第47話 SGMの趣味
Ch.12の素体の本体は、水の神殿から少し離れた海の中にいた。
素体の核を何とか分離し、何とか逃げおおせていたのだ。
スライムの身体だからこそできる荒業であった。
「ひぃ……ひぃ……!」
しかし、その体は秒針が刻まれるごとに散っていき、今となっては蟹を恐れる程小さくなっていた。
現在、Ch.12の自己再生が発動しないのだ。
その他のチートスキルも使えなくなっており、力や感覚も段々と無くなっていく。
「や、やだぁ……! ぼ、僕は、僕はまだ、死にたくないぃ……!」
死の足音が聞こえる気がして、Ch.12は身体を震わせていた。
「おやおや、大丈夫ですか?」
そんな所に、SGMが現れる。
あの足音はSGMの足音だったのだと、
「た、助けて……! 死にたくない! 死にたくない……!」
すがるように近づいたCh.12を、SGMが拾い上げる。
どこにあるかもわからないCh.12の顔を覗き込み、首を傾げた。
「おや、お手伝いしなくてもいいとの話でしたが?」
「事情が変わったんだ! 素体の本体はちゃんと切り離してたのに、どうして僕は壊れていくんだ!? こんなのズルい!」
「ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!」
あまりにも勝手な言い分に、SGMは思わず腹が捻じれるほど笑ってしまった。
『チーター』というのは、本来であれば生命体の屑には到底手に入れることもできない、圧倒的な力をGMかった者達を言う。
ずるをして楽な道を選んでいるのが『チーター』の本懐だと言うのに、別の誰かがズルをしたと思えばそれを糾弾する。全く以て滑稽な話だった。
もっとも、それも自分勝手な『チーター』らしいのだが。
SGMに笑われ、屈辱的な思いで腸が煮えくり返りそうになるCh.12だったが、自分が助けてもらうためだと、必死に自分の怒りを鎮める。
「嫌ですねぇ! そもそもとして、素体と本体とかいう遠く離れた物を、一緒くたに切れる剣ですよ? 分身を切ったところで、結果は同じですよ。今生きてるのは、私がギリギリ食い止めてるだけです」
「なら早く助けろ! 僕が消えてもいいのか!?」
「おや、そうでしたそうでした」
SGMCh.12に触れると、糸くずを取るかのように不気味な力の本流を取り出した。
そのまま大きく口を開き、世界を壊しえるその力を、ぱくりと口に放る。
「は?」
Ch.12にも予想外な光景だったようで、思わず間抜けな声を漏らしてしまう。
だがSGMは咀嚼を続け、それを飲み込んだ。
「はい、チート回収完了です。お疲れ様でした」
そう言うと、SGMはCh.12を放り捨てた。
「ま、待て! 僕を助けろって言ってるだろ!!」
あんまりな対応に、思わず声を荒げるCh.12。
それをSGMは見下し、侮蔑の視線を向けた。
「……いやぁ、チート回収できれば、別に貴方の変わりなんて、いくらでもいると言うかぁ……。ぶっちゃけ『チーター』なんて、チートの方が本体では?」
鼻で笑ってしまうとでも言いたげな表情で、Ch.12を踏み潰すSGM。
「あああぁ……!」
「ぶふぅっ! ちょ、そんな笑わせないでください。死んでしまいますよぅ!」
情けない叫びを上げながら崩れていくCh.12を見て、SGMは腹を抱えて笑いをこらえる。
「ふざけるな! 僕ほど優秀なチーターはいない! ここまで効率よく経験値を回収できる奴なんているわけがないだろ!」
まるでいじめを受けているような気分になったCh.12は、頭の中が怒り一色となり怒鳴り散らす。
「ああー! はいはい。あれですかあれ」
うるさいCh.12の声を遮りなら、水中に画面を浮かび上がらせた。
その画面に映されているモノを見て、Ch.12は驚愕する。
「……お前、どうして僕のステータス画面を開いているんだ?」
「SGMですし、これぐらいはできますよ。大体ステータスなんて、GMのさじ加減一つでいくらでも変わる数字でしかありません。あなた方なんて、この数字を弄るだけでどうとでもなるんですよ」
自分の命がようやく目の前のSGMに握られていることに気が付いたCh.12は、頭の中が再び死の恐怖で一色となる。
「た、助けてください……怖い。死ぬのは怖い……!」
必死に助けを乞うCh.12に、SGMはわざとらしい憐みの目を向けた。
「おや、それはかわいそうに。それでは、本能と知性のステータスを0にしておきますね」
「やめ――――っ!」
言うや否や、SGMはCh.12の静止の声を振り切り、本能と知性ステータスの数値を全て0にする。
「――――……おぶぁ」
情けない、知性がある生命体とは思えない声を漏らして、Ch.12は水中に霧散した。
「あー、これだから弱い者いじめはたまりませんねぇ! 気分は最っ高! 心も盆踊りですよ! ウフフフフ! ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
海底の底で、決して響くことのない笑い声を存分に張り上げるSGM。
その顔に書かれていたのは、爽快の一言だった。
「……さーて、仕事に戻りますか」
ひとしきり笑った後、溜息を吐いてその場から消え去った。




