十層攻略のカギ
聖女のもとに行ったあの日は昼食を食べ、簡単に街を見て回って終わった。
セレスティアの滞在期間は三日。
その中の一日をもう終えたのだと思うと一日が短く感じる。
日の入りを知らせる鐘が鳴って、暗くなってきたセレスティアは、グランディアと違って夜は静かなものだった。
毎日あんなお祭り騒ぎなグランディアが変なのだが、静かすぎてもそれはそれでなんだかうまく眠れなかった。
* * *
次の日。
俺がこの街に来た本格的な目的を果たす。
それが上位の聖水の購入について。
前回のアルビレオ戦の時は準備不足で敗北してしまった。
宿で皆集まり、今日どうするかについて考える。
そんな中、アルビレオが手を挙げる。
「すまない、私は今日単独行動させてほしい」
「アルビレオ~?アンタまたなんか事件巻き込まれてトラブル起こすんじゃないの?」
エルナがストレートに言ったが、俺も大方同じ気持ちだ。
「……聖騎士がいるんだ、そんな真似しない」
「あら、素直なのねアンタも」
そういわれると少し不機嫌そうな顔をした後、ちらりと一瞬リラの方を向き
「信じるに値するか見に行くんだ」
そう短く告げるだけだった。
しかし俺もエルナもその言葉を聞き信じることにした。
結局俺とリラとエルナの三人で買い物に行くことになった。
「ん~流石セラス。
街に活気はないけれど、品があっていいわね、ワタシにぴったり!」
エルナは周りを見渡しながら話す。
「うん!品があるって感じ、リラもわかる!」
リラはエルナと手を繋いではぐれないように仲良く話している。
この二人は船の中で一緒に過ごすことが多かったからかすっかり仲良くなっている。
魔法の事について話すことも多いが、師弟というよりもどちらかといえば姉妹のように感じる。
村の中では子供たちの中でリラが最年長だったからエルナみたいな女性は憧れているのだろう。
「さて、アベル!アンタの十層攻略のお手伝いしてあげるわ」
「いいのそれって?」
「さぁね。ワタシがやりたいからやる、それだけよ。
前に行ってた聖水の事もあるんだけどね、魔法について詳しくなった二人には更に踏み入った話ができるわ」
そういってウィンクしながら先に先にグングン進む。
そうして到着したのは、聖水を店頭に並べる店。
「いらっしゃい、冒険者の人たちかな?呪いや毒、魔物にも良く効く聖水、よかったら見ていってね」
そういって店主はにこやかに話をする。
者の価格についてはグランディアで見るものの三割引きくらいの価格で安くて助かる。
その中でも五段階に分けられている聖水を見比べ、どれを購入するか慎重にみている。
「アベル、基本的に呪いの解呪に使うなら、三か四級聖水にしておきなさい、あんまり高いのは使い道無いわよ。
土地の浄化とか、命を代償にするような重い呪いとか対象よ。
あんまりにひどい毒ならかける前に死んじゃうし」
あっさりと怖い話をするエルナ。
その話を聞いて自分が購入する聖水についても考えが纏まった。
いつも購入している一番安い聖水は五級聖水というらしい。
それを数本と、四級を二つ買っておくことにした。
「エルナさん!なんでこの聖水って等級があるの?」
会計をしている俺の横でリラが質問している。
「そうね、基本的にはただの水なんだけれど、セレスティア付近は神様の住んでるところだからその力が水に溶けて、って言われているわ。
本当のところは神聖魔術の影響で水に魔力が溶けて解呪や解毒ができるようになってるんだけどね。
たから等級についてはその魔力の濃度。
色々ろ過したり、蒸留したりして過程を挟むけれど、一級聖水の効能はまさしく一級品ね。
治療方法の見つかっていない不治の病や、解呪できないっていう禁じられた呪いのルールさえ超えて解呪出来たり、なんでも基本出来るわよ」
「へー!なんでも治せて聖女様みたい!」
「そうね、大体その認識で良いわ。
ただ、聖水じゃどうしようもないことあるし……なにより……」
「な、なにより……!?」
言葉の続きを待つリラを焦らしに焦らして、エルナが口を開く。
「死ぬほど高い」
そういって指さした先にあるのは一級聖水。
価格にして大金貨五十枚。
俺はそれを見てそっと目を逸らした。
必要な聖水は購入できて、自分の目的は果たした。
最後は自分の実力が試される。
初見時は何もできなかったが、罠は初見殺しな側面もある。
二度目なら以前のような惨敗はしないだろう。
それからは街の中を見て歩く中、またエルナが先を進み案内する。
「二人とも、これはアルビレオの奴には秘密よ?」
そういって案内されたのは魔法具店。
店員に軽く挨拶をし、中に入っていけば、様々な魔法具と独特な匂いがする。
薬草の匂いだ、嗅いだことがある。
ポーションも売っているみたいで、ここで調合しているらしい。
「ポーションについてもセレスティアのは結構質が良いのよ、ちょっと高いけどね。
良かったらついでに買っていきなさいな。
まぁそれよりも!アンタ達に問題。
『貴方は冒険者です。依頼を受けている中で、呪いにかかってしまいました。
すぐに対処しないといけませんが、手持ちに聖水はなく、光魔法もあなたは使えません。
さて、どうしますか?』」
リラがうなり声をあげる。
「んん~~……聖水ない時のために光魔法の《聖光浄化魔法》教えて貰ったのにその人は使えないの?」
「そうね、でも使えるならそれが正解。
ちゃんと魔法使う選択肢も、使う魔法の選定もばっちりよ、リラちゃん」
いつも口調は激しいけど、褒めるときは優しい。
そして俺たちを褒めてよく伸ばしてくれた。
「……はい!」
「はいアベル」
「聖女様とか、他の光魔法使える人に助けてもらう」
「あ~~いいわねそれ。
確かにワタシの出した問題の前提条件だと正解かも……そうね、後出しで申し訳ないけど、一人で遠出してるって設定も付けて」
「んん……?じゃ、じゃあ助からないとか?どうしようもない……のかな」
俺が諦めてそう言うと、リラも困った顔をしている。
「リラもよくわかんない……けどこのままどうしようもないのは可哀そうだよ」
「うんうん、二人ともよく考えたわね。
そうね、まず準備しっかりして冒険に出るのも大事なんだけど、ここは魔法具店よ?」
「……呪いを解く魔法具……」
「そんなのって……」
そういって俺とリラが顔を見合わせれば同時に一つ思い出した。
「「あった!」」
リュネ村の水門にあったあの魔法具だ。
「お、いい反応ね、何か知ってたのかしら?
まぁそうよ、光魔法のように呪いや毒を解除できる魔法具もあるの。
アベル、毎回大量に聖水持って行ったりして荷物の量やばいでしょ。
魔法具に置き換えれば、魔力消費は増えるけどその分荷物は減る。
アベルは光魔法使えないし、けど魔力はとっても多い。
どう?魔法具買ってみない?」
「なるほど……それってどれくらいの呪いまでなら解けるの?」
「ピンキリね。
けどこの店は結構品ぞろえ良いわよ、ワタシの目利きに狂い無しってところかしら。
小金貨八枚で買えるこれとかなら、さっき買った五級と四級聖水の間くらいの効力かしらね」
鈍い銀色のペンダントを一つ取り出す。
「見ただけでわかるの?」
「まーね、ワタシだから!」
それで納得してしまえるほど、エルナは本当に凄い。
そして、荷物の量が減るのはすごく助かる。
「エルナが勧めてくれるなら間違いないか……これにしよっと」
前回の呪水蛇との戦いの際も、戦闘の中で瓶が割れて使えなくなってしまうことがあった。
アルビレオなら必ず聖水を狙って破壊してくるはずだ。
そんな中、このペンダントの存在はかなり大きいぞ。
「お兄さんはがそんなに準備しないといけないくらい十層の敵って危ないの?」
リラにはアルビレオやエルナの正体について話していない。
俺たちがいずれ戦う運命にあることも、千年前の人物であることも話していない。
「うん、強い。俺も一度負けちゃったくらいには強い」
「お兄さんでも勝てないくらい……!?け、けど、アルビレオさんとかエルナさんもいるし、今度は勝てるね!」
「……そうだね」
即答はできなかった。
エルナもあえて何も聞いていないふりをして魔法具を触っている。
味方になれば二人ともとても頼りになる。
だけど、敵に回れば誰よりも強くて、厄介で、本当に困る。
だからこうやって一緒に行動してくれている内に勝てるようにならないと。
このペンダントも買って、まだ身に着けずにポケットの中に隠す。
アルビレオにはまだ秘密だ。
そうしてその後も街の中を散策した。
武器に聖なる力を宿したものを売っている鍛冶屋。
道具屋の人たちが販売しているのもどれも高品質で、価格もかなり安い。
そのせいでつい買いすぎてしまいそうになるが、エルナから「節約!」と釘を刺される。
そうして歩いている中で、また昼を知らせる鐘が鳴り、テラス席で昼食をとる。
料理もなぜか白いものが多く、パンも白くてびっくりしたが、甘くって美味しかった。
そんな風に食事をしながら雑談する。
「セレスティアはね、冬に来るのもいいわよ~、ワタシが昔に来たときはちょうど雪が積もっててね、冬でも葉っぱが付いてる植物が多く育ててあるから少し自然の匂いがする方に向かえばセレスティアなのにセレスティアっぽくないところにたどり着けるのよね~」
「自然の匂い?リラよくわかんないや……」
「葉っぱとか花の匂いのこと?」
「リラちゃんは自然の中で生きてたからね~、どっちかというと懐かしい匂いとか探したらたどり着けたりするかもね」
「え~!どこの話かは教えてくれないんですか?」
「そういうのは自分で見つけるからいいのよ、大人になったリラちゃんが自分でまたここにきて、ね」
そんな風に大人な返答をして、紅茶を傾ける。
「けど、リラはエルナさんとの思い出も大事にしたい、自分で見つけるのとおんなじくらい素敵だと思うの」
「ん……ん~!!可愛いわねほんっと!!」
飲んでいた紅茶から口を離し、リラを可愛がっている。
「そこまで言われたらワタシも一肌脱いだげる。
そうね~!秋のいい景色見れるとこでしょ……!ゆったり歩きながら探しましょ!」
良いのが思いつかなかったのか、結局散歩になった。
ただ、知らない街だからそれだけでも楽しかった。
リラも俺も「あれは何」「これは何」とエルナに質問して、知っているものはどや顔で紹介してくれて、千年ぶりだからかわからないものは困った顔をしてそれっぽく解説してくれる。
こういうのんびりとした時間も大事なのかな。
少し長く歩いて行って、日が傾いてきて、少し寒くなってくる。
強い風が吹いて「さむ……」と俺が言葉を漏らせば、右手が暖かいもので包まれる。
「お兄さんも寒いの?」
リラが手を繋ぐ。
リラの右手はエルナと繋がっている。
「寒い」
「へへへっ、リラも寒いけど、二人に手繋いで貰ってるからリラは暖かいよ」
「ワタシもリラちゃんのおかげで暖かいわよ~」
「うん、俺も、なんだか暖かいや」
冒険者と、少女と、迷宮の守護者。
間に一人リラがいるから、俺たちを繋いでくれるから、こんなに平和に話ができる。
どんな英雄も、この繋がれた手を振り払ったりなんてできない。
人との思いって言うのは、どんな鎖よりも強固な繋がりだ。
「そういえば、アルビレオ大丈夫かな」
「大丈夫でしょ、アイツ出身この国だし懐かしいものあるんじゃない」
「「へ?」」
「へ?」
アルビレオが、セレスティア出身?
「あ~~~、アイツ言ってなかったんだ~?………そうだったんだ……?」
ピュ~ピュ~と口笛を吹いてごまかす。
「アルビレオさんってそうだったんだ……」
「うっ」
念押しするつもりはないだろうが、驚いて復唱するリラの言葉にグサッと来てるエルナ。
「まぁ、そうね。アイツこの国の生まれよ。だからこそ、思うところがあるんじゃないかしら」
生まれ育った国こそ、アルビレオの最も息苦しい国だったのかもしれない。
真っ白の国の中でアルビレオや俺たちの黒い髪は目立つ。大きい角はさらによく目立つ。
──ゴォォォン!!!
──ゴォォォン!!!
日の入りを知らせる鐘の音が耳に届く。
あぁそうだ。
この音、どこかで聞き覚えがあったんだ。
十層で聞いた、エルセリアの鐘の音によく似ている。
アルビレオの心の中にも故郷の風景は確かに残っていたのかな。
「鐘が鳴ったし、そろそろ帰りましょう」
そういってエルナが提案する。
「うん!じゃあ、かいて~ん!」
真ん中で手を繋ぐリラが大きく振り回すように回る。
「り、リラ!?」
「あっはは!回転~!!」
ケラケラと笑い声が響きながら、来た道をゆっくり歩いて帰る。
結局散歩の中で何か特別大きな発見をしたわけじゃない。
けれども、この三人で手を繋いで歩いたこの日のことを、俺は生涯忘れない。




