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願いの果てで、英雄は笑う  作者: サングラス
英雄とは、可能性を諦めない者である
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正解と、再会

十八層


踏み込んだ先に広がるのは薄暗い洞窟。

ところどころ天井に穴が空いていて、外の光が入ってくる。

その光は太陽のような強い光じゃなくって、月明かりのような柔らかい光。


ここは、外の時間と連動しているのか、アルビレオのところと同じで偽物の空なのか。

そういえばまだ迷宮の中で夜に出会ったことがないから疑ってしまう。


そんな薄暗い洞窟の中、円形の光がいくつか浮かぶ。

その方向に視線を向ければ、犬に似た体格の魔物。

しかし犬のように愛嬌のある見た目ではなく、鋭利で無機質な頭で、目も鼻も見当たらず、生き物らしい印象を受けない。


そんな不気味な魔物たちが集まれば、胸のあたりに浮かぶ光の輪の勢いが強まる。


「……仲間の数が関係してるのかな」


そんな考察をしている余裕もなさそうだ。

向こうは警戒心が高まるのに合わせて数が集まってきて光も強くなっていく。


その前に片付けなければと思っていたが、目の前の光を遮るものがある。


「……クラゲ?」


半透明なクラゲが、目の前をふわふわと浮いている。

そのクラゲが光の方に吸い寄せられるように寄っていけば、魔物たちは距離を取って、ばらけていく。

それに合わせて、胸の光も勢いが衰えていく……魔物たちが警戒している?


それに合わせてクラゲも興味を無くしたのかまた辺りを漂う。


一度認識したから今どこにいるかなんとなくわかるが、目を離した隙に見失ってしまいそうになるぐらいには視認性の悪い体を持っている。


あの光る魔物たちは、数が集まると力を増す魔物なのだろうか。

そして、クラゲはその力に吸い寄せられるように寄っていくようだ。


魔物の方は五匹ほどで連携を組んで、風貌が見て取れるほどの光を保ちながら、こちらを警戒する様子を解かない。

縄張りに入ってくるなと警戒しているように感じる。

さっきのルーンスタッグのときもそうだが、こういう縄張り内に入らなければ先には進めないんだ。


話して分かってくれるなら俺もその方が楽なんだけど、口や耳が見当たらないんだからそれは無理そうだ。


「押し通るぞ」


剣を抜いて、魔法を放ちながら距離を詰める。

しかし、放った魔法に反応してクラゲがそれに吸い付き、風の弾丸を飲み込む。

ダメージはない、吸収して、そして身体が青く発光する。


牽制自体は失敗したが、それでも魔物の方には近づけた。

剣を振り上げる。


その瞬間、鋭利な形状の魔物の頭部が、花が開くようにパカリと開いた。

その内側は妙につるつるしていて、真ん中にぽっかりと穴が開いていた。


「うわっ」


思わず口から声が出る気味の悪さ。

周囲に控えていた他の魔物たちも口?を開く。


そこから火や風や水の魔法を放ってくる。

意外と多彩な攻撃に驚きながらも、躱して、剣で守って距離を離さないように剣を振るう。

一番最初に目を付けていた一匹を追い詰め、斬り倒せば、一撃で命に届いた感覚。

その後身体が光の粒子になって消えていく。


そして、残された四匹の胸の光が弱まった。


「やっぱりそれ関係あるんだな」


再度放たれた魔法はさっきに比べて威力が落ちていた。

しかし戦っている間にまた光が強くなる。

仲間が集まってきたのか、その度に放たれる魔法の一発一発の威力が上がっていく。

犬の様な俊敏な動きが厄介で、魔法を絶え間なく打ち続けるのを止められない。


しかも厄介なのが、風と火をかけ合わせて勢いや範囲を増したり、放たれた水弾と岩の塊が足場や視界を悪くしたりと、様々な属性を使った連携もしてくる。


しかしルールもある。

扱える属性は一匹につき一種類。

そして、扱う魔法も簡単なものばかり。


それでも物量が厄介なのだが、量だけならルーンスタッグのほうが厄介だった。

ただ、ここで忘れてはいけない存在がいる。


「危なっ!」


クラゲの存在だ。

今まさに俺に絡みつこうと触手を伸ばしていた。


戦いが長引いたからか、辺りには半透明のクラゲが集まってきている。

剣を振ってもなんだか手ごたえがなく、ぐにゅんとした妙な感触が走るだけだ。

しかし、剣で押し飛ばしたりはできるので逃げる時はそうやって押し進もう。


そんなことを考えながら戦闘を進めていく中で、不意にクラゲの恐ろしさを知る。

魔物の一匹がクラゲに捕まっている。


そして、クラゲの身体が青く発光していく。

その度にゆっくりと魔物の身体の光が消えていく。


吸い取っているのだろう、

視覚的に判別がつきやすい分警戒もできるが、恐怖も増す。

捕まった魔物はぐったりとして動けていない。


死んではいないようだが、あのままでは生き残るのも難しいだろう。

魔物もクラゲも、数は増えていく一方だ。


「……無理やり行くしかないか」


魔法を躱し続けるのも、威力や連携が絡んで上手くできなくなってきた。

大きな怪我はしていないが、じわじわと削られているのを感じる。


ゲイルハウンドがやっていたような風魔法での加速でここを抜ける。

いまだに物にはできていないが、自分が怪我すらしないレベルの風では爆発的な加速も見込めない。


生活魔法ではあるが、火の弾を周囲にまき散らし、クラゲたちの興味を逸らせ、そして灯で視界を確保する。

魔物の攻撃でぐちゃぐちゃになった地形を活かしながら、この洞窟の奥にひとっ飛びできる瞬間を狙う。


半透明のクラゲもいない、敵の攻撃の照準も全てこちらを向いている。


──今だ!!


「《風弾射出魔法(ウィンドボール)》!!」


足元が弾ける一撃。

何だか攻撃よりもこういうトリッキーなのに利用してばっかりな気がするこの魔法。

しかしなんやかんや俺の窮地をいつも助けてくれている。


飛び越えたあと、格好良く着地とはいかなかったが、転げ回っても立ち上がって前に向かって全力疾走。

背後には魔法を連射して、追手がこないようにして走る。


そうして走っていけば道の先に階段が見える。


「やっぱりあった、次の階段!」


迷宮にここまで潜ってきて、ある程度階層の法則性のようなものが掴めてきた。

大体階層の構造は四パターン。


一つ、ここ十八層や八層のような一本道タイプ。

道の先にひたすら進んでいたら階段が現れる。


二つ目が、迷路タイプ。

イメージしていた通りの迷宮。

アルビレオのところは六層と八層から十層以外は殆ど迷路だったな……。

最近だと十一層がそれに近いかな、階段探すの迷うし、帰りも少し迷う。


三つ目が、自然タイプ。

攻略するのは一番楽しいけど、一番イレギュラーも多い。

六層とか、十二層とか十三層とか………最近そういえばこのタイプばっかりだな。


四つ目が、ボスタイプ。

分かりやすく敵がいて、それを超えたら次にいける。

五層、十層、十五層、あと二十層。


その他にも九層みたいなイレギュラーもあるからわからないものだ。

十九層も休めるところなのかな?なんて思いながら追ってくる魔物たちから逃げるように十九層へ続く階段へ飛び込んだ。


* * *


十九層

階段を下っていけば、地面から淡い光が浮かんでいることに気が付いた。


それは、アルカナイトの纏っていた幾何学模様とよく似た代物。

人工的によく整えられた床から、迷宮タイプかと推察したが、背中の羽がピクピク反応している。


『この先に強敵がいる』と、警鐘を鳴らしている。


開いた視界。

視線の先にいたのはアルカナイト……とは違う。

獅子のような胴体を持っていたアルカナイトに比べて細身な印象を受け、どこか女性的に感じた。


鹿のような下半身を折りたたんで静かに座るが大きい……恐らくアルカナイトと同じ三メートルくらいか。

本来頭があるべきところから人の胴体が伸びている。


その先にはこれまた目の無い人間のような形の顔。

長い髪と胸の膨らみが女性的だと思わせた感覚に確信を持たせる。


持っている武器は、アルカナイトが錫杖だったのに比べて、両手持ちの大きな剣だった。

ただ、祭事用なのか、何かの飾りがされている。

しかし、きっとこいつも魔法の杖としてあの剣を使って、アルカナイトのように複数の魔法を使うのだろう。


こいつを超えて、エルナに会いに行くんだ。


「今度は俺一人で、勝つ」


アルカナイトの時のように身体に任せない。

俺が考えてきた対策と、さっきのアルカナイトとの戦いを参考にして、俺が超えないとダメだ。


剣を抜く。

そして空いた手で魔法を放つ。


「《風弾射出魔法(ウィンドボール)》」


まずは小手調べ、どんなふうに対応してくる?


カツン―—


剣を地面につく音。

その瞬間、身体の模様が発光し、放った風の弾丸が……霧散した。


「……そういう感じっ――!!?」


魔法を再度組み立てようとした瞬間、地面を抉るような踏み込みで敵が距離を詰め、巨大な剣を振り下ろす。

咄嗟に構え、受けたと同時に横に流すっ……!!


「おっもい……!!」


受け流され体勢を崩した敵は、そのまま勢いに逆らわず目の前でその巨体を翻し、鹿の胴体を向ける。

俺がカウンターを入れるも、浅い。


目の前には折りたたんだ脚、それが拡大したように伸び、俺の腹に突き刺さる。

メギッと嫌な音が響いて、壁に吹き飛ばされる。


タンっとあの巨体でそんな軽やかな音が聞こえてきそうな様子で体勢を整える。


優雅だ、美しい。


「がふ……っ!!」


反して俺は腹を抑え、蹴られたところを抑え睨み上げる。


「『シジルガード』……!!」


人間体の背中に書いてあった文字列。

ただ、それは俺がグランディアで見たことの無い字。


けれど読めた。俺の分かる文字。



───シジル(・)ガードと、俺のぼろきれにあったアベル(・)は、同じ文字だ。



つまりこいつは、俺と同じ言葉がルーツにある。

俺がぼろきれにあった『アベル』を名乗っているから、こいつも体の文字で呼ぶことにした。


「良い呼び名だろ?お前も、もしかしたら故郷は俺と一緒なのかもな?」


返事はない。代わりにまた地面を蹴って距離を詰めてくる。

今度はさっきのような一足飛びで間合いを侵略するのではなく、リーチを生かした慎重な立ち上がり。


剣のリーチで劣る分を魔法でカバーしようにも……


カツン──


蹄が地面を叩く音が響くと、また模様が光り、そして魔法が搔き乱される。


「魔法をっ!!邪魔するのが!お前の魔法か……!」


剣で発動できないときは脚の動きで魔法の妨害をしてくる。

受け流すので精一杯だが……それだけじゃないだろ、お前ももう一種類、使ってくるんだろ!


剣を受け流し、シジルガードに次の行動をさせるために動く。


振り下ろされた剣を壁に向かって飛び、攻撃を躱す。

壁を蹴って、腕の上に着地、そして踏み台にして飛び上がる。

頭上を飛び越え、鹿の胴体にまたがり、剣を突き刺す。

やっぱり背中には『シジルガード』って書いてあるし、俺はなぜか読める。


魔力を放出して内側から破壊しようとした瞬間。


カツン──


魔法が乱され霧散される。

無垢な魔力もダメか……!?これは予想外だ……!!


だが、緩めれば俺が内部から破壊するつもりなのを分かっているのか、身体の模様から光が消えない。

そして暴れ馬のように身体を振り回す。


必死になって身体にしがみつき、剣から魔力を放出し続ける。

必ず来るチャンスを、モノにするんだ。


「《閃光炸裂魔法(シャインバースト)》」


鈴を振ったような女性の声。

剣の先から放たれた光の弾が、自爆覚悟で背中に向けられる。


光魔法だ。

俺が唯一まともに扱えない魔法。

エルナも向き不向きの話だと言っていたが、この属性の魔法が使えないせいで回復も明かりも苦労することが多かった。


そんな光属性へ手を伸ばし、そして無垢な魔力で膨張……いや、暴走させる。


この戦闘の中で、俺の魔法を乱してきた。

今、シジルガードは『俺の魔法を乱す魔法』と『光魔法』を使っている。


二つだ、これ以上はもう使えない。

だから俺が魔法を使うんじゃない、代わりにシジルガードの魔法を強化する。


俺はそれを待っていた、読んでいた。

剣を抜き、背中から滑り落ち、シジルガードの身体を盾に炸裂させる。


光がこの階層を包み込む。

影に隠れた俺の視界も真っ白になるほどの狂気的な魔力の光。


破壊音が響く。

次に視界が開いたとき、仰向けに倒れる俺の胸に、大きな光の魔石が落ちていた。

閃光炸裂魔法(シャインバースト)の余波が俺にも当たったのか、火傷のような跡と、身体に何かがめり込んだ痕が残っている。


そして、それを認識して遅れて痛みがやってくる。

それほどの光、それほどの衝撃。


しかし、拳を天に突き上げ、仰向けの体勢のまま笑う。


「……俺一人でも、勝てたぞ……!!」


ボロボロだ、起き上がれない。

あの時みたいに無傷とはいかない。


それでも作戦だった『相手の魔法を暴走させる』はきっとアルカナイトにだって通用する。

シジルガードへ勝利した事実が俺を自信付ける。


しかし……まぁ……


「……毎回こんなにボロボロになるっていうのもなぁ……」


誰もいない迷宮の中で、一人反省会をした後、ポーションで身体を回復させ、起き上がり、二十層へ足を踏み入れる。


* * *


二十層

空には満天の星空が広がる、何一つ視界を遮る物なんてない平原。

以前来た時と違う。この階層の空は地上のように時間が流れているんだろう。

夜風が冷たい、月が綺麗だ。


遠くに明かりのついた小屋が見える。きっとあそこにいる。


……魔法の扱いは、上手くなった。戦い方も増えた。


アルビレオと戦いに行くとき、背中を押してくれたエルナの言葉を思い出す。


『アベルならきっと超えられる。

ワタシはこの後迷宮に帰るから、また会いましょ』


拳を握り、前を向き笑う。


「約束通り会いに来たよ、エルナ」


コンコンコン


小屋の扉をノックする。

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