第50話 水の宝玉
「とまあそんな事はさておき、早速水の宝玉を授けましょう」
記憶の操作をそんな事扱いし、話を進めるアークレイ。
宝玉と聞いて、ガクウは勇者ジオーグの聖剣にまつわる話を、一つ思い出した。
曰く、聖剣には七つのくぼみが存在し、そこに火、水、土、風、光、闇、星の宝玉を埋め込めば、星をも砕く力を得られると言われている。
その宝玉は、それぞれの神が神殿で管理しており、勇者が現れると授けると言われていた。
ガクウが聖剣の柄を改めて見ると、確かに七つのくぼみがそこにはあった。
「確かに七つ宝玉が集まったら星をも砕く力を手に入れることが出来ると伝え聞いています。ですが、具体的にはどのようなことができるのでしょうか?」
ふと沸き上がった疑問を、恐れ多くも目の前にいる水のマナ神、アークレイに問いかけるガクウ。
そんなガクウに、アークレイは嫌な顔一つせずに口を開いた。
「見たところ、ベルゼフォンの力を継承している様子。であれば、破壊では想像しにくい事でしょう。今でも十分な破壊はできるわけですからね。ではこう言い換えましょう。七つの宝玉が集まれば、別の星をテラフォーミングするどころか、この星とそっくりそのままの星を作り出すことが可能となるのです」
「宝玉はマナ神達の本体ですからね。それら全てのエネルギー調整することができるならば、まあ星作りだなんて簡単です」
アークレイの説明とティルナディアカリバーの補足に、ガクウは開いた口がふさがらなかった。
言葉の大まかの意味は、『読声』で理解ができたのだが、あまりに人に余る力に体が震えそうになってしまう。
勇者ジオーグが聖剣を手放し、選ばれし者以外手に入れられぬよう封印した気持ちが分かったような気がした。
「ととと、宝玉の件なんですが、ちょっと待って下さい」
そんな強大な力の一端を手にするのかと、心がグチャグチャになっているガクウを遮るように、ティルナディアカリバーが手を上げる。
「どうしたのですティルちゃん様? 何か問題でも?」
どういう呼ばれ方してるの? と思わずティルナディアカリバーの顔を見てしまうガクウだったが、彼女は平然とした顔で話を進めた。
「ええ、実は彼の身体を管理して分かったことがありまして。DNA検査の結果、どうも半分ぐらいはこの星の人間じゃないっぽいんですよね。明らかに他の星の進化系統のヒューマノイドエイリアンのDNAが混ざってます」
「え!?」
ガクウは言葉の意味が分からずに困惑の言葉を漏らしたわけではない。
むしろその意味が分かったからこその困惑であった。
「自分の事なのに何故驚いているのです勇者よ」
困惑しているガクウを見て、アークレイは不思議そうに首を傾げる。
ガクウは慌てながらも、自分に知らされている出自を頭の中で整理し、言葉にしてアークレイに説明しだした。
「あ、いえ、私は赤子の頃、義理の兄と同じジオッグと言う隣国に襲われた町で、リクライト・ボンジャーグという男に拾われたのです。父と母の顔は確かに知りませんが、それだけは確かです。『虐殺遊戯連合』の襲撃の十六、七年前の出来事です。時間が噛み合いません」
なるほど、とも言いたげに相槌を打つアークレイは、そのまま口を開く。
「見た所、彼はベルゼフォンの心臓や体の一部を引き継いでいるようですね。それと誤認したのでは?」
「……うん?」
アークレイの言葉を、ガクウは一瞬理解できなかった。
彼女の言葉は、ベルゼフォンがまるで宇宙人とでも言っているかのように聞こえたからである。
何かの聞き違いがとも思うが、『読声』はその解釈で間違いないと訴えかけていた。
「いえ、そういうのを分けての検査結果です。私も最初はそうだと思ったんですけど、どうもそれを前提にしてもこうじゃなきゃ説明できないことが多くて……」
ティルナディアカリバーは、それに何ら違和感を持たずに話を続けた。
「え? あの、すいまんせん。ベルゼフォンは宇宙人ってことでいいんですか?」
ベルゼフォンが宇宙人という前提で繰り広げられる会話を中断させ、
「ああ、竜種っていうのはですね、六百年ぐらい前に宇宙から飛来して来た宇宙人なんですよ」
「うそーん!?」
さらりととんでもない事を言うティルナディアカリバーに、TPOも吹っ飛ぶほどの衝撃をガクウは受けた。
彼はこのティラニオーデ帝国の平均水準を超える程は、リクライト・ボンジャーグに勉学に鞭を打たれている。
しかし、そんな歴史をガクウは義理の父からも、他の人間からも、もちろんベルゼフォンからも聞いた事が無かった。
「姉は嘘を吐きません。そもそも竜種って、この星の生態系からは生まれない特殊な存在なんですよ。それでまあ、タカ派とハト派に分かれたり、人間側は竜種の言葉を理解して親交を深めようと、彼らの言語を理解していった。これが貴方達が現在使っている現代語訳ですね」
「この言葉って、元々は竜種の言葉だったんですか!?」
更なる衝撃な事実に、驚愕せざる得ないガクウ。
「ええ、そうです。私も人々の言葉が変わった時は、覚えるのに苦労しました。二回も言語を変える必要はないと思うのです……」
アークレイもそれに同意を示すかのように頷いた。
「いや、それだとベルゼフォンが言葉喋らなかったのは!? ベルゼフォンは千歳ですよ!」
「五百年前の魔神との戦いで、咆哮する技の使い過ぎで、顎の骨格が変形しちゃって喋れなくなってるんですよ。当時の医療じゃちょっと治せないレベルで。変形しちゃったのが現代だったら何とかなるレベルですけど、五百年前の怪我はさすがに……」
「顎を怪我したとかは聞いたことあるな……」
ティルナディアカリバーの説明に、幼い頃ベルゼフォンを治療した際、そんな話をした覚えがあったことを思い出す。
まさかそれほどの重傷だとは、当時のガクウは思いもしなかった。
「でも俺、そんな歴史初めて聞いた……」
「宇宙の概念とかも無くなってますし、これ人類史が改竄されてません? どうなってるんですかアークレイさん」
「人の歴史の事を問われましても……」
あまりの歴史のズレに、首を傾げる一同。
その中で、ガクウは一つ疑問が思い浮かんだ。
「……ん? でもあれ? って事は、GMが魔神の線薄れてきた? GMは、別の宇宙から飛来して来た謎のエイリアンなんですか?」
ガクウの問いかけに、アークレイは首を横に振った。
「少なくとも月からは、五百年前に魔人が現れた時と同じ、世界を歪ませるエネルギー……今風に言うと、チートの力を感知しました。十中八九、この星を滅亡に追いやろうとした魔神で間違いないと思います」
すかさず説明するアークレイの言葉に、ガクウはにガイを笑みを浮かべる。
「つまりうちの身から出た錆が、関係の無い九百九十九の星を壊したってことに変わりはないのか……」
「やめてください。倒してたと思ってた私にも耳が痛いですその話」
ガクウの言葉に、思わずティルナディアカリバーは耳をふさいでしまった。
しかし、そんな事をしている場合ではないと、すぐさま気を取り直す。
「ごほん、とまあそういうわけで、割と昔は宇宙と近かったんですよね。現代だとなぜか宇宙の概念が忘れ去られつつありますけど。貴方のご両親のどちらかが――――高確率で母親の方だとは思うんですが――――別の星からやって来た人だと思います」
「そうですか……」
ティルナディアカリバーに説明されても、ガクウには実感が持てなかった。
見たことのない両親のどちらかが宇宙人だとしても、ますます謎が深まるだけだからである。
ガクウが考えていたのは、アオイの事だった。
この星においては異端かもしれない者によって作られている身体の一部を、命を助けるためとはいえ植え付けてしまったのだ。
そこに罪悪感が無いと言えば、嘘になってしまう。
そんなガクウの事を知ってか否か、ティルナディアカリバーは話しを再開する。
「で! でです! 色々と脇道にそれましたが、私がアークレイさんに言いたいのは、『ガクウさんは半分この星の人間じゃないけど、アナタは勇者認定しちゃっていいんです?』ってことです」
「あっ、それは別に良いと思いますよ」
「軽くないですか?」
さらりと許可するアークレイに、困惑しながらもティルナディアカリバーは指摘した。
だがアークレイの態度は変わらず、話を続ける。
「いえ、そんな事はありませんよ。彼の奮闘は、私も見ていましたから。それに貴女だって、この者を勇者として認めてはいるのでしょう?」
その問いに、ティルナディアカリバーは力強く頷いた。
「ええ、私としても勇者として相応しい働きをしていると思いますよ」
そう言って、ティルナディアカリバーはガクウに笑みを浮かべた。
ガクウに『読声』がなければ、ジャグーダを勇者にしたかったという発言は誤魔化しておけ、という笑みに見えたかもしれない。
しかし、『読声』を持つガクウからすれば、その言葉は嘘偽りの無い気持ちだとわかる。
ジャグーダを勇者にしたかったのも本当の事だ。しかし、彼女がそう言った所感を持っているのも嘘ではないのだ。
そう思うと、ガクウは嬉しくなった。
「そういうわけです。貴方に私の本体――――水の宝玉を授けます。決して、粗末に扱わぬように」
そう言って、アークレイの胸元から、青い宝玉が現れると、ガクウの腰に差さっている聖剣のくぼみに、ピタリと当てはまった。
ガクウは聖剣を床に突き立て、声を張り上げる。
「リクライト・ガクウが、水のマナ神アークレイに誓う! 貴女から授かったこの水の宝玉を、『虐殺遊戯連合』の殲滅の為に使いましょう!」
その姿を見たアークレイは、満足そうに笑みを浮かべた。




