新たな旅立ち
エルナに急かされ、アルビレオによって十層に戻される。
その最中に見えそうになった十一~十九層についてはエルナが土魔法を使って塞いで見えないようにしてしまった。
「は~い、ネタバレ厳禁よ~!そこのアルビレオぶっ倒してからワタシの管轄の階層に来てね~」
「守護者って管轄とかあるんだ」
「アベル、エルナが適当なこと言ってるだけだ、気にするな」
「酷いわね、未知こそ希望で至高なのよ?」
その言葉の意味はよくわからなかったが、彼女の暗い緑の右目が貪欲に光るのを見た。
* * *
十層
帰ってきたエルセリアの状態は酷いものだった。
ぐちゃぐちゃにかき混ぜられたみたいな破壊の跡。
ただ、千年後のエルセリアですらこんなに酷いことになっていなかった。
「アルビレオ……こんなことできたんだね」
「あぁ、あいにくアベルには当たらなかったが、我ながら凄まじい」
「結構な激戦だったのね、アルビレオがアレ使うだなんて」
「……あぁ、アベルは弱くなかったからな」
激戦。
完敗し、今までにないほどの苦汁を飲まされたあの戦いの事をそう評価された。
アルビレオもエルナの言葉を否定はしなかった。
けれど、俺にとってまだ背中は遠い。
街だった瓦礫の山を踏み越え、二本いまだ立派に建つ搭を見上げ、先に進む。
十層から地上まで上がる道は、今までにないほど簡単なものだった。
エルナの存在が大きいのだろう。
「ま、ワタシなら簡単に?これくらいのダンジョン簡単に!?どうにかできるんだけどね」
そういって大きな杖を振るって魔法を放つ。
あんなに苦戦していた岩に擬態していた硬い魔物も、それだけで簡単にはじけ飛ぶ、
「はい《暴風炸裂魔術》」
たったそれだけで、今まで苦戦していた魔物が魔石になる。
五層の呪角獣も、この一撃だけで抉れ、消し飛ぶ。
「そ、そんな...…!?」
自分の背丈ほどある杖をかっこよくクルンと一回転させ、ポーズを決めて高笑い。
あっという間に二層まで来てしまった。
「これが、ワタシの『風魔術』!」
「す、すっげぇ!」
「……罠には気をつけろよー」
俺の反応とは対照的に相手にするのがめんどくさうにアルビレオが声をかける。
「アンタがそれ言うの~?ワタシの『眼』には適当な罠なら簡単に見破れるわよん♪」
自分の右目を指さして妖しく微笑む。
「……そうか、それなら安心だな」
「そうよ~!────キャーーー!?!」
地面が沈んで真っ逆さまに落ちていく。
「エルナー!?!」
「ほら見たことか」
この罠俺も知ってる。
以前に罠にかかってとんでもない目にあったやつだ。
しかし俺が穴を覗き込んだ瞬間、髪を巻き上げるような暴風が下から吹く。
風に俺が飛ばされた瞬間、暴風の中からエルナが飛び出す。
「ちょーーーっと!!何よこの悪趣味な罠!!」
落とし穴、いや『落下』という概念すら覆す、魔法のような……いや、これが『魔術』
「だから気をつけろといっただろ」
「もういいもん、ワタシ地面に触れないから」
そういって拗ねた様子で宙に浮いてスイ――っと前に進んで行ってしまう。
「はや!?」
「あいつはあれがあるから便利なんだ……エルナ、鎖引っ掛けるから送ってくれないか」
「あははーー、殺すわよ~?自分の足で来なさい~~」
「こわ」
「……ダメだったか」
そんな雑談ができるくらい、この三人での迷宮攻略は簡単だった。
* * *
それから、俺は久しぶりにグランディアに戻ってきた。
今回は丸三日ほど中にいたらしく、宿に戻り、借りていた部屋に戻る。掃除が行き届いてて嬉しい。
「この部屋借りてるのね、アベル……あら、可愛いお花飾って、素敵なお部屋〜」
「大事な花なんだ」
「無事を祈る〜みたいな花だっけ、愛されてるわね〜」
そう、リラの花のおかげで諦めずにいれて、俺も無事に帰ってこれた。
それから少し外に出て、ふらふらと歩く。
「ねぇアベル~、ワタシお腹減った~!!」
「年下にお金を要求するなみっともない……ここは私が……あれ?」
俺の腕にしがみついてごねるエルナ。
アルビレオが呆れたようにお金を出そうとするが、見当たらない。
「……アルビレオ、この間のリュネ村の依頼報酬、返すよ」
あの日、決別として渡されたお金を返せば、少し恥ずかしそうに受け取り、感謝を返す。
「お金ならあるわよ、ワタシがさっき吹き飛ばしたデカブツの魔石があるでしょ、それ換金してワタシの小遣いにす……る……おぉ~~!!」
エルナの言葉が別の感情で上書きされる。
迷宮付近の商業地帯を抜け、グランディアの本格的に栄えてきた街道を歩く。
エルナの目が輝き、視線を奪われたのは屋台の串焼きを焼く魔法具や、保管に使う魔法具。
家事をしている主婦の使う生活魔法。
この世界には今や魔法はなくてはならないものだ。
それは、記憶の無い俺にとっても十分に理解できるし、常識になっていた。
「ねぇ、アベル、この街って特別魔法が栄えてるの?」
意外と静かにエルナが質問する。
「いや、そんな話は聞いたことないかな。ここは『冒険都市 グランディア』世界中の冒険者が集まってる街で、最近だと深星迷宮攻略のために人が集まって賑わってるよ」
「冒険都市……そのしんせー迷宮がワタシ達の守っている奴ってことね……へぇ、こんなに浸透してるんだ、魔法」
その目がもっと輝くものだと思っていたが、不思議と落ち着いていて、しかし笑顔が隠せていなかった。
「腹が減ったのではないのか?」
「!減った、食べに行きましょ、アベルおすすめどこ?」
「いつもギルド併設の食堂で食べてる、そこに行こう」
「いいわね、冒険者って感じだわ」
そうして三人で食堂に向かう。
席に着く前に少しミーヤを探してしまったが、今日も見当たらない。
始めてカウンター席ではなく、テーブル席を皆で囲って座る。
「それで、これからどこに行くんだ」
「ちょっとまって、これとても美味しいわ、このドーナツもっと注文してもいいかしら」
「いいよ、そんなに高くないし」
「ありがと~アベル。それで、なんだっけ?」
「……はぁ」
アルビレオがコーヒー片手にため息をつく。
「これからどうするかだ。私の未練の事もあるが、アベルの魔法の事もあるだろう」
「そうね、アルビレオは何か考えあるの?」
「魔法都市方面に行くのはどうだ、地図で見た。
そこなら魔法使いになるためにいろいろ学べるだろうし、魔法具も見れる」
「悪くないわ、ワタシ自身興味もあるけど今回は却下。理由は三つ。
一つ、今回はあくまでもアンタの未練解消の旅、ワタシは次で良い。
二つ、アベルはまだ基礎も知らない、魔法都市なら色々学べるだろうけど、変な癖がつくかも。
三つ、お金ない、ドーナツ頼むだけで価格気にするなら魔法都市行ってもろくなもの買えないわ。」
「……そうだな、魔法に関してはエルナに任せたい、なら今回は無しだ」
エルナ、普段はお調子者って感じなのに、こういう真面目な話し合いになると空気が変わる。
あの小屋の中にあった記録の量や知識量からして、計画的に動く頭脳と、行くときは行く勝負勘があるんだ。
アルビレオは普段は口数が少なくって、何考えているかよくわから無いけれど、誰かを思う気持ちは本物で、根は本当に優しい人なんだろう。
ただ、そのために自分をないがしろにしてしまう不器用さもある。
「アベル、君はどこか行きたいところはあるか」
「そうね、旅の中でも勉強はできるわ、行きたいところとりあえず言ってみなさい」
そうして、やはり話の中心は俺になる。
少し考えた後、答えを決める。
「『聖国 セレスティア』聖女のいるところに行ってみたい」
そう言い放つと、エルナが含んでいた紅茶を吹き出し、アルビレオの方を見る。
「そうか……しかしなぜだ?」
「聖水の準備不足が俺の敗因の一つでもあった。
魔法の方はエルナがいるから大丈夫、だから他の道具の方の理解を進めたい。
それに、エルナが再現できない魔術についても見ていたいから」
以前のアルビレオの冷たい言動。
言い方やその姿は淡々としていて恐ろしかったが、思い返してみれば、言っていることに理解ができた。
その課題をまずは一つ一つ潰していく。
そうすれば、前よりも一歩深くに届く気がした。
俺のその意図に気が付いたのか、アルビレオが少し微笑む。
「アベル、君は素直だな」
「それ、以前にも言われた気がします」
口元を拭きながら、エルナがジトっとした目で見てくる。
「ちょっと何よ、二人だけわかるみたいな反応して、ワタシは仲間はずれ?やーね」
「そんなことないよ、頼りにしてる」
「わかってるわよ、真に受けないで、冗談冗談」
少し困った顔で笑うエルナ。
こんな顔もしたりするんだ。
けどさっきはなんで吹き出したんだろう。
理由はよくわからないが、エルナがそのまま話を続ける。
「セレスティアね、ワタシ達の時代からあるありがた~い国ね。
まぁこの街で聖水売ってるのさっき見たから同盟国っぽいし、船で河登っていくのが一番かしら」
「セレスティアって船で行くの?」
「そうよ?知らなかったの?地図見せてみなさい」
そういわれたので地図を出す。
邪魔だからとアルビレオの皿は持たされてまた肩身の狭い思いをしててかわいそうだ。
「はい」
「ありがと……えーっと……ん?結構変わってる……アルビレオ、頼むわよ」
「なぜそんな決め顔ができるんだ?
……っとだな、セレスティアはここだな、そしてこの大きな河を……おぉ、ちょうどグランディアからセレスティア行きの船が出ているみたいだな」
「ただ、結構高いのよね~」
エルナがそういうとアルビレオも少し困った顔をする。
「そっか……いくらくらいするんだろ」
「さぁな、今の価格は私も詳しくない。
せっかくだ、ギルドで聞いたらどうだ、ここでチケットを発行してくれているなら少し冒険者割引も効くかもな」
その言葉を受け、俺は受付に向かう。
一人だと心配だとアルビレオがついてきて、その後ろを一人は暇だとエルナがついてくる。
結局みんなで聞きに行くことになった。
「えぇっと、アベル様方一年目の冒険者の方ですと……申し訳ありませんが、割引があっても小金貨七枚で一名様分となりますね」
「小金貨七枚か……」
「「やっす!!?」」
「「へ?」」
アルビレオとエルナの発言が初めて被った。
そしてそれに驚いて俺とギルドの受付の声も被った。
「ですが、安いと言ってもこれは最低グレードで……航路の中で定期的に止まって、各地で乗船も行いますから、二週間ほどかかりますよ」
「結構長いな……」
「「はっや……!?」」
「早いの?」
俺の質問を無視して、驚いた様子の二人が受付に詰め寄る。
「本当にそんな値段なのか?船内の食事について教えてくれ」
「朝昼晩のビュッフェ形式です、それ込みの価格です。
売店もあるのでそちらをご利用いただいても構いません」
「いいな……」
「まって、部屋は!?皆ぎゅうぎゅう詰めなんて嫌よ?」
「各部屋一人部屋、二人部屋、四人部屋の三種類です、部屋も大柄の獣人でも利用できるシャワールームもあります、ちなみに先ほどの価格は一人部屋のものです」
「ウソ、シャワーもあるの……!!?」
二人とも口元に手を当てて感動していた。
千年前との金銭感覚の差が如実に現れている。
「お連れの方、大丈夫そうですか?」
「あ、はい、喜んでるだけだと思いますから」
そんなこんなでもう一度席に戻ると、二人とも行先は決まったようだった。
「セレスティア、行くわよ」
「なかなか悪くない度のプランだったし、ビュッフェも美味そうだ、お土産に中の売店で──」
二人とも、行く気満々だ。
俺よりも楽しみって感じだし、俺よりも詳しくなってしまっている。
なんだそのパンフレット、なんだそのクーポン券、俺知らないぞ。
「それで?部屋割りはどうする?」
「せっかくだし全員同じ部屋にしない〜?アベルには魔法教えたいし、アルビレオ一人で置いてると可哀想だし」
「別に私は一人でも……」
「ほら、そんな意地張らない、ワタシ達仲間なんだから」
「違う、意地じゃ」
こういう時、喋るだけ不利になるので静かにしておくのがいいんだな、とアベルは学んだ。
結局豪華に四人部屋を取って、セレスティア観光と行くことになった。
「ねぇ、アベル、ワタシ思うんだけど、せっかくならもう一人誘いたいの、友達とかいない?」
「……友達かぁ」
思い浮かんだのは……最近会えてないミーヤとかかなぁ。
でもミーヤも忙しいだろうし、他誰かいるかな……
「リラはどうだ?」
「あ!それだ!!」
あの子なら外の世界に興味津々だったし、確かにいいかもしれない。
「リラ?友達?どんな子?」
「うん、友達、元気な魔人の女の子。
部屋の白い花もそこの子からの贈り物なんだ」
「へぇ〜!いい子じゃない!じゃその子で決定、せっかくだし一緒にワタシが魔法教えたげる。
これで男女比一緒になっていい感じだわ」
「それなら、空いている日を手紙で聞こうか」
「いいわね〜手紙。
ワタシも友達と手紙交換とかしてたのよ〜?ワタシと同じくらい魔術が好きなエルフでね〜、皆興味持ってなかったけど結構面白い説の研究しててさ〜それでね────」
「レターセット買いに行こうか、アベル」
「エルナほっといていいの?」
「どうせすぐに着いてくる」
二人は旧知の中なのか、不思議な関係のようだ。
リラにまた会えるのは少し嬉しいな、喜んでくれるかな。
手紙になんて書こうか。
セレスティア、楽しみだな。
「ちょぉおおっと待ちなさいよー!!!」
アルビレオの言った通り、エルナはすぐに追いついてきた。




