化け物の覚悟で冒険
ちょっとグロい描写があります。
目を覚ますと身体中に激痛が走った。
突然の痛みに体が強ばると痛みが更に拡がる。それでも痛みから逃げようと体を丸めてしまう。
痛みに藻掻いていると近くからナキの声が聞こえた。
「やっぱり、そんな状態でも生き返るんだな。本当に怪物染みてるよ」
何を言ってるんだ、ナキは。何でもいいから助けてよ。
僕はナキの声が聞こえるほうに手を伸ばす。その手が両手で握られる。
「痛いか、少年。そうだろうな。なにしろ君の体には2本の斧、7本の剣、3本の槍が刺さってるんだからな。その内、何本かは致命傷だ。それでも君は生きている」
そんな。そんな状態で生きている? あり得ない。そんなのは人間じゃない。
「そう。少年は人間じゃない。いい加減、認めるんだ。自分が怪物だと」
僕が怪物。
「さっきの戦いを見ていて分かったよ。少年は自分を人間だと思い込んでいただろう。だから槍持ちを警戒して攻めきれなかった。怪物なら槍なんて気にしないで突っ込んでいく」
僕の手を握る力が強くなる。遠退きかけた意識が戻る。
「いいか、少年。怪物は人間とは違う。人間と同じ戦い方なんてしなくていいんだよ」
ナキは手を離すと僕に刺さった武器を一本、引き抜く。引き抜かれる痛みに僕は呻く。
怪物は人間と違う? 僕は死なないだけだ。傷付くし怪我も治らない。死ぬまでは普通の人間と同じだ。
「……まだよく分かってないみたいだな。認めるんだ。自分は怪物だと」
ナキがさっきより乱暴に武器を抜く。僕は思わず叫ぶ。ナキは構わず次々と武器を抜いていく。しかもわざと傷を拡げるようにだ。
痛みで思考がふっ飛ぶ。頭の中が痛みで満たされる。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
何時まで続いたんだろう。突然体の痛みが引いていく。なんだ? 何が起きてるんだ?
ナキが僕の脇に手を差し入れて、そのまま持ち上げて僕を起こす。
ナキは僕の顔をマジマジと見たあと、困ったように微笑む。
「まだ分かんないか。それでも、取り敢えず壁は越えられた。おめでとう」
いきなりナキに抱き締められる。
ますます頭が混乱する。なんで痛みが引いた理由。分からない。 ナキが言ってたこと。分からない。ナキに抱き締められた理由。分からない。分からない事だらけだ。
でも分かることがある。ナキに体、柔らかい。見た目、引き締まってて硬いと思ってたけど、すごく柔らかい。
でも弛んだ柔らかさじゃない。こうやって触ると分かる。ナキの体はすごい筋肉質だ。でも、その筋肉が柔らかいんだ。
感心しているとナキの腰の下に回していた腕が掴まれ骨を折られる。
「うん。初めて会った時から思ってた事だけど少年はスケベだな。いきなり抱き締めたアタシも悪いけど、いきなりお尻を揉むんじゃないよ」
「っす、すいません。頭が混乱、してて欲に、素直になっちゃい、ました」
「全く。今回は許してあげるけど、次やったら頭飛ばすからね」
ナキは離れて、自分が折った腕を持ち上げる。
鈍い痛みと熱に僕は顔を歪める。でも、さっきよりも痛みが引いてるような?
「うん。壁を越えてしまえば早いな。予想通り、かな」
その理由をナキは何か分かってるみたいだ。
僕が聞きたげにしてるのに気付いたのか、ナキが笑っている。
「前に話したよね。知り合いに同じようなヤツがいるって。そいつと少年の能力には違いがあってさ。最初は種族としての違いかと思ってたんだけどね。」
ナキが折れた腕の具合を調べるように揉む。揉まれる度に痛むけど、明らかに痛みが薄らいでいる。
「そいつは怪我するとその場で治っていた。それに比べて少年は一回死ぬまで治らない。少年の手足をもいだ時があっただろ? あの時、君が死んだあと思ったんだ。少年の方が治癒力が高いのになんで普段から使えないんだろうって」
折れてた腕の痛みは既になくなった。完全に治っている。
「さっきの戦いを見てアタシは確信したよ。少年は使えないんじゃなくて使わなかったんだってね。少年はね、無意識のうちに自分の能力を抑えていたんだよ。自分は人間であるから傷は治らないって。だから、死んで意識を完全に失うまで能力が発動しなかった」
この時になってようやく理解した。さっきまでナキはやたらと僕が怪物だと言っていた。あれは僕の能力の枷を外そうとしていたんだ。
「結局、それは失敗しちゃったけどね。仕方ないから力業に出ちゃったよ。」
ナキは自分の頭を軽く小突く。ペロッと舌を出した顔が可愛い。
ていうか、力業ってあの乱暴に武器を抜いてたやつのことだよね。多分、頭の限界まで痛みを与えて能力の枷を外したってことなんだろうけど。
「それって下手したら僕、廃人になってなかった?」
「その時はアタシが責任を取って戻るまで面倒をみるつもりだったさ」
ナキが笑って片目を瞑る。ヤバい。めちゃくちゃ可愛い。
思わずナキに抱きつこうとして吹っ飛ばされる僕。あれ? 死んでない。
「言っただろ。壁を越えたって。一度、枷が外れればこの通り。顔が凹む程度なら直ぐに元通りさ」
座り込んでた僕をナキが起こしてくれた。
「さて、一皮剥けた所で盗賊退治の続きといこうか」
え? ナキが全員倒してくれたんじゃないの。
改めて辺りを見渡すと、奥の曲がり角に一人倒れてるだけで他には何もなかった。
「少年が死んだあと、アタシに襲い掛かってきたから1人叩き飛ばしたら、みんな奥に逃げてしまったんだよ」
成る程。見た感じ普通の人間で丸腰の女性がまさかあんな怪力をみせるとは夢にも思わなかったんだろう。
「で、ちょうどアイツらが落とした武器を少年に刺して、起きるのを待ってたわけさ」
「あれやったのナキ「そういう訳でいざ反撃だ!」
僕の非難を無視してナキは先に進み始めた。というか、今わざと被せてきたよね?
ボヤきながらナキに付いていこうとしたら、ナキがこっちを振り向いた。
さっきまでの雰囲気とうって変わって真面目な顔をしている。
「そういえばさっきの戦い、最後の一撃わざと止めたよね」
最後? 槍持ちに斬りかかった時のことか。でもあれは確か、斧が背中に刺さって断ち切り丸を止めちゃったはずなんだけど。
「自覚無し、か。少年、オババは言っていたよ。奴等はかけられる情を隙としかみないって。いいかい、枷が外れても少年はまだ弱い。止めを刺す勇気がないなら目を瞑るんだ。その剣なら多少、当たる場所が悪くても大丈夫だろうから」
そう言ってまた歩き出すナキ。
言われてみれば、断ち切り丸は一度振れば刺された程度で止まる剣じゃない。
ならあの時、僕は無意識の内に止めてしまっていたんだろう。
あの時はそのまま殺された。自分を殺した奴等に情けなんていらない。僕はそう決意して先に進む。
進んでいく内に何本か分かれ道があった。それらは食糧庫や金庫に繋がっているようだった。
その内の1つにわざわざ扉がついた部屋があった。金庫ですら扉をつけてなかったのになんでここだけ?
そう思って近付くとすえた臭いが漂ってきた。
僕が思わず立ち止まるとナキが近付き扉を開ける。回りに一層臭いが立ち込める。
ナキは敵がいないかを調べるために部屋の中に入り、しばらくして出てきた。
「 少年は、見ておいたほうがいいかもね。アイツらに対する気持ちの整理が出来るかもしれない」
促されて中に入る。
そこは地獄だった。顔の原形がなくなるまで殴られて横たわる女性。椅子に縛りつけられて、至るところを切り裂かれて死んでいる男性。四肢をもがれ目玉をくり貫かれ、身体中の穴という穴から汚れた液を垂れ流している女性。天井に吊るされて局部を炭化するまで焼かれ、体のいろんな所に焼きごてを押し付けられた痕がある呻く男性。
これが、これが人間のする事なのか。僕なんかより奴等のほうがよっぽど化け物じゃないか!
僕が部屋の惨状を凝視していると、ナキが横たわる女性に近付き上半身を優しく抱き抱えると何かを耳元で囁き、女性の首を折った。
ナキの突然の行動に驚いている僕に背を向けながら吊るされた男を指差した。
「アタシはもう1人の女の人の所に行くから、彼は少年が楽にしてやってくれ」
ナキの言うことに逆らえず僕は言われた通り吊るされた男の所に行き、断ち切り丸を心臓に突き刺すように構えた。その切っ先が震えるのは重さだけが理由じゃない。
震えを抑えようと苦心していると男の呻き声が聞こえてきた。
「……たの…う。やう、らに……しを」
思わず男の顔を見る。顔は腫れ上がり片目は潰れていたが、もう片方の目は激しい復讐心が宿っていた。
こんな状態にされて尚、自身の解放よりも奴等の死を願う男の思いは僕には分からない。だけど、想いは伝わった。
「その願い、僕が必ず……」
断ち切り丸を一気に前へ押し込む。手の震えは止まっていた。
部屋を出て進んでいるとナキがポツリと話しだした。
「この辺の山賊はね、もとは村人だった人たちなんだ。追い出されたり、自分から出てったり、いろんな理由はあるだろうけどね。だからそんなに強くないんだよ。10人がかりで1人の旅人を襲っても返り討ちにあうことも珍しくない」
ナキの目はずっと前を見ている。進む足は変わらない。
「彼らは殺すことに躊躇いはない。相手を生かせば自分が殺されるからね。だから生け捕りにして棲みかに連れ込むなんて、危険な真似は絶対にしない」
ナキの顔が苛立ちに歪む。踏み込んだ地面が少し割れる。
「余所者が入り込んでる可能性がある。それも4人相手に生け捕り出来るほど腕利きで、とびきり残酷なヤツが」
じゃあ、そいつがあの人たちをあんな目に。僕の手にも力が入る。あんなことをするヤツを野放しにしちゃいけない。
その時、奥から山賊が2人現れた。
最初、2人はナキのことを警戒していたようだけど、隣にいた僕の顔を見て青ざめる。どうやら、死んだはずの僕がこうしていることに驚いているみたいだ。
相手が固まっている好機を逃す手はない。
ナキが一気に距離を詰めて片方の胸ぐらを掴んで天井に投げる。投げられた山賊はそのまま天井に突き刺さる。
残った方の目が天井に釘付けになっている間に僕が懐に入る。構えた断ち切り丸で隙だらけのお腹を薙ぐ。山賊は咄嗟に避けたみたいだけど遅かった。
傷口から腸が溢れでる。腸を戻そうとお腹を押さえている山賊の顔を見る。突然の死に驚いているようにも怯えているようにも見える。
その首を断ち切り丸で断つ。その一太刀に迷いはない。
音を聞き付けて盗賊たちが続々と集まってくる。もしかしたら最初に出くわした集団の倍はいるかもしれない。
「アタシにいい考えがある。少年、連携技だ」
「え、連携?」
振り向いた僕の頭を掴むと、ナキは集団に向かって思いきり投げつけた。
山賊たちは避ける間もなく砲弾に巻き込まれる。砲弾は山賊たちに当たると諸とも砕け、その破片で後続たちに被害を与える。辛うじて、破片から逃れても後ろに続く者たちに押されて転び、踏まれる。
結局、無傷だったのは最後尾らへんの集団だけで、その彼らも直ぐに飛び掛かってきたナキの餌食になっていった。
僕が生き返った頃には、あれだけいた山賊たちはみんな片付いていた。
ナキがこっちに気付いて近寄ってくる。どうやら僕を探していたようだ。
「ここにいたのか少年。どうだ、アタシの作戦が上手くいっただろ」
「僕はバラバラになったんですけど?」
「少年はこうして元通りになるんだから問題はない」
僕の非難を無視してナキは腕組みして頷いている。
服や靴がなくなってしまったので、そこら辺のものを見繕って拾って身に付ける。血生臭い。
「道は開けたな。行くぞ、少年」
「……うん」
こうして山賊たちを一掃した僕たちは洞窟の更に奥、恐らく親玉がいるであろう場所へ進んでいった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回は色々詰め込み過ぎて駆け足な上に尻すぼみな内容になってしまいました。
プロットも作らず下手に締め切りなんて作るからこうなるんだと脳内友くんに怒られました。
隔日なんて言ってましたが無理です。本当にすみません。
次回はなるべく早く、自分でも納得出来る内容を投稿出来るように頑張ります。
こんな苦竹ですが、見捨てず次回も宜しくお願いします。
5/9、加筆修正。




