ノエル様のご機嫌とりは大好きイチャイチャで大抵のことは上手くいきます
「ということが、ありまして……」
屋敷に戻った私は、目の前に座るルーク様、ノエル様、ルキ様のテーブルを挟んだ向かい側に座らされ、先ほど起こったことの説明をさせられていた。
まずは私の口からあったことを私の視点で話してほしいということで話したわけだけど。
不機嫌極まりない表情を隠しもしないルーク様に、珍しく大人しく話を聞いているノエル様。はなし終わった後の沈黙が辛いんですけど……。
逃れるものなら逃げ出してしまいたいんだけど、そういうわけにもいかず。
先程までの浮かれた気分があっという間に沈んでしまう。
そんな中、一息ついてルキ様が口を開いた。
「改めて言うと、昨日の定例会議の報告であった例の専属攫いの犯人らしき人と遭遇した。で、どうやらそいつは気配の操作系の能力を使って専属と引き離して、ヴァンパイアの掟を使って自分の下僕として合法的に連れて行ってるみたいだね」
「……そういうことか。そりゃ探知系の能力のルキじゃなきゃ分からないわけか。それでどこの派閥の奴なんだ?ルキが知らねぇならエーリアスじゃねぇんだろ?」
「エーリアスじゃないね。派閥はどこにも所属してないって言ってたけど、本所属はしてないにしてもオレはどこかの派閥が手を引いてると思うよ」
そんな中、ガタンと音を立てて今まで大人しく話を聞いていたと思っていたノエル様が立ち上がった。
「ねぇ派閥なんてどうでもいいんだけど、そいつはオレのリイルを連れて行こうってしてたんだよね」
「連れて行こうとしたのは間違いない」
「……そう。それなら絶対に許さない」
そう小さく呟いたノエル様に私は思わず身震いさせる。出来ることなら近づきたくない寄りたくない。
黒い空気を纏ってて、近づいたら殺されるんじゃないかって思うレベルなのだ。
多分下手したらあっという間にバッドエンド直行なんじゃないかと思われる空気を纏うノエル様に、無意識に視線を逸らしてしまう。
「その馬鹿なヴァンパイアを血祭りにあげてあげる。そいつが余計なことをしてくれたせいで、ルキまでリイルの専属になって余計にリイルとの二人の時間が減ったんだし、いいよね」
ノエル様の許可を求めてない、いいよねの言葉にルーク様も黒い笑みを深める。
「まあ、そいつが言うように派閥に属してなきゃいいんじゃねぇの?」
「いやよくないから!」
一緒になって乗り気になっているルーク様に焦った表情のルキ様。
ルキ様には毎度同情してしまう。
いつもこうやって何かある度に問題児二人を止めていたんだろう。
次にルキ様に会いにいく時は、苦労性のルキ様の為にせめてもの甘いお菓子をたくさん作っていってあげようと、事の成り行きを見守りひっそり心に決めた。
「ルークも適当なことを言うな!さっきも言ったように人攫いだけど犯罪じゃない。掟に従ってやってるからね。
でも、そういうことをするような奴だから、なにか他にも犯罪行為はあると思うけど、それが明らかに出来なければ手出しはできないからな!わかったな?」
そのルキ様の必死な言葉には誰も反応せずにその場はお開きとなってしまった。
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さて、そんなこんながあった後なんだけどどうしよう。
無事に自分の部屋にたどり着いた私はとりあえずそのままベッドにダイブした。
「はぁ……」
一応今日は体調が悪かった私にお休みをくれて一日自由に出来る日にはなっていたんだけど、あんな事があったせいでまともに買い物が出来ずに終わってしまったのだ。
体調を考慮してくれてのお休みなんだから大人しく部屋で休んでろって話なんだろうけど、本当に貴重なお休みなのだ。
やりたい事に試したい事はいっぱいあるのに出来ないこのもどかしさをどうしてくれよう!!
モヤモヤとそんな事を考えていても時間だけが過ぎていくのみだ。
ここは私らしく行動あるのみだよね。
買い物ができなかった時点でその線は諦めて、今日はお部屋でできる知識を蓄える日にしよう。
本といえば三兄弟の部屋にあるものなんだけど、ルーク様の部屋にあったのはどちらかと言うとお仕事用の事務的なものが多かった気がする。
ルキ様の部屋には色々種類があったからルキ様のお部屋に行きたいところだけど、この時間からだと多分お休みする時間になりそうだし。
となると、残るはノエル様なんだけど……。
さっきの様子からして怖い、ホント怖いんですよ!
無数にあるバッドエンドをお持ちのノエル様の口から血祭りとかなんとか聞こえるんだからもうね。
行きたくはないけど、背に腹はかえられない。
でも自分で言うのもなんだけど最近はやっとノエル様の接し方もだいぶ分かるようになってきたし、即バッドエンドなんて事にはならないようにできるはずだ。
とにかくノエル様の機嫌取りはノエル様大好きイチャイチャで大抵のことは上手くいくんだし、あとは今日は勤務時間じゃないからということで本をガッツリ読ませてもらうでいけそうじゃないかな?
いやいこう。
頑張れ私。
怖いことは考えず上手くいくイメトレをして私はノエル様の部屋へ向かった。
「ノエル様、リイルです。お部屋に入っても良いですか?」
コンコンとノックをして待っていると、すぐに扉が開いた。
嬉しそうに笑うノエル様にそのまま部屋に引き込まれてぎゅっと抱きしめられる。
「リイル!リイルならいつでも来ていいって言ったよね?二人だけの部屋だって言ったでしょ。オレはずっとリイルといたいのに」
小さく呟いた、休日は専属の仕事は例外なんて掟、無くなればいいのにというノエル様の言葉に、内心ぶんぶん首を横に振る。
ルキ様に聞いた事だけど、この掟は過去に心労で病んでしまった下僕や過労死した下僕がいた事から追加された掟らしい。
そんな下僕のためにある掟を無くなればいいのになんて誰が思うか。無くそうものなら全力で阻止するつもりだ。
とはいえ、そんな事は口にできずに私はノエル様大好きぶりっ子モードに入る。
「私も休日だけどノエル様と一緒にいたいなって思って来ちゃいました」
毎度の事だけど我ながらこの変わり身、素晴らしい女優だと褒めてほしくなる。
抱きしめる腕が離れるとノエル様に促されるまま二人でベッドに腰掛ける。
「オレの事大好きなんだね、今日も一日ずっとオレしか見れないように可愛がってあげるからね」
自然な流れで押し倒されそうになる所を寸前で押し止まる。
ついついノエル様ペースに巻き込まれそうになってしまうんだけど、今日は休日!今日は専属の業務じゃなくて自分の時間を過ごしに来たのだ。
ここはしっかりしなきゃ。
「ノエル様、今日はノエル様にも会いたかったんですけど、ノエル様の近くで本が読みたいなって思ってきたんですけど……だめ、ですか?」
「いいよ。ああ、その前に」
そういうと徐に立ち上がると引き出しから何かを取り出すと、それを私の首につけてくれた。
「首輪はここでオレと二人だけの特別なものだって言ってたから、外ではこれつけててね」
鏡を見ると首には黒の繊細なレース編みされたチョーカーが付けられていた。
前にノエル様につけられた首輪を外でもつけててねと言われた事があって、それだけは丁重にお断りしたのだ。
だってそんなのつけて街を歩くなんて、完全にその趣味がある人だって言って歩くようなものじゃん!
それはなにがなんでも阻止したかった。
その時の口実が、首輪はノエル様と私の二人だけの特別なものだから他の人には見せたくないというもので。
その場の思いつきの意味不明な言い訳だったんだけど、二人だけの特別が気に入ってくれたのか、他のものを考えると言ってくれたのだ。
これならまだファッションですで通せる……かな。
それによく見ると首輪と思わなければレース編みだし普通に可愛い気がする。
あの首輪がどっちがいいかと言われたら、迷わずもちろんこちらを選ぶくらいには。
「どう?気に入ってくれた?」
「はい!とっても可愛いです!毎日でもつけたいくらいです」
「よかった、リイルに似合うと思ってたんだ可愛いよ。あと、これも」
そういうとノエル様の手から鎖のついた黒いリボンがふわりと浮かび上がると、それは私の手首から肘の間までの半分くらいまで粗めに何重かして巻き付いた。
「うん、ブレスレットもよく似合ってる」
そう言うと何重か巻きついた鎖とリボンのブレスレット?をなぞり愛おしそうに指を滑らす。
「リボンの隙間から見えるリイルの白い肌、美味しそうだよ」
ペロリと舌を這わせるノエル様に私は我に返った。
「ま、待ってください!ノエル様!ブレスレット?勝手に巻きつきましたよ!?中二病!?」
魔法かなにか!?
勝手に巻きついたんだけど、ちゃんと外せるよね……!?
封印されし邪竜が……!とも言いかねない中二病を彷彿とさせられる。
私の場合はノエル様の言う通り、ところどころ肌は見えていて、邪竜を封印してるみたいに肌を隠すような巻き方ではない。
だけどこれをブレスレットというのかどうか。考える。
「ちゅうにびょうって?リイルは時々不思議なこと言うね。ああ驚いたからかな、大丈夫だよ。これは魔力で形状記憶してあるリボンチェーンのブレスレットだから付け外しは簡単だよ」
そう言いやって見せてくれる。そして教えてくれたように私もやってみる。
たしかに簡単でこれなら私でもできそうだ。
そうして使い方を教えてもらって私は思った。
私何しにきたんだっけ?
……そう私はこの世界について勉強したかったんだった。
ノエル様のぶっとびプレゼントに予想以上に時間を取られてしまった。
「ノエル様、素敵なチョーカーとブレスレットありがとうございます!嬉しいので今日はこのままで本を読みますね」
だからノエル様もどうか私に構わないでくださいと、心で願いながら私は急いで本を探しにいく。
とりあえず読みたいものを片っ端から取り出して、仕事でいつも座っているノエル様の前の椅子に座りペラペラと内容を確認していく。
本を開いてはペラペラめくって次の本を開いてはペラペラめくってを繰り返す。
「………。」
また次の本を開いてはペラペラめくって。
そしてパタンと閉じる。
…………私には難しすぎた!!
一冊くらいは私にでもわかる本があると思ってたんだけど、どれも想像以上に難しくて私には内容がさっぱり分からなかった。泣きたい。
「リイル、おいで」
そんな事を思っていたら、ノエル様から呼ばれた。
「何について知りたいの?」
「えっと、この世界のことが知りたいんです……」
「リイルは本当に面白い言い方をするよね。オレとしてはリイルはこんな事知らなくてもいいんだけど。
派閥のことに関しては……こっちの本がわかりやすいかな」
そう言うと本を一冊手に取るとそのまま椅子に座り、私を呼ぶ。
「知りたいなら、ここにおいで教えてあげるから」
そう促された先はノエル様の膝の上で。
なんでまたもこうなる!
ノエル様はやたらスキンシップが激しい。なんというか甘甘な方に。
ニコニコと嬉しそうに促されれば行かないわけにもいかず。
「こっち」
隣に座ろうとすると、やはり膝の上に座らされた。
そして背後から抱きしめる形になりながら開いた本へ視線を向けた。
「それじゃ派閥からだね、まず派閥は大きく分けて四つあってオレ達が所属してるのがエーリアスが統治してるエーリアス派閥。他はナイルメリアが統治してるナイルメリア派閥、サミナルが統治してるサミナル派閥、セイナルセが統治するセイナルセ派閥があるんだよ」
「ノエル様、今日の人が言ってたんですけど、この四つの派閥のどこにも所属してない人もいるんですか?」
「属したくない個人もいる。あとは下僕商の奴らも商売する為に、表面上は所属してるけど実際のところは裏で何してるかわからないから所属していると言っていいかは怪しいかな。
所属さえしてればその派閥に指名手配犯を要求することもできるんだけど、今回はそうもいかないみたいだね」
「そうなんですか……怖いですね……」
素直に怖いと思った。実際にあのまま連れて行かれると思ったしルキ様が来なかったらと思うとゾッとしてしまう。
その様子に気がついたのかノエル様は改めて抱きしめた。
「心配しないで、そいつは血祭りにしてあげるよ。オレのリイルに手を出した事、死をもって償わせてあげるから」
そう黒い笑顔を向けられ私は別の意味で恐怖したのだった。




