summit
女王が選んだ5人の原石
過酷なバトルロイヤルの末、SARAが最終的に名前を呼んだのは、たった5人の少女だった。
「優等生のお遊戯会は終わり。私が欲しいのは、世界を喰い破るバケモノよ」
そう宣言して選ばれたのは、あまりにもバランスを度外視した、しかし強烈な引力を放つ歪な布陣だった。
1人目は、圧倒的なスキルとビジュアルでオーディションを無傷で勝ち上がってきた完成された絶対的エース、レイナ。
2人目も同じく、幼少期からのキャリアに裏打ちされた完璧なダンススキルを持つバランサー、ミウ。
3人目は、奇抜なファッションと誰も思いつかないようなフリーキーな歌声で異彩を放つ、ニカ。
4人目は、ダンスも歌も未経験ながら、野生動物のような勘と本能だけでこの地獄の合宿を生き残ってきた驚異のポテンシャル枠、ソラ。
そして最後の5人目が、時雨が気まぐれに命を繋ぎ、地下のライブハウスでオーディエンスの首を縦に振らせた不格好なラッパー、リンだ。
エリート、異端児、そして野良犬。
あまりにも毛色の違う5人の結成にネット上は賛否両論で荒れたが、それすらもSARAの手のひらの上だった。
時雨は約束通り、彼女たちのデビュー曲のラップディレクションを引き受けた。
スタジオのブース内で、リンをはじめとするメンバーに徹底的にビートへのアプローチを叩き込む。かつての無関心な「モブ」の姿はそこになく、妥協を許さない鬼のディレクターとして、彼女たちの喉から血の滲むようなグルーヴを引きずり出した。
レコーディングの最終日。
ミキシングコンソールに寄りかかりながら、時雨はコーヒーをすするSARAに問いかけた。
「……なあ。こいつら、確かに面白いチームになったとは思うが、世間にウケなかったらどうするつもりだ? アンタの名前の傷になるかもしれないんだぞ」
時雨の問いに対し、SARAはふっと鼻で笑い、つまらなそうに窓の外の夜景を見た。
「別に。コケたところで、私の王座が揺らぐわけじゃないわ。それに……」
SARAは形の良い唇に、不敵で傲慢な笑みを浮かべる。
「これだけ世間の注目を集めて、業界の話題をかっさらった時点で、私の『類稀なるプロデューサー』としての最高の名刺代わりになったしね。 彼女たちのデビューは、もう私のプロジェクトの『結果』じゃなくて、次のステージへの『踏み台』よ」
自分の手塩にかけたグループのデビューを目前にして、「もう終わったこと」のように言い切るその残酷なまでのドライさ。
(……マジで敵わねえな、この女には)
呆れを通り越して、時雨は密かにリスペクトを抱いた。アーティストとしての狂気だけでなく、ビジネスを冷徹に回す絶対的な支配者としての顔。それこそが、SARAがメインストリームの頂点に君臨し続ける理由なのだ。
そして迎えた、メジャーな大型音楽番組でのデビューステージ。
新人としては異例のゴールデンタイム生放送でのパフォーマンスだったが、結果から言えば、彼女たちのステージは大成功を収めた。
レイナとミウが完璧な土台を作り、ソラが野性のエネルギーでステージを駆け回り、ニカのフリーキーな声がスパイスを加える。そして曲のハイライト。重低音が響き渡る中、センターに躍り出たリンが、時雨直伝のザラついたフロウでマイクに食らいついた。
不器用で、泥臭くて、けれど誰よりも生々しいそのラップは、テレビの前の視聴者を釘付けにした。SNSのトレンドは一瞬にして彼女たちのグループ名で埋め尽くされ、確かな「熱狂」がそこにはあった。
出番を終え、バックステージに戻ってきた5人は、プレッシャーから解放されて抱き合い、涙を流していた。
だが、感動の余韻に浸る時間は短かった。
番組の目玉企画『師弟対決スペシャル』。
CM明け、強烈なスモークとレーザーに包まれたメインステージに現れたのは、SARAと時雨だった。
披露されたのは、時雨がスランプを抜け出し書き上げた、傲慢なまでの自分達の実力を歌った、Saummit(SARA feat. 時雨)。
ビートが鳴った瞬間、スタジオの空気が、いや、テレビを通じた日本中の空気が一変した。
つい先ほどまで新グループの5人が見せていた「若さと熱気」など、瞬時に吹き飛ばすほどの圧倒的な存在感。
SARAの天上を貫くような透明かつ暴力的なボーカルが響き、そこに時雨の研ぎ澄まされた、深淵から這い上がるようなラップが絡みつく。
酸いも甘いも噛み分け、地獄を見てきた本物だけが出せる、絶対的な「格の違い」。
それは、先ほどまで称賛を浴びていた5人の少女たちにとって、あまりにも残酷な現実の提示だった。
「……すごい」
モニター越しにステージを見つめていたリンが、震える声で呟いた。
悔しさすら湧かないほどの、圧倒的な力の差。自分たちがどれだけ背伸びをしても、まだ彼らの足元にも及ばないという事実を、これでもかと見せつけられていた。
だが、その目に絶望はなかった。
曲が終わり、静まり返ったスタジオに割れんばかりの歓声が響き渡る。
カメラに抜かれた時雨は、軽く息を吐きながら、モニターの向こう側にいるであろう5人の「弟子」たちに向けて、ニヤリと不敵に笑いかけた。
『俺たちを食うつもりなら、死ぬ気で昇ってこい』
言葉には出さないが、その瞳は確かにそう語っていた。
絶対的な頂点を見せつけることで、逆に彼女たちの心に火をつける。残酷な師弟対決は、怪物の恐ろしさを刻み込むと同時に、少女たちがこれから切り拓くべき「新しい可能性の果て」を、鮮烈に照らし出していた。
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