僕の夢は女の子の手料理を食べることです。
「……う、ここは?」
目が覚めるとそこは洞窟の中だった。
体を起こしながら周りを見渡すと焚き火の横に人の姿があった。
背中を向けてるから顔は見えないけど、背中まで伸びた長い髪と体つきからして女の人だ。髪の色が白いからお婆ちゃんかと思ったけど、体が瑞々しいし、お腹はキュッと締まってるし、お尻は座ってて潰れてるのに形が整ってる。
「おー、起きたか、少年。ちょうど肉が焼けたところさ。こっちにおいでよ」
いきなり女の人が振り向いて僕はビックリして目線を反らす。
女の人は気にした様子もなく、手招きしてくるので立ち上がろうとしたとお腹に大穴が開いてることに気付く。
そういえば、自分が魔物の群れに襲われていたことを思い出す。
急いで首とお腹を手探る。傷がない。あの時、確かに首を折られてお腹を食い破られたはずなのに。
僕が茫然としていると、女の人が話かけてくる。
「なに自分の体弄って呆けてんの? もしかして少年って危ない人?」
女の人がこっちをジト目で見てくる。僕は慌てて首を横に振る。
「アハハ、冗談だよ。そんなに首を振るとまた折れちゃうよ? 早くこっちにおいで。お肉が焦げちゃうよ」
僕が焚き火の側に座ると木で出来た串に刺した肉を差し出してくる。串を受け取ってかじり付く。硬いし、何だか筋っぽい。
「自己紹介がまだだったね。アタシの名前はナキ。この洞窟で暮らしてる。少年は?」
ナキさんは串に刺さった肉を一気に引き抜いて食べ始める。馴れているのか肉の硬さを気にした様子はない。
「僕の名前はスインク。タータ村の生まれです。ありがとうございました。ナキ、さんが助けてくれたんですよね? その、跳ね狼から」
「ナキでいいよ。 ああ、まあね。礼なんていいよ。おかげでこうして飯にありつけたしね」
恥ずかしそうにボサボサの前髪を掻きながら笑いながら言うナキ、は既に4本目の串に手を伸ばしている。すごい食欲だ。
成る程、この体はこうして出来ているのか。そう思いながらナキの胸に目がいく。ナキは1枚の布に穴を開けて、そこに頭を通して腰で紐を回しただけの服とも言えない格好をしている。
そんな格好だから突き出た二つの大きなお山の先端まで分かってしまう。
「うんうん。初めて会った女の人にそんな目線を向けられるなら、もう洞窟から追い出しても大丈夫だな」
ナキはさっきと同じように笑っているけど、頬が引きつっている。それに身体中から跳ね狼とは比べ物にならない程の殺気を放っている。
「ご、ごめん。ナキみたいなかわいい人、初めて見たから、つい」
「煽てて誤魔化そうとしても駄目だぞ、少年。おしおきだ」
そう言うと親指に引っ掻けた中指を僕の額に向けて弾く。
「えぺっ!?」
「うそっ弱っ!?」
次の瞬間、自分の頭が弾けて周りに中身が飛び散るのを見ながら、僕は意識を失った。
「……うっ、ここは?」
目覚めるとそこは洞窟だった。
フラつく頭を押さえながら辺りを見渡すと、そこには四つん這いになりながら床に落ちていた何かを摘まんで食べているナキがいた。突きだしたお尻は少し大きくてまん丸だった。あっ、もう少しで見えそう。
「少年はまた死にたいのかな?」
ナキがこっちを向く。気を失う前と同じ顔をしている。口の端に食べ残しがついてるのがちょっとかわいい。
「ごめんなさい!」
僕は急いで頭を下げて謝った。流石にまた死にたくない。ん?
また、死ぬ? またってなんだ? まるで死んだことがあるみたいじゃないか。
「しかし、まさか頭が吹き飛んでも生き返るなんて凄いね。アタシの知り合いにもそういうのいるけど、流石にそんなに早く生き返んなかったよ」
ナキの言っていることがよく分からない。頭が吹き飛んでも生きてるなんて、それじゃ、それじゃあ、化け物じゃないか!
頭を押さえながら踞る僕の様子が心配になったのかナキが近付いてくる。
「おっおい、大丈夫か、少年? しっかりしろ」
呼び掛けるナキの顔を見る。そこで気付いてしまった。ナキがさっきまでなにを摘まんでいたのか。
口についた赤黒い液体、口の端に着いた桃色のもの。それは、僕の頭の中身じゃないのか!? ナキは僕を、人間を食べる? じゃあ、ナキも化け物!?
「ぅあああああっ!」
「っ!? 落ち着け、少年! 落ち着くんだ!」
「あああああああっ!」
化け物が伸ばす手を弾く。逃げなきゃ。
周りを見渡すと毛布代わりの毛皮の脇に断ち切り丸を見付ける。急いでそれを掴んで振り回す。
「来るな! 来るなぁ!」
「……落ち着けと、言ってるだろうが‼」
ナキは断ち切り丸を易々と躱して僕のお腹に膝をいれる。その瞬間、背中が膨らんで弾ける。お腹に大穴が開いてる。口から血が溢れる。まん中に大穴が開いてしまっては体を支えられず、地面に倒れ込む。
僕はまた死んだ。
「うわぁ!」
僕は飛び起きて周りを見る。ナキが隣に座ってこっちを見ているのに気付いて動きが止まる。
ナキは僕をマジマジと観察した後、安心したように笑った。
「よしよし。落ち着いたようだね、少年。改めて、自己紹介だ。アタシは食人鬼のナキ、ここで暮らしてる。」
そう言ってナキは左手でボサボサの髪に隠れていた2本の角見せてから、右手を差し出して僕の右手を握る。
「君は一体、何なんだい?」
落ち着いた僕はナキと焚き火を挟んで座った。焚き火には新しい串肉が置かれている。
そして僕はナキに出会う迄のことを全てナキに話した。ナキは串を咥えながら静かに聞いていた。
「つまり、少年はその黒い少女、話の流れから恐らくそれが女神シスか? に加護を与えられて不死の肉体を得た、と。」
「その不死なんですけど本当なんですか? いまいち、実感が湧かないんですですけど」
もう3回も死んだとはいえ、その全てが目が覚めた時には傷一つ残っていないんだから、はいそうですかと納得は出来ない。
「本当だぞ。こんな感じに少年が怪我をするとな」
と言いながらまるで小枝でも折るみたいに、僕の腕をへし折るナキ。って、え?
「いってぇえ! なんで? いきなり、なんで!?」
「いや、実際に見てもらったほうが早いかなと思ったんだが、治らないな」
ナキは困り顔で首を傾げると、閃いたとばかりに手を打ち、折れた腕を捻り切った。
「ひぎゃあああ!!」
「これも駄目か。もしかしたら傷が浅いのかも知れないな。少年、ちょっと手足をもぐぞ」
「きゃああっ、あ? 今なんてぎょわっあああ!?」
なんて不穏なことを言いながら僕の手足を引きちぎるナキを見ながら、僕はまた気を失った。
僕が目覚めると目をキラキラさせて満足げな表情のナキが僕の横で座っていた。
「少年が死んでる間に、腸を一つ一つ抉り取ったり、脳ミソを火で炙ったり、色々と試したんだが、どうやら死んでいる間はどんな傷でも治るようだぞ」
興奮気味に話していたナキだけど、その抉り取った腸や炙った脳ミソやもいだ手足はどこにいったんでしょうね。
無言で睨めつけると、ナキは目を剃らしながら片付けた理由を話始めた。
「いや、最初は取っておいて少年に見せようと思ってたんだ。でも大量に見せてさっきみたいに発狂したら困るだろ? ならちょっと残しといて後は捨てればいいと思ったんだよ。だけど見ての通り洞窟には捨てる場所がなくてね。それでどうしようかと考えたら、アタシは食人鬼。肉を食べるなんて朝飯前さ。なにしろ今は夜だからね、夜食さ。……で、少年が目覚める前に何とか大量の肉を処分出来たんで待ってる間に残しといた心臓を平らげたという訳さ」
「……つまり、待ってる間にお腹が空いたから全部食べました。そういうことだね?」
「その通りです。ごめんなさい」
僕がナキの言い訳をばっさり切り捨てると、ナキはすんなり頭を下げた。その気になれば僕なんて一瞬でひき肉に出来る存在に頭を下げられるなんて変な気分だ。
「話は変わるが、少年はこれからどうするつもりだ? 村に帰るのか?」
聞かれて僕は固まる。あの時、魔物に襲われるまではそのつもりだった。でも自分が不死の化け物になったと知ったら村の人達は、姉さんはどう思うだろう?
あの村は僕の人生そのものだ。もし、あの村から拒絶されたら僕はきっと堪えられない。首をへし折られてお腹を食い破られても、頭を弾けられても、お腹に大穴が空いても、どんな死に方をしても正気を保ってきた自分がへし折れるに違いない。
村に拒絶されるは出来ない。そんなことになったらスインクという人間が死んでしまう。
だから、いま考えてるのはナキみたいに俗世を離れて生きるか、スインクという名を捨てて別人として生きるか。
ナキみたいな生き方は僕みたいな弱者には出来ない。きっと孤独に堪えかねて棲みかから飛び出して、食われて生き返るの繰り返しの羽目にあう。そんなことになるのは御免だ。
だから僕が選んだのは後者だ。
「町へ行って冒険者になろうと思う。村に出たのもその為だし。」
僕の答えを聞き、ナキは何かを考えるように腕を組んで唸りながら上を向く。少しして、ナキは片膝を叩いてこっちを見る。
「よし、それならアタシもついていこう」
「え? なんで!?」
ナキの発言に、僕は思わず前のめりになる。
「なんでって、少年はこの洞窟が森のどこにあるか分からないだろ? それに少年一人じゃ町に着くどころか森を出ることも出来ないよ。だからアタシが連れてってあげる」
確かにナキのいう通りだ。ナキが付いてきてくれれば魔物に襲われても安心だ。
「でもいいの? ナキは食人鬼だから人目を避けて洞窟で暮らしてんじゃないの」
「いいのさ。それに角さえ見られなきゃアタシが化け物だなんて分からないよ」
そういうものなのか。確かに僕が聞いたことがある食人鬼って白い肌に骨と皮だけの老人みたいな姿をしているって話だ。それに比べてナキは褐色の肌だし、老人どころかどう見ても僕よりちょっと歳上ってくらい。とても話に聞く食人鬼には見えない。
「それで少年。町まで案内する代わりといってはなんだが、一つお願いがあるんだ」
ナキは伏し目がちにこっちの様子をチラチラ伺う。合わせた両手の指が世話しなく動いている。焚き火のせいか頬が赤く火照っているように見える。
「実は初めて会ったときから少年に付いていこうと決めていたんだ」
研ぎ澄まされた聴覚がナキの唾を飲み込む喉の音とその後の扇情的な吐息を漏れなく聞き取る。
「アタシ、もう少年じゃなきゃダメなんだ」
ナキが手を地面に付いてこっちに近寄ってくる。ナキの潤んだ瞳が僕を掴んで離さない。僕はその熱い視線に釘付けになってしまう。
「アタシが少年を守る。だから」
ナキの顔が直ぐ目の前までくる。ちょっとでも動いたら鼻が当たってしまいそうだ。ナキはそのまま近付いて顔の横をすり抜ける。耳に当たるナキの息がこそばよい。
「少年を食べさせて」
うん。分かってた。期待なんか、ちょっとしかしてなかったんだから。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
ようやくヒロインの登場です。姿の描写って難しいですよね。ぼちぼちと書いていこう思っていますけど、ほんとは最初に一気に書いたほうが読者はイメージしやすいんではないでしょうか。
ようやく、主人公の名前が出ました。スインクくんです。さっき名付けました。テキトーです。スインクくん、ごめんなさい。
次回も宜しくお願いします。
5/3 3話と4話を統合。




