魔術師と、魔法使いの旅路
アルケイアにて、初めて旅に出るセオドール達の準備を手伝う。
一度皆で集まって荷物確認した時、セオドールは準部万端だと言っていたが、荷物の中身は全部実験道具ばっかりだった。
アベルはその様子に感心し、エルナは呆れていた。
「すっごいな、こんなに熱心だなんて……!」
「感心するとこじゃないわよ!も~、ワタシも手伝ってあげるから!」
なんて言っているエルナも、さっきまでアベルに色々教わりながら準備をしていたのだった。
意気揚々とセオドールを教えにいったエルナだったがすぐにアベルの方を振り向き
「何見てるの!アベルも手伝って!」
「あ、はーい」
そうして俺も結局もう一回荷物の準備を手伝うことになった。
「……食料、こんなに持っていくんですか?冒険者って魔物倒してそれ食べたりするんだと……」
「そういうこともあるけど、今は冬だからね、あんまり魔物も活発じゃないから、もしも次の休憩地点まで一度も敵と出会わなくっても、悪天候で結構足止めされても、問題なく冒険できる分の食料は持っていかないと」
「なるほど、次善の策というやつですか」
納得した様子で食料を積んでいくセオドール。
まぁ俺のセリフはテイル冒険譚のパクリなんだけど、バレてないバレてない。
「アベル、これあんまり美味しくないわよ、別のにしない?」
「エル!?食べちゃダメだよ!美味しくないのはそうだけどこれでも美味しい方なの!」
「え~~旅のモチベーション上がらないわよ~!」
そういえば今までエルナと一緒にしてきた旅はセレスティアに行くまでの客船の中だったり、空飛んであっという間だったから保存食まみれの生活って言うのは初めてなんだ。
アルビレオと二回目のエルセリア来訪の時一度冒険らしいことしたけれどあの時はまだ新鮮な気持ちが勝ってたのかな。
「旅のモチベーションなら……そうだな……次の休憩地点で美味しいご飯食べるとか?」
「……なるほど、空腹は最高のスパイスって訳ね、いいわよ、心を飢えさせておくわ」
身体の方は満腹のつもりしい。
あ、違う守護者だからお腹減らないのか、守護者ジョークか今の。
そんな様子で準備をしていたのだが、良い発見も沢山あった。
それは二人の存在が非常に旅を有利に進めてくれること。
「「魔法でいい」」
二人がよく口にする言葉だった。
火を起こすのも、飲み水の確保も、寝床の準備も、何もかも魔法で代用できそうだというのだ。
実際にやってもらったところ、着火、水、寝床は土の壁で、何なら小さな家が建ちそうな勢いだ。
俺とアルビレオの二人旅の時はアルビレオの鎖で桶に汲んだ水運んできて、俺がその間に必死に寝床造ってたのに……魔法って本当に便利だな……
そんな風に準備をしながら、ふと気になったことをセオドールに聞いてみる。
「そういえば、なんでヴァルガードの方に行くの?」
「それはですね、以前にも話した通り魔物に何かヒントを貰いに行くわけです。
ヴァルガードは魔物が非常に多く、それだけに交戦経験も多いし、知識も豊富というわけです。
それにもし旅の途中にアベルさんが僕たち二人を守るのが厳しいと感じても、ヴァルガードなら優秀な前衛を確保できるというのもあります。
あと……これをみてください」
そういって一枚の紙を宙に浮かせテーブルの上に広げる。
「僕は旅が初めてなので、必要な素材については一覧にしておきました。
採取場所や、その際の注意点などもまとめてありますから、これを頼りにしようかと」
「知らない魔物の名前ばっかりだけど、注意点はわかりやすい」
そういって俺は図鑑をめくって色々調べてみる。
エルナも内容を読んで
「へぇ!いいじゃない!しっかりしてるのね、アナタ!」
「は、はい!あり、がとうございます……!」
まだまだ緊張は解けないようだ。
それから俺たちは準備をして、旅に出ることとなった。
ゆっくり陸路で、歩いて旅にでる。
少しして山の中に入り、最短ルートを見つける。
岩場をぴょんぴょんと飛び跳ねて振り返れば
「「えぇ……!?」」
二人そろって俺を見上げて引いていた。
「な、なに?」
「そんなところ登れるわけないでしょ!」
「アベルさんは凄いですね……!」
二人にとってはここは道じゃないらしい。
二人とも真似しようとしているが、雪で足が滑って難しそうだ。
アルビレオがいたら鎖ですぐ上って、俺の事上から引き上げてくれたのに……あ!
「それじゃ、二人ともこのロープ持って!」
そういって荷物の中から取り出したロープを下に投げる。
指示に従いエルナはそれを握る。
それを俺は手前に手繰り寄せて、エルナの身体が浮き上がってすぐに上に持ち上げる。
「わぁ……!凄いじゃないアベル!!」
「そ、そんなに喜んでもらえると嬉しいな」
「なんだか冒険って感じだわ!セオドールも早くやって貰いなさい!」
「お願いしますアベルさん……!」
二人の凄くキラキラした瞳に当てられ、それに従ってセオドールも上に運んだ。
「ありがとうございますアベルさん、なんだか冒険してるって感じです」
「わかるわ」
「そ、そうかな?」
ま、まぁなんにしても二人が嬉しそうならよかった。
それから旅を進めていく中、少し疲れてきたら二人が光魔法で疲労を回復しながら、寒さも魔法で木にならないし、暗くなったら光の弾を浮かせて、足元も安心……なんて快適な旅なんだ。
食べれる野草を見つけて、今日の夜ご飯にするんだって二人は楽しそうだ。
「なんだ、冒険って意外と簡単なのね」
「そうですね、思ったより疲れませんし」
「二人とも余裕だね……」
そんな話をしながら、日が落ちて暗くなってきたので、前衛として周りを警戒しながら歩く。
「「あっ」」
そんな中エルナとセオドールが同時に声を上げる。
俺が振り返ると、二人は何かを感じたのか同じ方向を見ている。
「魔物だ」
「そうですね、このままいくと……」
「魔物?どこ?」
周囲を見渡すもまだ見えない。
二人の視線の先に集中してみてみれば、奥から雪や草木を薙いで猪型の魔物が一匹突っ走ってくる。
「あ、あれよ!」
「あれですね……!」
「本当に来た……二人とも下がってて!」
その指示に従い、エルナとセオドールが後ろに下がる。
突進を剣で受け止めようと腰を落とすと、アルビレオの声が後ろから響く。
「結晶生成魔術」
目の前にキラキラした結晶の混じった岩壁が生成され、それに衝突する猪。
しかし少しも揺れないその岩壁の向こうで、足音的に立ち止まったようだ。
即座に岩壁を飛び越え、上から敵を探す。
この岩壁、今日飛び越えた岩場と足場が似てる……再現したのかな、器用だ。
壁の影響で向こう側が暗くて見にくいな……そう思っていたらエルナが光の弾を壁の向こうに寄こしてくれた。
光の弾に気を取られている猪のがら空きの頭頂部目掛けて無垢な……いや、無属性魔法で強化した剣で急所を一突き。
なんの危なげもなく、戦闘が終わった。
「ナイスアベル~!」
「凄い!僕初めて魔物と戦いました!」
「いや……二人とも凄いよ」
エルナもセオドールも実戦経験は浅いが、渡された無限の手札を、その使いどころを理解しているから思ってたよりも一緒に戦いやすい。
「それで!その魔物食べるのよね!」
「冒険してますねぇ、僕たち……」
二人ともどこか感慨深そうに頷きあっている。
「そうだね、じゃ、解体だ」
……解体は、二人の方が上手かった、なんか悔しい。
「解剖みたいなもんよね」
「それなら得意です」
なんて言いながら、後ろから指示するだけで簡単に解体できた。
汚れないようにってずっと宙に浮かせてたし、触りにくいところも簡単に回転させて解体して……魔石も綺麗に回収できたし、何も言うことはない。
「次は料理ね~~!今日はここに野宿か~」
「旅の料理、どのようにしますか?アベルさん」
「っていっても、本当に簡単なのだよ?味付けして、丸焼きとか」
「良いわね~」
「ですね~」
二人は旅の全部を楽しんでいる。
もともと好奇心旺盛な性格なんだ、すべてが新鮮で楽しいのか。
焚火の為の薪も魔法で大量に準備してくれて、肉を焼き、野草も炒めて食べる。
「なんだかワイルドな食事で楽しいです」
「そうね、結構いい生活だわ」
「二人とも冒険者向いてるよ」
「そ、そうでしょうか?嬉しいです」
「次はセオドールが料理してたらいいんじゃない?」
「したことないので緊張しますが、やってみたいですね……!」
「味付けて焼くだけだしきっと簡単よ!」
なんて食べながら、話しながら、セオドールがメモを書いていく。
「セオドールさんは何書いてるの?日記?」
「そうですね、日記のようなものです。
先ほど戦った魔物についてのメモですね。
魔石の位置と、魔術回路の関係性から、魔術を使ったりするのが得意な魔物ではなかったようですが、それでも初めて戦った魔物です、色々参考になりますね」
「マメなんだね」
「これが僕の取柄ですから」
「マメなのはいい事よセオドール」
「あ、ありがとうございます!」
そうして食事をとって、拠点を立てて、横になる。
土の魔法で建てられた拠点は屋根もあるし壁もある。
中は魔法のおかげで結構暖かい。
「楽しい一日だったわ!」
「僕もです、明日が楽しみだ」
ずっと楽しい楽しいと言ってくれて、俺も旅をするのがとても楽しい。
ふと気になったことをセオドールに聞いてみる。
「そういえば、セオドールって魔法の杖とか使わないの?」
何も杖らしきものも持っていないセオドールの様子は、一見して魔法使いらしくない。
けれど今日見せてくれた高いレベルの魔術は問題なく扱えていたから気になった。
「そうですね、僕は今のところ必要ないかな……もともと街の一研究員ですし、杖がなくても魔術は使えますから」
「あ、そっか、戦闘とかしないから必要なかったのか」
「えぇ、それに冒険に出るからといきなり新調してもむしろ枷になるかなと」
「魔法使いって色々大変なのよ、魔術回路って生まれ持ったものを使いこなすのだって大変なんだから」
「そっか、俺もいきなり剣変えたら困るし、それと似たような物か」
納得して、少し静かな時間が過ぎて、また質問してみる。
「──ねぇセオドール、魔術と魔法の合成って、何ができたら完成なの?」
「……難しいですね。
何が起きるかわからないので、現存のものとは違うことが発生すれば、実験成功でしょうか」
「現存のものが更に高レベルな状態で引き出されるかもしれないわね」
「魔術と魔法が似て非なるもの、なんだもんね、融合って足し算なのか掛け算なのかもよくわかんないや」
「魔術から魔法の理論は足し算の方が近いわね。
足りない部分を魔力で書き足して魔法にするんだから」
「逆に魔術は引き算の極みですね。
もともと自分の中には魔術回路という道があるので、そこへいかに効率よく魔力を送って発動できるかが大切ですから」
「じゃあ、レベルの高い魔法は足し算の引き算?魔術回路を足して、更にそこから効率を重視するわけだし……」
「少しややこしいですが、そういう認識であってると思いますよ。
もしどこか落ち着いたタイミングがあれば、僕でよければ魔術教えましょうか?」
「!いいの!?」
「えぇ、僕よりもエルさんの方が詳しいかもしれませんが」
「そういうことならワタシも教えるの手伝ってあげるわ。
変な癖着かないように基礎練習ばっかりさせてたけど、そろそろ応用編に行った方がアンタも楽しいわよね」
「うん……!楽しみだな~!」
なんて言いながら明日への期待に胸を膨らませてゆっくり眠りについた。
* * *
次の日の朝。
俺は目を覚まして、寝床から出て、ぐっと伸びる。
少し降り積もった雪、今はもう降っていないが、誰もまだ踏んでいない白に自分の足跡を刻む。
焚火の火をつける。
あの拠点の中は魔法のおかげで暖かかったが、外は寒い。
吐いた息が白くなって、耳に風が当たると少し痛い。
グーーっと伸びをして、水を温めて紅茶を入れて二人の目覚めを待つ。
「お、おはよう……ござい……ます」
セオドールが四つん這いになって拠点の外に出てくる。
「さ、さむっ」
すぐにまた拠点の中に引っ込んでいくセオドール。
どうしたんだろう、風邪でも引いたのかな。
なんて思いながら、紅茶を片手に中に戻ればエルナも目を覚ましているが、うなり声をあげて動かなくなっていた。
「二人とも大丈夫!?何かあったの!?」
心配して二人に駆け寄る。
二人とも俺の方を向いて小さく一言。
「「……筋肉痛……!!」」
「へ?」
二人とも、昨日は張り切って色々手伝ってくれたし、山道も魔法を使いながらグングン進んでいた。
当人たちは簡単に進めていたが、身体の方は結構限界だったらしい。
結局出発はお昼になり、昨日よりもゆっくりとした歩みだったが、何とか山を越えることができた。
……こんなに凄い二人でも、こんなことになるんだ。
「山を乗り越えたわ……!」
「一苦労でしたね!」
「旅はまだ始まったばかりだよ?」
俺がそう言えば、二人は嬉しそうな、困ったような何とも言えない顔をしていた。




