第九十三話「双花祭出場者」
「双花祭出場おめでとう私達ぃ!!」
空き教室でティアナ会長がジュースの入ったコップを掲げて高らかに声を上げる。
会長やあたしを含め、その教室に集まった生徒十八人、全員がコップを片手に祝い合う。
初めて会う人もいるけど、見知った顔も多いから緊張は薄い。
あたし達が普段授業を受けている教室は席が段々と教壇から離れるにつれて床が高くなっていく構造だけど、この空き教室は床がすべて同じ高さで委員会の会議だったり生徒がちょっとした作業で空間が必要だったりとしたときに使う場所。
教室の中央には複数の机が合わさって大きなテーブルと化し、その上には飲み物だったりお菓子だったりが広がっている。
ティアナ会長の乾杯の音頭であたし達は恐る恐るだけどコップのジュースに口をつけ、一息ついたティアナ会長が場を仕切る。
「皆も分かってると思うが、ここに居るメンバーは来る双花祭の出場者。一応この場は双花祭に向けての打ち合わせだったり顔合わせだったりするわけだが、去年は本当に業務的な打ち合わせで非常につまらなかったからね。今年は楽しく行こうといろいろ用意したわけさ。先生達の許可取りなどは安心してくれて構わない。怒られるときは皆で怒られよう」
いや許可取ってないんかい!
と、全員が内心思った矢先、リサナ副会長が補足に入った。
「皆さん安心してください。こういうことだろうと思い私の方で許可取りは済ませてあります。会長が一週間先生達の雑用をこなすという条件を提示すれば簡単に認可が下りました」
「さすがリサナ君仕事が早――君私を売ったのかい!?」
驚愕するティアナ会長を置いて、あたし達は安心して飲み物食べ物に手を出した。
落胆するティアナ会長だったけど、さすがというかなんというかすぐにパーティーモードに切り替える。
「さあ談笑に入る前に知らない顔もいるだろう。自己紹介もかねて出場者発表といこうじゃないか! まずはクインペタル成績第一位最優姫、皆から羨望と親愛の眼差しを一心に受けた頼れる生徒会長、私ことティアナと、真面目、誠実、堅実の三拍子揃った秀才、怒らせると誰より恐い副会長リサナ。よろしく!!」
他己紹介風自己紹介に全員が困惑するも、リサナ副会長のお辞儀で流れを理解し数秒置いて拍手で返した。
そのまま続けてティアナ会長が司会進行として紹介を進める。
「続いてクインペタル成績第二位薔薇姫、その高貴さは誇りの表れ! 会長である私の寝首を掻こうと日々精進してこの私も戦々恐々! プライドも高いが実力も高いローズと、棘を感じさせるのは視線と言葉。ローズ君を薔薇とするならば彼女はまるで茨そのもの。腹黒エーファによるトゲトゲコンビだ!」
「悪意ある紹介は止めてくださいまし!?」
「まぁまぁ。ローズに関しては事実を羅列してるだけだし」
ティアナ会長に抗議するローズさんと宥めているのか貶しているのか分からないエーファさん。
高貴という紹介通りその動きには花があるローズさん。
情熱的なほど鮮やかな赤い髪は少しウェーブがかかって、高身長のティアナ会長より少しだけ高い身長と努力が垣間見えるシュっとしたスタイルはどれだけつんけんされても憎めないような雰囲気を感じる。
そんなローズさんに対してエーファさんは普通な雰囲気だ。あくまで表面的には。
くすんだ濃い黄緑色の髪に濁りのある白いメッシュが特徴的なボブ。
物腰柔らかな瞳なのに上がった目尻はどこかトゲトゲしさを感じる。
棘のある表面だけど中身は真面目なローズさんと、表面的には普通だけどところどころ刺すような何かを感じるエーファさんの対照的コンビがあたしの薔薇姫に対する印象だ。
「続いては選考枠! 衝動と本能で生きる様は隠れファンも多い。ちなみに私もその一人! 奏でるは魂の叫び――シャウラと、憧れから隣人に至った献身家、彼女の欲は愛か破滅願望か――シャウラ君のブレーキ役クリストによる轟音姫だ」
「滾ってくるぜぇ!」
「キャーシャウラ様!!」
教室の空気を震わせるギター音。
ただ乱暴なだけではなく荒々しく心に訴えるような音色。
うなじや耳がはっきりと見える濃紺のベリーショート、首のチョーカーや耳のピアスに加えて改造された制服が破天荒さを印象付けるシャウラさん。
そんな彼女に黄色い声援を向けるクリストさん。
癖のある晴れた空のように鮮やかな青い髪は短く毛先が遊び、首のチョーカーや耳のピアスはシャウラさんと同じもの。
スターとファンの縮図を目の前に展開されて、あたし達は圧巻の音響に呆気に取られた。
「つ、続いてはトリプルペタル組だ! 凛々しい振る舞いとカリスマ性は皆の憧れ。大輪七騎士第一席黒鴉姫ウルカの妹君――生徒会執行部書記のアリシアと、影の薄さは折り紙付き! アリシア君を陰で支える健気な少女サントによる煌輝姫だ!」
「皆の力になれるよう尽力するのでよろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします!」
毅然と振る舞うアリシアと視線を浴びて緊張しているのかどもりながら頭を下げるサントさん。
アリシアが出場するって聞いて、パートナーは誰なんだろうと思ってはいたけど、なんか思ったより地味だった。
癖がある緑青色の髪は肩口程度に伸びていて、前髪に隠れるような黄色い瞳は少し揺れている。
別に根暗そうでもないし、コミュ障とか人見知りが激しいって感じでもなさそう。
ただ人並に緊張してるってくらいで、それ以外の印象はとても薄い。
アリシアと隣に並ぶとザ・華やかとザ・地味の対照的な二人組に見える。
「ねえリーナ。サントさんってどんな人なの?」
あたしはこの後紹介されるであろう隣にいたリーナに訊ねた。
イリスも傍にいるけど多分サントさんについてならリーナの方が詳しいと思った。
リーナはアリシアのパートナーになることが目標であり夢。
当然サントさんのことも知ってると思っていたけど……、
「どんな人って、普通の人よ。別にアリシア姉様と深い交友があるってわけでもないし……。同級生じゃないとパートナーを組めないみたいな時の相手って感じよ」
別に変なことは言ってないけど、なんか引っかかる。
普段のリーナならアリシアとパートナーで双花祭ってだけでも嫉妬してそうなのに、興味薄というか熱が無いというか。
仕方がないと踏ん切りをつけたとしてもちょっと違和感がある。
そうこうしている内にティアナ会長が次の紹介に入っていた。
「続いては風紀委員の期待の星。燃え滾る魂は冷めることを知らない。頼りになる皆の姉御クレアと、元気溌剌活気横溢、風紀委員と保健委員と飼育委員を掛け持つ体力お化けメルシィの煉燦姫だ!」
「よろしく頼むわ」
「よろしくお願いしまーす。あ、ちなみに最近保全委員にも入りました」
相変わらず手当跡が目立つクレアと、紹介通り疲れを微塵も感じさせないメルシィさん。
後ろで束ねた橙色の明るい髪は彼女の頭が動く度に尻尾のように揺れて、あたしと同じくらいの身長で、捲った腕で出される身振り手振りの多さは元気が漲っているみたい。
環境委員と学業の両立だけでも大変なのに、委員会の掛け持ちなんて人間に可能なんだろうか。
もうあたしにはメルシィさんが少女の皮を被った怪物にしか見えなかった。
「さて次は選考枠、といっても実質分かりきった出場。煌輝姫、煉燦姫とトップ争いを繰り広げる。荒く激しい、されど優雅なお嬢様アウラと、主人に忠誠を誓い仕えるフィリラ。この場の誰よりも長く共に歩き、二人の絆は誰よりも強い。暴風姫だ!」
「皆さん大船に乗ったつもりでいてくれて構いませんことよ!」
「…………」
高らかな笑いを響かせるアウラさんと、アウラさんの上から降らせるように無言で紙吹雪を散らすフィリラさん。
赤みのある濃黄色の髪は相変わらず手入れが大変そうなボリュームがあって、扇で口元を隠しながらも豪快に笑う姿は豪傑な貴婦人を彷彿とさせる。
そんなアウラさんに片膝をついて紙吹雪を散らし、表情はともかく盛り上げようとしているであろう琥珀色の短い髪の少女フィリラさん。
この二人とはアリシアのトリプルペタル試験で戦ったのがもはや懐かしい記憶。
戦ったと言っても当時のあたしはまったく戦力にならなかったわけだけど。
「さあ続々行くよ! 若葉たるダブルペタルの首席。おしとやかな見た目からは想像もつかない破壊神。リサナ君と同じ匂いを感じる多分怒らせたら恐い新生カスミと、憧れ――それ即ち目標、アリシア君の絶対信者にしてトリプルペタル生にも引けを取らない優等生リーナによる戦槌姫!!」
「初参加、足を引っ張らないように頑張ります」
「アリシア姉様! ワタシ頑張りますから!!」
リーナはアリシアに向かって手を振って意気込む。
カスミさんとはダブルペタル試験以来だ。
前髪が揃った綺麗な黒髪とお辞儀する様は淑女の見本。
だけどカスミさんの種器は大槌というパワー系。
そういえばまだ試験の時のお礼をちゃんとしてなかった。
時間があるときにでも声かけよう。
「次は私の注目株! 騎士道を突き進みひたむきに研鑽に励む実直少女。その信念は揺らぐことを知らないルイズと、ローズ君の妹なだけあって彼女も優秀。自信が無いのが惜しい所だがそれは今後に期待しようロゼッタによる騎士姫!!」
「我が剣はホワイトリリーの勝利に捧げる!!」
「頑張ります……ただ期待しないで欲しいです……」
腹から声を出してやる気と覇気がヒシヒシと感じるルイズさんと、背中が丸みボソボソと話すロゼッタさん。
真逆の雰囲気を持つ二人だけど、逆に相性がいいんだろうか。
ルイズさんは褐色の髪はヘアバンドで後ろに押さえおでこが良く見えて、その真っ直ぐな瞳も相まって包み隠さないむき出しの感情がよく伝わる。
そんなルイズさんに豪快に背中を叩かれて気合を注入されているロゼッタさんは、少しくすんだ赤い前髪で目元が隠れて背中は丸まり内なる自分を隠したがっている様子だ。
ローズさんの妹らしいけど、自信の様は明らかに真逆だ。
「最後は選考会のダークホース。会場を氷漬けにして呼び出し指導を受けた実力は言わずもがな。入学当初からアレクシア先生も頭を抱える一匹狼イリスと、学園支給のドレスを破いたり、寮のガラスを壊したりと破天荒エピソードは今後も語り継がれるだろう! ノリと勢いで修羅場をくぐって来た何かと話題の転入生サラによる問題姫ならぬ銀氷姫!」
「素直に喜べねぇ紹介だが事実なだけあって何も言えねぇ」
「アハハ……」
二人とも機密情報の塊な上に、表立っての印象は誠に遺憾ながら紹介通りであたしもイリスも苦笑いしか出来ない。
「さぁ、これで全員の紹介が終わったわけだが、皆の交友を深めるためにこんなゲームを用意した。名付けて! 『匿名質問くじ引き』だ!」
ティアナ会長が意気揚々と、教室の端に置いてあった紙箱をテーブルの上に置いた。
数名はティアナ会長の持ち込み企画に面倒な反応を示すも、司会進行だからかティアナ会長だからか、誰も止めることはしなかった――――。




