Drop
ラップになってないラップをかきます。
ごめんなさい。
妻に子どもができたと告白を受けたんだ。俺はラップしかできないし、だからラップを紡いだ。聞いて欲しいんだ。聞いてやってくれ。頼む。
ああ、これが俺の人生だ
俺自身のライムで紡ぐ、俺の言葉
誰かを心の底から愛して、その人のためなら利き腕を投げ出せると思ったことはあるか?
ただの例え話じゃない、マジで利き腕を差し出せるってことだ。
俺の命なんてどうでもいい。
彼女が俺の心臓で、俺が彼女の盾だって互いに分かっている時
彼女を傷つけようとする奴がいたら、俺は誰であろうとぶっ潰す
だけど、その名声が手のひらを返して、自分に牙を剥いてきたらどうする?
自分が信じてきた地下が、嫉妬で自分を攻撃し始めたら?
このマイクが、彼女を苦しめる一番の原因になっちまったらどうするんだ?
「シグれん、見て! ご飯できたよ!」
「ごめん、スタジオに向かわなきゃいけないんだ」
「シグれん、いつ帰ってくるの? ご飯冷めちゃうよ、今どこ?」
「分からない、先に食べててくれ、未蘭。俺は今、手が離せないんだ。
リリックを書いてる。この曲は勝手に出来てくれないんだ。
電話するから、あとは一人で食べてくれないか」
そうやって曲の中では「お前を愛してる」と世界中に叫びながら
あいつをあの六畳一間に一人置き去りにして、苦しませている。
「シグれん、赤ちゃんできたのどうしよう」
どうしたおいここは赤崎どうやって来たんだ?
シグれんについてきたんだよ、あなたはNo. 1それだけを伝えたかった。でももう無理だよね、選んじゃったから。みんながシグレの名前を叫んでる。
眠れねえ、安定剤をくれ、これがラップのリアル。
それが『天才ラッパー』の正体
ああ、この業界はイカれてる
どん底が俺を育てたのに、今夜はメインストリームの波に飲まれている
なあ、ミラン、もし俺が遠くへ行ってしまってもそのまま生きてくれ、そして俺の声を聴くたびに、どうか喜んでほしい
俺がテレビ画面の向こうから、お前を見つめて笑っているってことだけは覚えておいてくれ
俺は何も感じちゃいない
だからミラン、痛みを抱えないで、ただ微笑み返してくれ
これは引っ越してすぐに限定サロンにdropした曲。
メンバーにだけひっそりと発表された曲だったが、隠れたシクレの名曲としてヘッズ達に語られ続けた。
この曲ははっきりとエミネムリスペクトです。
ただ、これを書きたくてこの小説を書きました。
この世はこういう愛でミルフィーユのように連なって訳わかんなくなって終わってくと思っていて、愛と憎しみ、生と死、全て表裏が一体で。
ただ一つだけ。
時雨と美蘭の子、創作であったとしても神の恵みがありますように。




