食人鬼の預かり所で冒険
夜も深くなってきたようなので、僕とナキは朝になったら旅立つことを決めてそのまま眠った。
いろんなことが起きて興奮してたから寝れないと思ってたけど、思っていたより疲れてたみたいで横になると直ぐに眠ってしまった。
目が覚めるとナキはもう起きていて朝御飯の串肉を焼いていた。そういえばこれって何の肉なんだろ。食人鬼が食べる肉っていったらやっぱり……。
眉を顰めながら串肉を凝視していると、僕が何を考えていたのかナキが笑いながら答えてくれた。
「これは少年が倒した魔物の肉だよ。人の肉は貴重でね、なかなか口に出来ないのだよ」
それも昨日までの話だけどね、と言ってウィンクしてくる。それを固い笑いで返す僕。貴重じゃなかったら食べさせる気だったのか。それに昨日までの話って本当に僕のことを食べるつもりなのか、この人。
「へ、へぇ。そうなんだ。でもナキって魔物の肉でも食べられるんだね。ちょっと驚いたよ」
話の流れでナキの朝御飯にされたら堪らない。いくら不死になったといっても怪我をすれば痛いし、死ぬのは怖い。
なので、なるべく自然に話を替える。ナキも気にした様子もなく話に乗ってくる。
「まあね。何でも腹に収めれば空腹は凌げるよ。でもずっと人の肉を食べないと段々と弱っていくんだ。だから定期的にのたれ死んだ人がいないか、森を探索するのさ」
「じゃあ昨日、森で出会ったのはその時なんだ。でもどうしてわざわざ死体を探すの? 自分で殺したほうが早いでしょ。僕としてはナキが率先して、人間を殺すような人じゃなくて安心してるけどさ。」
「オババと約束したのさ。食べる為に人を殺さないってね」
そう話すナキの顔はとても楽しそうで、悲しそうだった。きっとそのオババって人はナキにとって大切な人だったんだろう。
僕がじっと見ていることに気づいたのか、ナキはハッとして、わざとおちゃらけたように話を続けた。
「それにお腹が空く度に人を襲ってたら、この森には誰も近付かなくなるだろ? そうしたらアタシは餓え死にだよ。それに、討伐隊なんてやって来た日にはアタシなんていちころさ。」
ナキは話終えると串肉を何本か僕に手渡して焚き火を消す。
「さて、そろそろ出発しようか。と、その前に少年の服をどうにかしないとな。町に行くのにその血塗れの服は目立つよね」
確かに僕の服は色々あって上から下まで血塗れだ。おまけに魔物に襲われたせいで、ぼろ布同然にまでなっていた。
「でもナキ。見たとこ、ここには服なんてないんだけど。」
洞窟の中にあるのは焚き火の薪と火打石、木の串と小さなナイフ。毛布代わりの毛皮に水が入った瓶が2つ。質素というにもあんまりな数だ。もしかしたら奥に服や貯めた食料(人間ではない)とか置いてあるのかな?
僕がそんなことを考えてるとナキはしたり顔で教えてくれた。
「見つけた人の服や金目の物はあるところに全部預けてあるのさ。なにしろ、こんな生活してるとお金なんて使い途がないからね。そこで少年の服と当面の資金を引き出すとしよう」
「へぇ。ナキにもそんな知り合い、いたんだ。」
「失礼だぞ、少年。確かに私に知り合いはいないがな」
なんだって、と聞き返す前にナキは歩いて何処かに行ってしまう。僕は急いでナキの後ろに付いていった。
ナキに付いていくとまた洞窟に着いた。ただ、これまでと違っは人の出入りがある。それが問題だ。
なにしろ、みんな古びた革鎧や胸当てを着ていて、ボロボロだけど武器も持ってる。遠目で見えたときは狩人や冒険者ってのを期待したんだけど、狩人や冒険者なら命綱の装備をあんなになるまで放っておくなんてことはしない。
間違いない。山賊だ。
「ナキ、お金を預けてる相手ってあの人たちのことじゃないよね?」
「いや、あいつらのことだぞ? 金目のものを洞窟とかにテキトーに纏めとくと勝手に集まってきて守ってくれるし、増やしたり食料を集めてくれるんだ」
自慢げに話してるけど、それって金で山賊を誘き寄せて罠に掛けてるってことだよね。
「オババに教えてもらったやり方でね。森じゃ手に入らない刃物やお酒を調達するにはこれが一番だって言ってたよ」
山賊から物を強奪するなんて、オババさんはかなり大胆な人だったらしい。
「それじゃちょっと行ってくる。少年はここで待っててくれ」
僕が呆れているとナキは見張りの二人に向かって歩いていった。僕は茂みに隠れて様子を伺うことにした。
ナキに気付いたらしい見張りたちが武器を構える。ナキは気にした様子もなくそのまま歩いている。
近付いてきたのが何も持たない薄着の女と見ると、見張りたちの顔に下衆な笑みが浮かぶ。
何の警戒もなしにナキに近寄っていく。ナキの様子は変わらない。
一人の見張りがナキに何かを話し掛けて体に触ろうと手を伸ばした瞬間、ナキはその手を掴んで見張りを放り投げた。空高く10メートルは飛んで僕の横に落ちる。……あんまり、見ないでおこう。
あり得ない光景に固まっていた見張りの片割れの頭をナキが掴む。そのまま、地面に引き倒される。地面にめり込んだのか、顔が潰れたのか、ここからは頭半分しか見えない。
やっぱりナキの強さは飛び抜けている。山賊ぐらいじゃ相手にすらならない。この強さがあるからこんな罠を仕掛けられるんだろう。
僕がナキの強さに感心しているとナキがこっちに手招きしているのに気付いた。どうやら僕を呼んでいるらしい。
ナキの近くまでいくと、ナキがいいことを思い付いたと人差し指を立てる。
「少年は冒険者を目指しているんだろ? なら、ちょっと練習しておこう。アタシと一緒にここの山賊たちを倒すんだ」
ナキのぶっ飛んだ提案に僕は開いた口が塞がらなかった。
確かに冒険者になれば、そういったことをする機会もあるかもしれない。
それでも、一昨日まで村人だった僕に山賊退治なんて荷が重すぎる。
「無理だよ。僕なんて直ぐに殺されちゃう!」
「もう何回も死んでるじゃないか。今更、気にすることじゃないだろう。」
「気にするよ!?」
ナキは自分が恐ろしいことを言ってる自覚が無いようだ。名案だと思うんだけどなぁ、と首を傾げている。
僕は逃げようとしたけど、ナキに首根っこを捕まれてしまい無理矢理、洞窟の中にズルズルと連れて行かれる。
「まぁ、細かいことはやりながら聞くからさ。とにかく、あいつらを倒しちゃおう」
「無理だって! 死ぬのってめちゃくちゃ痛いんだって!ちょっとナキ、聞いてる? 聞いてますかぁ!?」
僕の必死の説得がナキに届いたのか、僕を掴んでいた手を離す。
いきなり離されたので地面に思いきり、頭の後ろを打ち付ける。ナキに文句を言おうと振り向いた瞬間、喉まで出かかった文句を飲み込んでしまう。
ナキはやれやれといった感じで頭を横に振っている。
「せっかく奇襲しようと思っていたのに。少年のせいで台無しじゃないか」
僕の説得はナキには届いて居なかった。
「なんだぁ、てめえらはぁ? 」
「ぎゃあぎゃあ騒がしいから来てみりゃ侵入者かよ」
「お、女がいるぞ。ま、マブい」
僕の説得が届いていたのは奥にいた山賊たちだった。
最初に現れた三人の後ろからもどんどん人が出てくる。もう10人以上はいる。
最悪の事態に僕は、助けを求めようとナキを見上げた。ナキと目が合う。楽しそうに爛々と眼を輝かせるナキと。
「予定が狂ってしまったが、こっちのほうが面白い。さぁ、少年。山賊を退治しろ」
このときになって漸く僕は理解する。ナキは化け物だと。
角がある以外はどこを見ても人間で、話が出来て、特徴である人食いも実際に見た訳じゃないから現実味がなかった。
心の何処かでナキも人間と一緒だと思っていたんだ。そんなはずないのに。
「どうした、少年。早く立ちなよ。あっちはやる気満々だぞ?」
また僕の首根っこを掴んで、僕を立たせるナキ。
ショックで反応のない僕に、腰から断ち切り丸を抜いて持たせる。
「さ、行ってこい」
ナキは僕の背中を軽く叩いて山賊たちの前に送り出す。軽くといっても結構な痛みが背中に走る。その痛みで僕は意識を取り戻した。
目の前にいるのは武器を構えた山賊たち。血走った目が僕を睨み付ける。
思わず断ち切り丸を構えてしまう。それに反応して山賊たちが斬りかかってる。
斧を持って飛び掛かってくる山賊を避けて、その後ろから突いてくる槍を断ち切り丸の腹で弾く。剣持ちのヤツが来ないか気を配るのも忘れない。
この洞窟の幅では並べて2人から3人。そのお陰で囲まれることもない。これなら回避に専念して隙を狙うことも出来なくはない。
また突っ込んでくる斧持ちに間を合わせて断ち切り丸を横に振る。寸での所で避けられる。返す刃で剣持ちの降り下ろしに合わせて降り上げる。力比べになるかと思ったら相手の剣が折れて? しまった。相手は驚いて動きが止まっている。その頭に一撃をお見舞いしようとした所で槍持ちの援護が入ったので後ろに下がって避ける。
思ってたよりやれてる。冴える五感と魔物との死闘の経験のお陰だ。山賊たちの動きも魔物の速さに比べれば大したことはない。
「あのガキ、思ってたよりやるぞ」
「くそ、手応えもなくいきなり折れやがって。危うく殺られちまうところだったぜ」
「得物がなくなったならさっさと下がれ。後がつっかえてんだ」
しかし、武器を無くした盗賊は後続と入れ替わってしまったので、長期戦は不利だと思う。
「なんだ、少年。さっきの打ち合いで一人は殺せただろ。遊んでるんじゃないぞ」
ナキが後ろから野次を飛ばしてくる。後ろを振り向くと何処から出したのか、串肉を咥えながらこっちを見ている。
せめて援護ぐらいはしてくれないかと期待したんだけど、無駄みたいだ。手を出すつもりが一切ない。
こうなったら一人で何とかするしかない。
先ずは先頭の3人だ。相手の立ち位置は近い方から真ん中に斧、右に細剣、左に槍だ。戦ってみた感じ、斧に攻撃を任せて後ろの2人が援護にまわっている。
斧の攻撃は簡単に避けれる。問題はその後ろの2人、特に槍だ。あいつが文字通り横やりを入れてくるせいで敵に一撃を与えられない。あいつをどうにかしないと。
考えてる間にまた斧持ちが突っ込んでくる。斧持ちの大振りな一撃を避けて細剣持ちへ向かう。細剣持ちが攻撃をしてくる前に断ち切り丸を片手で薙いで、相手の細剣を払う。細剣持ちの無力化に成功した所で槍持ちが攻撃をしてくる。しかし、払った勢いを利用して既に槍持ちの方を向いていた僕は、突きだしてきた槍の柄を空いていた手で掴んで、思いきり引っ張った。
片手とはいえ、体が伸びた所を思いきり引っ張られたせいでたたらを踏む槍持ち。その隙に一撃をくわえようとした瞬間、相手の顔を見てしまった。
酷く怯えた顔。僕の一撃がこの人を殺す、そう思った時に背中へ衝撃と激痛が走った。
背中を見てみると、僕の背中から斧が生えていた。斧持ちが持っていたヤツだ。
「えっ?」
呆気に取られた瞬間、僕を取り囲んだ盗賊たちがそれぞれの武器で突き刺してきた。
自分の血の海に沈みながら、落胆したようなナキの声が聞こえた気がした。
「どうやら少年は、勘違いをしているようだ」
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
前後編結合しました。残業で投稿が遅れました。すみません。
スインクくん、意外と強いですね。書いてる自分でもびっくりです。一応、持ってる武器がおかしいのと死線を越えたせいで五感が異常に鋭くなっちゃったのが強さの原因でしょうか。
それでもナキの足元にも及ばないんですけどね。
次回から隔日投稿となります。
次回の投稿予定日は6日になります。
それでは今後も宜しくお願いします。




