第48話 提示された三枚の希望
ガクウ達は水の神殿を出て、船へと戻っていた。
喜びよりも前に疲れが優先されているようで、皆船に帰るとぐったりとしてしまっている。
アオイはその船の一室で、美琴をベッドに寝かせていた。
自らアオイを抱きしめた美琴だったが、しばらくすると気絶してしまった。
精神的にも肉体的にも壊れてしまっているらしい美琴には、相当重労働であったらしい。
応急処置を済ませたが、体調を経過観察してから手術が必要とのことだ。
この国の医学では、肉体面なら完全に回復できると衛生兵は言っていた。
医学は専門外であるアオイだったが、美琴の知っている限りだと、地球では到底治療不可能な損傷であったはずだ。
それを肉体面限定とはいえ、そこまで言い切れてしまうこの星の医学に、アオイは舌を巻いた。
ふと、部屋がノックされる。
「どうぞ」
アオイが入室を許可すると、本来のフリューヌが入って来た。
「アオイ殿、この度は世話になったと言うべきか、迷惑をかけて申し訳ないと言うべきか……」
船へと戻る最中、フリューヌは自分の意識がない時の事や、ガクウ達の事情のことを聞いてる。
どうやら義理堅い性格なのか、まだ気持ちの整理も付けられてい様子だと言うのに、アオイに礼を言いに来ているらしかった。
ガクウ達が来なければ、彼女は一生城南美琴を名乗るフリューヌとして生活していたに違いないのだから。
「いえ、それを言うなら、ガクウ君達に言って頂戴。今回、私はあまり貢献できたとは言えないわ」
「……そうか」
話しが続かず、気まずい雰囲気が流れる。
それを破ったのは、フリューヌの問いかけだった。
「そういえば、ジョウナンミコト殿はどうするつもりだ?」
「そうね……。貴女達に紹介してもらったポッカルの病院でも、あてにさせてもらうぐらいしかないんじゃないかしら」
「だが、貴殿はウィルバーナに向かう旅の途中だと聞く。それも『虐殺遊戯連合』に対する極秘任務なのだとか」
「……そうね。確かに、美琴に付き添ってあげられる時間が、今の私にはないわ」
そう。この先どれ程の『チーター』が待ち受けているか分からない。
道中に襲撃を受ける可能性もあるし、まともに動けない美琴を連れて行くのは、リスクが多すぎる。
データ変換装置の中にいれるということも一案にはあったが、万が一失くしてしまった場合、永遠に離れ離れになってしまう。
さらには、人道的にもいかがなものかとアオイには思えた。
故に、病院に預けるぐらいしか今取れる手段は無い。
だが、目の届かない所に預けていると、自分達の手から離れたと『チーター』がまた攫いに来るかもしれない。
アオイにそういった不安が無いと言えば嘘になる。
そんなアオイの心情を察したのか、フリューヌが一つ提案をしてきた。
「それなら、彼女の身の安全は私に任せて貰えないだろうか? 鏡話で定期連絡をすれば、貴殿も安心できるだろうか?」
「え?」
願っても無い申し出に、アオイは驚いてしまう。
フリューヌは、どこか恥ずかしそうに心境を語った。
「ミコト殿が他人に見えなくてな。それに、なぜだか貴殿が困っているのを放っておけないのだ」
その言葉に、アオイはつい笑みを浮かんでしまう。
まだそこに、一夜を共にしただけの美琴がいる気がして。
すぐに失礼だと振り払い、恥ずかしそうに口を開いた。
「……それじゃあ、しばらくお願いできるかしら?」
「ああ、任せてくれ!」
フリューヌは、アオイの頼みに笑みを浮かべて頷いた。
◇
美琴を眠らせている部屋からアオイが出ると、ジャグーダが壁に寄りかかっていた。
アオイの姿を見ると、いつも浮かべている様な厭味ったらしい笑みを浮かべてアオイに話しかけて来る。
「よう。久しぶりの友人との再会はどうだ?」
「どんなご用件かしら?」
皮肉をシカトし、アオイは部屋の前で待っていた理由を簡潔に問う。
ジャグーダはつまらなそうな顔をして口を開いた。
「俺とガクウから、お前さんに返却しないといけないと思ってな」
そう言って取り出したのは、三枚のデータ変換装置だった。
「いえ、便利でしょうし、しばらく持っていていいのだけど」
旅の最中や戦闘の際、物を持ち運ぶのに便利だと思ってアオイが渡していたモノだった。
もっとも、ジャグーダは闇属性の魔法で持ち運びに苦労はしていないと言っていたが、改造した際の利便性を確かめる為にも使ってもらうようアオイが頼んだのだが。
だが、アオイの言葉を無視して、一枚一枚丁重に何を使ったのかを説明しながら、アオイに差し出す。
「ガクウからは、城南美琴とその記憶が埋め込まれていたサキューロ・フリューヌを一時的に入れていたデータ変換装置。それと俺からは――――消えた筈の城南美琴の記憶が入ったデータ変換装置だ」
「……え?」
説明を聞きながら受け取ったアオイだが、最後の一枚があまりに予想外の物だった為、間抜けそうな声を漏らしてしまう。
「『チーター』が記憶をデータの塊だと言うんでな。試しにやってみたら何か入ってた。記憶をコピーしたのはチート由来じゃないのかもな。調査したら、好きに使ってくれ」
そう言うと、ジャグーダは姿を消した。
アオイは一人、三枚のデータ変換装置を見つめて、ぼそりと呟く。
「……復元、出来るかもしれない」
アオイは今すぐ使える空き部屋が無いか、チャペリンに問いただしに向かった。
◇
ジャグーダが甲板にでると、ガクウが青い海と空を眺めていた。
その顔がどこか嬉しそうに見えたジャグーダは、その頭を軽く小突いた。
「ったく、お前が渡せっつーの」
「いや、お兄ちゃんの超ファインプレーなんだから、俺が渡すのもおかしいでしょ」
そう言って、ガクウは再び青一色の景色を眺める。
ジャグーダもその傍に立ち、同じものを見始めた。
「どうする。あれを基に、ジョウナンミコトを名乗るフリューヌを復活させたら」
「別にいいと思うよ。俺は」
ガクウの楽観的な返事に、溜息を吐くジャグーダ。
事の重大さをわかっていないのかと、呆れたように説明しだす。
「肉体と記憶がコピーして作り放題とか、こいつは命の冒涜の極みじゃないか? いつでも好きな時に、人間を復活できる。俺達を量産して、敵兵にぶつけられる何てことも可能かもな。倫理や人権が崩壊すると言ってもいい」
「じゃあ、今回だけ例外で」
簡単にいうガクウの胸倉を掴み、その目を覗き込みながら問いかける。
「お前に命を復活させる決定権をあるっていうのか?」
心に刃物を捻じりこんでくるような、想い問いかけだった。
傍から見れば、その視線だけでも人が死んでしまうような凶器だ。
だが、ガクウは目をそらさず、真っすぐに言葉を口にする。
「そんな事をしちゃいけないって法律はまだ無い! なら俺は、悪意の中に生まれて、悲劇の中に死んでいった、あのジョウナンミコトを助ける。絶対に」
そう語るガクウの目に揺るぎは一つも無く、はっきりと断言した。
自分の言動に、言葉に何一つ迷いはない目だ。
「……ハッ、俺には関係ない。勝手にしろ」
その目を見たジャグーダは、胸倉から手を離し青い海を見下ろす。
そんなジャグーダを、アオイは手すりに屈んで覗き込んだ。
「兄ちゃんも人の事言えないだろ? 本当に批判的なら、そもそもデータ変換装置で助けられるか試さないし、アオイちゃんにだって渡さないでしょ」
「なんのことやら」
ジャグーダはすっとぼけたように、青い空を見上げた。




