Battle Royale
大物プロデューサー、ミリオンセラーのラッパー、さらには国民的アイドルグループの元センター。
SARAのコネで次々とスタジオを訪れる豪華な特別講師たち。彼らは時に候補者たちを優しく励まし、時に厳しい言葉でディスり、カメラの前で意図的なドラマを生み出していった。
重圧に耐えかねて泣き出す者、ライバル同士でバチバチに火花を散らす者、そして極限状態の中で芽生える女子同士の熱い団結。
ドキュメンタリー番組としては完璧な、ある意味で「パターン化」された感動のプロセスを経て、オーディションはいよいよ大詰めを迎えつつあった。
数多の脱落者を見送ってきた過酷な合宿を生き残ったのは、選りすぐられた15人のエリート候補生たち。
そして、時雨の気まぐれな鶴の一声で「保留」という名の首の皮一枚で繋がり続けている異端のプラスワン——リンを含めた、計16人である。
この一ヶ月に及ぶ壮絶な現場において、時雨はと言えば、実はほとんど参加していなかった。
たまにスタジオへ顔を出しては、審査員席の端で「まあ、いいんじゃね」「もっと腹から声出せよ」と、おまけ程度にそれらしいことを言うだけの、完全に「モブ」と化した存在だった。時雨の頭の中は、自宅で待つ未蘭と生まれてくる子供のこと、そして自分の新しいアルバムの制作でいっぱいで、他人の人生になどどうでも良かったのだ。
だが、奇妙な現象が起きていた。
時雨がスタジオに足を踏み入れるだけで、候補生の少女たちはピリッと背筋を伸ばし、最敬礼で彼を迎えるのだ。
初日に見せつけた圧倒的なフリースタイルのスキルに圧倒されているのはもちろんのこと、絶対的な独裁者であるSARAが、時雨の(適当な)意見だけは「そうね、一理あるわ」と割と素直に聞き入れる姿を、彼女たちは何度も目撃していたからだ。
「あの人は、SARAさんが認めた『本物』なんだ」
少女たちの間で、時雨はすでに「裏ボス」として認識され、リスペクトを集めていたのである。
最終審査を目前に控えたある日。
コントロールルームで、これまでのダイジェスト映像を気怠そうに眺めていたSARAに向かって、時雨は何の気なしに口を開いた。
「なあ。こいつら、練習室で踊ってばっかだけどよ」
「何?」
「そろそろ、客の前に立たせてみたらどうだ? チームをいくつか分けて、曲ごとにメンバー入れ替えたり、クロスオーバーさせたりして、小さなハコでショーケースギグをやらせるんだよ。スタジオの鏡の前で綺麗に踊れるかどうかなんて、現場のライブじゃクソの役にも立たねえだろ」
時雨としては、かつて自分がアンダーグラウンドのクラブで、客の冷たい視線やヤジを浴びながら叩き上げられてきた経験から出た、ごく単純で無邪気な進言だった。ストリートの空気を吸わせた方が、手っ取り早く実力がわかる。ただそれだけのことだ。
しかし、その言葉を聞いたSARAの目の色が、スッと変わった。
彼女は映像を止め、ゆっくりと振り返って時雨を見た。その唇には、獲物を見つけた肉食獣のような、酷薄で美しい笑みが浮かんでいた。
「……それだ」
「え?」
「チーム分けしての、ライブ形式でのパフォーマンス審査。お客さんの反応もダイレクトにわかるし、誰が誰の足を引っ張っているか、誰がステージで『誰を食うか』……残酷なまでに可視化されるわね」
SARAは手元のマイクのスイッチを入れ、スタジオでストレッチをしている15人の候補生たちに向けて、冷徹な声を響かせた。
『全員、聞いて。時雨プロデューサーからの提案で、最終審査の形式が決まったわ』
(……おい、俺のせいにすんなよ)という時雨の焦りをよそに、SARAの無慈悲な宣告は続く。
『3チームに分かれて、来週、実際のライブハウスでショーケースをやってもらう。最初のチームの編成は自由にして。その後チームメンバーをこちらで入れ変える。て、もちろん、その時の客の反応が一番悪かったチームから……連帯責任で落とすから、そのつもりで』
スタジオの空気が、一瞬にして凍りついた。
16人の少女たちの顔から血の気が引いていくのが、ガラス越しでもはっきりとわかった。今まで「仲間」として励まし合ってきた者同士が、今日からは生き残りを懸けた敵となり、あるいは自分の人生を道連れにするかもしれない「爆弾」となるのだ。
「……おい、SARA。俺は別に連帯責任で落とせなんて言ってねえぞ」
「あら、ショーケースってそういうものでしょ? 時雨、あなた本当にいいアイデアを出すわね」
楽しそうに笑うSARAの横で、時雨は頭を抱えた。
自分の何気ない一言が、限界ギリギリの少女たちを、血で血を洗う残酷で過酷なバトルロイヤルへと突き落としてしまったことに、彼はほんの少しだけ悪いことしたなと思い、せめて自分に任されたライムだけは気合を入れるかしゃーねーと思うのだった。
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