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第37話 水の神殿奪還戦前夜 チャペリンとガクウの場合


 俺、ヴィザーナ・チャペリンは、幼い頃から父の背中を見て育ってきた。

 父は商人としてとても優秀で、多くの人を相手に商売をしてきた人だ。

 戦争を多発させるヴァラリッサ王国から、平和な国であるティラニオーデ帝国に亡命しても、それは変わらなかった。


 港町ポッカルで会社を作った時も、今でこそ手広くやっているが、ヴィザーナ・カンパニーは小さな規模で展開していたと記憶している。

 それもそうだ。異国の地で会社を建てられる手腕があるだけ、俺の父は大したものだと思う。


 主に貿易を主軸に様々な商業展開をしていった父は、それはもう大変そうにしていたが、どこか充実しているように見えた。

 それが大きく変わったのは、父がマギアニウムの発掘に手を出してからだ。


 さすがにそれは無謀だろうと、幼い俺でも思ったものだが、父の判断が今まで間違ったことは無く、何となく父なら掘り当てられる気がしていた。


 結果、大成功。

 マギアニウムの大きな鉱脈を、海の中で発見したのだ。

 今まで誰も海に目を向けてこなかったため、それはもう宝の山としか言いようが無かった。


 順風満帆だったのもそこまで。

 何故か、ヴァラリッサ王国が鉱脈の所有権を主張してきたのだ。

 元々我々の国が先んじて見つけた物を、ヴィザーナ氏が勝手に情報を盗み出したのだと。


 そんなはずが無かった。

 父は王国相手にそんな大きなパイプ等持っておらず、借金をしてまで鉱脈を探し回ったのだから。

 本当に王国相手にそんな情報を盗み出していたなら、ふりだとしても鉱脈探しなどせず、一発で掘り当てるだろう。

 その方がキャッチコピー『一発的中男!』とか付けられるし。父そういうの好きだし。


 まあ、マギアニウムの大きな鉱脈をミスミスと手放すティラニオーデ帝国でもなく、その結果戦争となった。


 その後、父はヴァラリッサ王国が送り込んだ戦争仕立て人だと噂された。

 名前こそバカバカしいが、ヴァラリッサ王国はそういった諜報員を他国に仕込み、戦争を促すように煽ったという実例があった為、その噂は彼らにとって真実になった。


 肌の色も褐色と目立つ俺達は、そりゃもうやり玉にあげられた。

 俺は何にも悪くないのに、そんな事をされてとても辛かったよ。


「お前達! 何をしている!」


 そんな中、最後まで俺の味方をしてくれたのがサキューロ・フリューヌだった。

 亡命してから仲が良かった彼女は、俺の味方をしてくれたのだ。


「チャペリンがお前達に何をした! 子供が戦争など起こせるかバカ物共め! 恥を知れッ! 恥を!」


 俺と同い年だと言うのに、その頃から彼女は心が強かった。

 周りの意見に流されず、自分の意見をちゃんと持って主張できており、俺の憧れになった。


 家族への被害を見た父は、すぐさま首都ウィルバーナへ避難することになった。

 その前に、俺はフリューヌとバカな約束をしたのだ。


「俺さ、いつか自分の城を建てるよ。そしたらフリューヌ、俺の城に務めない?」

「城か……いいぞ。私も騎士にでもなるつもりだったしな。いいぞ!」


 子供とはいえ、それなりに常識を弁えていた俺は、かなり乗り気のフリューヌの姿に慌ててしまう。


「城っつってもあれだよ!? ホテルとかそういうのだかんね!?」

「ひよるなひよるな」


 言い訳する俺に、フリューヌは人差し指を差し出してくる。

 俺も人差し指を差し出して、指先をくっつけた。


「「絶対の絶対!」」


 約束を結んだ俺は、フリューヌに見送られ、船で首都ウィルバーナへと向かう。

 いつかまたフリューヌと会えると信じて。


     ◇


 夜空に星が散らばり、月が睨んでくる中、チャペリンは自分の『ヴィザーナホテル』を目の前で見上げていた。


 馬車や自動車といった客用の道路や駐車場があるが、今は『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』対策として町が保管しているため、現在は空っぽだ。

 今はそこにベンチを置き、チャペリンが一人座っている状態である。


 ふと、何かが自分の近くにいることをチャペリンは知覚する。

 一瞬『チーター』かと思ったチャペリンだったが、この気配には覚えがあった。


「……悪かったな。絶好のチャンスだったのに。勇者ならあれでも何とかなったんだろ」


 そう呟くと、闇の中からガクウが姿を現す。

 ガクウはチャペリンと目を合わせると、口を開いた。


「……どうする? 寝首を掻くこともできると思うけど」

「うわっ、意外とクレバーだな。……いや、でもいいよ。万が一でもフリューヌが死ぬのは避けたいしな」


 チャペリンの返答に、そっか、とだけ言って黙るガクウ。

 数々の客を相手に商売をしてきたチャペリンをもってしても、その表情からどんな感情かを察するのは難しかった。


「っつーか、そんなのなんで俺に確認取りに来るんだよ。自分の班なんで、パパッとやっちまえばいいだろ」


 ふと、不思議に思っていたことをガクウに投げかけるチャペリン。

 一方でガクウは、その問いに不思議そうな表情を浮かべた。


「でも、君の大切な人なんだろ? だったら、君の意見を尊重すべきだと思ったんだ」

「うわぁ……なんだお前。凄い光感じるわ」


 チャペリンに光と言われると、ガクウの表情が明るくなり、自信満々の笑みを浮かべる。


「俺が得意な魔法は光属性だからな!」

「いや、そういう事じゃなくて……まあいいや」


 説明をするのも馬鹿らしくなったチャペリンは、勝手にそう解釈しててくれと投げやりになった。

 まだ他に気になる疑問もあったのだが、プライベートに関わる問題なので問いかけていいのか悩んでしまう。

 ガクウの顔を見ると、病院に連れていかれるのが分かっていない犬の様な顔をしていたので、まあ聞いてもいいかとチャペリンは開き直った。


「なあ、あの中身はアンタの恋人の、本来亡くなった友達って事でいいのか?」

「恋人じゃないけど……そういうことだな」


 恋人以外を肯定するガクウだったが、どこか自信が無いように見えた。

 それも当然だ。『テンセイ』などと言う概念は、チャペリンも初めて聞いた言葉だったのだから。

 きっとそれはこの勇者も同じなのだろうと、チャペリンは勝手に納得した。


「だったら、そっちの意見も尊重すべきじゃないの?」


 そうチャペリンが問いかけると、ガクウの目が驚いたように大きく見開かれた。


「……驚いた。君、本当にさっきまで取り乱してた人?」

「リクライト兄弟は失礼な奴しかいねえのかねえ!?」


 思わず声を張り上げてしまうチャペリンだったが、すぐさま先程の醜態を思い出す。

 そう思われてもおかしくない、醜い姿だったと思い返しながら、チャペリンは深く自省した。


「……いや、ちょっと昔のこと思い出してな。あの中身は悪い事してないのに、俺も騒ぎ過ぎたと反省してるだけだ」

「君、良い人だな!」

「俺なんかお前嫌ぁい!」


 どこか会話をずらして来るガクウに苦手意識を持ってしまうチャペリン。

 この勇者は天然なのか? と思うと同時に、チャペリンは自分の質問をはぐらかされている気がしてならなかった。

 ならば、本筋は直球で聞くしかないと考え直し、それを口にした。


「……で、勇者さん的にはどうすればいいと思う? フリューヌのこと」


 意地悪な質問だったかもしれない、と少しチャペリンは後悔するが、すぐに考え直す。

 なぜなら相手は聖剣に選ばれた勇者だ。これぐらいの問題等、すぐに解決してもらわねば彼としても困るからだ。


 案の定と言うべきが、ガクウはすぐさまその問いに答えた。


「とりあえず、水の神殿に突入して、『チーター』から何とかする方法を探してこようかなって」


 自分の耳がおかしくなったのかと疑いだすチャペリン。

 しかし、自分の考え違いの可能性も考え、すぐさま追撃した。


「……何とかって? どういう意味で?」

「城南美琴と、サキューロ・フリューヌ。両者がどちらも死ななくていい方法」


 彼の考え違いでは無かった。

 リクライト・ガクウという男は、あんな奇妙な一人となった二人を救おうとしているのだ。


「おま、そんな都合のいいことができるとマジで思ってるのか!?」


 思わず声を張り上げて、投げつけるように問いかけるチャペリン。


「ぶっちゃけ無茶だと思う」

「無茶だと思ってんなら言うなや!!」


 すぐさま渡された返答に、チャペリンは怒鳴るしかなかった。

 それでもガクウは飄々としており、その顔には笑みさえ浮かべていた。


「でもさ、方法を模索しないよりはマシだと思うんだよね」

「……まあ、確かに」


 ガクウの答えに、チャペリンは思わず同意する。

 それほどまでに、リクライト・ガクウという男の声は清々しかった。


 だが、ここまで底抜けなお人よしだと、チャペリンとしても一抹の不安があった。

 それが、自分の幼馴染であるフリューヌが関わっているとなれば、なおさらである。


「……なあ、その水の神殿の突入、俺も手伝って良い?」


 ヴィザーナ・チャペリンという男は、『クラン・ヴィザーナ』の中でも貧弱であった。

 体格自体はあるのだが、騎士としては最低限の技能しかもっていない。

 それもそうだ。彼は本業の商人としての技能を磨いてきたのだから。


 クランマスターとしての地位も、チャペリンが設立し武器を提供しているから得られているモノだった。

 少しでもフリューヌに釣り合いのとれる自分でいたかったからだ。


 だが、『虐殺遊戯連合(チーター・トライブ)』の攻略戦となれば、自分を知らない勇者にお荷物扱いされるのは明白だった。

 それが水の神殿奪還となれば、慎重に動くに違いない。


 拒絶されるか、もしくはどんな問いが来るかを予想し、チャペリンはそれら全てを説き伏せられるよう思考を回す。


 だが、その答えは彼にとって意外なモノだった。


「わかった。よろしくね」


 ガクウはすぐさま快諾したのだ。

 あまりにさっさりと返事をされるものなので、拍子抜けしてしまった。


 本当にいいのか? とガクウの顔をまじまじと見るチャペリンだったが、その目に憂いは無い。

 まるで、彼の覚悟を汲み取り、信頼しているかのようだった。


「城南美琴と、サキューロ・フリューヌを助ける為、一緒に頑張ろう!」


 拳を握り、甲を突きだすガクウ。


「はぁ……なるほど、こりゃ勇者だわ」


 それに少し戸惑ったチャペリンだったが、諦めた様な、感心したような溜息を吐く。


「……ん」


 チャペリンも拳を握り、その拳の甲同士を二人は軽く叩きあう。


 それは、この星で親愛を示す挨拶だった。


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