第38話 水の神殿奪還戦前夜 城南美琴と柊葵の場合
私こと城南美琴は、柊葵と幼い頃からの親友だった。
昔から葵ちゃんは何でもできて、神童だって呼ばれていたのを今でもよく覚えている。
何にもできない私とは真逆で、いつも助けて貰ってたよね。
葵ちゃんは、いわば私のヒーローだった。
え? 女の子はヒロイン? そういう細かいのよくわかんない!
なんでこんな何もできない私と友達してるの? と葵ちゃん聞いた事があった。
「友達って、そういう理由で選ぶものじゃないでしょ? あなたと一緒にいる時間が愉しくて、私はあなたと友達してるんだと思うわ」
自分の言った言葉に照れながらも、葵ちゃんははっきりとそういった。
これ、言ったの小学生の時だからね? 本当出来た子だったわ。
あんまり嫌味が無かったから、私も漫画とかであるような劣等感は抱かずに育ってきた。
いや本当、葵ちゃんのお蔭で勉強なんとかなったようなもんだしね。マジマジ。
けれど、それが続いたのは小学生までだった。
一緒のに卒業して、一緒の中学に行けると思ってたけど、葵ちゃんはが卒業するより前にアメリカの学校医行くことになった。
発明家であるお父さんを手伝う夢の為、どうしても必要な事なのだとか。
「まあ、三年ぐらいで終わらせてくるわ。高校は一緒の学校で、一緒の制服着ましょう」
「じゃあ私が、うーんと可愛い制服の高校、探しておくね!」
アメリカの学校では、制服を着ないとどこかで聞いた事のあったので、私は総提案した。
すると、葵ちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべたのを、私は今でも鮮明に覚えている。
葵ちゃんは無表情とか不愛想だとか昔から言われてたけど、割と普通に笑ったりもするんだよね。
傍から見るとわかりにくいから、そう言われちゃうのもしょうがないかもだけど。
「ヤンキー高校は嫌だから、そこらへん考慮してくれると助かるわ」
「ねえそれ、私の事遠まわしにバカって言ってない!?」
それが、顔を合わせての最後の会話だったと思う。
本当は、三年後に顔を合わせられる筈だった。
葵ちゃんが乗って来る飛行機の時間を電話で聞いて、
『――――やあ、原住民諸君。私はGM、『虐殺遊戯連合』のゲームマスターをしている』
月から目が生えて、唐突にそう言った。
『今回君達に挨拶を贈っているのは他でもない。この星が、記念すべき九百九十九回目となるゲームの舞台になるからだ。ルールは実に簡単。私達『チーター』は、飽きるまで君達をありとあらゆる手段で狩りつくす。無駄なあがきだとは思うが、君達には全力で生き残って欲しい』
そう、その年になって、『虐殺遊戯連合』が地球に侵略しに来たのだ。
◇
城南美琴がノックの音で目を覚ますと、見覚えの無い寝室だった。
すぐさま頭を整理し、ここが自分が転生した先のサキューロ・フリューヌが保有する、『ヴィザーナホテル』の一室だと思い出す。
「……はーい」
寝ぼけた頭のまま、扉を開ける城南美琴を名乗るフリューヌ。
そこには、心配そうな表情のアオイが佇んでいた。
その背後には、フリューヌが逃げ出さないかどうかを監視しているクランメンバーが数人いる。
後ろの監視達に嫌な顔をするフリューヌだったが、アオイの顔を見直して、フリューヌは笑みを浮かべた。
「葵ちゃんどした~?」
「眠れているかどうか不安だったのだけど……お邪魔だったみたいね」
寝間着に着替え、ぼさぼさ頭のフリューヌの髪を見て察するアオイ。
「あ、何なら久しぶりに一緒に寝る!?」
「えっ」
城南美琴を名乗るフリューヌの言葉に、アオイは戸惑った。
監視してるクランメンバー達に、目で良いのかと問いかけるが、もちろん首を横に振られてしまう。
「ダメだって」
「なんでー!? いいじゃん! 悪い事じゃないでしょ~!」
すんなりと諦めたアオイとは反対に、頬を膨らませて訴えるフリューヌ。
「『チーター』が仕掛けた罠という可能性もありますので、我々が見ていない所での会合はダメです。どうしてもと言うのであれば、我々が監視した上で寝て貰う事になりますよ」
サブクランマスターであるフリューヌに、無辜の民の命を奪わせない為にも、アオイの安全の為にも、クランメンバー達が首を縦に振ることは無かった。
不満そうにするフリューヌだったが、その言葉を聞いて笑みを浮かべる。
「なーんだ! 監視があれば一緒に寝てもいいんじゃん! それじゃあどうぞどうぞ~」
そう言うとフリューヌは、アオイとクランメンバー達を部屋に招き入れようとする。
「……ジョウナンミコトという人物は、その……こういう人物なのですか?」
「ごめんなさい。こういう人物なんです」
クランメンバー達の質問に、申し訳なさそうな表情を浮かべながら、アオイは頭を抱えるのだった。
◇
アオイとフリューヌは寝間着に着替えると、一緒のベッドで横になっていた。
監視のクランメンバーは、念の為女性を数人配置させ、何があっても対応ができるよう眼を鋭くして二人を注視している。
アオイにはどうも居心地が悪い環境だったが、フリューヌは気にならないようで、懐かしそうに話しかけて来る。
「……昔はさ~、よくこうやって一緒に寝てたよね。本当小学生の頃とかだったけど」
「……そうね。中学辺りも、私の方が忙しくて、帰郷できなかったし」
ポツポツと、想い出に触れながら、話に花を咲かせる。
けれども、フリューヌの視界に映るアオイは、どうも楽しそうに見えなかった。
「……葵ちゃんさ、私のことどう思ってる?」
「どうって……大切な友達だと思ってるわよ」
少し戸惑いながらも、言葉を絞り出すようにしてアオイは答える。
それを見て、フリューヌは自分が彼女の心の枷になっていることに。
「……本当に?」
それは、城南美琴を名乗るフリューヌの意地悪だったのか、それとも優しさだったのか。
彼女自身それは分かっていなかった。
どういう意味? と首を傾げるアオイに、フリューヌは話を続ける。
「だって、私の存在って、葵ちゃんを苦しめてるだけじゃん。ガクウさんって人、アオイちゃんが好きな人なんでしょ? 喧嘩してない? 大丈夫?」
「ガクウ君は、それで嫌うような人ではないわ。むしろ、私のことを心配してたくらいよ。……それと、好きな人とか一言も言ってないのだけれど」
フリューヌの言葉に、アオイはすぐさま目を逸らすが、赤くなっている顔を隠せてはいなかった。
「ひゅ~! 葵ちゃんが恋か~! 考えたことも無かったけど、そうだよね~! 良い人見つけたら葵ちゃんだって恋するよね~!」
「人。人が見て聞いているのだけど……!」
クランメンバー達の目と耳が、警戒ではなく好奇心に変わったような気がして、アオイはムズ痒くなるものを感じる。
それを見たフリューヌは、かつて自分のヒーローだっアオイが、こんな恋する乙女になったのを実感すると、感慨深いものがあった。
――――それを見れたのだから、もう悔いはないんじゃないだろうか?
ふと、そんな気持ちがフリューヌの中から湧き上がって来た。
彼女自身、突如沸き上がった気持ちに戸惑っていたが、自分が死んでしまっている可能性に思いあたる。
もしかすると、自分は亡霊の様なもので、その悔いを生産する為だけに出てきたのではないか?
そう考えると、城南美琴の気持ちに納得が出来た。
となると、いつ昇天してしまうかもわからないので、今のうちに言えることを言ってしまおうと、フリューヌはアオイの手を握った。
「……葵ちゃん、私に出来ることがあったら言ってね。すぐ消えろって言われても、できるかどうかはわかんないけどさ。これ以上私の迷惑で、今を生きてる葵ちゃんの足を引っ張りたくないからさ」
「そんな事言わないで」
アオイが、フリューヌの手を強く握り返す。
「私、貴女ともう話せないと思ってて、またこうして会えて、嬉しいのに……」
アオイの目からは、涙が零れていた。
まるで、感情の防波堤が決壊してしまったかのように。
「絶対に何とかしてみせるから、そんな事、言わないで……!」
「……ごめん」
フリューヌは、泣きだすアオイをそっと抱きしめる。
彼女が泣き止んで、感情が整理できるまで、ずっと抱きしめた。
――――ああ、私がいなくなって、随分と泣き虫になってしまったな。
そんな事を思いながら、優しくアオイの頭を撫でるのだった。
◇
「……ごめんなさい。いい歳してバカな事をしたわ」
「いいのいいの! 葵ちゃんの新しい一面見れて、私も嬉しかったし~!」
しばらくして、アオイが落ち着くと、彼女は顔を赤くしながら謝罪した。
恥ずかしかったのは葵ちゃんだろうに、と思いながら、フリューヌはそれを微笑ましく眺める。
「ああ、それと葵ちゃん。大事な事教えておくね」
「……何かしら?」
真剣なトーンで話すフリューヌに、アオイも真面目な顔をして聞き入った。
そのアオイの耳に、フリューヌはそっと囁く。
「私にはフリューヌの知識とかあるんだけど、子供の作り方とか一緒だし、多分大丈夫だと思うよ。色々とっ」
「――――ッ!」
顔を赤くしたアオイは、無言でフリューヌの脇をくすぐる。
「やめ! そこやめ! あおい、葵ちゃ、アぁーっ!?」
『ヴィザーナホテル』のとある部屋の一角にて、サキューロ・フリューヌの叫びが聞こえたとかなんだとか。




