔。包帯と消毒液。それに、水袋。

手が、勝手に動いた。

縄は一本ずつ引っ張って、すり切れがないか確かめる。一本、芯が弱っているものがあった。それは外して、残りの二本を結び合わせる。照明の魔道具は、魔力の残り具合を確かめて、多い方を先頭に。荷物袋は三つに分けて、一人ひとつずつ。誰かがはぐれても、水と包帯だけは手元に残るように。

五年間、ずっとやってきたことだ。誰にも見られないところで。

「……お前、手、速えな」

岩にもたれたベンが、かすれた声で言った。

「荷物持ちでしたから」

「……そうか。アルベルトのとこの、か」

ベンは、少しだけ何かを考える顔をした。それから、真新しい包帯を巻き直した左腕で、岩を押して立ち上がった。

「……穴の縁までは、俺が案内する。一本道だが、途中で三回曲がる。それに、縁で縄を押さえる奴が要るだろ」

「でも、その腕じゃ――」

「片腕なら、まだ生きてる」

笑おうとして、ベンは顔をしかめた。それでも、引く気はないようだった。

そして――

僕は、振り返った。

フィオは、入り口から十歩離れた、あの岩の前に立っていた。大剣の柄を、白くなるほど握りしめて。

琥珀色の光は、入り口の暗闇に向かって、これ以上ないほど張り詰めている。少しでも引いたら、弦が切れてしまいそうなほどに。

僕は彼女の前へ歩いていき、荷物袋を一つ差し出した。

「フィオ。これ、持ってて。――言ったとおり、逃げたくなったら逃げていい。ここで待っててもいい。それでも、君を置いていったことには、しないから」

フィオは、しばらく差し出された荷物袋を見つめていた。

それから、震える両手で、それを受け取った。

「……中は、暗くて、狭くて、それで……どこが危ないか、灯りじゃわからないですよね」

「……うん」

「だったら……」

フィオが、顔を上げた。

前髪の隙間から、茶色の瞳がまっすぐにこちらを見ていた。その目の縁は赤くて、今にも泣き出しそうだったけれど。

「……道は、わたしが言います」

その瞬間、張り詰めていた琥珀色の光が、ほんの少しだけ――震えるのをやめたように見えた。

坑道の中は、思ったよりもずっと狭かった。

大人二人がようやく並べるくらいの幅。天井は低く、古びた木の支柱が、等間隔にそれを支えている。四十年分の湿気を吸った木は黒ずみ、ところどころで縦に裂けていた。

先頭はベン。その後ろにフィオ。僕とセラが続く。

いや――正確には、一番前を歩いているのは、フィオの光だった。

「……その先。左の壁に、寄らないでください」

最初の曲がり角の手前で、フィオが小さく言った。

ベンが、いぶかしそうに振り返る。それでも彼は、右の壁に沿って角を曲がった。僕たちもそれに続く。

最後尾のセラが角を曲がりきった、そのときだった。

みし、という音がして、左の壁から離れて立っていた支柱が一本、内側へと倒れた。それを追いかけるように、天井から土山がどさりと崩れ落ちる。

さっきまで左の壁に沿っていたら、今ごろその下だった。

ベンが、息を呑んでフィオを見た。

フィオは、何も言わなかった。ただ、その光は、もう次の曲がり角を向いていた。

そこから先は、彼女の言葉だけが道だった。

「……ここ、足元の板。踏まないで」

「……右側を。少しだけ、急いで」

声は小さい。でも、一度も詰まらない。言い終わると、彼女は必ず一瞬だけ、僕たちの方を振り返った。笑われていないか、確かめるように。

そのたびに、僕はうなずいた。

二つ目の曲がり角を過ぎたあたりで、フィオの足が、ぴたりと止まった。

光が、天井を向いている。

「……上から、来ます。たくさん……小さいのが」

照明を天井へ向ける。

そこは、黒い布を張ったように、一面がわさわさと蠢いていた。

坑道蝙蝠だ。一匹ずつは手のひらほどの大きさだが、何百匹といる。一斉に襲いかかられたら、狭い坑道では逃げ場がない。

「……セラ、火はだめだ。支柱に燃え移る」

「うん。じゃあ――こっち!」

セラが、両手をさっと広げた。

その指先から、蛍のような光の粒が、いくつもいくつも生まれていく。熱もなく、暴れもしない、ただの白い光。それが、坑道の天井へとゆっくり昇っていった。

一拍置いて、天井の黒い布が、ぶわっと泡立つように崩れた。

光を嫌う蝙蝠たちが、一斉に坑道の奥と入り口の方へ、羽音の嵐を巻き起こして散っていく。その一匹も、僕たちには向かってこなかった。

やがて羽音が遠ざかると、セラは得意げに胸を張った。

「……ふふん。この前、夜の空き地で練習したやつ!」

「……お前ら、何者なんだ」

ベンが、呂律も回らないような声で呟いた。

「『灯火』です」

そう答えると、セラが「えへへ」と笑い、フィオが――フィオも、ほんの少しだけ、肩を揺らした。

三つ目の曲がり角を過ぎると、空気が変わった。

生暖かい。そして、あの匂い。湿った土と、錆びた金属と、生き物の息。

坑道の先の地面が、ぶつりと途切れていた。

床が抜けた穴。縁はぎざぎざに砕け、その向こうには、何もない。ただ、どこまでも続くような暗闇が、口を開けている。

ベンが、縁の手前で膝をついた。

「……ここだ」

僕は腹ばいになって縁に近づき、照明を穴の中へ差し入れた。

光が、落ちていく。

――底は、思っていたより近かった。家の三階分ほどだろうか。崩れ落ちた土砂が、小さな丘になっている。

だが、僕が息を呑んだのは、その底のためではなかった。

壁だ。

穴の内側。崩れた土の断面の、その奥に。つるりとした、灰色の石の壁が見えていた。縦にまっすぐ切りそろえられ、継ぎ目のない、自然にはあり得ないほど滑らかな壁が。

そして、穴の底から、さらに奥へ。照明の光が、かろうじて届くところ。大人が十人でも抱えきれないほどの石の柱が、闇の奥へと列をなして続いていた。

「……何、これ……」

隣にしゃがみ込んだセラが、小さく呟いた。

鉱山の穴じゃない。誰かが、いつか、作ったものだ。それも、四十年前どころじゃない。もっとずっと古い何かが。

四十年前の「落盤」。場所も被害も書かれていない、あの記録。

――本当に崩れたのは、天井だったのか。それとも、当時の鉱夫たちが、これを掘り当ててしまったのか。

「――ダリオさん!」

穴の底へ向かって、僕は叫んだ。声が、石の壁にぶつかって何重にも反響する。

しばらく、何も返ってこなかった。

それから、土砂の丘の陰で、ゆらりと小さな灯りが揺れた。消えかけの、蒼白い灯り。

「……誰だ」

かすれた、だが間違いなくダリオの声だった。

「ルークです。『灯火』の。ベンさんも一緒です」

長い沈黙があった。

「……荷物持ちが、何しに来た」

「引っ張り上げに来ました。縄があります。――皆さんは無事ですか」

また、沈黙。それから、絞り出すような声が返ってきた。

「……カイは足をやった。たぶん、折れてる。ロイドは……落ちたときに頭を打って、目を覚まさねえ。俺は……動ける。たぶんな」

「すぐに縄を下ろします。そこを動かないで」

僕は縄の先を解き、ベンに端を渡そうと振り返った。

そのとき。

「……ルークさん」

フィオの声がした。

震えてはいなかった。ただ、あまりにも静かで、何かに見つからないよう息をひそめるような、そんな声だった。

彼女は、穴の奥――石の柱が並ぶ闇の彼方を見つめていた。

その琥珀色の光が、今までとはまるで違う形をしていた。引き絞られた弓ではない。身を縮める小動物のように、彼女自身の周りへと、きゅうっと小さく小さく縮んでいく。

フィオは、ほとんど息だけの声で、言った。

「……気づかれました」

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