第43話 水の神殿奪還戦、情報収集
この神殿の最奥――――最も神秘的な祭壇の間にて、それはいた。
服を着た様な人間に見えるが、目を凝らせば粘液の様なもので出来ているのが分かる。
そんな『チーター』が、祭壇の間にある大きな扉の前で、黒髪貧乳の女を椅子にくつろいでいた。
「ったく、海を割るとか勘弁して欲しいね。Ch.5でももうちょっとおしとやかだっていうの」
それが空中にウィンドウを開き、他の『チーター』達に命令を飛ばしていた。
そこへ突如として道化師の姿をした『チーター』が現れる。
「ごきげんようCh.12」
Ch.12と呼ばれた『チーター』は、椅子に座りウィンドウで命令を送り込みながら口を開く。
「SGMか。どうしたんだい?」
SGMと呼ばれた道化師の『チーター』は、目も向けられていないというのにCh.12に頭を下げた。
「いえ、私が差し上げた奴隷を、まさかこんなふうに使うなど思っておらず、拍手しに来た次第でございます。あ、それパチパチ!」
わざとらしく拍手をし、バカにするように踊りだすSGM。
それに対し、Ch.12は侮蔑の目を向けた。
「……嫌味なやつ。あんなのCh.9の人体解析データができたら、お遊び程度に作っただけだよ。それに、僕も忙しいんだ。奥に閉じ困った水のマナ神を殺す任務を請け負っているし、交易や漁業の要になっているポッカルを潰さなきゃいけない。さらにはこれから、ここに勇者が来るって話しじゃないか。それは君だって知ってるだろう?」
「ええ、存じ上げてますとも。多忙故、何かお手伝いすることは無いかと思いまして」
くねくねと身体を揺らしながら、自分をアピールするSGM。
「そんなの無いよ。僕一人で十分だ。大方、僕の功績を横からかすめ取ろうって魂胆なんだろうが、そうはいかない」
「おや、それはそうですか。残念ですねぇ。ウフフフフフフ」
バッサリとCh.12に断られるが、SGMは面白そうに笑い、身体を不気味に揺らすだけだ。
「言いたいのはそれだけか?」
鬱陶しいと言わんばかりに殺気を込めて睨みつけるCh.12だが、SGMは変わった様子も無く口を開く。
「いえいえ、実はCh.2も何やら動きだしている様なので、特別サービスにお教えしておこうかと!」
「あの最終兵器画家。というか、特別サービス? どういうつもりだ」
怪しい様なものを見る視線をSGMに向けるCh.12。
ご安心を、とSGMは話を続けた。
「ゲームにはいくら面白い展開があってもいいじゃないですか。何でもあの人、あの城塞都市である首都ウィルバーナを進行する予定らしいですよ」
「一人で国盗りをする気か……。まったく、諜報戦をしてる奴らが可愛そうに思えて来るよ」
「私としても、それは不本意ですので、貴方に止めていただければと」
SGMがブリッ子の様に手を合わせ、お願いしますぅと上目遣いで訴えて来る。
Ch.12は深いため息を付いた。
「しょうがない。ポッカルを攻め落としたら、Ch.2に牽制位してあげるよ」
「さすがCh.12! 物理無効の貴方がいれば、Ch.2なんて目じゃありませんからねえ! それでは私はこの辺で」
言いたいことだけ言うと、SGMは跡形も無く姿を消した。
◇
――――という映像を、ガクウ達一行は鏡越しで見た。
有象無象の『チーター』を蹴散らしながら水の神殿へ突入してきた一行だったが、チャペリンが自社製の使い魔を放ち、神殿の奥の様子や建物の構造に変化が無いか調べていたのだ。
「……お前の使い魔、優秀だなオイ」
「……いや、さすがにここまでとは思わなかったんだけども」
思わず感嘆の声を漏らすジャグーダだったが、チャペリンは謙遜する。
それもそうだ。今回はあまりにタイミングの良すぎる一場面だったのだから。
「……ここまで簡単に見れちまうと、俺達に偽の情報を渡す為にわざと聞かせたって線もあるな」
ナンバー付きの『チーター』は、数字が低い程序列や強さを表していると、ジャグーダはアオイから聞いていた。
Ch.1亡き今、その次に最大戦力であるCh.2を首都に進攻させて動揺を誘っている可能性も高い。
今の会話に信憑性があるのか否か、ジャグーダとしては悩みどころだ。
ガクウももちろんその事を考えていたのだが、ふとアオイとフリューヌが顔を青ざめていたのが視界に入る。
「アオイちゃんにミコトちゃん? なんか顔色悪いけど、どうかした?」
「…………」
心配になって慌てて声をかけるガクウだったが、アオイは神妙な顔つきで顎に手を当てている。
その顔は、どこか焦っている様な、鬼気迫っている様な表情だった。
「……私が、いた」
ぽつり、と城南美琴を名乗るフリューヌが言葉を漏らす。
その発言に、チャペリンが眉をしかめた。
「いやお前はここだろ」
「そういうことじゃないの石油王!」
「だからそれはなんじゃい!!」
石油王、ではなくチャペリンがフリューヌにツッコミを入れるが、フリューヌの表情はそれどころではない。
まるでこの世の悍ましい物を見てしまったかのような、絶望の淵に立たされているような顔だった。
「あの『チーター』が椅子にしてたの、美琴ちゃんなの」
「……え?」
その発言に、ガクウは咄嗟に鏡を見る。
確かに『チーター』が黒髪の少女に腰かけていた。
「城南美琴のオリジナルの肉体があそこにあるのよ」
「嘘だろ……」
あまりの展開にガクウがマヌケな声を漏らしてしまうが、他の皆も呆けているので誰も攻めることはなかった。
「え、じゃあ『チーター』倒せばミコトちゃんの意識が肉体に戻って、全部解決なの……? 何か怪しくない?」
「そうね……。アイツらなら、人の嫌がらせに抜かりはないわ。まだ生ぬるい気がする」
Ch.1やCh.9の所業を思い返しながら、ガクウとアオイは警戒を強める。
それはジャグーダも同じで、どこか遠い目をしていた。
「いや、フリューヌがこうなるの事態十分悪質なんだが……」
チャペリンの呟きに、誰かが答えることは無かった。
ジャグーダが遠い目をしていると、別の使い魔の様子を映す鏡がジャグーダの視界に入る。
「おい、ここアップしろ」
「あいあい」
シカトかよ、と内心不満に思いながらも、ジャグーダの指定した場所をクローズアップさせるチャペリン。
そこには、たくさんの機械がある部屋だった。
ジャグーダがアオイと共に地下鉄で押収した、大きなパソコンもある。
「……私、この部屋に行って調べ物してくるわ。何か資料や、今回の事態を引き起こした道具があるかもしれない」
それを見たアオイが進言をする。
『虐殺遊戯連合』の機械類に詳しいアオイにとっては、まさに適材適所と言える役割だった。
だが、そんなアオイに城南美琴を名乗るフリューヌが、心配そうに声をかける。
「『チーター』特有の能力ってだけかもしれないじゃん。そんなのが資料として残ってるの?」
「それを含めてで調べてみるのよ」
「……なるほど?」
よくわかっていないが、取り敢えず葵の言葉に納得しておくフリューヌ。
チャペリンはガクウ達や連れて来たクランメンバーを見比べ、指示を出し始める。
「フリューヌ……じゃなくてミコトか。お前はガクウ達と『チーター』と対峙してこい。本体があるなら、なんかこう……わかるかもしれん」
「なんかこうって。ハッキリしてよ石油王」
「だから石油王じゃねーって!! 後、一般人一人向かわせるのもあれだし、クランメンバーは全員ヒイラギアオイの警護な!!」
フリューヌに茶々を入れられながらも、チャペリンはクランマスターとしてしっかり支持を出す。
「クランマスターはどうなさるおつもりで?」
クランメンバーの一人が、チャペリンに問いかける。
「……ちょっくら諸悪の根源を殴ってくる。その権利が、俺にはあるだろ?」
彼は商人としても、クランマスターとしても、いつだって誰かの為に真摯に取り組んできた。
だが、今回に至っては、私情を優先させている。
その目は、絶対に引けない男の意地を宿らせていた。
「……お気を付けて」
クランメンバーは、それに対して何も言わなった。
彼らとて、共に町を守るサブクランマスターの意識を掻き消されたことに、怒りを宿していたのだ。
「お前らの分もぶつけて来てやる。くれぐれも慎重にな」
「「「ハッ!」」」
クランマスターは、その代表として殴ると言った。
ならば、彼らはそれを任せ、自分の職務を全うするだけ。
彼らの間には、そういった信頼関係が築かれているのだ。
「何かあったら、すぐ駆けつけるから」
「ええ、期待してるわ」
ガクウとアオイが別れ際に交わした言葉は、それだけだった。
『読声』が使えると言うのもあるだろうが、別に無くても、二人にはその言葉だけで十分なのだろう。
「ねえ、アオイちゃん。それ死亡フラグっぽくない? 大丈夫?」
半面、城南美琴を名乗るフリューヌは不安そうにアオイに問いかけて来る。
「今貴女がツッコミ入れてくれたから大丈夫だと思うわ」
「今の発言でキャンセルしてないかなぁ!?」
不安で一杯一杯になっているフリューヌ。
アオイはその手を、包み込む様に優しく握った。
「心配してくれるのはありがたいけど、私はガクウ君を信じてるの。だから、貴女も彼を信じてあげて」
まっすぐフリューヌの目を見て話すアオイ。
その目には、迷いなど一切ない。
城南美琴という少女が憧れた、柊葵という友達の姿だった。
「……うん、わかった」
城南美琴を名乗るフリューヌは、力強く頷く。
それを見ると、アオイは安心したように微笑んだ。
こうして、水の神殿奪還戦のメンバーは、二手に分かれるのであった。




