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日本教 〜その禁教となった危険な宗教の末路〜  作者: 米森充


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 第二話 日本滞在第一日〜恐怖のトイレ〜

 俺の名はニック。

 同僚のビリーが彼女と行った日本旅行を境に、毎日の様に有無を言わさず日本旅行体験談を撒き散らすその理不尽な行為から逃げられないでいる。

 実はそんな辟易する前から、降りかかる同様の現象は体験済み。

 日本旅行の体験者である周囲の従兄弟《いとこ》や、家のお隣さんからも同じ興奮をぶつけられていたから。

 ハッキリ言ってアイツら、どうかしてるゼ!

 俺はあの忌々しい呪文の様な日本礼賛に次第に毒され、この目で見なければ気持ちが収まらない状態にまで症状が悪化した。


 俺にはパートナーも彼女も居ないし、友は居るが一緒に外国旅行に行く程濃密な付き合いをするまでの相手も居ない。

 だから気軽で身軽な身分とも言える。この歳になって男ひとりの海外旅行も悪くないかも?

 仕事がらみの出張と思えばそんなに不自然じゃないし。


 そんな訳でチケットを購入。

 取り敢えず一週間の予定で東京、京都、大阪を回るツアーを計画してみた。


 俺の住むアーカンソー州リトルロックからはクリントン国立空港からシカゴまで飛行機を乗り継ぎ、更に日本までは乗り継ぎ時間を含め約20時間以上もかかった。

 もうエコノミー症候群で心も身体もヘロヘロであるが、成田に到着すると何故か遂に日本に辿り着いた高揚感がアドレナリンを放出し、妙に興奮する自分がいた。

 空港内は床がピカピカで、場内アナウンス以外、利用客の話し声や雑踏音が聞こえてこない静寂に包まれた気がする。

 俺は真っ先に20時間も我慢していたトイレに入る。

 小だけじゃ済まない。大も出てきそうだったので、迷う事なく個室に入る。

 ドアが全面を塞ぎ、プライバシー保護とはこういう事か!と予想外の驚きの最初の洗礼を受ける。(故国アメリカのトイレ事情。ドアの下は足が見え、誰かが利用しているのが一目で分かる。でも・・・日本のトイレみたいに、ドアが閉まっていてもそれだけで使用中って分かるじゃないか。じゃぁ、完全に見えない方が落ち着くというもの。そんな簡単な理屈に今更気づくなんて、何だか不意に可笑しくなり『フッ!』と笑ってしまった。)

 そして便器に座り、また何かの違和感に気づく。

 あれ?この脇のリモコンは何だ?意味不明のボタンが沢山。

 そう言えば、日本旅行から帰ってきた者たちは、決まって変な病気に感染していたな。

 まるで熱病に侵された重症患者の様だったが、もしかしてその感染源はこれか?

 下手にボタンを押すと最後、病原菌かマイクロチップが肛門から注入されるとか?

『エイリアン』じゃないんだから、そんな子供じみた疑心暗鬼に翻弄される俺様じゃないぞ!

 試しに一つ、恐る恐る一番大きめのボタンを押してみる。

 ジー、ズーン。

 小さな電気起動音がして、何やら便器の中で何かが作動したのが分かる。

 ヤッパリ何かを注入しようとしている?

 思わず本能的に肛門の穴に力が入る。肛門が戦闘準備体制を瞬時に整え、臨戦体制に入ったが、同時に腰が引ける。何か注入されそうになったら飛び上がって回避行動に出るためである。

 しかし次の瞬間、予想だにしなかった斜め上からの攻撃を受ける。

 何と!水が肛門の穴目掛けて襲ってきたのだ!しかも連続波状攻撃で。

「ヒャッ!」俺は自分でも情けない!と恥ずかしくなる様な甲高い悲鳴をあげた。

 確か、左向こうの個室にも誰か入っていたはず。

 間違いなく聞かれたな。終わった・・・・。日本に到着して早々、俺は詰んだ。

 アメリカ代表として意気揚々と乗り込んできた誇り高きナイスガイの俺様が、こんな所で早々と玉砕するなんて・・・

 帰国したら仲間たちになんて言おう?

 トイレで『ヒャッ!』って叫んでスゴスゴと逃げ帰ってきたと?

 穴があったら入りたい・・・。

 そう思っていたら、何やら更にとんでもない事に。

 一瞬飛び上がった俺のケツは再び便器に収まると、便器内のノズルから引き続き容赦なく水のシャワー攻撃が続いていた。

 肛門に穴があったために、怪しい水が入ろうとする。

 しかも執拗に肛門の穴を的確に狙い済ませ、容赦なく侵入しようと。まさにエイリアン!

 このリモコンの存在に気付いた時、真っ先に感じた不吉な予感に従い、触るべきではなかった。俺は心から後悔した。


 しかし謂わば絶望の諦めの境地に浸り始めていたら、「ん?」何やら気持ち良い様な?妙な快感を覚え始めた。


 ウソだろう!この水のシャワーは肛門侵略を企図したものではなく、洗浄を目的にしているのでは?と今更ながら気づく。


 初めてそれが洗浄便座というものであると理解した。

 恐るべし!日本のハイテク!!しかも水が冷たくないし!!!

 水に当たって穴がキレイになった!

 この世に生まれて、生涯で一番清潔な肛門になった?


 日本がダントツ一番で『イグノーベル賞』の受賞実績が多いと小耳に挟んだ事がある。

 これがその一部か!欧米人が見向きもしない馬鹿げた研究を極めるその馬鹿馬鹿しさに真摯に取り組むその精神と努力を垣間見た思いがした。


 でもそんなに馬鹿馬鹿しいか?

 いや、とんでもない!洗浄便器は人類史上、最高の発明ではないのか?

 使ってみて初めて実感するこの凄さ!

 多分、これを経験しちゃったら、もう二度と知る以前に戻れないだろう。

 人類が火を使える様になった分岐点同様のターニングポイントだと真剣に思った。


 感動を胸に秘め、空港内の雑踏に戻る。

 トイレを探す時にはトイレでする事以外頭に無かった。

 だが、スッキリして戻ってみると、

「ん?何だろう、この違和感は?」

 近代的で洗練された空港施設に、また何か異様な物体を見つけた訳ではない。

 人の往来を掻い潜って歩き続けると、その混雑した雑踏が雑踏と感じない。

 人の流れがアメリカと何か違う気がする。

 何だろ?でも分からない。


 空港の外に出て空気を深く吸う。


 あれ?この感じ、故国アメリカと違う。空気に味と匂いがあるのか?この感覚は日本独自のものか?


 あぁ、東京行きの電車のチケットを買うのを忘れていた。空港内に一旦戻り、空港案内係を見つけ電車のチケット売り場と買い方を教わる。

 無事電車に乗り込み東京行きの車窓を楽しむ。もう眠いはずなのに流れる車窓の景色を見逃すのは勿体無い。

 そう言えば、『勿体無い』とは日本独自の発想らしい。

 日本とは無縁であった俺ですら自然に頭に浮かぶ『勿体無い』。

 日本病のインフルエンサーどもの影響はこんな俺にまで及ぶとは!恐るべし!日本!!


 電車を降り、予約していたビジネスホテルまで、徒歩の散策を楽しむ事にした。

 途中、俺にとっての晩飯に当たる食事を何処で摂ろう?

 もう22時になろうというのに街は昼間の様に明るく、何処を見渡しても危険を感じる要素を見つけられない。

 多分、裏の路地に迷い込んでも何の問題も無いだろう。

 一件の美味そうなラーメン屋をホテルの近くで見つけ、チェックインを済ませたら直ぐに戻ろう。

 ホテルのカウンターは自動入力システムが完備され、英文での手続きもスムーズに終える事ができた。

 しかも受付の係から鍵を受け取り、一言外食に出ると告げると笑顔で『行ってらっしゃいませ』と日本語で言い、丁寧なお辞儀をしてくる。

 日本語を解さない俺でも、何と言ったか意味が分かった。


 さっきチェックしていたラーメン屋の暖簾を潜ると、美味しそうな匂いに包まれる。

 俺の入店に気付くと一斉に店員の声。

「いらっしゃいませ!」何か、歓迎されてる?

 ここでも出入り口付近に自動券売機があった。

 しかも和文と英文をボタン一つで切り替えられ、トッピング全部載せの特製スペシャルラーメンを選択した。


 カウンター席に着くと係の店員がやってきて、ここでも丁寧にお辞儀して何やら話しかけてくる。

 どうやら券売機が発行したチケットをよこせ、と言っているのだろう。

「よこせ」なんて乱暴な態度ではなかったが、身振り手振りで理解した。

 待つ事10分あまり。注文のラーメンが運ばれてきた。

 クンクン。あぁ、美味そうな匂い。

 俺の故郷、リトルロックにもラーメン屋はある。

 もちろん俺も食べてみた。

 でも、マズイ!ラーメンってこんなもんか?って思っていた。

 でも折角の本場のラーメン。店構えも、いかにも美味そうなメニューを出していそうだし、一丁試してみるか?と冒険してみたが、ここのラーメンは違う!

 スープも麺も全くの別物だった。トッピングのチャーシューも卵もメンマも格別で、しかもアメリカの半額程の値段。円とドルのレートの面倒な計算を後回しにしていたが、ラーメンを待つ間に改めて計算してみて改めて日本の物価の安さを実感した。

 ウソだろ?

 安くて美味い!天国だろ!

 しかも店員の態度は感じ良いし、チップも要らない。


 故国アメリカでの生活って、一体何だったんだ?


 俺はまたまた衝撃を受けた!

 そして食い終わり店を出ようとすると、また「ありがとうございました!」の合唱が始まる。

 そんなにされたら、帰って恐縮してしまう。

 ただのラーメンを食いに来た客に過ぎないのに、やり過ぎじゃないか?

 俺は決して謙虚な男ではないが、それ程図々しい訳でもない。


 俺がおかしいのか?

 この国がクレージーなのか?


 ヤッパリこの違和感の正体は分からないまま。


 ホテルに戻り、預けていた荷物をカウンターから受け取り、初めて部屋に向かう。

 ドアキーをセットして室内に入ると、中は予想通り狭い。

 でも全てが機能的に収まり、不快感や閉塞感は無い。

 全体的に清潔なのだ。

 これならグッスリ眠れそうだ。

 ベッドに倒れ込むと、一気に眠気が身体全体を支配する。


 これが日本滞在初日の波乱に満ちた滞在記である。

 明日以降の事件記録は次回にて。








 つづく


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