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神々に願った、たった一つの愛  作者: 狹霧
第2章 「百八の世界と最後の召喚」
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第12話「八十の封印」

百七の厄災を、どうするのか。

答えを迫られた第百八世界の神々の前で、大地はすでに悲鳴を上げていた。炎に呑まれた野、氷に閉ざされた谷、毒に黒ずむ森。遠雷のような轟きが絶えず、そこにいるだけで命を蝕むものまでが、同じ世界にひしめいている。

一体ならば、神々が力を合わせれば退けられるものもあった。だが百七体を相手に、一体ずつ討つ猶予はない。ひとつへ力を注ぐ間に別の厄災が国を滅ぼし、倒し終える頃には次が動き出す。しかも、炎を抑えた術が毒に通じるとは限らなかった。

「封じるしかない」

神々が人間界へ直接手を伸ばすことは、本来許されていない。声を神託として届けることはできても、地上へ降り、自らの手で厄災を討つことも、望むままに神器を与えることもできなかった。

第百八世界の神々は、その境を何度も破ってきた。他世界から勇者を召喚し、厄災を追いやり、最後には譲まで呼び寄せた。それでも何もかも自由にできるわけではない。百七体を前にしてなお、人間界へ形あるものとして干渉できる余地は、ほとんど残されていなかった。

用意できたのは、一つだけだった。

手のひらに乗るほどの小さな壺。淡い色の器肌には、性質の異なる存在を閉じ込めるための術式が隙間もなく刻まれている。

複数の器へ分けて封じることはできない。この一つに、可能な限り多くを収めるしかなかった。

最初の厄災へ、神々は一斉に力を放った。

術式の光が巨大な影へ絡みつく。影が身をよじるたび地面が抉れ、砕けた土が空を覆った。壺の魔法陣が眩く燃え、厄災の姿は抗うほどに縮んでいく。最後に光が弾けると、影は地上から消えた。

壺の中へ、最初の一体が封じられた。

休む間もなく、次の厄災へ向かう。炎には熱を鎮める術を、氷には凍結を縛る術を重ねた。雷には流れを断つ術、毒には広がりを塞ぐ術が要る。一体ごとに術式を組み替え、一体ごとに神力を削られた。

十体を越えた頃には、術を結ぶ指に震えが生じた。ひと息つく間にも、遠くでは別の厄災が動いている。赤く染まった空の下で火の手が広がり、別の方角からは地響きが届いた。

神々は休めなかった。一体を封じ終えるたび、すぐに次へ向かう。数十体に達すると、呼吸を整える暇さえなくなった。止めれば、その間にも外に残る厄災が人々の暮らす場所へ近づいていく。

封印のたび、壺の表面を光が走った。やがて、その流れに小さな滞りが生まれる。魔法陣の明滅は揃わなくなり、器そのものが内側から押し返されるように震え始めた。

一柱が壺を見つめた。まだ外には、封じた数に迫るほどの厄災が残っている。器を替えることはできない。ここで止めれば、そのすべてが地上に残る。

次の厄災へ術式が伸びた。

壺は耐えた。

八十体目を前にしたとき、神々の顔からはとうに余裕が消えていた。残る力を集め、最後の術式を組み上げる。

厄災が吼え、大地が沈んだ。流れ込もうとする力が逆巻き、魔法陣の一部が砕けかける。

「……封じろ」

掠れた声が重なった。

神々は退かなかった。光に削られた厄災の姿が崩れ、最後の一片まで壺へ吸い込まれる。

八十体。

百七体のうち、八十体を封じた。外には、なお二十七体が残っている。

神々は八十一体目へ術式を伸ばした。だが、光は壺の表面で弾かれた。

もう一度、術を組み直す。力の流れを変え、別の神も加わった。八十一体目の厄災を包んだ光が壺へ引き寄せようとするが、器の魔法陣は激しく明滅し、押し戻す。

神々の視線が、荒れた大地へ向いた。二十七体。その一体一体が、封じてきたものと同じように国や町を滅ぼし得る。八十体を封じたという事実だけでは、世界を守ったことにはならなかった。

やがて一柱が膝をついた。続いて別の神も地に手をつき、維持していた術式が一つずつ消えていく。

壺が限界を迎えたのか、神々の力が先に尽きたのか。確かめる力さえ、もう残っていなかった。

小さな壺には八十体。荒れた大地には二十七体。

封印は、そこで止まった。

神々は最後の力を振り絞り、封印の壺に蓋をした、蓋が閉じた瞬間、器は激しく震えた。

神々は互いの顔を見たあと、外に残された厄災へ視線を戻した。八十体を封じた代償に、立っていることすら難しい。

二十七体を、どうするのか。

次に選ばなければならないのは、その答えだった。

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