旅路と特訓で冒険
目覚めたあと、僕たちは宝物庫に向かった。宝物庫といっても今まで奪ってきたものを溜め込んだ部屋に過ぎない。
「とりあえずは替えの服が欲しいね。この服、焦げてるし血塗れだもの」
「ついでに旅に必要なものも揃えてしまおう。クズに殺された者たちもこのまま埃を被るよりも少年に使われる方が喜ぶだろう」
そういいながらナキは丸められた天幕を部屋にあった背嚢にくくりつける。すでにナキは着替えていて、上には裾がボロボロで茶色く日焼けしてるけど丈夫そうなローブを着て、下には見えないけど革のズボンを履いている。
僕も新しい服に着替えてナキとお揃いの背嚢に着替えの服を詰めながら装備を物色しはじめる。
恐らくタナンに付けられた焦げ跡の残る胸当てに鎧それに盾、両手剣や片手剣、槍など様々な物が乱雑に置いてある。
その中から体に合い、一番傷の少ない革鎧と手甲を身に付ける。
「少年は防具なんて必要ないだろう。それよりは武器を持ったほうがいいんじゃないか?」
ナキが放り投げた短剣を掴む。
刀身は両刃で長さは手首から指先位かな。鍔がないし薄いから手甲の間に鞘ごと挟んでも違和感がない。
「そういうナキは何か武器を使わないの? いつも素手みたいだけど」
「オババに言われたんだ。お前みたいに身体すら上手く扱えない不器用者は武器を持つ資格はないって」
ナキが拾った手斧を壁に投げると、手斧は壁を割って根本まで刺さり持ち手が折れてしまった。
なるほど。力が強すぎて武器を壊しちゃうのか。力自慢ってのも考えものだね。
「代わりに防具はしっかり身に付けてるよ。なにしろアタシはか弱い乙女だからね」
ローブの裾を捲って手甲を見せる。僕の違って鉄板がついてる。どうやらローブの下にもいろいろと身に付けてるみたいだ。
それにしてもか弱い乙女は壁を割ったりしないと思うんだけどな。
「何か失礼なこと考えてないかい? ……まぁいい。町に向かうんだったね。ここから一番近い町となるとトナエナだね」
「トナエナ……。そこはだいたいどれくらい離れてるの?」
僕の質問にナキは考えこんでから地図を取り出す。
「んー。ここがアタシが住んでいた洞窟でここが今いるところだろ。で、トナエナがここだから……。だいたい歩いて7日っていったところかな」
「7日かぁ。結構遠いんだね。それならさっさと準備して出発しよう」
僕たちは装備の他に食糧やお金に換金出来そうな装飾品を背嚢に詰めて山賊のアジトを後にした。
道中、世間についてお互いが知っていることを話し合った。
なにしろ、片や田舎の元村人、片や森の洞窟を住みかにする化け物だ。世間について疎いのも仕方がない。
話しているうちに知ったのだけど、ナキは幼いころからこの森に住み着いて、森の外のことはほとんどオババさんから教えてもらったらしい。
そのオババさんも世捨て人だったみたいでほとんど森から出なかったらしい。
そして意外にもナキは魔法について詳しかった。なんでも、友達に魔法使いがいて自分も魔法を覚えようといろいろ教わったらしい。
「残念ながら精霊魔法はおろか簡単な自操魔法すら出来なかったよ。そもそもマナの流れなんか感じられなかったしね」
ナキの言っているマナというのはこの世界に満ちている力の源でどんなものにでも宿っているとされるものだ。
そして、そのマナを操ることを魔法という。
魔法にはナキの言うように2つに分けられる。
1つは意思を持った火、水、風、土の四属性のマナの塊、妖精や精霊と呼ばれるものを使役する精霊魔法。
僕たちと戦ったタナンが使っていた魔法がこれにあたる。
精霊にマナを与えて命令をするだけで使えるので発動が早いという利点があるけど、命令通りに動くかはその精霊の格や使役した期間によって差が大きく異なり細かい操作には向かないという欠点がある。
もう1つは自操魔法。これは自分でマナを操るもので精霊魔法とは逆に、発動に時間が掛かるけど複雑な操作が出来るというものだ。
「簡単な自操魔法なら僕の村にも使える人が何人か居たけど、精霊魔法を使える人はいなかったなぁ」
「精霊魔法を使うには精霊との契約が必要だからね。契約は専用の自操魔法が必要らしいから魔法を学ぶ機会がなければ難しいだろう」
ナキが胸を張りながら腕組みして頷いている。なんで自分も使えないのに自慢げなんだろう?
「そういえば少年は魔法は使えないのか?」
そんなことを僕が考えているとナキが声をかけてきた。
「姉さんは使えたんだけどね。僕は危なっかしいからって教えてくれなかったんだ」
僕が膨れっ面で答えるとナキが笑う。そんなに笑わなくてもいいじゃないか。
僕がにらむとナキは涙を拭いながら謝る。
「ふふふ。いや、すまない。少年には良くできたお姉さんがいたんだなと思ってな。っははは」
堪えきれなくなったのかナキが大笑いし始める。ふん。どうせ僕は子どもっぽくて危なっかしいですよ。
不適腐れた僕ははや歩きしてナキを置き去りにする。
後ろからナキが何か言ってくるが聞く耳なんて持ってやらない。
その瞬間、視界の隅で跳ね狼が隣の草むらから飛び掛かってくるのが見えた。
避けるのが間に合わず、喉を噛みつかれながら倒れる。そのまま首を折られる。
というところで跳ね狼がナキに引き剥がされる。噛みつかれたままだったから首の肉が千切れて血が吹き出る。
「こぉら、少年。危ないって言っただろう。こんな群れから追い出された跳ね狼にやられるなんて、いくら死なないからって少年は油断しすぎだぞ」
引き剥がした跳ね狼を片手でぶら下げながらナキが叱ってくる。
跳ね狼は追い出されてから録に餌を食べてないのか体が骨と皮だけのようだ。
しかしいくら痩せ細ってるとはいえ、大人の跳ね狼が暴れているのにナキが持つ手は微動だにしていない。
「ほら、いつまで横になってるの。背嚢に血が染み込んじゃうだろ」
ナキが僕の腕を掴んで引っ張り起こす。動きに全く溜めがなかった。相変わらずのずば抜けた力に感心してしまう。
血が抜けたせいか立ちくらみを起こしてしまい、膝をついてしまった僕を見下ろしながらナキが頷く。
「このままでは町に着くまでに替えの服がなくなってしまうな。時間はあることだし、進みながら少年の稽古をすることにしよう」
言いながら跳ね狼を放り投げると、僕から背嚢を奪って肩に掛ける。
「少年には注意力が足りない。まずはそれを鍛えよう。少年、アタシの前を歩くんだ」
言われてふらつきながらナキの前を歩く。
その瞬間、頬を何かが掠めた。
驚いて後ろを振り向くといつの間に拾ったのか、片手でいくつかの小石を軽く放って遊んでいるナキがいた。
もしかしてさっき掠めてったのってその小石? その割にはすごい風切り音がしたんだけど。
遊んでいたナキは僕と目が合うと嫌らしい笑みを浮かべる。
「どうした、少年。早く先に進むんだ。早くしないと頭に風穴が開くかもしれないぞ」
背中に嫌な汗が流れるのを感じた僕はナキに背を向けて、必死に走る。
後ろから何かが飛んでくる。音を頼りに横に跳ぶけど少し遅かったか肩に小石が突き刺さる。
衝撃でよろめく僕に容赦なく小石が飛んでくる。必死に体勢を立て直して避ける。
目の前にあった木の幹に大穴が開いている。そこは間違いなくさっきまで僕の頭があった所だ。ナキの容赦の無さに背筋が凍る。
「こんな感じにアタシが石とか投げるから少年は避けるなり受けるなり対応するんだ。いつ投げるかは言わないからねー」
そんな僕の思いを知ってか知らずか。ナキは呑気に特訓の説明をしている。僕は大穴に目を奪われながら聞くしかなかった
こうして僕の特訓が始まった。
最初はとにかく走って距離をあけようとしたけど、疲れて止まったところを蜂の巣にされた。
「体力を無駄に消耗するとこうやって一気に攻められた時に対応が出来ないよ。確実に仕留めにいくとき以外は余裕を残しとかなきゃ」
ナキの説教を死ぬ前と生き返った後と2回も聞いてからはナキの攻撃が始まるまでは普通に歩くようにした。
歩いてる間も何時でも反応出来るように神経を尖らせる。それでも今度は集中が切れたところを襲われた。
「そんなふうに張り積めてると集中が切れたときの反動で危ないだろ。常に五感を使って異変を感じたら警戒する癖をつけなきゃダメだぞ」
そんな感じで歩き続けてようやく夜になって休むことになった。
焚き火の近くに座り、待ちに待ったご飯を口に入れようとした瞬間に下顎が吹き飛ぶ。
「ほら、油断しないの。危険はいつやって来るか分からないんだぞ。ご飯を食べてるときも寝てる時も五感を働かせるんだ」
警戒しすぎて味がしなくなった食事を済ませてナキと実戦訓練をすることになった。
「死ぬまでにアタシに一撃をいれられたら合格だよ。最初はゆっくり動くから安心しなよ」
そう言ってナキが手招きする。僕は腰を据えて断ち切り丸を構える。
ナキの攻撃は強力だ。まともに受けたら一撃で死んじゃう。しかも、恐ろしく速い。大振りな筈なのに動き出した時には既に敵に当たっている。それなら。
「行くぞぉ!」
「声をあげて勢いをつけるのも悪くないけど攻撃する気なのがバレバレだぞ?」
僕は断ち切り丸を振り上げて突っ込む。それをナキは棒立ちで待ち、僕の間合いに入る瞬間に踏み込んで自分の間合いに変える。
「ほら、隙あり」
ナキが右に構えた爪を大きく降って僕のお腹を狙う。狙い通り。
僕は断ち切り丸を手放して直ぐに背中を丸める。
お腹があった所をナキの爪が通過する。体を曲げた勢いを利用して握った拳をナキの顔目掛けて降り下ろす。断ち切り丸を手放したのは持ったままだとこの降り下ろしが遅れてしまうと思ったからだ。
「へぇ。やるじゃないか」
それでもナキは感心しながら笑う。余裕を持って後ろに下がる。僕は断ち切り丸を拾って構え直す。
「手加減してるとはいえアタシの爪を避けるなんてすごいよ、少年」
指の骨を鳴らしながら近付いてくるナキ。ご機嫌な笑顔がすごく怖い。それでも僕は脚を軽く開いて攻撃に備える。
「この調子で楽しませてくれよ。ご飯はお腹を空かせたほうが美味しいから、ね!」
ナキの両手の爪に全神経を集中する。左の爪が顔目掛けて上がってくる。それを顔を反らすことで避ける。すかさず飛んできた右の爪を断ち切り丸の腹で受ける。
腹の反対側を肩と手で押さえてたにも関わらず断ち切り丸ごと吹っ飛ばされる。
転がって勢いを殺して飛び掛かってくるナキに突きを放つも断ち切り丸の峰を捕まれて軌道をずらされる。
そしてナキの腕が僕の頭と背中を回して肩へと向かう。もちろん避ける間もなく捕まってしまう。頭を引っ張られて首筋が大きく伸びる。
ナキが僕の耳元で囁く。
「初めてにしては良かったよ。いただきます」
ナキが首筋に噛み付き、引き千切られる。意識が薄らいでいくなかで拳を握りしめてナキの隙だらけのお腹に叩き込む。
「んむっ!?」
最後に見たのはナキの驚いた顔だった。
やってやった。ざまぁみろ。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
前回の投稿から日が開いてしまい申し訳ないです。
思ってたよりも仕事が忙しく執筆する時間が取れてません。
なんとか隙をみながら書いていきますのでこれからも宜しくお願いします。




