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願いの果てで、英雄は笑う  作者: サングラス
英雄とは、可能性を諦めない者である
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暗雲さえも、斬り裂いて

霧の中、先に突き進んでいく。

魔物の気配はないが、背中の羽が妙に反応する。


迷宮の中で今まで反応したのは、呪角獣とかの強敵だ。

それだけの強敵がこの先にいるんだろうか?

……けれど、呪水蛇と戦った時は反応しなかった。規則性がいまいちわからない。


なんて思いながら先に進むと、地面が少し揺れる。


シャリン


ガラス細工が優しく触れる綺麗な……いや、山中にしては妙な音が遠くからする。


「なんだ……?」


体勢を低くして周囲を探る。

そこで気が付いた、霧が深くなってきている。

このままあまり奥に進みすぎると危険かもしれない。


少し時間をおいて周囲を警戒しても何も変わらない。


魔法の使用がこの山の中でどれだけ不便になっているかを確かめるために、霧払いも兼ねて風を生み出す。


「うわぁ……」


横に薙ぐように放ったはずの魔法がグルんと一周して、何処かに流れていって、空気をかき混ぜて、結局自分の前は霧に阻まれたままだ。


「全部こうなるのかな……」


エルナの真似をしながら風をいろんな方法で飛ばして試す。


「ん?」


その中で一つ共通点を見つける。

渦巻いて、渦巻いて、その終着点が少し誤差はあれど同じ方角、南に飛んでいく。


「……渦の中心は南?」


その方角は山頂方面。

少し警戒を強めながら近づいてく。


「──っ!!?」


霧の向こうで山が……動いた……!?


そうとしか形容できない現象が、今目の前で起きた。

一つ、嫌な思い出がある、サンドドラゴンだ。


初めて出会ったとき、石柱と見間違えたが、全く違って酷い目に遭った。

今回も同じタイプの敵かもしれない。

身を伏せてジッと敵の様子をうかがう。


霧の先、キラキラと青白く発光する巨大な何かが、ゆっくりと動いている。

自身の身体に張り付いた綺麗な結晶のようなものを輝かせながら、ノゾリノゾリと動いている。


その先端には口のようにぽっかりと黒い穴が開いている。


ジッと更に観察してみる。

目は?鼻は?探しても……無い、触覚みたいなのもない。


見てわかったのは、発光している体の周りに膜があり、本体は半透明なナニカが光っているだけだ。

そして結晶の欠片が空気に舞って霧になっている。


しかしなんだ……これを何といえばいい?


「……綺麗だ……」


あぁ、そう、そうだ『綺麗』だ……今のは俺が言ったのか?

遠目には宙にフワフワ浮かぶ宝石のような存在だ、そうだ、綺麗だ。


少し、もう少し近づいて……


その瞬間、背中の羽が更にざわめく。


「……あっ」


そうだ、そうだ!ダメだダメだ!!一人で何もわからず近寄っていいものじゃないだろアレは!!


頭をブンブンと振る。

よく様子を見てみれば、あんなもの不気味で恐ろしい。

……けれど美しいから、だから自然にあってはならない不気味さがある。

でっかいナメクジのような、それとも美しい彫刻のような。


……深く考えるのは止そう。

周囲に落ちている欠片を拾い、確かめるため、最後に風を起こす。

それはやはり、あの魔物の方に吸い込まれていった。


* * *


「んん~~……魔法が使えない、かぁ」


セオドールはアベルが行った後宿を出て本当に美味しいご飯屋さんを探しに行った。

ワタシは部屋の中でアベルの帰りを待ちながら魔法を何度か使用して試してみるも、ダメ。


ワタシの使うアレとはちょっと違うのよね、この現象……


少し強めに、窓の外で風を起こす。

渦を巻いて……山の方へ、南へ消えていく。

ワタシの目で見える流れも渦巻いて山へ向かっているように見えた。


「……あの小山が何か関係してそうね……そういえば山頂も南かしら……」


アベルが帰ってきたら聞いてみよう。

なんて思いながらワタシはこの魔力の渦に逆らい続ける。


* * *


「あ、あのぉ……」


なんとなく、なんとなく優しそうな男性に話しかけてみる。

アベルさんに頼まれた美味しいご飯屋さんを探すために……!!


「お、なんだい兄ちゃん、旅の人か?」


「っは、はいぃ……そ、その」


「どうした?なんか探しものか?けどここの所、この村も変だからなぁ運悪いな!」


「そ、うですねぇ~」


「まぁ、何も無いところだけどゆっくりして言ってくれよ」


「え、えぇ……」


「それじゃ、いい旅を!」


「へ!?あ、は、い!ありがとうございます」


───っじゃないだろ僕!?

ご飯屋さん聞かないと!

でもそれじゃって言っちゃったし……もうあの人には話せないな……


また辺りをきょろきょろしてみる。

あの人は……髪型怖そう。

あの人は女の人だしちょっと苦手だな……おじいさんなら……あでも忙しそう……


「ど、どうしよう……アベルさんは今頑張ってる……のに……」


そうだ、そうじゃないか。

アベルさんは命を賭けてあの危険な山に行ってくれてるのに……年上の僕がこんなんじゃ……

……いやでも実家でも弟や妹の方が可愛がられてるし、やっぱり僕は年だけ上のダメな奴なんだ……


「──いや、ダメだ」


だからって誰かがどうにかしてくれる訳じゃないんだ。

お願いされたんだ、だったら頑張らないと。


「あ、あの!美味しいご飯屋さん知ってますか!」


「え?あ、えぇっと……」


しまった、声量間違えた……しかも女の人だ……キモイとか思われてないかな……?


「ご飯屋さんですか?それならあっちのお店どうですか?スープとか、この時期暖かいの美味しいでしょうし、ハンバーグが美味しいんです」


「あ、あっちのお店!ですね……メモします……」


「マメな方ですね……旅の方ですか?」


「へ!?あ、はい!」


「そうですか……あの山、変ですよね」


「え、えぇ、やっぱり大変ですか?」


えぇっと、ハンバーグが、お、い、しい、っと。


「そうですねぇ、どっちかと言うと怖いかな……頂上の近くでたまに青く光ったりするんです」


「そうですか……そうなんですか!?」


メモしながらだったから危うく流しかけたけど、初めて聞いた話だ。

彼女も話をオーバーに聞く僕に気を良くしたのか、大きな声で返事する。


「そうなの!あれも魔物の仕業なのかしら?なんにしても怖いこと起きないといいけど……」


「そ、そうですね!魔物か……ありがとうございます!」


「……へ?あの山行くんですか?」


「は、はい、気になりますし、魔力関係で困っているのは見過ごせません」


僕にだって、魔術師としての誇りはある。


「……それは……ありがたいですけど、無理はしないでくださいね?」


「は、はい……!ありがとうございます」


「……頑張ってください、応援してますから!」


そう言って女性は去っていった。

応援された……嬉しい。

今まで否定ばかりされてきた……そうだ、この村の人たちは僕のことなんて知らない。

だから、何の偏見もなく応援してくれるんだ。


「………」


少し、強くなった気がする……っていうのはおこがましいかな。

けど、旅に出てよかった。


* * *


何とか山から下りてきて、霧を抜けてヘリナ村に帰ってきた。

戻ればセオドールが店を見つけてくれていて、美味しいハンバーグと暖かいスープを楽しみながら話す。


「それで、山の方なんだけどさ、やばいのがいたんだ」


俺がそう切り出すと、二人とも眉を顰める。


「ひゃばいほ?」


エルナがもぐもぐ食べながらなんとかそう返す。


俺は持って帰ってきた欠片を見せながら話す。


「なんか……半透明で青白く発光してる……ナメクジ?みたいな気持ち悪い奴いた。

けど、結晶でキラキラしてて綺麗でもあった……不気味な奴だったよ」


エルナは片目を閉じて、セオドールは眼鏡を外してその欠片に注視する。


「……なにこれ、土……属性かしら」


「そうですね……限りなく純粋でいて、故に奇妙な……雰囲気はなんだかアベルさんと似てますね」


「確かに」


二人の視線が俺の方を向く。


「えぇ?嫌だよあんなのと似てるだなんて」


「す、すみません……けれど、青白い光といえば……さっきこのお店を教えてくれた方がたまに山が青く光るとも言っていました。これでしょうか?」


「かもしれないわね……そうだアベル、こいつってどこら辺にいた?頂上付近?」


「!よくわかったね、そうそう、風起こしたら南の方に飛んで行ってさ」


「……南……ナイスよアベル、ワタシの仮説とばっちり」


「どういうこと?」


「この村で何度か魔法を使ってたんだけど、かき消えないように大きめの魔力で風を起こしたら、渦巻いて最後には南の方、山頂の方に飛んで行ってたの」


その話を聞いて、眼鏡をかけなおし、クイっと戻してセオドールが話す。


「であれば、魔力を渦巻かせ、自分の方に向ける魔物、その光るナメクジが今回の騒動の原因。

住処は山の山頂付近で、そこまでいけば弱めの魔法でも場所を探れる……というところでしょうか」


「うん、俺もそう思う」


「いいんじゃない?それなら、今日は休んで明日から行きましょうか」


そう話をまとめて明日の朝、山の方を目指すことになった。

夕食を食べて外に出れば、ぽつぽつと雨が降っていた。


「……嫌な天気だね」


「そうね……明日も雨かしら」


「明日もこれだと冷えますね……宿に早く戻りましょう」


そうして明日に備えて休むことになった。


* * *


次の日。

朝、雨の音で目を覚ます。

朝食を食べても、窓を叩く雨の音は止んでくれなかった。

しかも、今日は霧が一段と深い。

この村までもが深く霧に沈んでいた。


「……今日はやめておく?」


「……そうしたいけれど、そうも言ってられないのよね……」


「えぇ、僕もそう思います……魔力の濃い何かが、霧の向こうにいるのを感じます」


「多分元からいたんでしょうね。

けれど霧がそれを認識させてくれなかった……今になって分かったけど、これ放っておいたらとんでもないことになるかもしれないわ……!」


「一日でも早く解決した方が、僕はいいと思います……!」


「そ、そんなに?……わかった、それじゃ今日の内に一回向かってみよう。

それで何とかできたらいいし、無理そうでも対策練れる」


俺がどこか楽観的に見えるほど、二人は重く頷いた。


準備を整え、山に向かう。

二人は場所が何となくわかるようで案内に従えば、霧の向こうからシャリンと、あの音が鳴った。

そしてそこに奴はいた。


「うわ……」


「……アレが……」


初めて見る二人も表情を険しくさせていた。

俺とは違い見惚れるようなことがないのは、この二人にはもっと深いところまで見えているからなのだろうか。


俺がコクリと頷き、合図を送る。

エルナは杖を、セオドールは掌を向ける。


「「《暴風炸裂魔術(ワインドブラスト)》」」


奇しくも同じ魔術。

その二つはめちゃくちゃな軌道を描き、山の木をなぎ倒し、引き裂き、それでも敵に吸い込まれるように進み……


パクンッ


「「「は?」」」


二発とも最終的にはあの怪物の口の中に吸い込まれて消えた。


「まってまってまってください、なんですかアレは……!」


セオドールが慌てている。

エルナも冷や汗をかいている。


「ウソでしょ、喰ったってこと?けどそんなことしたら身体の中がぐちゃぐちゃに──なってないならワタシの魔術はどこに……」


まずい、二人とも『動きが止まっている』

そんなのお構いなしに怪物は身じろぎ、身体の結晶を二発放つ。

理不尽なことに、怪物の攻撃はまっすぐ、素早く飛んでくる。


「危ない!!」


エルナの方は攻撃が飛んできていない。

セオドールが危ない!!突き飛ばして、剣で弾く。


一発二発なら問題な───


「っ!!?」


剣で弾けないほど、重い!!?

一発でそれなのに、更にもう一発が重くのしかかって弾き飛ばされる。


「アベル!!」


エルナが魔法で補助しようにも、その魔力も流され怪物の口に。

セオドールは突き飛ばされて状況を呑み込めていない。


二人ともなんでも見えるからだろう。『予想外』に弱すぎる。

思考停止して動きが止まったんじゃない、頭を回し過ぎて、行動が停止してる。

戦いながら未知を解明することに慣れていないんだ


俺は地面を抉り、それに押し潰されるも、思いっきり跳ね上げて叫ぶ。


「大丈夫!!俺はそんなに怪我してない!!落ち着いて分析して!!二人ならできるでしょ!!」


その声を、今は見えない霧の向こうの仲間へ。

俺は手をかざし、魔法を放つ。


「《風弾射出魔法(ウィンドボール)》」


落ち着いて放てる、俺の愛(・)す(・)る(・)魔法。

いつだって俺の窮地を救ってくれたお前なら、安心して放てる。


風の塊が霧を裂いて、怪物の口へ消えていく。

深い霧の中、俺と怪物を結ぶ一本の線が開く。

そして霧が晴れ仲間の顔が見える。


雨に濡れて、敵と俺の顔を交互に心配そうに見るセオドール。

エルナもセオドール程ではないが動揺して、何の魔法を組み立てるか悩んでいる。


俺はその二人の前を走り、怪物目掛けて走っていく。


「エルナは魔法を連射!セオドールは重めの魔法を!!相手の反応を確かめたい!!魔術も混ぜて観察を!!」


そう叫ぶと、二人ともハッとした顔で魔法を放つ。

法則性を見つけるのも探るのも二人の方がずっと上手いんだ。


二人の頭の中の暗雲を、俺が戦うことで少しでも払う!!


剣を振り下ろす。

結晶を避けて、半透明な部分を……!


「なにっ!?」


しかし手ごたえがない。

スカッと通り抜けてしまい、その軌道上にある結晶に当たって弾かれる。

やっぱり固いが、欠片が飛び散る。


また飛んでくる魔術の結晶。

今度もセオドールの方に飛んでいくが、上手く躱している。

何かコツを見つけたのか、エルナがもう一発は風の魔法で逸らしているようにも見えた。


俺も、怪物の身体を口と俺の手の間に挟み魔法を放つ。


「《風弾射出魔法(ウィンドボール)》!」


風は、結晶を削り、口に届く前に確かに相手に着弾した。

しかし半透明な部分には未だに手応えがない。


一度後方に戻り、仲間の元へ。


「どう!なにかわかった!?」


「魔力量!!魔力量多い攻撃したヤツ狙うわアイツ!!」


「あと!半透明な部分には被弾しません!!

どの属性も食べてきます!!それと魔術を使う前の『起こり』が僕とエルナさんには見えます!」


「俺にできることは!!?」


「時間稼ぎお願い!まだ分からないことばっかり!!」


「あと!アベルさんの怪我を治そうと放った魔法も喰われました!十分近付くか、怪我しないでください!!」


「わかった!!」


このパーティーの中で攻略法が回ってきた。

敵はすっとろいのに、魔力を上手く扱えないだけで緊張感が一気に上がる。


万能な魔力を奪われたら無能なのか?


──違うだろ。


「時間は俺が稼ぐ!攻撃前に『起こり』を見つけたら攻撃を止めて!!俺が魔力使って引き寄せる!!」


「わかったわ!!」


「お願いします!!」


その中でも、やり方を……『可能性』を見つけるんだ……!!

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