CLEAR SKY, AN OPEN WORLD
剣を振るう。
仲間が魔法を使って攻撃するも、どれもこれも吸い込まれていく。
それでも、何発かは身体の結晶を傷付けている。
俺の剣も、相変わらず半透明な部分には手ごたえを感じないが、結晶を削っていく。
とりあえず、今はまだ何も攻略法が思い浮かばないが、それでも結晶を削るしかない。
そんな攻撃の中、不意に二人の攻撃が止まる。
さっき話していた『起こり』を掴んだんだろう。
魔力の大きいものを狙ってくるという説を実証するために、俺だけが魔法を放つ。
「《風弾射出魔法》!」
そうすれば、相変わらず軌道が渦巻いて言うことを聞いてくれないが、最終的には怪物の口の中に吸い込まれていった。
その瞬間、また身体を震わせ、今度は結晶が四発、俺に目掛けて飛んでくる。
さっきのように剣で受けるわけにはいかないので、回避に専念して地形を利用して走り回る。
弾速自体が特別早いというわけではないが、太い木ですら簡単に吹き飛ばす破壊力がある。
退避しながら二人の下に帰ってくる。
「狙い通り、俺の事狙ってきたね」
「えぇ、思った通りってとこかしら。怪我も無いようだし何よりだわ」
「しかしこれからどうしましょう、攻略の糸口が見えません……」
「……皆で放った魔法ってさ、どこに行ってるんだろう?あんなの食べたら普通大怪我するよね」
「んん~~それについてはワタシも考えてるんだけど、あの黒い穴の中に入った瞬間魔力が消えるのよね……」
「ですね、僕の目にもそう映りました」
消える……あの口の中は一体どうなっているんだろう。
それに、戦うほど結晶が増えていっているような気がする。
「身体の結晶と怪物の関係ってわかる?」
「……結晶の正体は魔力の結晶って言うのが一番近いかしらね、食べた魔力が体から結晶として纏っているような……関係としては体の中の魔力の総量の可視化とかかしら」
「ですね。更に不気味なのが、こうやってこちらから攻撃を行わなければ向こうも何も攻撃してこないところです……」
「なんて言うか、生き物っぽくないよね……感情とかないのかな……?」
「そうね、なんというか、処理を行うように動きが決まっているわ。あいつのルールは現状分かっているのだと───」
そう言ってエルナが指を立てて説明する。
「一つ、攻撃を行うと決めた後、最も魔力が多いものを狙って攻撃してくる。
二つ、口の中に相手の魔力が最終的に行きつくように周囲の魔力を操っている。
三つ、魔力を吸収できるのはあの口だけ。
四つ、こちらから攻撃を行わない場合、向こうも行動せず、どこかへ向かっていく。
ってところかしら?」
「……つくづく生き物っぽくないね……」
「そうですね……僕も同じように思います。
ここからどこかに向かっている途中で、その邪魔をしなければ向こうも必要以上に接してこない……ってところなのでしょうけど、目的が分かりませんね」
全員で頭をひねって考えを絞り出す。
「あの半透明の中に浮かんでる青白い奴が本体かな」
「魔法で狙っても吸い込まれるし……剣でも届かなかったんでしょ?あれどうにかするのは良い手かもしれないけど……」
「……あの口を、どうにか塞いだりして吸い込みが行えないようにできませんかね?」
「……どうやって塞ぐの?セオドール」
「そうですね……口の面積よりも大きい岩出塞ぐとか……」
そう言って手を振るい、土魔法で大きな岩石を作る。
「これを、食べさせてみる、とかでしょうか」
「やるなら早くしないと攻撃飛んでくるわよ」
「やってみよう!!」
「は、はい!」
セオドールが、怪物の口よりも大きい岩石を投げつける。
渦の波に飲まれてか、変な軌道を描きながら飛んでいく。
今回も反応して、顔?を向けて、それが直撃する……その瞬間
パクッ!
岩が当たった瞬間、黒い穴に消えた。
どうやって飲み込んだとか、そんなことを考える間もなく、消えた。
咀嚼も、嚥下の工程もなく、消えた。
「……嘘ぉ……あれに喰われたらどうなっちゃうんだろ……」
ふとそんな疑問が思い浮かんだ。
もしあの中に落ちたら同じように消えてしまうのだろうか……もしそうなら恐ろしい。
「……思ったよりも魔法だけではどうしようもないですね……大きい一撃をあの怪物の推定本体に与えられたら……」
「それなら相応に準備時間もいるし、もし放てても口の中に消えるわ」
「何なら準備時間の間に攻撃されたら俺じゃあれ受けきれないよ?溜めてる魔力にも反応しそうじゃない?」
また立ち止まって三人とも考えこむ。
その間も怪物はシャラン、シャランと音を立てながら霧の向こうに消えていく。
「「「……うーーーん……」」」
俺たちは三人揃って唸り声をあげる。
そんな中、エルナが人差し指を立て、口を開く。
「……一つ、一つだけワタシに案があるわ」
「!さっすがエル!何?何?」
「いったい何を?」
「ワタシの技術でほんの少しの空間なら魔力の流れを完全に支配できるの。
本当ならもっと広い範囲まで行けるけれど、今回はアイツの影響でそこまで広く展開できないし、霧に邪魔されるからワタシの周り三メートルくらいに絞って、その安定した空間で大魔術の準備、そして攻撃の瞬間だけ一気に効果範囲を広げてアイツにぶつける!!」
「お~~!そんなことできるんだ!凄い!」
「凄いですが……それも食べられたら終わりですよね?」
「えぇ、だからここは賭けになるわ……吸収に依存して、直進する攻撃に反応する間もなく吹き飛ばす」
そう話す二人に、俺は一つ疑問を向ける。
「?それならそのタイミングで、あの怪物の口を別方向に向けてたらいいんじゃないの?」
するとエルナがこちらに困った顔を向ける。
「それをどうやってやるかって話よ……」
俺はそれにニヤリと笑い、自分の案を話す。
「まぁ見て、二人とも。アイツは自分の口に行きつくように魔力を支配してるんだ、だから自分の近くに来てる魔力を積極的に取り込む」
地面に怪物の絵を描き、渦巻き状に集まっていく様を描く。
「……アベル、アンタ意外と絵上手いのね……」
「そう?……ええっと、それで、俺が戦いながら、魔力を放出し続けるんだ。
この天気を利用して、大規模に魔力を広げて、それを染めた水属性の魔力で空間を支配する!
それであいつの気を引きつつ、絶えず俺は水魔法の準備をして、準備ができた瞬間俺も水魔法を使って、周りを水浸し!その水の壁の中にある消えていない……『喰われてない所』目掛けて二人が魔術使えば……ほら、当たる!!」
地面に色々描き足していく度に二人の頷く頻度が高くなっていく。
「……要は、周囲を水浸しにして、攻撃が入る隙間を可視化させるって作戦ね……すごいじゃない、これ良く思いついたわね?」
「自然環境を利用するのはエルフなんかの魔術の考え方だけど……アベルさんの魔力の使い方は面白いですね……場数の差か……それで行きましょう」
「うん!」
二人からいい反応がもらえて俺はかなり上機嫌。
先に魔力を張って、あとから属性を流すのはアルビレオと戦った時にも使った俺の魔法の使い方だ。
問題なく扱えると確信をもって、作戦を実行する。
剣を抜き、霧の向こうの怪物に向き直る。
「それじゃ、アベルには足止めお願いね」
「うん、どれくらい時間稼げばよさそう?」
「そうですね……一分、一分ください。火の魔術で消し飛ばします」
そう言いながらセオドールが眼鏡を外す。
「分かった、一分ね!」
剣を抜き、駆け出す。
剣先から魔力を放出するも、纏えず、吸い込まれていく。
しかし問題ない、想定内だ。変わらず流し続ける。
後ろから猛追してくる俺に気付き、怪物が身体を少し震わせる。
結晶をまた飛ばしてくる。
さっきよりも数が多い……どんどんと増えてきているな。
「もう受けてやんねぇよ」
走り、怪物の背に乗って、乗り越えて躱したり、木から木へ飛び移って避けていく。
足元が雨で滑る、跳ねた泥が顔にかかりそうになる。
「ははっ……!」
それでも問題ないと言わんばかりに身体が自由に動く。
また身体が勝手に動く。生存のための最短ルートを選んで、敵の動きに合わせてそれを読んで駆けていく。
「うわっと!?」
泥で足を滑らせる。
動揺する俺に反して、身体はそれも想定内だと言わんばかりにスライディングの要領で躱す。
そして立ち上がるために周囲に撒いていた魔力に少し風を込めて、推進力にしてグンっと立て直す。
「っはは!すげぇ!こんな使い方もあるんだ!!」
しかし魔力を絶えず喰わせているからだろうか、怪物の攻撃がどんどんと勢いを増していく。
身体の輝きも増しているように感じる。
だが、それでもまるで当たる気がしない。
世界の主人公になったかのような全能感、俺はこんなに強いんだ!!
雨がさらに強くなる。
泥を蹴って走る俺の足音もどんどんと増えていく。
細かい接地と柔軟な足首や膝の脱力からなる、選択肢の多い逃走術。
走り続けて五十秒が過ぎたころ、不意に『ジュッ』と、水が蒸発する音。
そして、周囲の気温が少し上がったような感覚。
振り向けば、そこには真っ白な小さな太陽……セオドールたちの方角だ。
「準備できました!!!」
予定よりも十秒も早い準備完了の合図。
俺も十分にこの空間を自分の魔力で満たしている。
後は俺が水魔法を発動させるだけ……なんだが……!!
「少し待って!!!」
セオドールにそう叫び、体勢を低くして駆け出す。
身体を震わせる怪物。戦いの中でそろそろまた攻撃してくると踏んでいた。
これが魔力の見えない俺でも感じ取れる『起こり』
その攻撃対象は、俺……
「じゃねぇだろっ!!!」
セオドール目掛けて飛んでいく結晶。
受けても吹き飛ばされる威力のものを、今度は六発。
急に力が強くなったりなんてしない。
それでも、相打ちなんて勝利じゃない。
だから俺が二人を助ける。
セオドールは、魔術で『消し飛ばす』といっていた。
身体の結晶も、恐らく炎で消し飛ばせるんだろうが、軌道の都合で、最大三発はセオドールの射線から外れて、二人の方に飛んで行ってしまう。
「《水鎖拘束魔法》!!」
壁じゃなく、鎖状に。
周囲の魔力が一気に水になり、一部をパクッと喰われる。
それでも残った鎖で……!攻撃の軌道上にある水の鎖で結晶を絡めて何とか軌道を………
「……っくそ!!」
逸らせない……!!
「──よくやったわ!!アベル!!!」
瞬間、俺の水の鎖が太く、力強くうねる。
そして、絡めとって、一纏めにする。
「!!」
エルナが魔力を通して俺を助けてくれた……!!
そしてそれはエルナの支配する空間が広がったことを意味する。
後はトドメだけ!!
バトンを託されたセオドール。
ふーーーっと息を吐き、集中したセオドールがその白い熱の塊を放つ。
「《灼熱収束魔術》」
ジュッと音を鳴らしながら、渦巻くこともなく、真っ直ぐ怪物目掛けて飛んでいく。
雨をくり抜き、結晶を溶かし、身体の中に浮く青白いナニカを貫き、風穴を開ける。
あまりにも恐ろしく無慈悲な、高火力の一撃。
通り過ぎた所は、焦げるのではなく、溶けている。
──ガシャン!!!
と、それは例えるならティーセットを床にたたきつけたような、ガラスが割れるような、鏡を叩き割るような、耳に鋭く刺さる音が周囲に突然響く。
怪物の身体が少し膨らみ、そして小さく圧縮され、抱きかかえられそうな大きさの球体になり……そして──
パンっと、小さく音を立てて弾ける。
瞬間、遅れて空気が破裂したような爆風。
そして、青白い光の壁が迫ってくる……いや違う、爆風に乗って結晶が飛んできている!!
咄嗟に二人を抱えて、身体を低くする。
セオドールとエルナが土の壁を生成するも、結晶の混じる爆風が、壁をガリガリと削っていく。
声を出して叫んでも、風に掻き消されてしまう。
そんな中、ただひたすらに耐えることしかできない。
* * *
────どれほど時間が経過しただろうか。
二人の温度を感じる、耳が音を上手く拾ってくれない。
日の光が顔を照らす……あぁ、雨が上がったんだ。
そして俺が仰向けになっていることを遅れて理解する。
二人が起き上がり、俺の顔を心配そうな顔で覗き込んで、頬に触れ、手を握り、魔法で癒してくれる。
「──ベル!!アベル!!返事して!!!」
エルナの必死な声が聞こえてくる。
「アベルさん、すみません僕の事守ったばっかりに……すぐ治しますから……!!」
セオドールも回復してくれているおかげで、意識がしっかりしてきた、耳も聞こえてきた。
「……い、じょう……ぶ」
自分のあんまりにもかすれた声に、喋れたか不安になるが、二人の手が一瞬止まり。ほっとした顔になる。
どうやら声を出せてたらしい。
* * *
それから少しして、二人の肩を借りて起き上がる。
身体にはあの結晶が無数に突き刺さっていて、二人が発見した当時の俺は血まみれだったらしい。
そう言われて服を確認したらボロボロだし血で汚れている。
買い替えないとな、なんて呑気なことを考えながら、怪物のいた場所を振り返る。
「──おぉ……!!」
雨雲を吹き飛ばし、空にはぽっかりと穴が空いて、陽光が降りかかる。
そして、少し平らになった小山の上で見下ろした視線の先には、大地が大きくめくれ上がり、まるで花弁のようになってる土地が見える。
「ねぇ!あれ何!?」
そう聞けばエルナもセオドールも元気な様子に安心したのか少し笑い、答えてくれる。
「あそこが、僕たちの目指す『星落ちの平原』ですよ」
「ま、アンタはもう少しちゃんと休んでからの出発になるから行くのはもう少し後よ」
「そうだよね……残念……」
「で、でも誰も死ななくって本当によかったです……!」
「それは……そうね、アベルがかばってくれなきゃワタシどうなってたかわかんないし……感謝するわ」
「僕からも、改めてありがとうございました」
「こちらこそ、ありがと。……でも結局アイツ何だったのかな?」
「さぁ?ただもう会いたくないわね~」
「そ、そうですね……!」
「あ、そうだ!セオドールがトドメに使ったあの魔術!凄く格好良かった!!あれ何!?」
「そ、そうですか!?あ、あれはですね────」
雨上がりの道を、二人の肩を借りて帰っていく。
あの怪物はなんだったのか、何を目的にしていたのか、わからないことばかりだ。
それでも、全部わかるなんて面白くないから、きっとこれでいいんだ。
俺たちの冒険はまだ始まったばかり。
まだ一つ目の目的地にもついてないんだから。
────シャラン
ふと、そんな音が聞こえた気がして振り返る。
「……あ、アベルさん、面白くなかったですか……?」
「えっ!?あ、いやごめん!そんなことないよ!もっと聞かせて!!」
「そうですか……?それで火の魔術はですね──」
背中の羽が少し疼く。
もういないはずの敵に、まだ少し後ろ髪を引かれる感覚を振り切って、帰っていく。
* * *
────シャラン、シャラン。




