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Fu◯k up my tongue, or just kill me."  作者: 虹の箸


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Audition

スランプを脱し、新たなリリックを生み出し始めた時雨に、SARAが持ちかけてきたのは、想像を絶する巨大プロジェクトだった。

「新しいレディースのヒップホップダンスグループを発掘して、私が全面的にプロデュースするわ」

マンションの地下スタジオ。エスプレッソマシンの前でコーヒーを注ぎながら、SARAは事もなげに言った。

彼女の構想はこうだ。全国から集めた才能ある少女たちをオーディションで選考し、その過酷なサバイバルの過程をドキュメンタリー番組として密着放送する。そして最終的に選ばれたメンバーで大々的にデビューさせるという、音楽業界の覇権を握るような大掛かりな企画だった。

「それで、アンタにはその番組の審査員の一人として出てもらう。それと、彼女たちのデビュー曲のラップパート、作詞とレコーディングのディレクションもお願いね」

「……は?」

時雨は言葉を失った。

「いや、ちょっと待ってください。俺が審査員? 冗談キツイですよ。俺なんて、あなたとの曲でようやく世に出たばかりの、ぽっと出の新人みたいなもんです。他人の人生を左右するような資格なんて、どこにもない」

全力で辞退しようとする時雨に、SARAはコーヒーカップを持ったまま振り返り、妖艶な、しかし絶対に逃げ道を許さない笑みを浮かべた。

「資格? そんなもの、あの曲でとっくに証明してるでしょ。それに……」

SARAは、天井を指差した。その上には、未蘭が安心して眠る、鉄壁のセキュリティに守られた超高級マンションの部屋がある。

「アンタ、私にデカい借りがあるんじゃないの? 愛する家族を守るための城の家賃、そろそろ払ってもらおうかしら」

痛いところを突かれ、時雨は沈黙するしかなかった。

「……分かりましたよ。やります。やればいいんでしょ」


数週間後、都内の大型スタジオ。

カメラの赤いランプがそこかしこで光る中、オーディションの最終選考に残った数十名の少女たちが、壁際に並んで座っていた。彼女たちは皆、並外れたダンススキルと歌唱力を持ち、すでにインディーズやSNSで何十万というフォロワーを抱える猛者たちばかりだ。

審査員席の端に座る時雨の耳に、休憩中の少女たちの囁き声が意図的に聞こえるボリュームで届いてきた。

「ねえ、なんであんな陰キャっぽい人が審査員なわけ?」

「SARAさんの曲でバズっただけの、ただのラッキーボーイでしょ?」

「私たちの方が絶対キャリア長いし、あんなのに評価されるとかマジでウケるんですけど」

彼女たちの目に宿っているのは、若さゆえの万能感と、ぽっと出の時雨に対する明確な見下し、そして「生意気な自信」だった。

カメラマンやディレクターたちが、不穏な空気にピリつき始める。ドキュメンタリーとしては「おいしい」展開だが、一触即発の事態だ。

時雨はゆっくりと立ち上がり、審査員席の前に置かれていたマイクを手に取った。

スタジオの空気が、凍る。


時雨はマイクを口元に寄せた。

次の瞬間、放たれたのは言葉の暴力そして、圧倒的な『本物』の証明だった。

時雨の口から飛び出したのは、先ほどの少女たちのヒソヒソ話を完璧にサンプリングし、痛烈な皮肉で韻を踏み倒した即興のアカペラのフリースタイルラップだ。


SNSの数字だけで肥大化したエゴを切り裂き、綺麗に着飾っただけの覚悟の薄さを容赦なく暴き出す。かつて地下のクラブで、血気盛んなハスラーたちを相手にマイク一本で生き抜いてきた男の、本物の「殺気」がそこにはあった。

声の出し方、息継ぎのタイミング、ビートへのアプローチ。すべてが次元を超えている。

テレビやスマホの画面越しではなく、生で叩きつけられる圧倒的な実力と、路地裏で培われた凶暴なまでのグルーヴ。

たった1分間。

時雨が最後のライムを冷酷に吐き捨て、マイクを下ろした時、スタジオは水を打ったような静寂に包まれていた。

さっきまで生意気な笑みを浮かべていた少女たちは、血の気を失い、震える足で立ち尽くしている。中には、あまりのプレッシャーと力量差に涙目になっている者すらいた。「自分たちがどれほど井の中の蛙だったか」を、細胞レベルで叩き込まれたのだ。

「……ま、口を動かす前に、やることやれってことだ。」

時雨が静かにそう告げた直後。

審査員席の中央でその様子を腕組みして見ていたSARAが、ゆっくりと立ち上がった。

「さ、ダンスの審査始めるわよ」

振付師と二言三言声を交わし、彼女は、恐怖で固まる少女たちをぐるりと見渡し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「それと、ここ、が『本物』よ。……精々、食らいついてきなさい」


「後はよろしく」

ヒールの音を高く響かせながら、SARAはそれだけを言い残し、圧倒的なカリスマのオーラを纏ってスタジオから立ち去っていった。


残された少女たちの目に、この場を舐めるような侮蔑の色はもう無い。そこにあるのは、越えなければならない巨大な壁に対する、純粋な畏怖だけだった。


お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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