第44話 チャペリン、怒りの鉄拳
ガクウ達が祭壇の間に続く扉まで着く。
敵がこの先に待ち受けていると思うと、チャペリンの表情が強張る。
敵は未知の能力を使うエイリアン。緊張するなと言うのがおかしかった。
「さて、どうやって話を聞こうか?」
その顔を見ていたガクウが、不穏なワードをぶち込んだ。
「え、考えてなかったの!? 今までどうしてたんだよ!」
思わずツッコミを入れてしまうチャペリンに、ガクウは困ったように弁明する。
「いやあ、今まであった『チーター』って、親切に質問に素直に答えてくれるからさ。今回もそれでいけると思ったんだけど、違う場合もあるんだよなって思って」
「……それ、親切じゃなくて、バカなだけじゃね?」
チャペリンの意見に、賛成、とジャグーダとフリューヌが手を上げる。
それを見たガクウは、満足したように笑みを浮かべた。
「よし! 緊張がほぐれた所で行こう!」
「ほぐしてどうする」
ジャグーダが指摘するが、ガクウは気にせずに扉を開ける。
その顔は、先程の笑みとは違い、真剣そのもの。
扉を開いた瞬間、光線の雨あられが降り注ぐ。
「《眠りの守り手よ》」
だが、その程度の物はジャグーダの展開する闇の盾の前では何の意味もなさい。
光線の雨あられは、あっけなく闇の盾に吸収されてしまう。
「なかなかやるじゃないか」
そう言って現れたのは全身が粘液でできたスライム人間であるCh.12だった。
ガクウ達は各々剣を構えて突入するが、それを見てCh.12は笑みを浮かべる。
「まったく、こうもヒョイヒョイと入って来るとかさ。バカなのかな」
見下した目をしながらCh.12がそう言うと、祭壇の間に入って来る為の扉が、触れても居ないのに閉じられてしまう。
「さて、これでもう君達はここからでられなく――――」
「シャオラァッ!」
Ch.12が言うや否や、ガクウが聖剣で扉を叩き切ると、轟音と共に扉が斬り飛ばされた。
「な……っ!?」
あまりの出来事に、目を疑うCh.12。
あの扉には、入った者を逃がさないよう概念的なチート能力が備わっていた。
だというのに、ガクウは剣の一振りでそれを破壊してしまったのだ。
もちろん、これにはカラクリがある。
扉に仕掛けられているチート能力の力を、聖剣ティルナディアカリバーが切りつけた瞬間に調整し、その値を0にした上で斬り飛ばしたのだ。
後はガクウの剛腕に任せれば、扉が斬り飛ばされてしまうというわけである。
仕掛けとしては、ゾンビを人間に戻した時とそう変わりは無い。
「悪いな。声が聞こえなかった。何だって?」
厭味ったらしい笑みを浮かべ、わざとらしく耳に手を当てて煽るジャグーダ。
「……良いだろう、相手して――――」
「お前がフリューヌに変なビーム当てたのか!?」
Ch.12が言葉を言うよりも前に、チャペリンが激高した言葉をぶつける。
自分のセリフが遮られたことにイラつきを感じながらも、Ch.12はそうだと頷く。
「そうだよ。柊葵に、友人に会わせてあげたかったんだ。喜んでただろう?」
「うそ臭っ」
ニッコリと笑みを浮かべるCh.12だったが、城南美琴を名乗るフリューヌが疑いの眼差しをむける。
それもそうだ。本当に親切心でやっているのならば、意識を他人に植え付けるのではなく、そのまま本体を渡せばいい。
使い魔からの盗撮で中の様子を観察していたガクウ達一行は、城南美琴の肉体をCh.12が所持しているのを知っていたので、疑念が強まるのは仕方がない事だった。
対してCh.12は、哀しそうに溜息を吐いた。
「いやだねぇ。そうやって僕の親切心を疑うだなんて。それは君達に取って都合のいい言葉を僕が言わないと、会話が成り立たないじゃないか。勇者御一行には、それを信じる優しい心さえないのかい?」
「皆の神殿を不法占拠して、町を襲ったやつの親切心を疑うなって方が無理だと思う。信用されたいなら、もっと態度で示さなきゃダメだ!」
「…………」
恐らく煽っていたのだろうが、ガクウに正論で論破されたCh.12は、イラついた表情を浮かべながら口を閉ざす。
その様子を見ていたチャペリンが、信じられないようなものを見る様な顔で、ジャグーダに問いかける。
「……なあ、『チーター』ってバカなの?」
「そうだよ? 何も知らない赤ん坊が、兵器を振りかざしてる様なもんだ」
その会話が耳に入ったCh.12は、(スライムなのに)眉間に血管を浮き上がらせた。
「……僕を、今までの『チーター』と、一緒にしないでもらおうか!」
Ch.12が手を掲げると、床の隙間からスライムが湧き出てくる。
ガクウ達の動きを拘束しようと触手の様に迫るが、ガクウ達は高く飛んで回避した。
チャペリンはそこまで身体能力や強化ができないので、ガクウに抱えられている。
「ハッ! 密室でいつまで持つかな!?」
吠えるCh.12。
だが、チャペリンはそれに動じず、自分の懐からコイン程の大きさの球を取り出し、湧きだすスライムたちに投げつけた。
すると、触手たちはみるみるうちに凍り付いてしまう。
その光景に、ジャグーダは素直に感心した。
「ほう? 便利なもん持ってるじゃないか」
「ポッカルの魚介類が新鮮な理由の一つだぜ!」
今チャペリンがスライム達にぶつけたのは氷結粉という、ヴィザーナ・カンパニーの一商品である。
これが水に触れると、瞬く間に氷の出来上がるという、漁師等に大人気の商品なのだ。
正直なチャペリンの気持ちを述べてしまうと、スライムに対してもここまで効果覿面だとは思っていなかった。
だがそこは商人なのだと言うべきか、まるでわかってましたとばかりにすました顔をする。
「なっ!?」
ガクウ達が下を見下ろせば、Ch.12が今にも凍り付いてしまうところだった。
恐らく、床から湧き出たスライムは、Ch.12の一部分だったのだろう。
これを逃さないガクウ達では無かった。
「まずは一発――――」
凍り付いたCh.12に対し、ガクウがチャペリンを投げつける。
投げられたチャペリンは、それに動じることなく籠手の仕掛けを作動させ、その手に炎を纏わせる。
「――――殴らせろォッ!」
怒りに燃えたその拳が、凍り付いたCh.12に着弾した。
その拳は爆発を巻き起こし、その全てをCh.12に叩きつける――――。




