幕間「対厄災兵器」
魔導帝国の地下には、地上の宮殿よりも広い区画がある。
陽の光が届かない石造りの空間を、魔導灯の白い光が照らしていた。壁際には大小さまざまな魔物の骨や甲殻が並び、中央では何人もの研究者が巨大な金属の骨組みを取り囲んでいる。
帝国が長い年月をかけて集めてきた魔物の素材。その中でも特に強靱なものだけが、ここへ運び込まれていた。
目的は一つだった。
厄災に対抗できる兵器を作ること。
神々の神託によって存在を知らされた厄災は、一体だけでも国を滅ぼしかねない。さらに、世界最強の勇者と呼ばれる少女が、いつまでも帝国に友好的である保証もない。
勇者かすみ。
各地を旅し、すでに複数の厄災を討ち取った少女。
帝国にとって彼女は英雄であると同時に、決して無視することのできない力でもあった。
「見つかったぞ!」
地下へ駆け込んできた男の声に、研究者たちが一斉に振り返った。
運び込まれた箱の中には、黒く変色した硬い欠片が入っている。
かすみが討伐した厄災。その戦場を何度も調べ、ようやく回収した遺骸の一部だった。
すべての戦場で素材が残っていたわけではない。すでに持ち去られたものもあれば、戦いによって砕け、利用できる状態ではなくなったものもある。
それでも帝国は探し続けた。
やがて二体分の厄災の素材が集められた。
硬度。魔力への耐性。熱への反応。衝撃を受けたときの変化。
調べられるものは、すべて調べた。
魔物の素材と組み合わせ、術式を書き換え、失敗するたびに部品を作り直す。
年月と予算が消えていった。
それでも研究は止まらなかった。
そして地下の最奥に、それは立った。
人の何倍もの高さを持つ、巨大な人型の兵器だった。
胸部には人が乗り込むための空間があり、操縦者が内部から手足を動かせるよう、いくつもの魔導具が組み込まれている。外装の一部には厄災の素材が使われ、通常の魔物ならば近づくことさえ難しいほどの魔力が内部を巡っていた。
試験場で巨大な腕が持ち上がる。
拳が振り下ろされ、分厚い岩壁が砕けた。
歓声が上がった。
「成功だ!」
研究者の一人が拳を握る。
「これならば、これまでの兵器とは違う。厄災が現れても、ただ逃げるしかなかった時代は終わる!」
軍の者たちも満足そうに巨大な兵器を見上げていた。
その中で、一人の一般兵だけが黙っていた。
上官が気づく。
「どうした」
「いえ……」
「構わん。言ってみろ。この兵器を見てどう思う」
兵士はしばらく巨大な兵器を見上げた。
それから、その外装に使われている黒い欠片を見る。
「これ……そもそも、この厄災たちを討伐した勇者には勝てないのでは?」
地下が静かになった。
研究者たちが兵器を見る。
軍人たちも兵器を見る。
誰も答えなかった。
しばらくして、責任者が設計図を手に取った。
「……出力を上げる」
さらに開発は続く……




