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第九十二話「三度目の生徒指導室」

 双花祭の出場枠を賭けた選考会。

 シングルペタルの生徒が選ばれればペタル再試験を受けずともダブルペタルへと昇格する。

 シングルペタルのあたし達にとっては大事な選考会であり、ブラックリリーのとある生徒と因縁のある選考会でもある。


 でも無事に選考会を突破し、出場が確定したあたし達を待っていたのは祝辞ではなく説教。


「バカかお前達」


 あたしとイリスは生徒指導室で硬い床に膝をつけて正座する。

 生徒指導室に来たのは三度目。

 交流パーティでこっぴどく叱られた時と応化特性が発覚した時だ。

 そのうちあたしは生徒指導室が教室になるんじゃないかと思ってしまう。

 

 そんな生徒指導室でイリスは不機嫌そうに目の前の存在に目を逸らし、あたしは怖くて顔を上げられない。

 

 あたし達の目の前には腕を組んで仁王立ち、さながら修羅のような形相のアレクシア先生があたし達を殺しかねない眼力で見下ろしている。


 なぜ怒られてるかって?

 分かんないし、聞くのも恐い。

 今のアレクシア先生にそんなこと聞ける勇者がいるなら連れて来てほしい。


「軽率だったとは思ってる。でも後悔はしてねぇよ。オレ達は勝たなきゃならなかったからな」


 イリスは不機嫌そうにアレクシア先生に言った。

 ごめん、勝手に話を進めないで。

 置いてけぼりの状態だけど、今はなんで怒られているかを把握することに専念するため状況を見守る。


「だからって演習所を氷漬けにしてなんのつもりだ」


 来た、これだ。

 あたしはアレクシア先生の言葉を聞き逃さない。

 アレクシア先生は演習所を氷漬けにしたことに怒っているんだ。

 

 確かにあれだけの森を作るには時間がかかるだろうし、氷漬けにしたらそりゃ怒るよね。

 ようやく状況を把握したあたしは弁明に努めることにした。


「でも先生、氷は魔法を解いたから演習所は無事ですよね。ならここは厳重注意で次回への反省ということで……」


「お前は何を言ってるんだ?」


 アレクシア先生の鋭い目があたしに向く。

 おっとこれは地雷を踏んでしまったかな?


「サラ、私が何に怒っているか十七文字で答えろ」


「え、えっと~……演習所、氷の世界、風情かな」


 あたしの反省の一句にアレクシア先生は大きくため息をついた。

 どうやら不正解みたいだ。


「サラ、お前とイリスは自分の立場が分かっているのか?」


「双花祭に参加が確定した優秀な生徒です!」


 あたしは挙手しながら勢いよく答えた。

 アレクシア先生の眼は苛立ちを越えて呆れているようだ。

 さすがに今のは冗談だけど、でもあたしとイリスの立場ってなんだろう。


「お前らは国家機密一号と二号だ。問題児一号と二号と言い換えてもいい」


「先生、その変換は悪意が……あ、何でもないです」


 アレクシア先生に異を唱えようと試みるも、強く睨まれたのですぐさま引き下がる。


「サラ、要はオレ達は目立ちすぎだってことだ。オレの出自はある程度露呈しているが、サラはマジで口外厳禁の存在。選考会では確かにやりすぎなくらい目立ってたからな」


「あー……」


 イリスに言われてあたしはようやく状況を理解する。

 あたしが応化特性者だということは数人しか知らないけど、それでもどこから漏れるか分からない。

 アレクシア先生はあたしの意思を尊重して庇ってくれてる身。

 目立った行動はするなとアレクシア先生が怒るのも無理はない。

 

「まー私も釘を刺しておくべきだったな。まさか応化特性と魔法複合との相性がこれほどとは思わなかった。ハッキリ言って今のお前らは経験の浅さこそあれどポテンシャルは大輪七騎士(セブンスリリー)と引けを取らない」


「いや~それほどでも」


「呆れに近い感心はあれど褒めてはいない。こうなった以上今後はいろんな連中が接触してくる。イリスはともかく、サラはくれぐれもボロを出すなよ。お前の特性が知られればさすがの私でも庇いきれん」


 正直、応化特性という力の脅威を実感出来ていないあたしは今回の軽率な行いも表面的にしか理解できていない。

 でもアレクシア先生はこんなあたしを庇ってくれている。

 その苦労を無碍にするわけにはいかない。


「はい……気を付けます」


「まーわかればいい。なら改めて、双花祭出場おめでとう。頑張れよ」


 さっきまでの鬼の表情が嘘みたいに柔らかい笑みでアレクシア先生は祝ってくれた。

 表情変化の落差に呆気にとられるあたしとイリスは思わず互いを見る。

 選考会が終わってすぐに連れてこられたから忘れかけてたけど、あたし達は確かに選考会を勝ち抜き双花祭出場が確定した。

 その実感が沸々と湧いて来て、あたしとイリスは喜びに表情が緩んでしまう。


「はい!」

「あぁ」


 アレクシア先生の激励にあたし達は元気に答える。

 双花祭出場――つまりはダブルペタル昇格を意味する。


 何はともあれ万々歳ということで、あたし達は生徒指導室を出た――――。



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