山賊の親玉と巨人で冒険
この話は5/9修正後の4話から続いています。
こうして僕らは一番奥の部屋までたどり着いた。
部屋は円球状の天井になっていて今までの部屋の何倍も広くなっている。多分、ここが山賊たちの集会場になっているんだろう。
部屋の中にいたのは2人の男だった。
体長3メートルはあろう大男とその後ろにもう1人。今までの奴等とは違って金属の鎧を着て、手入れされた大剣を地面に突き刺し、椅子代わりの木箱に座り項垂れている。
僕は断ち切り丸を構えて大剣の男を睨み付ける。
「お前が親玉か」
僕の問い掛けに男は顔を上げてこっちを見る。
目の下に出来たクマと不精髭が不気味な雰囲気を醸し出している。髪は黒く所々赤茶けていて縮れている。血走った目は澱んでおり不規則に揺れて焦点が合っていないように見える。
しばらく僕たちを観察した男はまた項垂れて話しだした。
「……どうやらみんな殺されたみたいだな。まさか俺の団が、ガキと女の二人に壊滅させられるとは思ってもみなかったぜ。……どうだい、俺たちの仲間にならねぇか?」
「断る!」
僕が強く拒絶すると男は小さく笑いだし、いきなり顔を上げた。
「【火精よ。ガキの顔を焦げ付かせろ】」
その瞬間、僕の顔に火がつく。ついた火は一瞬で顔全体を包み込む。
僕はあまりの熱さと息苦しさに倒れ、暴れる。火の魔法使い。そうか、こいつが。
なんとか男の足下まで這いつくばっていくがそこで力尽きる。
男が立ち上がり、動かなくなった僕の頭を蹴飛ばしてナキに視線を向ける。
「女。お前はどうする。このガキと仲良く火だるまになるか」
「アタシは大男の相手をする。親玉は少年に任せるぞ」
ナキは男を無視して大男を見上げている。
大男はナキの視線に応えるように数歩、前へ出る。両腕に付けられた鎖を地面に叩きつけて戦意をみせる。
ナキの態度に苛ついたのか、男は頭を掻きむしりながらナキを指差して呪文を唱えはじめる。
「っ無視してんじゃねぇぞぉ!【火精よ。おん】っな!?」
男が呪文を唱え終わる前に斬りかかる。声を便りにしたがやっぱり避けられてしまった。
僕も男も素早く構えて相手の攻撃に備える。
「バカなっ。確かにお前の頭は燃やしたはず」
「……これくらいじゃ僕は死なないよ」
顔に張り付いた焦げを擦り落とす。剥げた皮膚がパキパキと音をたてて治っていく。
それを見た男が驚き戦く。しかし、その目は僕の隙を伺おうと細かい動作も見逃そうとしない。
「っ!森に居着いてるって噂の化け物か」
「それはあっち。僕は別の……化け物だ」
僕が指差したと同時に大男が腰を曲げて踞る。その背中からは腕が2本、甲を合わせて生えている。その2本はどんどん離れて穴を拡げていく。そしてその穴からナキが姿を現し、大男は地面に崩れ落ちた。
ナキは全身血だらけになりながらも事も無げにこちらを見ている。
「トルイがあんなにあっさりとっ!?」
「そして、次はお前の番だぁ!」
普通ならあり得ない光景に男がよそ見している間に間合いを詰めながら体を大きく回し断ち切り丸に速さを乗せる。
「! 【火精よ。壁を作ってガキを阻め】!」
「っこんなのが、効くかぁあああっ!」
僕は立ち上る炎の壁に突っ込んで断ち切り丸を振るう。しかし、あと一歩という所で避けられる。追撃しようとしたけど、体が燃える痛みで脚が止まってしまう。
十分な距離を取った男は僕を警戒しながらナキに話しかける。
「ガキが苦戦してるがあんたは見てるだけかい?」
「お前の相手は少年に任せた。さっさと死ね」
ナキの返答に男がニヤリと笑う。
「この『火炙り』のタナンの相手がガキとはな。元王国騎士十剣の俺も堕ちたものだ。ひゃはははははっ、はぁ……」
男、タナンは大笑いしたあと俯き呟きはじめる。そして、そのまま大剣を何度も何度も地面に突き刺す。何かを呟いていた声がどんどん大きくなる。
「……そが、くそが、くそが! 舐めやがって、舐めやがって‼ 【火精よ。そこの骸にとり憑き喰らいてキサマの力と為せ】!」
トルイと呼ばれた男の死体が突然、燃えはじめる。その真ん中にいたナキは咄嗟に跳んで火精の手から逃げる。
やがてトルイの体が全て炎に包まれた。すると死んだハズのトルイが立ち上る。炎で出来た体は一回りは大きくなっている。
しかし、それを見てもナキの余裕な態度は変わらない。
「ほぉ。これはいい暇潰しにはなりそうだ」
「【火精よ。その女を殺せ。殺して喰らえ】」
トルイ、炎の巨人は命令に雄叫びで応えて赤く熱された鎖を振るう。
ナキが避けると鎖がなぞった所に火がつく。どうやらあの鎖は恐ろしく高い温度になっているみたいだ。
「よそ見してんじゃねぇぞ。ガキィ!」
背中に痛みが走る。
転げながら振り替えって構える。しかし、タナンに簡単に弾かれて胸を切りつけられる。
胸当てにも当たったがよほど切れ味がいいのかパックリと切れてしまっている。
タナンに傷口を蹴りつけられて仰向けに倒れる。そのまま大剣で胸を貫かれ地面に縫い止められてしまう。
痛みに堪えながら大剣を抜こうと手を伸ばすがタナンに踏みつけられる。
「こんな腕で俺を殺そうなんて寝言は寝て言えや。寝てんじゃねぇぞっガキがぁ!」
胸に突き刺さった大剣が揺さぶられる。思わず声が漏れる。
タナンは止めを刺そうと腰から短剣を引き抜く。短剣が降り下ろされる前に踏みつけられた手を抜きタナンの体勢を崩す。
大剣を引き抜いて投げ捨てる。なんとか起き上がりタナンを睨めつける。呼吸をする度に痛みが走る。
「胸に穴が空いたんだぞ。死ねよ、化け物」
タナンは何気ない足取りで近寄ってきて逆手に持った短剣で僕の喉を切り裂き、首に突き刺す。そのまま捻って首の骨をへし折る。
短剣から手を離して、僕の顔を手の甲で横殴りして転がす。
「くそが。手が痛てぇじゃねえか」
手を揺らしながら倒れた僕を蹴りつけて横に落ちている大剣を拾いにいく。
僕に背を向けたまま大剣についた血を布で拭う。
「大したこと生命力だが、もしかして首だけになっても生きてるもんなのか?」
「……さぁ゛、ね。ゴホッ試し、たくもない」
ふらつきながらも立ち上がり、首の短剣を引き抜いて血の固まりを吐き出す。
振り向いたタナンはニヤつきながら大剣を構える。
断ち切り丸を左下に構えて突っ込む。
タナンが降り下ろす大剣を振り上げる断ち切り丸で弾く。手首を返して断ち切り丸の軌道を変える。
その間にタナンは既に大剣を握り直して、もう一度大剣を降り下ろした。大剣の切っ先が地面に突き刺さる。
タナンの顔が歪む。
僕は断ち切り丸を右下から思いきり振り上げてタナンの両腕を切り落とす。
落ちた両腕が握っていた大剣は真ん中から折れていた。そのお陰で僕は真っ二つにされずにすんだ。
「ぐぁああっ、くそっ! そいつ魔剣だったのかよ!? だから、そんな腕で、腕が、ぅあぁっくそがあぁっ!」
タナンは叫びながら後ろに下がる。
僕は断ち切り丸を構え直してタナンとの距離を詰めようとした。すると、横にナキが跳んで着地してきた。
「油断するな、様子がおかしい」
さっきまでと違ってナキの顔が真面目になっている。
ナキに従って視線をタナンに戻す。タナンは血を失ない過ぎたのか、地面に両膝をつけている。
そこへ横から炎に包まれた手が伸びてきてタナンを持ち上げる。
「おい、嘘だろ。【火精よ。手を離せ。やめろ】!」
タナンは手から逃れようと藻掻くが炎の巨人は気にした様子もなく、胸に空いた大穴にタナンを押し込んだ。
「ぐがぁあっく、そがぁっ【火精よ。俺を、喰らえ。奴らをっ殺せ】ぇ!」
炎の巨人が雄叫びをあげる。その体の炎の色が赤から青に変わる。腕に付けられた鎖が溶けて落ちる。
「不味いぞ。少年。どうやら術者を取り込んで自分を強化したらしい」
「そんなの見てたら分かるよ。……どうするの、ナキ」
「ならさっきの連け「連携はなしの方向でお願い」
僕たちが馬鹿なことを話していると炎の巨人が両拳を叩きつけてきた。
僕とナキは別々の方向に跳んで避けた。
叩きつけられた拳から炎と衝撃が横に拡がる。そして、僕はその射程から逃げ切れず炎に焼かれる。
僕は転がって体についた火を消して追撃に備える。しかし、炎の巨人の標的はナキのようでさっきから跳び回るナキを捕まえようと腕を振り回している。
鉄をも溶かす炎に阻まれて流石のナキも攻めあぐねているようだ。
時折、砕けた岩を炎の巨人に投げつけているが当たる前に溶けてしまい、当たる時には礫程度になってしまって大した損傷は与えられていないようだ。
「少年も見てないで手伝ってくれ!」
どうしようかと考えているとナキが岩を投げながら援護を求めてきた。
手伝ってくれって言われてもな。炎の体じゃ断ち切り丸でも切れなそうなんだよなぁ。
その時、礫で抉れた肉片が足下に飛んできた。
「ん? もしかして……。ナキ! 囮を頼むよ。腕が真っ直ぐになるようにね!」
「! 分かった」
ナキは炎の巨人が僕に後ろに向けるように誘導しながら攻撃を避けていく。
壁を背にして止まったナキに炎の巨人が大振りに構えて殴り付ける。それをナキは横に跳んで逃げる。
壁に刺さった腕を抜こうとする炎の巨人の横から飛び掛かり、その腕を切り落とす。
腕を切り落とされた炎の巨人は雄叫びを上げて仰け反る。
僕は棒立ちになったその両脚を膝から切り離していく。両脚を失った炎の巨人はそのまま後ろに倒れる。
炎の巨人は残った片腕だけで起き上がろうとするが出来るはずもない。
「なるほど。依り代にした体が損傷するとその体を保てない訳か。それに動けないなら止めを刺すのは簡単だ」
そう言うとナキは跳び上がって天井を蹴り砕く。大小様々な破片が炎の巨人に降り注ぎ、幾つかは溶けるか腕に妨げられるが残った破片はその体を潰していく。
やがて炎の巨人は動きを止めて、その体の炎が消えていく。
完璧に炎が消えたのを確認して僕は腰を下ろす。
「……終わったぁ。ナキ、あんなことが出来るなら最初からやってよね」
「そうは言うがね、少年。あんまりやるとアタシたちも生き埋めに成りかねないよ」
それもそうかと天井を見上げる。その時、上から大きな破片が落ちてくる。
突然のことに避けきれずに破片の下敷きになる。
薄れていく意識の中、ナキの声だけが聞こえた。
「最後に油断するようじゃまだまだ半人前だね、少年。それじゃ、いただきまーす」
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
前の4話と比べてタナンさんはかなり優遇されています。なにしろ、名前がつきました。しかも異名つき! すごい!強い!
それに比べてトルイくんは……、残念ですね。
これからですがいい加減、町について貰いたいです。魔法やら神様やら冒険者ギルドやら、いろいろなイベントが目白押しです。楽しみですね
それでは、これからもよろしくお願いいたします。




