第40話 聖剣の恋愛指南 もしくは当然の激怒
ここは、ガクウの精神世界。
ガクウが眠ったりなどして現実から意識を閉ざすと、時折聖剣ティルナディアカリバーがここへガクウの意識を呼び出す場所だ。
夜空を埋め尽くすようなオーロラの下で、真っ白な砂浜を駆けるガクウの姿があった。
その後を、人工女神ティルナディアカリバーが空を飛び、ガクウの後を追いながら、ビームを雨の様に降らしていた!
「バカ野郎ー!!」
特大の一撃の光線をガクウに叩きつけようとするが、あっさりと避けられてしまう。
「一体どうしたんだ聖剣さん!? 俺が何をしたっていうんだ!?」
ティルナディアカリバーの追撃を避けながら問いかけるガクウ。
「何! も! して! ない! から! 怒ってるんですー!!」
「訳が分かんない!!」
ガクウの問いかけに意にも介せず、ビームの数を増やすガクウ。
それを避け続けていると、ティルナディアカリバーは諦めたかのように手を止めて、溜息を吐いた。
「お姉ちゃんが何に怒っているのか、本当にわかんないんですか?」
「わかんない。それと姉面をしないでほしい」
なんで血が通ってないのに、変な所で似るんでしょう? と思いながらティルナディアカリバーはガクウの返答を聞く。
そして、乙女心を全くわかっていない鈍感男に、もう一つ溜息を吐いた。
「あのですねぇ。私が言いたいのは、アオイちゃんの事ですよ」
「アオイちゃんがどうかしたの?」
きょとん、と首を傾げるガクウに、ティルナディアカリバーの堪忍袋の緒がブチ切れた。
「どうかしたの? じゃ、ありませ~ん。ガクウさん、重力魔法を仕掛けられた後、アオイさんに話しかけて無いじゃないですか」
ティルナディアカリバーの台詞は表面上は優しいが、言葉の節々に込められた怒気を感じとり、ガクウは思わず委縮してしまう。
「……なんだか、話しかけにくくって」
「そりゃそうですよね。転生の概念よくわかってないとはいえ、アオイちゃんの友達の命奪おうとしたようなもんですもんね。そりゃ話しかけにくいですよね~」
ガクウの要領を得ない返事に、ティルナディアカリバーはいらつきながら相槌を取る。
「……短絡的過ぎた。今となっては反省してる」
「で、それをなんでアオイちゃんに言わないんです?」
ギロリ、とガクウを睨むティルナディアカリバー。
返答を間違えたら殺される。そんな気配を感じ取り、ガクウは慎重に言葉を選ぶことにした。
「自分の意見が纏まったのが、チャペリンと話した時だったか。それだから、アオイちゃんに話しかけられなかったんだ。それと、道化の『チーター』の目撃情報の事もあったし……」
「そんなの! 乙女は! 知ったこっちゃありません! 起きたら、速攻でアオイさんにちゃんと謝って下さい!」
ガクウの頭を軽く小突きながら訴えるティルナディアカリバー。
やり方や言い方にに文句を言いたいガクウだったが、言い分事態はご尤もなものだと納得し、複雑な表情を浮かべながら頭を下げた。
「……わかった。そうする。ありがとう」
ガクウからその言葉を引き出すと、ティルナディアカリバーは満足して手を引いた。
そして、機嫌の良さそうな笑みを浮かべて口を開く。
「貴方もアオイさんも好き合ってるんですから、ちゃんとそういうのは言葉にしないと亀裂を生みますよ」
好き合ってる。
その言葉を、ガクウの頭は上手く咀嚼できなかった。
「……でも俺達、喋って三日ぐらいしか経ってないよ? そんな時間で、アオイちゃんが俺なんかを好きになる?」
その言葉は、ティルナディアカリバーの逆鱗に触れた。
「いいですか鈍感野郎? 普通女の子は、好きでもない男の布団にもぐってきたりしません。ましてや風呂水着であろうと、あんなデカいものを二つぶら下げた身体を密着なんてさせません! 好意無くそんな事するなら、それはただの痴女です痴女! これは、どんな星でも共通事項です!! いいですか!? いいですね!? わかったなら返事!!」
ティルナディアカリバーがガクウの胸板を小突きながら捲くし上げる。
「は、はい! わかりました。」
ガクウは背筋をピンと立てて、大きな声で返事をする。
好き合ってる。
改めて言葉を心の中で反芻させると、ガクウは自分の顔が熱くなるのを感じた。
何を今更恥ずかしがっているのかと、自分の頭の中をガクウは整理し始める。
あんなに綺麗な子が自分の様な人間を好きになるなど、あまりにもったいなく思う。
それと同時に、誰にも渡したくないという醜い独占欲が沸き上がった。
――――いや、俺は頭の中を整理しようとしたはずでは!?
ガクウの頭の中は、混乱のあまり未曽有の危機に陥っていたのだ。
「ど、どうしよう。何か意識し出したら、アオイちゃんと何話せばいいか分かんなくなってきた!」
思わずティルナディアカリバーに助けを求めるガクウ。
「いや謝れって言ってるじゃないですか。そこ若者の幕を醸し出さないでください」
ティルナディアカリバーは、冷たい目で冷静にガクウに指摘する。
気のせいか、イラッとしているようにガクウは感じ取れた。
「……そうだった!」
当初の話を思い出し、納得するように頷くガクウ。
恋愛話のすったもんだで忘れかけていたが、これはアオイにきちんと友達を殺そうとしたことを謝罪しろと言う話である。
「……ありがとう聖剣さん。俺、色々とバカだった」
自分のあまりの未熟さに恥じながら、ティルナディアカリバーに礼を述べるガクウ。
「別に、私はガクウさんのお姉ちゃんですから、それぐらい構いませんよ」
「さらっと姉だと認めさせようとしないでほしい」
話の勢いでガクウを丸め込めることができず、舌打ちするティルナディアカリバー。
「それはさておき!」
しかし、ティルナディアカリバーは勝手に気を取り直す。
このメンタルティが聖剣たる所以かと、ガクウは変に感心してしまいそうになる。
「さあ! 友達殺し未遂の謝罪の仕方とか、私にはわっかりませんが! 二人の未来の為に頑張って下さい! ひあうぃーごー!」
ティルナディアカリバーが大袈裟な身振り手振りを加えて、ガクウを応援する言葉を送る。
少なくとも、ガクウはそうだと感じ取った。
「……ちなみにだけど、なんでそんな俺達の事応援してくれるの?」
唐突なガクウの質問に、ティルナディアカリバーは不思議そうに首を傾げた。
「担い手の幸せを願うのは、聖剣として当然のことでは?」
さも当然のことの様にいうティルナディアカリバー。
本心ではジャグーダを選びたいと言っていたが、担い手としてガクウの事を認めてはいたのだ。
「……そっか。ありがとう」
それがが無性に嬉しくなったガクウは、もう一度お礼を言う。
「はあ? どういたしまして?」
お礼を言われた意味が分からなかったティルナディアカリバーは、更に訳が分からないと言った表情を浮かべるのだった。




