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World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)  作者: 緋色牡丹
第三章「星詠みの巫女」

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第七十一話「銀天氷葬」

 黒金の指輪が強く光を放ち、そして──

 

 パリンッ!


 砕け散った。

「えっ」

 思わず声をあげた、そのとき──目の前に黒い渦が生まれた。

 俺に巻き付いていた銀糸が、渦に触れた端から千切れていく。

 ネブラは飛び退いた。

「ふぅん……なにそれ」

 黒い渦はゆっくりと降下し、石床へ触れた。

 瞬間。

 墨を流したような黒煙が広がり、蒼炎が渦巻いた。

 何か、出てくる。

「ウォオオオオ!!!!」

 野太い咆哮が響いた。

 黒い渦は収束していき──現れたのは、手のひらほどの人影。

 真っ黒な肌に、アラビアンな白装束。

 まん丸い目と、ピンクのぶ厚い唇。

 頭には純白のターバン。

 ──小人だ。不思議なオーラを纏っている。

 小人は大きく体を開き、片足を上げた。

 そして、足は振り下ろされ──

「ウッ!」


 ダンッ!


 豪快な音が反響した。

「うぉッ」

「……なんでキミが驚くんだよ。精霊かい……可愛いね」

 そういうネブラの顔は、全く笑っていない。いや、笑えないのだ。

 この小さいやつ──見た目はチンチクリンだが、内包している魔力が尋常じゃない。

 触れたら爆発するのではないか──というほどの質量が、目の前にいる。

 挿絵(By みてみん)

 小人は足を閉じてから、バッと開いた。

「ハッ!」

 力強い足踏みだ。

 足を閉じ、開く、閉じ、開く。

「ウッ、ハッ、ウッ、ハッ!」

 腕がビシッバシッ、カク、カク。

 関節を弾く舞踏が続いていく。

「うるさいよ」

 ネブラが手をかざすと、小人に銀糸が巻き付いた。

 しかし──巻き付いた糸がはじけ飛んだ。

「ッ!」

 舞いは止まらない。

 小人の首は左右に跳ね、体の動きが速くなっていく。

「ウッハッ、ウッハッ、ウッハッ!」

 魔力が、膨れ上がっていく──ッ!

撲殺者(ブラッジョナー)!!!!」

 叫んだネブラの背後から、小人めがけて鉄球が飛んだ。

 巨大な鉄球が、小人の姿を呑み込んでいく。

 潰れた──そう思った瞬間、鉄球が弾き返された。

「ウー、ハッ!」

 小人は勢いよく宙へ飛び、両手を打ち合わせた。

 パンッと小さな体は崩れ、黒い渦となっていく。

 渦は空中に大きな輪を描いた。その内側は深く、暗い闇。

 

 ずるり。

 

 白い手が、闇から這い出た。

 音もなく手は開かれ──その内に、魔素が収束していく。

 やがて、青白い光球となり──


 ダァン──ッ!!!!

 

 蒼き閃光が放たれた。ネブラへ、一直線に──ッ!

 重騎士が割って入り、長盾が激しく火花を散らす。

 だが、盾は腕ごとはじけ飛んだ。閃光は止まらない。

「わおっ」

 ネブラは横へ跳び、腕を乱暴に前へ振った。

 石床を抉るほどの踏み込みで、重騎士が猛進してくる。

 その間にも、白い手は闇をかき分けていた。

 掌から腕へ、腕から肩へ──垂れた肩紐、白いレースから覗く胸元、フリルがついた短い裾。

 ほのかに薔薇が香ったとき、青い瞳が深淵から覗いた。

 見慣れた銀の長髪は、なぜかツインテールだ。

 挿絵(By みてみん)

 眼前まで迫った重騎士は腰を回し、円柱鈍器を深く引いた。

 まずい──立とうとすると、腹の傷が痛んだ。

「っ……アナスタシア」

「じっとしていろ」

 いつもと変わらぬ、静かな声色だった。

 横薙ぎが、来る──ッ!


 轟ッ!


 凄まじい風圧に、顔を背けた。

 しかし、衝撃は来ない。

 顔を上げると──アナスタシアの細い手が、円柱鈍器を受け止めていた。

 掌には蒼炎がゆらめいている。

 重騎士の足元で、石床がバギリと沈んだ。

 アナスタシアは何事もないかのように、もう片方の手をゆらりと上げた。

 前方の虚空へ、青白い魔の奔流が雪崩れ込んでいく。

「北の果てに墓標なし。(むくろ)は夜に溶け、祈りは天に()す」

 錬成されたのは、極大の氷塊。

嗚呼(ああ)、帰らぬ者よ。汝の業は銀花に散っていく」

 氷の表層に稲妻が駆け抜け、荒い輪郭が削り落とされていく。

 剥がれ、研ぎ澄まされ、鋭さを増していく。

 重騎士の背が蠢いた。二本の戦斧が振り下ろされる。

 だが、届かない。氷塊を包む稲妻が爆ぜ、戦斧ごと腕を弾いた。

 荒れ狂う渦中に顕現したのは、一本のツララ──否、それは弩級の氷槍だった。

 アナスタシアの人差し指が、重騎士に向かい──

「白夜に名を刻め──≪銀天氷葬(エルバソル)≫!」

 指先に、蒼が煌いた。

 爆発的、射出──ッ!

 

 ダァン──ッ!!!!!!!!

 

 氷槍は砲弾の如く、重騎士の腹部をえぐり貫いた。巨体ははじけ飛び、石床を削っていく。

 重騎士は石柱に叩きつけられた。

 ネブラはそれに目をくれることなく、じっとアナスタシアを見つめている。

 アナスタシアは指先を吹き、表情なく問うた。

「お前、何者だ」

「ものすご~く、こっちのセリフなんだけど……キミ、だれ?」

「私は、アナスタシア──この膝をついている、情けない男の下僕だ」

 ネブラは片手で口元を覆った。指の隙間から覗く紫の唇は、妖しく吊り上がっていた──。

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