旅立ちの切符
レターセットを購入し、宿に戻り、ペンをとって手紙を書く。
開け放った窓からは少し冷たく乾燥した秋の風が入ってきた。
リュネ村にいたのはまだつい最近の事だが、いつの間にか夏はもうどこかへ旅立とうとしていた。
初めての季節の移り変わりを感じながら、最近元気どうだとか、本題に入る前に少し雑談のようなことを話す手紙の入りになった。
字を書くことはあまりなかったが、読めたから書けるだろうと思えば無事かけた。
記憶ないのにこういう知識はあって本当に良かった。
アルビレオは
『私はもっとこの街で平凡に過ごしてみるのも大切だと思う』
なんて言って、ただ外を歩くだけの時間を作っているらしい。早めに帰ってくるようには言っているので安心だ。
エルナが『美味しそうなお店見つけてきてね』とアルビレオの散歩の目的を作ったのでいいお店見つけてるといいけど。
……しかし、手紙は不思議なもので、相手から返事を貰うまでただ一方的に話しかけているだけになってしまう。
「アーベルっ、手紙はどう?いい感じに書けてる?」
窓の外を眺めていたエルナが暇になったようで話しかけてくる。
「うーん……初めて書くからなんだかよくわからないな。
ただ、一人で向こうに一方的に話しかけているだけって感じして少し寂しいかな?」
「あ~、なるほど?確かにそういう考えも理解できるわね……けれど手紙はいいものよ、誰かの思いが文字になって、それを大事に保管できるんだもの。
ワタシとアンタが今日話した内容、明日には全部は覚えてられないでしょ?
けど手紙見るとその頃の思い出が蘇ってくるのよね~、書いているときは確かに味気ない時もあるけど、あとで時間が経つと味わい深くなるのよ」
「なるほど……」
「お酒みたいにねっ!」
パチンとウィンクをする。
「な、なるほど?」
ただ、俺はお酒に詳しくないのでよくわからない。
そんな風に雑談していれば、何とか手紙は書けた。
この手紙を送った後、明日にでもリュネ村に向かう。
取ったチケットの都合であまり日程に余裕がないのと、アルビレオから
『一人で行かせるのは両親的にも心配だろうし、家族で行くのもなかなか遠い。
答えを聞きに行くついでに村に顔を出しに行き、迎えに行こう』と提案されたからだ。
馬車の手配もギルドで済ませているので、この手紙を送り、数日後には俺たちもリュネ村につく。
その日の夜は、手紙を郵便局までもって行き、そのままアルビレオの見つけた定食屋に向かう。
「いい匂い~」
「アンタらしい無難で素朴なチョイスね」
「悪かったな、いくぞ」
そういって夕食を楽しんだ。
明日からまた遠出するので早めに眠り、その日は終わった。
* * *
いつものように朝早くに起きて、今日はリラ宛てに誰かからお手紙だって。
お手紙貰うのは初めてで、少し緊張したけど、アベルさんからのお手紙だとわかると、私はそれを隠して大急ぎで自分の部屋に行った。
封を開けるのに苦戦したのでおじいちゃんのペーパーナイフ借りてきて、綺麗に空ける。
何が書いてあるのか、ドキドキしながら手紙を開いてみる。
『リラへ
こんにちは、こうやって手紙を書くのは初めての事だったから上手く書けてるか心配です。
あれから村の様子はどう?俺たちが出てから一週間くらいたったかな。
最近少し夜も涼しくなってきて、寝苦しくなくていい感じだ。』
「……ふふっ、あれから何もないよ~アベルさん」
そんな返事をしながら手紙を読み進める。
『それで、手紙を送った理由はこれからまたリュネ村に行こうと思っているんだ。
顔を見に行きたいって言うのと、あとリラに一つ話があって』
「お兄さんくるの!?え~!?リラに話!?何何!!?」
来てくれるのは嬉しいけど、私を名指しってのは何事なんだろう。
『セレスティアに今度行こうと思っているんだけど、四人部屋でこっち三人しかいないから、もしよかったら一緒に行かない?アルビレオと俺に魔法教えてくれている先生みたいな人も来るんだけど、俺と一緒に魔法をリラにも教えてくれるって話で、向こうに行くまでのスケジュールは────』
そうして、これからの予定について簡単に書いてくれていた。
「せれすてぃあ……セレスティア!?聖女様いるところだ!リラ行ったことない!」
そもそもこの村から出たことさえない。
「魔法……お兄さんたちと一緒に旅……!!」
『今度そっち行ったときにお父さんとお母さんにも相談するけど、リラがどう思うかも聞かせて。
それじゃ、またね。
アベル』
私はすぐに手紙を持って、一階に下り、お母さんとお父さんを見つけ、集め、手紙を見せる。
「ねぇ!アベルさんが旅に連れて行ってくれるって!!セレスティア!!」
二人とも驚いた顔をしていた。
だって二人もセレスティア行ったことないもんね。
手紙を一緒に見てもらう。期間もかなり長いし、そんな長い間二人から離れたこともなかった。
だから最後に問いかけたのは
「リラは、行きたい?」
「すごく遠くで、大変かもしれないけど、それでも行きたいのか?」
私の意思だった。
「行きたい!!」
少しも間を置かず即答する。
二人にこの話をしている時点で私はもう行く気満々だ。
「そうよねぇ、リラは昔から外の世界に興味津々だったし」
「冒険者になりたいって話もしてたし……アベルさんやアルビレオさんが一緒にいるなら安心か」
「うん!リラもそう思うの。
それに、魔法の先生もいるんだって!いっぱい勉強して、リラが今度は皆を守れるようになりたいの!」
あの日から、私の憧れはアベルさん
どんなにぼろぼろでも誰かのために精いっぱい戦って、誰かのお願いを聞いて助けてくれる英雄。
そんなアベルさんや村の皆が頼りにしているアルビレオさんと、魔法の先生がいるのなら、私は何も心配いらない!
こうして、私は自分の意思で旅立ちの切符を手に入れた。
大切にその手紙は机の中に入れておいたのに今日だけで何回も出してみてしまう。
その日の夜は眠れなかった。
外の世界はどんなところなんだろうと妄想したり。
何着ていこうか考えたり、お土産とかもある方が良いよね。
船に乗るって言ってたから、その内装ってどんなのか想像したり。
魔法も気になるな、私はちょっと火起こしたり、掃除用で風吹かせるくらいで頑張りすぎると疲れちゃうし、どんなこと教えてもらうんだろ、私ついていけるかな。
なにより
「……また二人に会えるんだ……ふふっ、楽しみ」
* * *
手紙を貰ってから数日後、馬車が村の前に止まる。
私はその中にいるのが誰かを知っていた。
「お兄さーん!!」
私がそう言って駆け寄れば、村の人たちも手を止めて歓迎する。
「久しぶりリラ、皆元気そうだね」
二人ともそんなに変わってないけど、元気な証拠だから良いこと。
「あら、可愛い魔人ちゃん。
アベル、アンタも隅に置けないわね、この子がリラちゃん?」
馬車からはもう一人降りてくる。
赤い髪に、赤い瞳……右目は緑?左右で色が違うなんて綺麗。
ナイスバディな大人のお姉さんが、おっきな杖をもって降りてくる……この人が魔法使いさん……!
「初めまして!リラです!」
「うん初めまして、よろしく~」
にこっと微笑む姿、大人な感じだ~!!
あ、そうだ、私のお返事返さなきゃ!
「お兄さん!お手紙見ました!リラも連れてってください!」
「本当?嬉しいな……お二人もいいんですか?」
アベルさんがお母さんとお父さんの方に確認する。
「えぇ、この子の世界をもっと広げてあげてくださいな」
「お二人がついているなら我々も安心です」
その言葉を聞いてアルビレオさんも頷き、私の旅立ちが決まった。
一緒にまた少しこの街で過ごして、そして馬車に乗って、今度は私が村の皆に見送られる。
遠くになっても皆が手を振ってくれていたので、なんだかとても心強かった。
馬車に乗って数日。
山の中を抜け、外の景色を堪能する。
「わぁーー……!!凄い!!」
車窓から身を乗り出し、平原の先には大きな壁と門。
「お兄さん!あれなんですか!?」
「あれが言ってたグランディアだよ」
「へぇ~!!すっごくおっきい……あれ──」
そういって感動して眺めていれば、一つ馬車が小さな石を踏んでガタンっと揺れ、舌を噛んでしまった。
「イダッ!?」
「あらあら、初々しくって可愛いわねぇ」
「リラ、あんまり油断してるとそうやって揺れたときに舌嚙んじゃうぞ」
「アベルがそれ言うのか」
そんな話をしながら、馬車の中で私は魔法使いさん……エルナさんに手を見られた。
魔術回路を調べているんだって。
魔法具無しにそんなの出来る人いるんだ……凄腕の魔法使いさんなんだな~。
「ふむふむ……うん、リラちゃんは日頃からパパとママのお手伝いいっぱいしてるのね、手の皮の感じから農作業とかも頑張っているし、魔術回路見た感じ……火起こしとか、お掃除任されること多いのかな」
「は、はい……!!」
あたってる、す、すごい……!!
「系統的には光属性と土属性に向いてて、あと次点で水と水ってところかしら、風はあんまり向いてないかな、闇もあんまりってのは魔人にしては珍しいわね~、けど魔術の才能は残念だけどないかしらね」
そんな風に私の診断をサクサク進める。
「そうなんだ……私ってそうなんだ……!」
私の才能、ちゃんと魔法の才能あるんだ!魔術はダメみたいだけど。
「そうよ~、ちゃんと適正調べた方が吸収も伸びも早いから魔法を楽しめるのよ~」
そういって話していると、アベルさんも興味津々のようだ。
「へぇ、そんな風に診断できるんだ」
「あれ?お兄さんはしてないの?」
私が疑問を口にすると、エルナさんが困った顔で答える。
「なんか変わった魔術回路だったのよ。おっきい赤ちゃんみたいな」
「お、おっきい赤ちゃん……」
なんだか可笑しな例えで笑ってしまった。
「けど、土と光に適正アリなら、アルビレオが良い先生になるわよ。
解呪方面についてばっかり特化したアルビレオの知識使えるかもだし、土ならよく使ってたし」
解呪……村を苦しめていた呪いを解く力を私も……!
「そうだな、私から教えられるもがあれば何でも話そう、同種のよしみだ」
「まっ!!ワタシの方が!?どっちも練度も教えるのも上手いから!?困ったときはワタシにいつでも聞きなさい!!」
「は、はいっ!」
こんなに凄いいい先生たちに囲まれて私はこれから魔法の勉強ができるのか。
「エルナー、俺にもちゃんと教えてね~?」
「もちろんよ!アンタ達二人纏めてすっばらしい魔法の世界に引き込んでア、ゲ、ル♡」
そんな話をしていたら、遠くに見えていた門がもう目の前に。
リュネ村のが比べ物にならないほど大きな門、その向こうからお祭りの日みたいな沢山の人の声が聞こえてくる。
「お兄さん!今日何かお祭りあるの?」
「ん?いや、何もないと思うよ、いつも通りだし」
「いつもこんなに賑やかなの!?」
「そうだね、毎日色んな人が来て、色んなことしてる、凄く元気な街だ」
そういって笑いかけてくれる。
建物がぎゅうぎゅうに建ってて苦しくないのか心配になる。
沢山の人が行き来して、地面に土なんて全然見当たらなくって、どれも綺麗なレンガで舗装されている。
お祭りの日みたいに屋台が出て、外で大人の人が騒いでいて……
同じようなところもあるけれど、外の世界は本当に知ら無いことばかりだ。
その日は宿に泊めて貰った。
ご飯も小さな定食屋さんで皆で楽しく食べた。
宿に帰るとき、アベルさんの部屋の窓辺に私のプレゼントした花が活けてあって、なんだか少しくすぐったかった。
なれない環境の変化、明日から船に乗ること、っていうか宿のベッドフカフカでとっても大きくって最高。
ドキドキして寝れないと思ったけど旅の疲れもあったのか気が付いたら寝ていた。
* * *
次の日、私たち四人でギルドに行って、一人一枚チケットを渡される。
「はいアルビレオ、エルナ、そしてリラ。
これ無くしたらこの後乗れないから無くさないようにな」
「うん!!」
これが、私達の旅立ちの切符。
少しして港に着いた船は遠くから見ても大きくって、近づくと首が痛くなるくらい見上げなきゃいけないほどだ。
「「「「おぉ~~!!」」」」
四人そろってその大きさに声を漏らし、それがあんまりにも可笑しくって、皆顔を合わせて笑った。
無くさないように大事に握ったチケットを渡し、私が想像していたよりもずっと綺麗で広い船の中を歩いて、部屋に行く。
広い部屋に、さらに扉があって、その先には寝室が一人一部屋。
皆で集まれるテーブルとソファもあってとっても素敵。
そんな中、エルナさんが手を上げる。
「ていあーん!船の中探検してみましょ、あんなに渡航時間短くなっているの不思議だわ!」
それにコクリとアルビレオさんも頷く。
「これから長い時間ここで暮らすんだ、見て回るのは賛成だ」
アベルさんも同意して
「色々見て回りたいもんね、甲板出れるみたいだし、他にも行きたいところ結構ある」
私は……なにしよ?
分からないことばっかりだし、皆に付いていこう。
「リラも付いていく!」
汽笛の音、少しグラつく船の中、バランス崩さないように壁にしがみ付いて、小さな窓から空を見る。
お母さんとお父さん、村の皆も同じ空見てるのかな。
私の人生初の大冒険、その幕が上がる。




