第九十話「選考会当日」
早いことに選考会の日になってしまった。
やる気はあるし、準備は万端。
イリスとエクレインさんとの因縁が、この選考会で落ちてはならないというプレッシャーをかけてくる。
式典などに使われる学園の大広間に集まっているあたし達を含め選考会の参加者。
そういえば交流パーティの会場もここだったっけ。
ボロボロのドレスでリーナと一緒に乗り込んで、アリシアにラストダンスを踊ってもらう勝負をしたのがどこか懐かしい。
アリシアに選ばれないわ、謹慎処分をくらうわで踏んだり蹴ったりだったけど、今ではいい思い出だ。
そんな会場で、ぱっと見た感じ千人くらいは集まっている。
緊張、殺気、浮ついた表情。
その人がこの選考会に掛ける思いが表情にしっかり出ている。
多分あたしも同じような状態なんだろう。
隣を見るとイリスはとても冷静に周囲を見渡していた。
「緊張するねー」
「まあな。でもオレ達はやれるだけのことはやった。あとはもうなるようにしかならないから気負うなよ。あの女との因縁はあくまでオレの――――」
「イリス」
突き放そうとする言葉を遮るあたしの目を見たイリスは自分の悪い癖を反省したのか、目を瞑り一呼吸おいて再度あたしの目を見た。
「スマン……。サラ、勝つぞ」
「どんとこい!」
そうこうしているうちに時間だ。
壇上に一人の生徒が姿を現すと、ガヤガヤと賑やかだった空気が引き締まり、全員の視線が前を向く。
壇上でより一層感じる長身で、出るところは出るも引き締まったスタイルと凛々しい歩き姿はとても華やか。
短めな翡翠色の髪と、毛先の間から覗かせる切れ長な眼に惚れ惚れしている生徒もちらほら見える。
見た目はクールでカッコいいお姉様。
何も知らなければあたしも同じ反応をしたんだろう。
けどあたしの中のティアナ会長像はクールカッコいい系ではなかった。
壇上の中央で立ち止まり、集まる生徒を見渡し高らかに笑う。
「ごきげんよう諸君! 私は生徒会執行部会長ティアナだ。さて、今年も双花祭がやって来た! 昨年までは前期の成績上位三組だけが選ばれていたが、この長期休暇に研鑽を積むやる気を持ってもらうために、三組目は選考会を設けることになった。この長い休みで培った成果を存分に見せてくれ!」
ティアナ会長の激励にこの場に集まる全員の空気が張り詰める。
「……存分に見せてくれ!!」
何故か再度、同じ締めをティアナ会長は叫んだ。
全員が引き締めた空気を緩ませて困惑しているが、この長期休暇でともに過ごしたあたしはティアナ会長のノリを知っている。
この空気の中でやるのは恥ずかしいけど、選考会自体に緊張している今のおかしなテンションに身を任せることにした。
「おおぉぉぉ!!!!」
あたしは拳を上げて高らかに叫ぶ。
隣のイリスもまたティアナ会長という存在を理解して、目を逸らしながらも拳だけ上にあげていた。
突然叫ぶあたしに当然周りは驚いて視線を送るも、壇上のティアナ会長が満足そうにしている表情を見て、他の生徒も声を上げる。
士気を高めるように、自分を鼓舞するように声を上げる参加者達。
今この瞬間、選考会の空気は祭りに変わる。
「よろしい! では第一回双花祭選考会をここに開催する!! 気になる選考内容はこれだ!!」
ティアナ会長の宣言と同時、壇上の後ろに用意されていた垂れ幕が開かれる。
横に伸びたその垂れ幕には大広間の後ろでも見えるようにデカデカと文字が書かれていた。
「目指せドン勝、ドキドキバトルロイヤル…?」
ティアナ会長らしいタイトルだけど、あたしを含めみんな困惑している。
そんなあたし達にティアナ会長はルール説明を開始した。
「ルールはいたってシンプル、故にベスト! 最後まで立っていた者が勝者! ダブルペタル枠は交流訓練でも使った第三演習所、トリプルペタル枠は第一演習所、クインペタル枠は第二演習所で行う。任務をこなせとか泥棒を捕まえろとか面倒なことは一切なし。タイマンだろうが囲い込みだろうが漁夫の利だろうが関係なし。ただ最後まで生き残れ。以上!」
ややこしいことは一切なしのバトルロイヤル。
全員がやるべきことを理解し、空気が一層殺気立つ。
「あの会長のことだからどんなことするのかと思ったら意外とシンプルだったな」
「だね。でも何でもありってことはその分戦略性も出てくるってことだよね。どういう風に立ち回るか考えないと」
「サラもそういうこと分かるようになって来たんだな。だけどこのルールはオレ達にとっては願ったり叶ったりだ」
「……というと?」
「耳貸せ」
あたしはイリスに耳を寄せる。
手で口元を隠しながらイリスは作戦を呟いた。
イリスの囁き声がこそばゆいけど、そんなことを気にしていられる内容ではなかった。
「え? いやでもそんなこと出来るの?」
「今のオレとサラなら可能だ。速攻勝って、全員の度肝を抜く痛烈デビューにしようぜ」
「だね!」
今この場、周りの全員が言ってしまえば敵となる現状。
それでも今のあたし達なら出来るという自信に満ちて、あたしとイリスの間に不安などは一切なかった。
「ところでイリス、ドン勝って何?」
「……知らね」
という訳で、選考会が始まった――――。




