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願いの果てで、英雄は笑う  作者: サングラス
英雄とは、可能性を諦めない者である
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華と舞って、竜と踊って

ミーヤの姉、リーリャと別れ、アベルは宿に戻り、仲間と合流する。

そして今日あった事を皆笑顔で語り合う。


「──それでね、ワタシの方は花育てる魔法を教えて貰ったの、素敵よね~この街ならではの発展の仕方だわ」


「僕は素材屋に行って研究に使いたい素材いくつか見つけれました……これから少し研究が進められそうです」


「俺の方は楽しく街の観光したって感じかな、二人も楽しそうで良かった」


そんな話をしながら宿の食堂で食事を取る。

そんな中、食事を届けてくれた給仕の男性が一枚の紙を渡してくれる。


「お客さん方、旅の方ならあともう一週間滞在してみませんか?冬の花祭りが一週間後に控えてるんです」


「花祭り?」


俺は紙を受け取りながら、聞いたことのない祭りの名前を疑問符をつけて返す。


「えぇ、冬ももう一、二か月で終わってしまいますから、最後に冬を送るお祭りがあるんです。

といってもそんなに派手なものじゃなく、皆で花を撒いて、踊って、食事をする、そんなお祭りです。

数年前には剣聖様も来られたりして、素敵な旅の思い出になるかもしれませんよ」


「へぇ……!二人ともどうする?」


「ワタシはいいわよ~!お祭りみたいなのは好きだしね」


「僕も、一週間も時間が貰えればゆっくり研究できますし、賛成です」


「よし……お兄さんありがとう、参加してみるよ」


「はい、良い旅を」


そういって笑顔で去っていく。


花祭り───この街にはいたるところに花がある。


この宿の食堂も、全ての机に花が活けられていて、受付のところにも玄関にも、宿の一室にも花がある。

野に咲く花とは違う、守りたくなるような花もあれば、踏まれても立ち上がりそうな強さも感じられる花もある。


セオドールは研究で忙しいので、エルナの泊っている部屋に行って魔術の勉強をする。

……リーリャさんから貰った精霊魔術については、エルナには話さないようにしておく。


その代わりに、久しぶりに二人になれたからずっと気になっていたことを聞いてみる。


「そういえば、なんでエルナってエルって偽名なの?合わせるの結構難しくってたまに言い間違えそうになっちゃうんだけど」


「あ~……そうね、咄嗟に偽名名乗ったけど、アベルはよく乗ってくれてたわ、礼が遅くなったわね、ありがとう。

偽名の理由は……魔法の始祖って言うのと、千年前の人間が生きてるっていうのが、今の皆に良くない気がしてさ。

ワタシのことを千年前の英雄だって思って話されると……色々堅苦しくなったり、それこそ歴史の重要参考人としてアンタとこんなに楽しく旅できないかもしれないでしょ?」


「確かに……その可能性を潰すため、ってことか」


「そう!ワタシは可能性を信じてるからね、どんなに小さな可能性だって、ワタシにとって不都合になりそうなら頑張って潰すわ……エルって偽名は咄嗟とはいえ、ちょっと雑だったとは思うけれど……」


「ははは、けど俺も本名呼びそうになった時に『エル』で止めれるからちょっと助かってるよ」


「そう?それならこの偽名にしたワタシのいい判断ってことね~」


「はははっ、そうだね」


そんな話をしながらまた雑談しながら魔力の操作を行う。


「そういえば、リラの事覚えてる?」


「もちろんよ!あの可愛い魔人の女の子でしょ?元気?」


「多分元気じゃないかな?最近会ってないんだけど、アルビレオと戦った後手紙が来てさ……リラのフルネームさ、『リラ・ハーディ』っていうんだって」


そういうと、エルナは目を丸くした後、吹き出して、腹を抱えて笑い転げる。


「うっっそぉ!!?あっははははっは!あの朴念仁の子孫が天真爛漫なリラちゃん!?あはは!!面白~~!!けどそういえば適正属性も似てたし……あー、ちょっと納得しちゃう……!リラちゃんは知ってるの?」


まだ少し面白くってプルプル震えながらそう質問される。


「いーや、言ってないから知らないと思う。

言った方が良いかな?」


「いや、別に話さなくってもいいんじゃない?運命がいつか必要なら教えてくれるわ」


「そういうもんか……」


「わかんないけどね、ワタシは教えないだけ、アンタが教えたいならアンタが教えてあげなさい」


「……考えてみる」


「それが良いわ。さて、そろそろ簡単な魔術の仕組みについて分かったかしら?」


ずっと見せられていた風魔術の教科書をピシピシ叩きながら話を進める。


「うん……魔法はなんとなく感覚で使ってたけど、なんで魔術はそれじゃダメなの?」


「そうね……正直魔術も感覚で扱えるわ、けれど理由が二つ。

一つ目が魔術は強力なものだから、よ。

魔法と違って、自分の生来の魔術回路をフルで使うから、同じ魔力消費でも威力は段違い。

だからワタシも迷宮の制限を喰らって魔力量が少ないから、戦闘ではできるだけ魔術使うようにしてるでしょ?」


「あ、そういえば……確かに」


「二つ目、問題に自分ですぐに気付くため。

魔術は何度だっていうけれど自分の生来の魔術回路を用いたもの。

だから、同じ魔術でも、使う人によって少し特徴や癖がでるの。同じ回路じゃないからね。

ワタシとアンタじゃ似てるようでちょっと違うから、最終的な細かい調整はアベル自身で行わないと、九十九パーセントは完成できても、残りの一パーセントがどうしても誰かに教えて貰うだけじゃ完成しないの。

だから、アンタが理解して、アンタが自分の身体に合ったようにカスタマイズする……つまり猛勉強!」


「おぉ!なるほど!なんで最初っから教えてくれなかったの?」


「初めから教えたら『じゃあ九十九パーセント先に教えて貰った方が効率いいじゃん』とか思うでしょ?厳密には九十九パーセントにまで極めるのだって大変なんだから、アンタに変なバイアスかけないためよ」


「なるほど~!俺の為ってことか、ありがとう!」


「……わかってんのかしらね、素直だこと」


そんな話をしながら一つまた一つと魔術についての理解を深めていった。

眠たくなるまで練習して、自室に帰って休んで、そして次の日の朝を迎える。


セオドールは変わらず研究、エルナは街を見て回る。

俺は……お金稼ぐために依頼を受ける。


とはいえ、依頼なんていっても危険なものじゃなく、祭りの準備を手伝って欲しいという人の手助けに行くだけだ。

樽の中に入った酒を担いで、高いところに装飾品を飾って、街の子供たちと一緒に絵を描いて幕の準備をしたり、綺麗な花の収穫やフラワーアレンジメントの手伝いをしたり、やることは多かったが、日に日に皆の思いが硬く繋がっていく感覚があって、祭りの日が楽しみになった。


「アベル君~!!それ今度はこっちにお願いできるかな!!」


「わかったセシル!!今行く!!」


「力持ちだね!!凄い!!」


皆と心を一つに!お祭りを盛り上げるぞ~!!


* * *


準備を続けて明日はついに祭りの当日!

前夜祭なんて言って夜は酒を飲んで夜まで皆楽しそうにしていた。

俺も少し貰ったが、あんな少しでは酔っぱらうこともなく、ご飯を美味しくいただいて、宿に帰っていった。


「アベルさんよぉ~!!もう帰っちゃうのか~?」


「えぇ~、もっと遊びましょ?」


「アベル君帰っちゃうの?ご飯もういい?」


「セシルさん、酔っぱらいすぎ。エリッサ、くっつきすぎ。ミレーネさん、ありがとうございます、もういい時間なんで帰ります」


「わかったわ、明日、楽しみね」


「はい!また明日!」


馴染んできた皆と別れるのは少し名残惜しいが、そんな会話を少しして宿に帰る。

セオドールは二日前から研究を終えて、エルナと一緒に街の中を散歩したり、更に別の研究をしてたり、休んだりと自由に過ごしている。

エルナは言うまでもなく自由で、最近は増えてきた屋台に買い食いして回っているらしい。


「いよいよ明日だね、花祭り」


「アンタすっごい馴染み様ね、実はこの街の人だったんじゃないの?」


「すごいよね、毎日花まみれになって帰ってきて」


「あはは、皆良くしてくれるからね」


そういいながら頭に乗っている花を取る。

子供たちが毎日余った花を俺のポケットや頭に挿してくるのだ。


「そういえば、明日の祭り、二人は踊るの?」


「そっか、皆で踊ったりするんだもんね……セオドール、暇だったらワタシと踊る?」


「へ!?え、えぇっとと、ぼ、僕とですか!?ぼ、く、社交ダンス程度しか……!」


「あら、踊れるの?じゃあなおさらお願い、ワタシ踊ったことないからアナタにエスコートしてもらうわ」


「え、えぇ……!!?頑張り……ま、す……!!」


無理だとは言わない。

セオドールもなんやかんやで変わっているんだなぁなんて思いながら、二人に衣装のレンタルを行っている店の紹介もする。


「よくスッと出てくるわね……本当に馴染んでて驚きよ」


「でしょ、俺も明日は誰か相手見つけて踊ってみようかな……」


「アベルさんは、ダンス得意なんですか?」


「いや?全然。けど初めてだしやってみたくって」


「凄いですね……恥ずかしくないんですか?」


「コケたりしたら恥ずかしいかな……まぁ、戦闘とかで使うステップに似てるだろうし、なんとかなる!」


そんな話をして、明日への期待を膨らませて眠りについた。


* * *


次の日。

冬の花祭り当日。


遠くから馬車の一団が来て、祭りに参加しようとやってきた。


夕方から始まる祭りに備えて、街は次第に騒がしくなっていく。

初めて参加する俺は、開始の合図はとても綺麗だと言われ、準備を終えたあと自由な時間を貰った。


ゆっくりと空がオレンジ色に輝いて、夕焼けのなんとも言えない紫の空が西から伸びてくる。


そして、夕方十七時。

開始の祭りに合わせて、大きな鐘の音が鳴る。

それに合わせて、街に大量の花弁が舞い上がる。


「おぉ!?」


次に笛の音が遠くで聞こえる。

乾杯の音、そして花をはしゃいで空に巻き上げる群衆。

足元は次第に花弁で満ちて、飲んでいたコーヒーにも花弁が吸い込まれて入っていく。


なんだか嬉しくって飲んでみても、花の匂いはしないがいい気分だ。


遠くでは手を取って、音楽に合わせて踊り出す人々。


目を凝らせば、セオドールの長身が遠くに目立って見える。

髪を整えて、背筋を伸ばし、素敵なスーツに身を待とうセオドールはいつもの彼とはまるで違う高貴な姿だ……顔は……ドキマギしてるけど。


その手を取って笑って踊っているエルナは背中をパッカリ開いた赤いドレスを着て、はしゃいで踊っている。

寒くないのかな?なんて思う間もないほど美しい。


祭りの準備を共にしてきた人たちも、各々の大事な人であろう人物と手を取ってはしゃいでいる。

深夜まで続くこの祭り、こんなにいきなり飛ばして最後まで持つんだろうか?


なんて思いながら、いつかの聖日の時と同じように少し離れたところから暖かいコーヒーを飲んで賑やかな街を見渡す……非日常、幻想的な夕方に広がる花弁の中で踊る群衆。


そんな街の中を見渡している中、俺と同じように座って周りを見つめている女性がいた。


その女性に目を惹かれたのは、一体どれが理由なのか。

羽がざわめくから?夕焼けを反射する美しい、短く切り揃えられた白銀の髪?黄金の瞳?それとも爬虫類を思わせるその縦長の瞳孔?布をはためかせる民族衣装?

ピエロのように瞼を縦に赤く塗ったその化粧か、顔や皮膚の表面に、鱗のように描かれた幾何学模様か。


俺も彼女も、吸い込まれるようにお互い目が合った。


「……あの、君は……踊らないの?」


「……えぇ、私は踊れなイワ」


冬の冷たい空気を割くような、綺麗な声だ。

しかしなんだかたどたどしい喋り方。


「踊れない?怪我でもしたの?」


「……イーエ、踊ると、相手が疲れてしまうカラ」


「体力自慢なんだ?名前なんて言うの?俺アベル」


「アベル……私は『シュネー・ヴァイス』デス。

体力、ありマス。私は『竜人』デスから」


「……竜人?」


初めて聞く……種族?だ。


「えぇ、踊って、竜を降ろしマス。

舞は好きデスが、私一人で踊るようなイベントじゃありまセンから、皆の舞を見てマス」


「舞かぁ、俺はわかんないから一緒に踊れないかも」


「?……ツマリ分かれば、踊ってくれマス?」


「へ?あ、うん、くれます。俺一人だし」


そう返すと彼女はその目を細める。

加虐的な、獲物を見つけたと言わんばかりの瞳は……そう、まさに竜、サンドドラゴンの瞳を思い出し、治ったはずの傷が騒めく。


「ナラ、踊りましょう?アベル、キットできる。私教える、アベル、踊る、できる?」


「……やれるだけ……やってみるけど……」


「……ケド?」


「……食べないでね?」


「……竜人、人間食べない、ダイジョブ、グッジョブ」


よく分からないが、大丈夫らしい?


「それじゃ……改めてお願いします」


そう言って手を差し出す。


「ヨロシク、お願いします」


そう言って俺の手を取る。

その爪は鋭く鋭利で、紫色に塗られていた。

指輪も様々な物を嵌めていて……オシャレ好きなのかな?


そんな彼女は立ち上がれば……結構背が高い、170半ばはありそうだ。


「着替え、着替え、アベルも、踊る服着るデス」


そういって彼女の乗ってきた馬車に案内され、衣服をたくさん引っ張り出してくる。


「え?あ、はい?どれにしたらいい?」


「コレ、私とオソロッチ、です」


そう言って指さされた服は、彼女が着てるのと同じような刺繍の施された民族衣装。


「わ、わかった」


なんだか仮装ダンスパーティーみたいで楽しいな。

今までの自分を脱ぎ捨てて、今日だけ違う自分になれるみたいで胸が踊る。


着替えてきた俺の角に、リボンをつけたり、ネックレスや指輪を大量につけたり、納得いかないところがあるのか無言でいっぱい手直しされる。


「イイネ、素敵な舞にしよう」


「あ、ありがとう?」


ずっとこの子のテンポに流されてばかりだが、まぁいいか。

彼女がいつの間にか準備していたコップ。中に入っている白く濁った飲み物を俺に手渡す。


「ココが、最後。舞を断るなら、最後。飲む?飲まない?」


「?体力のこと気にしてる?タフな自覚あるから気にしないで」


コップを受け取り、傾ける。

濃厚な甘みと、僅かな酸味……お酒かな、これ?


「……これで舞の前準備はおしまい?それで、踊り方は?」


俺がそう聞くと、彼女が手を握り、初めて笑った。

蛇のような舌に、鋭い牙を見せて、大きな口を開けて笑う。


「あとは、舞うだけ、さぁオイデ」


そう言って彼女が手を引く。

ついて行こうと足を出すと……視界が揺れる。


「……あぇ?」


酔っ払っている感覚……なのだろうか?

頭の中が熱くなって、ぼうっとしてくる。


「サ、踊ろう?アベル」


身体は──不思議と動いた。

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