怪物か、災害か
山を越え、近くの集落に滞在する。
その間も筋肉痛が治らず、二人は動けなくなっていた。
「そういうのって、魔法でどうにかならないの?」
「……良い……質問ね、アベル……セオドール、パス」
「良い質問ですね……筋肉痛を治すのは簡単です、光魔法の治癒で行けます。
ただ、筋肉が傷つく前に戻るので結局同じだけ動けばもう一回同じ筋肉痛になります」
「つまり?」
セオドールは今度は無言でエルナの方を向く。
「……つまり、この痛みを乗り越えないとワタシ達はいつまでたっても旅のお荷物ってことよ」
「なるほど、二人とも強くなるために耐えてるんだね」
コクリと二人とも頷き返す。
説明は立派だしわかりやすいのに……なんか格好良くないな。
ご飯を食べて、しっかり休めば元気になるから早く旅に出れるといいなぁ。
なんて思いながら、現在滞在している集落を散歩する。
この集落もまだ魔法都市の近くのおかげか、魔法具も充実しているし、皆日常的に魔法を使っている。
小さな子供たちが雪で何かを作って遊んでいたり、こんな寒い中でも農業に勤しんでいる人もいる。
その中に老人が大きな箱を担いで運んでいた。
まだまだ量が残っているみたいで、魔法で運びながら一度に二つ持って行っていた。
「こんにちは、凄いですね、魔法を使うの上手だ」
「おぉ、こんにちは、旅の人かな?ありがとうね、昔からやってるから慣れたもんだよ」
そういって笑う老人、確かにいい腕してる。
「暇なんです、手伝いますよ」
「いいのかい、悪いねぇ」
そういって荷物をどこに運ぶかの説明を聞く。
「これ、薪?やっぱり夜寒いからいっぱいいるんだね」
「そうそう、山の中に薪小屋があってのぉ、そこで木を切って薪にするんじゃ」
「おじいさんも大変だね」
「はっはっは、儂がやっとるんじゃないよ、木を切って、薪にする奴がおるんじゃ」
そういいながら指さした先に、山の中から煙が上がっていて、目を凝らしてみれば確かに小屋が見える。
「あぁ、なるほど~」
「お前さん力持ちじゃのぉ、一人で二個も」
「もっと持てるんだけどね、バランス崩すと危ないから」
「偉いなぁ、そうそう、無理は禁物じゃ」
そんな話をしていればあっという間に運び終えた。
「飲むか?甘くておいしいぞ」
「ありがと、貰うよ」
温めたミルク、それだけでホッとする。
「これからどこまで旅に行くんじゃ?」
「ヴァルガード、ヴァルガードの星落ちの平原まで行きたいんだ」
「ずいぶん遠くだねぇ、しかし星落ちの平原か、闘技大会に出んのか?」
「闘技大会?」
「そう、ヴァルガードの『王立大闘技場アレーナ』じゃ。
あの国は戦いも興行じゃからな、てっきりそれ目当てかと」
「へぇ?知らなかったや、もっと教えてよ」
そう話すと嬉しそうに笑い、話をしてくれた。
気が付けば、その闘技大会に出たことがあると話に入ってきたり、平原は花が綺麗だとか、灰燼戦野に行くことを話せば、あそこは空気が澱んで恐ろしい所だとか、昔あそこで綺麗な装飾のなされた耳飾りを見つけたとか、色んな人が周りに集まってきていて、思ったよりもたくさんの話が聞けた。
「皆物知りだなぁ~!」
「はっはっは、アベル君はいい子じゃの、儂ら老人の相手をしてくれて嬉しいよ」
「そんないい方しないでよ、俺だって色々話聞けて嬉しいんだからさ」
「けれども、もうこの集落に若者は残っとらんよ、皆都市へ移ってしもうた」
「……悲しいの?」
「少しな、けれど、寂しくとも向こうの方が栄えていて、人生に幅ができるのも事実、仕方ないんじゃ」
「そういうものなんだ」
「そういうものじゃ」
そんな話をしていたら、夕食まで誘われ、エルナとセオドールを呼びに行った。
二人はもう元気で、何なら部屋で二人っきりにしていたからかセオドールがガチガチになっていた。
「あ、二人とも元気そう。
ご飯皆で食べないかってここの人が誘ってくれたよ~」
「アベル、アンタ仲良くなるの早いわね……せっかくだしお邪魔しようかしら」
「凄いねアベルさん……僕もお腹減ってきたし是非」
そうして三人で食事をとる。
魔法で着火した、さっき運んできた薪で暖かいシチューを一緒に食べた。
賑やかな食事に、美味しいご飯。
ちょっとしたお祭りだと集落の皆で楽しんだ。
* * *
次の日、この集落を出て、さらに先に進んでいく。
短い間だったが本当に良くしてくれた。
帰りも寄ってくれと言ってくれたので約束して旅立った。
また雪道を進みながら、時折アルケイアを目指している冒険者と出会いながら、道を進んでいく。
山はすっかり見えなくなり、少しの間雪原を進んでいく。
遠くには魔物が見えて、のんびり草を食べて、水を飲んでいる。
「あれって採取対象?」
「いえ、あれは違いますね。
魔物ってなんだかみんな襲ってくるイメージだったけど、あんなふうにのんびり過ごしているのもいるんですね」
「確かに、危なくない魔物ってのも珍しいわね」
「けど、どれもこれも好戦的って訳じゃないからね。
中には荷物狙って攻撃してくる魔物だっているんだから、気を付けないと」
「そんな悪い奴がいるんですか……」
「そうなんだよ!!」
「や、やけに力入ってるわね、アベル……」
今までの冒険の話なんかをしながら、前へ進んでいく。
雪は次第に減っていって、少し茶色く乾いた土地が増えていった。
「ヴァルガードに近づいてきましたね、ここら辺は魔物が多いですが、雪はあまり降らないんです」
「雪なくなると一気に物悲しくなるわね」
「冬は眠りの季節、ってのが目に見えてわかるね」
「そうですねぇ、星落ちの平原はもうあと少しです……なんて今までの僕なら行ってたんですが、徒歩の移動であれば地図ではこんなちょっとでもかなり遠いんですね」
「馬車、乗りたいわ……」
「雪山超えなきゃだったから無理だったけど、星落ちの平原まで行ければ馬車乗れるかもね」
俺がそう言うと、エルナとセオドールが元気になった。
「そういうことなら、早く行くわよ!」
「もう歩きだと、僕たちにペース合わせてくれているアベルさんに申し訳なくなってきましたもんね!」
「そうよ!!」
「そんなに気にしてないよ~?」
なんて話しながら、それでも旅のテンポが上がったのは少し嬉しかった。
それから星落ちの平原まで向かう途中、二人が同時に足を止めた。
「ん?疲れた?」
「……いや、ただあっちの方が気になりまして……」
「魔力の流れが変ね……」
「そうかな?」
二人の表情から見て気のせいということはなさそうだ。
エルナが指先から炎を出す。
それが渦を巻いて不思議な形になる。
「相変わらず器用だね」
「……いや、ワタシ何もしてない」
「……へ?」
「アベルさんには見えないかもしれませんが、魔力が渦を巻いていますね……何かが向こうにあるのかもしれません」
指さしたのは、小高い平原の先、小さな山。
「魔物?」
「かしらね……結構な量の魔力を持ってるのか、それとも別の理由で渦巻いているのか……」
「魔物かもしれませんし、魔力の流れに関係する何かの災害の予兆かもしれませんよ」
「なるほどね、星落ちの平原が近くにあるもの、ない話じゃないわ」
二人は興味津々だ。なら俺にできることは一つ。
悩んでいる二人の背中を押す言葉を一つ。
「行く?」
「「行く」」
「分かった」
その短いやり取りで俺たちは十分だ。
* * *
平原の先の山を目指して歩いていると、霧が次第に出てきた。
「視界悪いね、少し休憩する?」
「そうね、無理に進んでも危ないかしら」
「早めに収まるといいんですが……」
そういって少し腰を下ろし、休憩する。
二人もそこそこに体力は消耗しているようだ。
いつだったか、エルナが魔術師は冒険者と一緒に旅に出たら体力に差があるから大変、みたいなことを言っていた。
俺一人なら山についているかもしれないが、無理する必要はない。
「……ダメね、魔法が上手く扱えないわ。
小さな簡単なものでさえこれじゃ、実戦魔法使った時に回り巻き込んじゃうわ」
「一定周期の螺旋なら簡単に修正できるんですがね……」
そんな話を聞きながら、俺も魔力を放出したりしてみる。
確かに渦巻いておかしな様子だ、上手く操れない。
「これ、なんでこんなことになってるの?」
魔力の見えない俺にはわからない話で、二人に聞いてみればセオドールが答えてくれた。
「簡単に言えば空気の流れのようなものです。
風の強い日は蠟燭の火が一定の形を保っていられないように、魔力の流れが乱れているとこういった現象が発生します」
「へぇ……初めて経験した」
「かなり希少な現象ですから、僕も体験するのは初めてですね」
「大体こういうのって原因あるの?」
そう質問すれば、今度はエルナが答えてくれる。
「そうね、アベルがさっき言ってくれたような、魔物の影響が一つ。
ただ、ぱっと見山が荒れてるとかじゃないから、何処かで強力な魔物が暴れてる~っていう感じじゃなさそうだけど、周囲の魔力を食べたりする魔物がいるのかもしれないわ。
もう一つがセオドールが言ってくれた災害の予兆。
そういう時は魔力の流れも変になるの」
「エルでも初めて?」
「いーや?ワタシなら何回かあるわ。
ただ原因までは上手く探れないわね……」
二人でも正確には把握できていないなにかの危険がある。
魔術と魔法を上手く扱えない現在、これ以上行くのは少し危険か?
「……一回引こう、そしてこの周辺の村に行って色々聞いてみたりしよう」
「……そうですね、僕も危険がありますからアベルさんの意見に賛成です」
「……仕方ないわね、言う通り危険だわ」
二人も了承してくれて、セオドールが地図から周辺の村を探す。
「ヘリナ村、ここが一番近いです」
指さしたのはここからもう少し山の方へ進んだ村。
目的に近づくし、少し休憩もできて良い距離感だ。
「わかった、じゃあ行ってみよう」
* * *
ヘリナ村。
そこも予想していた通り、魔法が上手く扱えず、皆困っている様子だった。
「今この村に長居するのは進めないよ」
宿のおばちゃんはそんなことを言ってくれた。
「魔力の流れが変だから?」
「そうそう、アルケイアの方に手紙を送ったからもうすぐ来てくれて原因を除いてくれるんだろうけど……今はまだ、ね」
「そっか、こういうのってたまにあったの?」
脳裏によぎるのは、リュネ村の呪水蛇の一件だ。
以前からあったのなら、この季節に帰ってきた大型の魔物の可能性がある。
「こんなの初めてよ、皆混乱してるわ」
「そっか……俺たち冒険者でさ、調べようと思ってるんだ」
「本当かい?なら頼むよ、上手く行ったら報酬も渡すからさ」
「ありがと、それじゃやれるだけやってみる」
そういって宿屋でサインして、部屋のカギを貰って荷物を置く。
「相変わらず、アベルさんは初めての人ともすぐ仲良くなれるね、僕は緊張してダメだな」
「人から話を聞くと色んな事学べるからね!」
「アベルらしいわね……あ~~!疲れたぁ!」
バフっとベッドに飛び込み、エルナが息を吐く。
セオドールもかなり疲れていたのか、椅子から立ち上がれていない。
「……ねぇ、二人とも」
俺がそう声をかけると、二人は視線だけ向けてくる。
やっぱり疲れてるみたいだ。
「……俺、ちょっと一人で山の方見に行ってみる」
「あ、危ないよアベルさん!ね、エルさん!」
セオドールが声を出して止めてくれる。
しかしエルナは少し悩んだ顔をしている。
それもそうだ、エルナは俺が一人で二十層まで来たことを知っている。
俺なら問題ないと知っているから。だから、年長者として悩んでいるんだ。
「……行きたいの?アベルは」
「うん、俺一人なら夜になるころには帰ってこれるはず」
「……わかったわ」
「エルさん!」
「ただし!」
ビシッ!と寝っ転がったまま指さす。
そして、懐から一つ、アクセサリーを取り出す。
「……魔道具?」
「そうよ、これは光魔法の込められた魔道具。
アベル光魔法へたくそだから貸してあげる、簡単な怪我なら治せるわ。
今の山なら使えるかわからないからほとんどお守りみたいなものね」
「ありがとう……!」
それを受け取る。
そして心配してくれているセオドールの方へ向き直る。
「心配してくれてありがとう。けど俺、今まで一人でやってきたんだ、心配しないで」
「一人で……?」
セオドールが少し俺とエルナの方を見つめる。
「……まぁ、わかりました……エルさんがそう言うならお二人にしかわからないことです。
それに、僕達ではまだ原因もわからない中ついていくのも危険です。エルさんのように何かお渡しできませんが、無事を祈ってます」
「それだけで十分だよ、ありがとう。
そうだな……美味しいご飯屋さんでも探しててよ」
「へ?あ、は、はい!」
そんなセオドールの返事を聞き、宿を後にする。
エルナは多分この後宿で色々調べるだろう。何回か経験してるなら、エルナが適任だ。
セオドールに店探しをお願いしたのは、俺が美味しいご飯食べたいのもあるけど。村の人たちに聞き込みしてもらうため、その会話の種になればいい。
俺は、俺の仕事をする。
* * *
少し走り、身体を温めながら山の麓にたどり着く。
今になって背中の羽が反応する。
迷宮の外で反応したのは初めてだな……
「さて、行くか」




