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神々に願った、たった一つの愛  作者: 狹霧
第9章 「戦神ザルグレス」
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第47話「封印されし神」

数千年前。

まだ神々が人間界へ直接干渉することのできた時代、天界と人間界の間には、今よりも遥かに近い繋がりがあった。神々が人間たちの暮らす世界へ姿を現すことも珍しくなく、邪悪な存在が現れれば、その力を振るって人々を守ることもあった。

そんな神々の中に、一柱の神がいた。


その神の名は、ザルグレス。

彼は戦うための神だった。天界に邪悪な存在が現れればその前に立ち、人間界で人々を脅かすものが現れれば、そこへ降り立つ。戦い、その力で打ち倒す。それが、ザルグレスに与えられた役目だった。

ある日、人間界のある場所に、大地を震わせるほど巨大な邪悪な存在が現れた。

逃げ惑う人々の前へ、一つの影が降り立つ。

地面へ足を着けたザルグレスは、ゆっくりと顔を上げ、その巨体を見据えた。

邪悪な存在が咆哮する。

声が響くたび大気が震え、周囲の建物まで揺れた。人々が恐怖に身を縮める中、ザルグレスだけは動かない。

「人間界で好き勝手するな」

次の瞬間、ザルグレスは大地を蹴った。

一気に距離を詰め、真正面から挑みかかる。激しい衝撃が周囲へ広がり、足元の地面が砕けた。相手の攻撃を受け止めて押し返し、間髪を入れず拳を叩き込む。吹き飛ばされてもすぐに立ち上がり、再び間合いへ入る。

長い戦いの間、ザルグレスは一度も背を向けなかった。

やがて、邪悪な存在の動きが鈍る。

最後の一撃を受けた巨体が大きく揺れ、そのまま大地へ崩れ落ちた。

戦いが終わった。

ザルグレスは倒れた存在が動かないことを確かめてから、周囲へ目を向けた。先ほどまで身を伏せていた人々が、恐る恐る顔を上げている。

その中の一人が、震える声で呟いた。

「……神様……」


ザルグレスは答えなかった。

人々が無事であることだけを確かめると、空を見上げる。

「終わったな」

それだけを残し、天界へ戻っていった。

天界では、剣についた血を落とし、刃の欠けを確かめる。手入れを終える頃には、地上で浴びた歓声も泣き声も遠くなった。

救った人々の名を尋ねることはなく、自分の名がどう語られるかにも関心を持たない。地上に暮らしが残った。その事実だけを胸に、次の呼び声を待った。

人々を救い、邪悪な存在を打ち倒す。それは、誰かに感謝されるための行いではなかった。称賛にも興味はなく、戦いが終わったあと人間界へ留まる理由もない。

次に邪悪な存在が現れれば、またそこへ向かう。

ザルグレスにとっては、それで十分だった。

もっとも、すべての邪悪な存在を神の力だけで滅ぼせるわけではない。中には、どれほど力を振るっても完全には倒しきれないものもいた。

そうした相手を前にしたとき、ザルグレスは別の方法を選んだ。

「……ここに置いておくわけにはいかないな」

倒しきれないのであれば、人間界から遠ざける。

ザルグレスは邪悪な存在を追い詰め、その力で押さえ込みながら、行き先を魔界へ定めた。人間界に残せば、そこに暮らす人々の命が危険に晒される。ならば、人の暮らす場所から切り離すしかない。

「人間界には戻るな」

最後にそう告げる。

邪悪な存在の姿が、魔界へ落ちていく。

それを見届けると、ザルグレスは静かに背を向けた。

天界であろうと人間界であろうと、邪悪な存在が現れれば戦う。倒せるものは倒し、どうしても滅ぼせないものは魔界へ落とす。

ザルグレスが剣を握る理由に、複雑なものはなかった。

彼の戦いによって救われた人々は、数え切れない。

その多くは、名前も知らない者たちだった。顔すら見たことのない者もいる。ザルグレスが彼らの人生を知ることはなく、人々もまた、自分たちを救った神がどこから来て、どこへ帰っていくのかを知らなかった。

それでも、邪悪な存在が去ったあとには、人々の暮らしが残った。

ある日、人間界の小さな町で戦いを終えたザルグレスは、傷ついた大地を眺めながらしばらく立っていた。

地面には深い亀裂が走り、建物のいくつかは壊れている。

それでも、町そのものは残っていた。

人々も生きている。

ザルグレスは周囲を見渡し、それから空へ顔を向けた。

その先に天界がある。

自分が帰るべき場所だった。

何も言わず、天へ戻っていく。

人間たちは、その姿が遠ざかるのを見送った。

「戦神様だ……」

誰かが呟く。

別の誰かが、その名を口にした。

武神。闘神。戦神。

呼び方は違っても、指している神は一人だった。

ザルグレス。

この時代、彼はまだ神として存在していた。邪悪な存在が現れれば戦い、人々の暮らす世界を守る。天界へ戻れば、次の戦いを待つ。

それが、戦神ザルグレスの在り方だった。

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