第45話 それは城南美琴であるか? サキューロ・フリューヌであるか?
Ch.12が、チャペリンの鉄拳によって体と床に這わせていたスライムが千切れ、身体が吹き飛ぶ。
だが、すぐさま地面に這われたスライムと、その本体の氷が解けてしまった。
「……フフフフフ、無駄だ。今の攻撃じゃ、僕を倒す事はできやしない。なぜなら僕は、すぐに耐性を付けることができるからね! こんな攻撃じゃ、ダメージすら入りはしない!」
その話を聞いて、ジャグーダは盗聴した会話に納得する。
物理無効とは、叩かれたり切られたりしたことがあるから通用しないということなのだと。
幸い、ガクウはまだ聖剣の力をCh.12に対しては使っていない。
一体どういった判定なのかはわからないが、
「鎧化」
それをガクウも分かっているらしく、剣を納め竜の鱗を鎧のように纏う。
「でもさぁ、それって毒撒かれた時大変じゃない? 毒と薬って、ようは分量が違う物ってアオイちゃんが行ってた。耐性付けたら薬効かなくなるんじゃないの?」
城南美琴を名乗るフリューヌが、純粋な疑問をCh.12にぶつける。
そう、彼女からすれば単なる知的好奇心だ。
「…………」
だが、先程まで饒舌だったCh.12はどこへ行ったのか、無言でスライムによる触手攻撃を繰り出した。
主に、フリューヌに対して。
「うへえ!? ちょっとちょっとちょっと!?」
フリューヌは剣で防御の構えを取るが、それで防げるとは思えない。
チャペリンが氷結粉を襲い掛かるスライム達にばらまくが、耐性が付くという話は本当のようで、その動きは鈍りもしない。
すかさずガクウが動き出し、それらを拳や蹴りで蹴散らし、三人を防衛した。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして!」
フリューヌに元気よく返事をするガクウだったが、その目はCh.12を見据えている。
「にしてもなんで急に黙ったんだろ……あっ、もしかして、仕組みわかってない?」
ボソリ、と呟いたフリューヌの言葉が、Ch.12の耳に入る。
「――――僕をおちょくるのもいい加減にしろよ!」
Ch.12が頭上に手を掲げると、青い火の玉が生成される。
何モノであろうとも焼き尽くすと燃え盛るそれは、Ch.12が手を振り降ろすと、凄まじい勢いでガクウ達に襲い掛かる。
「シャオラァッ!」
だが、ガクウが蹴り飛ばしたことにより、青い火の玉は霧散した。
「なんで……!?」
驚愕するCh.12を、チャペリンは見下すような視線を向ける。
「ここまでバカだと、フリューヌにジョウナンミコトの意識を宿らせた仕組みとかも、全っ然わかってなさそうだな」
「まったくだな。自分に何ができて何が出来ていないかもわからない、バカなんだろうさ」
チャペリンとジャグーダが、厭味ったらしく笑いあった。
それを聞いていたCh.12は、自分が見下されている現状に我慢ならず、
「バカなのはどっちかな……。君達はそこの女騎士の事すら、何も分かっちゃいないじゃないか!」
いらついた声で、Ch.12が吠える。
ようやくか、とジャグーダが呆れながらもCh.12に視線を向けた。
ジャグーダはCh.12からサキューロ・フリューヌに仕掛けた城南美琴の意識の事を、煽ることで聞きだそうとしていたのだ。
『チーター』達が無駄に自尊心が高いのは、今までの光線経験から分析済みである。
チャペリンはそれを察して合わせ、ガクウとフリューヌは煽るつもりは無かったのだろうが、結果的にCh.12を激怒させる起爆剤になったのだろう。
Ch.12は、口から黒い銃口のような物が付いたものを取り出す。
ガクウ達はそれに対し、大砲の類かと身構えるが、フリューヌだけは不思議そうに首を傾げた。
「え? なんでわざわざカメラを?」
「さて、そこの女騎士だけど――――」
フリューヌの発言を無視して、Ch.12は話し出す。
◇
葵達が敵を薙ぎ払い目的地に辿り着くと、アオイはまずパソコンを起動し調べ始めた。
付き添ってもらっている『クラン・ヴィザーナ』のメンバーには、徹底して周囲の警戒に務めて貰う。
すると、どこかの機械が勝手に作動し、空中に画面が浮かび上がる。
そこには、使い魔に盗撮させていたCh.12の姿があった。
『さて、そこの女騎士だけど、確かに僕が頭を弄った』
画面の中のCh.12がそう言うと、口から一人の黒髪の少女を取り出す。
それは、城南美琴の本体だった。
それを盾にするかのように振りかざし、Ch.12は大きく声を張り上げる。
『ここにあるのは、確かに柊葵の友人だ。性奴隷として譲られたね』
性奴隷。
その言葉を聞いて、アオイは目眩を起こしてしまう。
確かに、捕らわれた人間がそう言った扱いを受けるということは知っていた。
ナノマシンで意のままに操られ、『チーター』の命令に幸福感を抱くようになると。
だが、フリューヌに憑りついた城南美琴は、そんな事を感じさせず、アオイの知っている通りの明るい城南美琴だったのだ。
牢屋に閉じ込められてから記憶が無いとは聞いていたが、その原因がこんな事だとは、アオイは思いもしなかった。
いや、もしくは大切な親友が、そんなことになっていると、彼女が考えたくなかっただけなのかもしれない。
カメラが切り替わり、画面にフリューヌが映される。
その顔に、いつもの明るい表情は無く、ただただ青ざめていた。
『どんな奴がどんな使い方をしていたのかは知らないが、身体はズタボロ。心も壊れていてね。僕としても扱いに困ったよ。これをどう有効活用できるかってね』
画面の端では、迫り来るスライムの触手に対応しているガクウ達の姿が見えた。
『そして僕は思いついた。壊れていない時の記憶をコピー出して、他人に植え付ければどうなるんだろうってね』
『……記憶?』
魂や意識ではなく、記憶。
そこに、アオイは引っかかりを覚え、嫌な予感がした。
『結果、出来上がったのは城南美琴を自称する女騎士だ』
『――――この!』
城南美琴を名乗るフリューヌの逆鱗に触れたのか、彼女がCh.12に近づき剣を振う。
だが、スライムの触手に足元を掬われてしまい、そのまま四肢を絡めとられてしまう。
Ch.12は、触手で絡め取ったフリューヌを自分の顔にまで近づけさせる。
『おっと、僕を倒したところで、君の記憶がこの体に戻ることは無い。君はただ、記憶をコピーしたデータに過ぎない。僕を倒してしまえば、君も消えるってわけさ!!』
『――――っ』
フリューヌの絶望の表情が、画面いっぱいに映る。
それも当然だ。自分という存在を、全面的に否定されているのだから。
『どうだった? ただのデータの塊でしかないのに、友達が転生したと思って話しかけていたのは! ええ? 喜んでもらえたかなぁ! 柊葵!!』
話が振られ、思わず身体を震わせるアオイ。
恐らくは、アオイの精神に動揺をさせる為に回線を繋いでいるのだ。
そして、それは見事に成功した。
友人の意識だと思っていたのは、フリューヌの記憶を上書きしたら出来上がっていたもので、本当の城南美琴はアオイが幸せな時間を過ごしている間にも、心と体が壊れてしまうような時を刻み壊れてしまっていた。
呑気に生きている自分に、アオイは反吐が出そうになる。
自己嫌悪が止まらない。
美琴に対し、申し訳ない気持ちで胸が張り裂けそうだった。
『お前ら、全く以て滑稽だよ! 頭悪いんじゃないの!?』
Ch.12の言葉に、アオイは思わず膝を床につけてしまう。
全くもってその通りだと、同意せざるを得ない。
『クラン・ヴィザーナ』のメンバーが、アオイを心配して声をかける。
だが、その言葉はアオイには何一つ響かず、頭の中に入ってこなかった。
『――――どこが滑稽なんだ!』
ふと、アオイの頭にガクウの声が響き渡る。
画面を見れば、スライムの触手を蹴散らしながら、Ch.12の前にまでガクウが差し迫っている所だった。
鬼気迫る勢いで拳を振りかざすガクウに、Ch.12はフリューヌと城南美琴を盾にする。
ガクウ達は拳や剣でスライムを叩き、ノックバックをさせることはできる。
しかし、物理耐性のあるスライムを、削り取ったり切り取ることは出来ないの。
そう、ガクウ達は捕らわれたフリューヌと城南美琴を救い出すことができないのだ。
――――そのはずだった。
ガクウの拳から、カードの様な装置が二枚現れ、それをフリューヌと城南美琴にかざす。
ジャグーダとアオイが以前押収し、アオイから事前に受け取っていた、改造されたデータ変換装置だった。
『無駄だ! データ変換装置は、生命体に使えないようプロテクトが――――』
恐らく、人体をデータ化するのは不可能だと言いたかったのだろう。
しかし、これはアオイが改造したデータ変換装置だ。既存の物とは違う。
Ch.12が言葉を発する前に、二枚のデータ変換装置がフリューヌと城南美琴をデータに変換し、記録媒体として納めたのだ。
『な!?』
画面からガクウが消え、その声だけが響く。
『死んだと思っていた友達とまた話せたら、その奇跡に縋りたくもなる。頭が悪いのは、その気持ちを平気で踏み弄ったお前の方だ!』
画面に再び映し出されていたのは、フリューヌと城南美琴を抱えるガクウの姿。
『俺達は、お前を絶対許さない!』
怒気を含んだ言葉を、ガクウはCh.12に叩きつける。
『お前に何ができる! ただの記憶を、お前は救えもしないのに!』
それに負けない程の怒鳴り声が、機械から響き渡る。
だが、それはごもっとな意見であるのも事実であった。
Ch.12を殺せば、消えてしまうデータの塊。
それが城南美琴を名乗るフリューヌの正体。その事実は揺らがない。
『救えるさ!』
だが、ガクウの闘志もまた揺らがなかった。
『俺には頼れる仲間がいる。俺一人じゃできないことも、人が集えば大きな力になる! だから俺も、皆も、絶対に諦めない!』
ガクウは、恥ずかしげも無く断言した。
『絵空事の様な綺麗ごとばかり! 虫唾が走る!!』
Ch.12の言うように、それは絵空事で終わるかもしれない。
だがその言葉は、アオイの心を突き動かした。
――――それなら、私も嘆いてばかりいられない。
ガクウの言葉に鼓舞されたアオイは、パソコンのデータを洗いざらい調べ始める。
自分の心を傷つける為に生まれてしまった、新たなる友人を救う為に。
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