第49話 水のマナ神 アークレイ
海を眺めながら、ガクウがふとジャグーダに問いかける。
「所でさっきから何か引っかかってるんだけど……何か忘れてない?」
「忘れるって何をだ?」
唐突な質問に、首を傾げるジャグーダ。
ガクウは困ったように腕を組んだ。
「いや、それがわからなくて……」
「それじゃ俺がわかるわけねえだろ」
「だよなぁ」
そう言って、二人は海を眺めていた。
二人の鼓膜は、踊る波の音と、船が波に逆らう音だけが耳に響き渡る。
そうしていると、突然ジャグーダが顔を青ざめた。
「……水のマナ神の安否確認してねえじゃねえか!!」
「あーッ!? なんで俺達全員それ忘れてたんだ!?」
それを聞いたガクウも、素っ頓狂な声を出して海へと大分する。
水の魔法を使って水面の上に立ち、ジャグーダへ必死に声をかける。
「ちょっと俺行って来る! 兄ちゃんは船とかアオイちゃん任せた!」
「いいから早く行って来てくれ!!」
懇願するジャグーダに見送られると、ガクウは急いで海の上を走り、水の神殿へと走る。
「……俺だったら、放置された神様にとか、絶対会いたくねえわ」
ボソリと本心を吐露するジャグーダ。
しかし、ガクウならば大丈夫だろうと、船の中へと戻っていった。
◇
水の神殿の奥にある祭壇の間。
そこへたどり着いたガクウは、戦闘で破損した神殿を短時間で修復すると、巨大な扉の前に立つ。
そして扉を開くと、中には巨大な三次元の球体と化している魔法陣が、輝きを放ちながら浮かんでいた。
この魔法陣は、神が住む世界へと繋がるものだ。
魔法陣に暗号を打ちこまなければ、神に至る世界へは至る道は起動されず、何者にも干渉ができない。
それは、Ch.12のチートを以てしても打破できない、強力な魔法であった。
本来であれば、魔法陣を開く暗号は、事前に神から聞く神官がいる筈であった。
だが突然の『チーター』の強襲を前に、水のマナ神はそれを誰にも告げずに中へ入っていったのだろう。
そうでなければ、あの記憶を操作するような悪趣味なCh.12が、とっくの昔に開いているはずである。
少なくともガクウは総推理した。
では、暗号もわからないこの魔法陣を、どうやって起動させるのか?
「聖剣さん、お願いします!」
そう言って、ガクウは聖剣を取り出した。
目の前にあるのは魔法陣であり、目の前のそれは水のマナで構成されている。
故に、聖剣で力を調整すれば、魔法陣を起動させることも可能なのだ。
「いや、私がやらなくてもいいと思いますよ」
ふと後ろから、どこかで聞いた事のある声が聞こえ振り向くガクウ。
そこには、夢で出会う人工女神、ティルナディアカリバーの姿があった。
「え!? どうして現実世界に!?」
予想外の出来事に、ガクウは驚愕を隠せなかった。
対してティルナディアカリバーは、当たり前のことの様に説明しだす。
「マナ神殿の祭壇の間って、神が降臨しやすいように構造されてるんです。その恩恵を受けて、私も顕現できました」
「へえ、そうだったんだ!」
知らなかったことなので、ティルナディアカリバーの言葉に素直に頷くガクウ。
しかし、一つだけ疑問があった。
「じゃあなんで戦ってる時に出てこなかったの? 兄ちゃんに直接会うチャンスだったじゃん」
その質問をされると、ティルナディアカリバーはどこからともなくハンカチを取り出し、涙ながらに答えた。
「私だって! 本当なら戦いの場でも顔を出そうと思ってたんです! でも、扉が壊れてその構造も壊れたので無理だったんですよ……! ううっ!」
「……あー」
閉じ込められたとCh.12に言われた際、自分が扉を破壊したことを思い出すガクウ。
「……その、ごめんなさい!」
自分に原因が有るとしり、ガクウは素直に胸に手を当て頭を謝罪した。
「……いいんですいいんです。事情が事情でしたし」
ハンカチで涙をぬぐい取ると、ティルナディアカリバーはいつものようにケロッとした表情を取り戻す。
「ところで、どうして聖剣さんの力を使わなくていいって結論に?」
わざわざ顕現してまでなぜそれを伝えに来たのか、ガクウにはそれが不思議でならなかった。
「あの魔法陣を使って、マナ神は外の様子見れるんですよ。いつでも好きに出てこれるんです」
「へえ、そうなんだ……え? じゃあなんで水のマナ神出てこないの?」
ティルナディアカリバーの答えに、ガクウにまた一つ疑問が浮かび上がった。
しかし、それが答えられるよりも前に、魔法陣がより一層輝きを放つ。
そこから現れたのは、人とは別格の美しさを持つ女人であった。
古い時代の格式高い服を身に纏い、ガクウ達に歩み寄って来るその姿は、まさしく神々しい。
そう、ガクウ達の目の前に現れたのが、水のマナを生成する、偉大なるマナ神アークレイであった。
「――――空気読んで、出られませんでした」
……そのはずなのだが、すぐさま体育座りをして拗ね出した。
先程までの神々しさはどこへやら、ガクウにはその姿が、上司に叱られ落ち込んでいる新人商人のように見えた。
しかし、そう言われてCh.12を倒した時の事を思い出す。
確かにあの場で現れれば、ジョウナンミコトを救出せるのでは? と思われ誰もが期待を持つだろう。
だが、そんな外の星の技術をどうこう出来るわけもない。
神としての体裁を保つためには、あそこに出て行かないのが最善かもしれなかった。
「その……その件は、誠に申し訳ありませんでした。アークレイ様」
「いえ、それはいいのです。脳の水分を弄って一時的に忘れさせたの、私ですし……」
さらりととんでもない事を言うアークレイに驚愕するガクウだったが、神とはすなわち自然の意思、その気まぐれと上手く折り合いを付けるのがこの国の文化だったので、それに関しては言及しないことにした。
怒らせて大地全土を海の底に沈められても、何もおかしくは無いのだから。
「ちなみに、ガクウさんにの記憶の方は私が忘れさせてました。アークレイさんから依頼があったので」
「聖剣さん!?」
思わぬ伏兵に、ガクウは思わずティルナディアカリバーの顔を見るが、彼女は気まずそうに眼を逸らすのだった。




