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Fu◯k up my tongue, or just kill me."  作者: 虹の箸


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『リアル』⁈ ハッハッ

牙王たちによる時雨の拉致・暴行事件は、瞬く間に地元の不良やヘッズたちの間で生々しい噂として広まった。

主犯格である牙王とその取り巻きたちは、当然のように警察に身柄を拘束され、少年院送りが決定したという。風の噂によれば、牙王は捕まる際、反省するどころか「これで俺の『リアル』に箔がつくぜ」とうそぶいていたらしい。

誰もいない無機質な病室。ベッドの上に横たわる時雨は、天井のシミを見つめながら、包帯の下でひどく冷たい笑みを漏らした。

(……リアルに箔がつく、か。馬鹿馬鹿しい)

泥水をすするストリート。底辺からの成り上がり。不良ワルの勲章としての前科。

牙王がマイクを握って必死にアピールしていた「リアル」とやらが、時雨からすれば酷く滑稽な「不良ごっこ」にしか見えなかった。

『リアルって何だよ?』

時雨は心の中で吐き捨てた。

仲間とつるんで悪ぶることがリアルだと言うなら、そんなものは生ぬるいお遊戯だ。

本当の地獄リアルは、もっと静かで、息が詰まるような日常の裏側にべっとりとへばりついているものだ。時雨は、今まで誰にも語ったことのない自分自身の過去を思い返していた。

時雨がまだ幼い頃、両親は離婚し、彼は母親に引き取られた。

もともと稼ぎの良い父親の「金」目当てで結婚し、自身の浮気がバレて追い出された女だった。シングルマザーとなった彼女は働くわけでもなく、次から次へと男を取っ替え引っ替えしては、狭いアパートの部屋に連れ込んだ。

幼い時雨が部屋の隅で毛布を被って震えている前で、母親は男と酒を飲み、獣のように盛る様子を平然と見せつけた。

出入りする見知らぬ男たちは、時雨の怯えたような、あるいは軽蔑するような視線が気に入らなかったのだろう。

「なんだこのガキ、生意気な目しやがって」

そう言って、理不尽な理由で何度も殴られた。蹴られた。しかし、母親が時雨を庇うことは一度たりともなかった。面倒くさそうに煙草を吹かしながら、テレビのバラエティ番組を見て笑っているだけだった。

そんな狂った生活が何年か続いたある朝、時雨が目を覚ますと、部屋には誰もいなかった。

カビ臭いちゃぶ台の上に、千円札ではなく、まるで手切れ金のようにポンと置かれた「一万円札」が一枚。それが、母親からの最後のメッセージだった。

その後、時雨は父親に引き取られることになった。

金回りの良かった父親は、すでに新しい、若く上品な女と再婚しており、そこには生まれたばかりの新しい命があった。美しいマイホーム。絵に描いたような幸せな家族。

そこに、浮気した前妻の血を引く、薄汚れて無口な少年の居場所などあるはずもなかった。

父親は時雨に一切の関心を寄せなかった。虐待すらしなかった。ただ、「空気」のように扱った。

そして時雨が高校に進学するタイミングで、父親は学校の近くにある古びた単身用アパートに彼を放り込んだ。

『いいか、これからは一人でやっていけ。最低限の生活費と学費は振り込んでやる。だが、お前からの連絡はよほどの緊急事態以外、最低限にしろ』

冷たい目でそう言い放ち、父親は去っていった。

こうして、時雨は世界から完全に切り離された。親の愛も、家庭の温もりも、ストリートの仲間すらも、彼には何もなかった。

だから、本を読んだのだ。

本は彼を殴らなかった。辞書は彼を無視しなかった。物語の中だけが、世界で唯一、時雨を「透明人間」にしない場所だった。牙王のような借り物の「不幸自慢」をマイクでひけらかす気になどなれなかった。底辺の深さが、孤独の質が違うのだ。

(……僕が持っているのは、あのちゃぶ台の一万円札と、この辞書の言葉だけだ)

「……ふぅ」

時雨が痛む胸を押さえて長いため息を吐き出した、その時だった。

「シグれん、ちっす! 今日も生きてるー!?」

ガラッと乱暴に病室のドアが開き、鼓膜を揺らすような明るい声が飛び込んできた。

いつものように制服を着崩し、コンビニのビニール袋(中には大量のプリンと漫画雑誌が入っている)を提げた未蘭だ。彼女の派手な金髪と甘ったるい香水の匂いが、時雨を包み込んでいた重苦しい暗闇を、一瞬で強引に塗り替えた。

「星野さん……病院では静かにしてくださいって、昨日も言ったはずですけど」

「細かいこと気にすんなし! ほら、今日はスペシャルゲスト連れてきたから!」

未蘭がパッと道を譲ると、その後ろから、場違いな黒い革ジャンを着た大柄な男が病室に入ってきた。

ライブハウス『ROOTS』のオーナー、マスターだった。

「……よぉ。随分と派手にやられたな、お前」

マスターは、顎髭を撫でながら、ミイラのように包帯を巻かれた時雨を見下ろした。病院だというのに、彼の服からは微かに煙草とライブハウスの地下の匂いがした。

「マスター……わざわざ、すみません」

「気にすんな。うちの期待のルーキーが潰されたって聞いちゃ、顔出さねえわけにもいかねえだろ」

マスターはパイプ椅子を無造作に引き寄せてドカッと座ると、鋭い、しかしどこか温かみのある目で時雨を真っ直ぐに見据えた。

親から見捨てられ、たった一人で暗闇を歩いてきた時雨にとって、今目の前にいるこのやかましいギャルと無骨な男は、間違いなく自分を現実に繋ぎ止めてくれる「初めての繋がり」だった。

「で?」

マスターが低く通る声で本題を切り出す。

「星野から聞いたぜ。あんな目に遭って、まだラップ続けるつもりなんだってな?」


お読みいただきありがとうございました。

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