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27-友情とは千切れて繋がるもの

「次は二年生の全員リレーです!」

 重苦しい雰囲気はそのままに体育祭は進行し、私たちの出場する競技の時間となった。

 夢乃さんがアンカーを務める選抜リレーは既に終わり、点数は一位と僅差の二位だ。残るは二年生の全員リレーのみ。つまるところこの結果次第で最終結果も変わる。

 正直、夢乃さんに上手くバトンを渡すビジョンは浮かばない。だからといって競技が止まるわけもなく。

 気付けばバトンは私の二つ前のランナーである幸恵さんにまわっていた。状況はそれなりのリードを持って私のクラスが1位。足の遅い祁答院と私の番があることを加味しても恐らく1位をキープしてアンカーの夢乃さんにバトンが回るだろうという状況だ。

 バトンパスの練習の甲斐もあり、幸恵さんから祁答院。祁答院から私にスムーズにバトンは渡った。距離は詰められたものの未だ私のクラスは1位。私は渡されたバトンを手に懸命に走った。そして、

「あうっ」

 コーナーで派手に転んだ。

 痛みと重要な場面でヘマをしたという事実が私を責める。そんな時、

「朱音ちゃん、諦めないで! 私が巻き返すから!」

 夢乃さんの声が聞こえた。

 あんな事があった後で話しづらいだろうに。彼女はそんなことは微塵も感じさせない声量で言葉を放った。

 そしてこの言葉が私を救った。そうだ、友人じゃないか。少しのトラブルくらい、それがなんであれ跳ねのけるのが友情というものだ。

 私は急いで立ち上がり、なんとか夢乃さんにバトンを渡した。順位はダントツの最下位。だけれども、夢乃さんはそれを感じさせない笑顔で、

「一位になったらまたクレープ屋さん、行こうね!」

 と言い残し、素早く走り出した。そこから夢乃さんはすぐさま一人を追い抜き、一人、また一人と追い抜いた。まさにごぼう抜きだ。そして一位だったクラスの子とデッドヒートの末、

「頑張って夢乃さん!」

 私は気付けば大きな声で応援していた。通常、走者は一人半周だが、アンカーは一周。そのおかげで夢乃さんは一位でゴールした。

「やった!」

 私は待機所で夢乃さんと抱き合って喜んだ。そしてお互いなんだか気恥ずかしくなり、恐る恐る普通の姿勢へと戻った。

「あはは、ついはしゃいじゃった。それより怪我、大丈夫?」

 擦りむいた私の膝を見て夢乃さんは心配そうに言った。

「これくらい平気よ。それより、さっきはごめんなさい。あんな突き放すような言い方をしてしまって。許してくれる?」

 私が聞くと、

「謝らないでよ! 大本を辿れば私が悪いんだから! 謝るんなら私! 改めて、ごめんなさい。これからはもうしないから、友達のままでいてくれる?」

 私に向き直って夢乃さんは頭を下げた。

「ええ、もちろん。あんな程度のいさかいで砕けるほどやわな友情ではないでしょう?」

 そんな夢乃さんに対して私は余裕を持って答えた。

「うん、そうだね!」

 そう答える夢乃さんの笑顔はとても眩しかった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 退場して閉会式が始まるかと思っていた時、白衣の集団がこちらへ向かってきた。よく見ればお爺様も。

 これは……よく考えなくても、私が転んだことへの対応だろう。

「大丈夫か朱音! 念の為救護班を用意しておいてよかった!」

 予想的中。お爺様が慌てた様子で近づいてきた。

「お爺様。今は理事長として出席してらっしゃるのだから、それ相応の態度でいてください」

 私はお爺様に正面から言った。

「それに」

 私が反対したことに驚くお爺様に対して私は更に続けた。

「たかだか転んで擦りむいた程度の傷に対してこの人数は大袈裟すぎます。えこひいきと言われてしまいますよ。保健室には閉会式後に自分で向かいます。救護班の方々にはわざわざ来ていただいたところ申し訳ありませんが私は平気ですので。どうぞ、お戻りください」

 きっぱりと私が告げると、

「儂はお前のことを心配して──」

「くどい」

 なおも私を過保護に扱おうとするお爺様に私はぴしゃりと言った。

「くどいですよお爺様。このままでは体育祭全体のスケジュールが遅れかねません。先ほど申した通り、私は平気ですのでお戻りください」

 普段はお爺様の決定には従順な私だが、今日は強く出た。いい加減過保護から抜け出したいと言うのもあったが、折角できた仲間と優勝を分かち合う時間を奪われたくないという意図もあった。

「そうか……そうだな。救護班、元の位置へ。儂も席へ戻る」

 お爺様は遠い目をして答えた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 優勝トロフィーの授与が終わった後、クラス全員で写真を撮り、解散すると言う段になって、夢乃さんが話しかけてきた。

「膝、大丈夫?」

「ええ。少し痛むけれど、大した傷じゃないわ。一応、この後保健室に行くつもり」

 私が答えると、

「一緒に行くよ! 肩を貸したりとかは大丈夫かな?」

 夢乃さんはこう聞いてきた。聞いた割には大丈夫だと思っている風だ。

「大丈夫よ。さっさと治療してもらうから、そうしたらクレープを食べに行きましょう」

「うん!」

 夢乃さんの反応を確認してから私は保健室へと向かった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「ありがとうございました」

 消毒と絆創膏での治療を受けて保健室を後にした。すると出てすぐに、

「朱音ちゃーん!」

 夢乃さんが抱きついてきた。後ろには他の友人らも。

「わぷ……ちょっと、いきなり何?」

「仲直りのスキンシップ!」

「そ、そう……」

 にっこりと笑って夢乃さんは言った。相変わらず愛嬌があるというかなんというか。笑顔のお陰でこちらが不快にならないギリギリを歩いている。

「もう、暑いしくっつくのはやめて。さっさと着替えてクレープでも食べに行きましょう。」

「クレープ! いいですわね! 疲れた体が喜びますわ!」

「今回は自分のお金で食べることにするね」

 友人らも乗り気のようだ。

「じゃあ、行きましょうか」

 互いに目を合わせて4人で更衣室に歩き出した。

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