第35話 キカイな遭遇
「……ふぅ、何とかなったのか」
港町ポッカルの片隅にて、息を切らして壁に寄りかかるチャペリンがいた。
懸命に走り、クランマスターとして現場を指揮しようと思ったが、事態が収束する様を見ることしかできなかったのだ。
その背後に、ひょっこりとジャグーダが現れ、厭味ったらしい笑みを浮かべチャペリンの肩を抱いた。
「既にクランメンバーが動いてたんで、お前さんの手腕は見れなかったのは残念だったな。もっとも、俺の実力は見せられたが、そこら辺はどうだ? ん?」
「うるせー! ハイハイ! アンタ聖騎士! 認める! 認めますぅ~! 認めっから顔近づけるな!! 手を離せ馴れ馴れしい!!」
暴れるチャペリンの講義に、ジャグーダは素直に従い手を離した。
「ならいいんだよ。で、アイツら水の神殿から来たって事でいいのか?」
ジャグーダの言葉に、チャペリンは真面目な眼差しを向ける。
「……占領されてるの、知ってるのか?」
「優秀な情報網があってな。とはいっても、小耳に挟んだ程度だが」
ジャグーダが厭味ったらしい笑みを浮かべ、チャペリンが警戒して睨みつける。
そんな攻防を見せていた時だった。
「大変ですクランマスター!」
突如としてチャペリンのクランメンバーである騎士が、焦って舞い込んで来たのだ。
「え? 何? どったの?」
焦るクランメンバーを見て、戸惑うチャペリン。
舞い込んできた騎士は、出来るだけ落ち着いて話そうと、息を整えてから口を開いた。
「サブクランマスターのフリューヌさんが、敵のビームで倒れた後、『私のおっぱいでっかくなってる』とご乱心しました!」
「……ん~?」
その報告に、ヴィザーナ・チャペリンは首を傾げた。
サキューロ・フリューヌとは、チャペリンの幼馴染にあたる女騎士である。
今回の非常事態ではサブクランマスターとして補佐して貰っていた。
聖騎士の偽物の疑いがあったジャグーダ達の居る場所にも、チャペリンを護る為について来るぐらいには仲がいい。
そして何より、元々バストサイズは豊満な方であるはずだった。
「……え、何? アイツ胸が大きくなったの? 胸のサイズが三桁ぐらいのおっぱいお化けにでもなった? え? どういう理屈で? そんなビームがあるの?」
全く状況が呑み込めず、焦っておかしな質問を重ねてしまう。
「いえ、身体の方は特におかわり無いのですが、その……言動がバカっぽくなり、自分の置かれている状況も認識できていないようで……」
「え? え? 嘘でしょ。うちのクランで真面目筆頭なフリューヌが、おバカに? そんなビームがあるの!?」
さらに信じられない事を聞き、さらに混乱するチャペリン。
そんなチャペリンの肩に、ジャグーダが肘を付いた。
「……どういうことだ?」
「いや! それは俺が知りたいんですけどぉ!?」
ジャグーダの問いかけに、チャペリンは大きく声を張り上げた。
◇
港町ポッカルにある一番大きな宿、『ヴィザーナホテル』のエントランス。
そこにアオイをお姫様抱っこで抱えたガクウの姿があった。
大きな星属性の魔法を使ったアオイは、自力で歩けない程にオドを大量消費してしまったのだ。
ましてや初めての実戦。緊張の糸も切れ、疲労困憊していた。
「ごめんね。まだ魔法になれてないのに、作戦に取りこんじゃって」
「……いいのよ。自分から提案したことなんだから」
そうは言うが、アオイの頭はまともに思考ができないでいた。
更には喉が渇いて仕方が無く
「ごめんなさい。何か、飲み物を……」
「わかった。それじゃあオドに利く栄養ドリンクが無いか聞いてくるから、ここで待ってて」
ガクウはそういうと、エントランスにあるソファにアオイを寝転ばせる。
そして、急いでどこかへと走り去った。
戦場に出るのには、まだまだ未熟過ぎる。
そう自分の無力さに、打ちのめされている時だった。
「あれ、葵ちゃん?」
知らない声に自分の名前が呼ばれ、アオイは不思議そうに首を傾げた。
しかし、それを聞いて何故だかアオイの気持ちが落ち着いていく。
「あー! やっぱり葵ちゃんじゃん! こんなおっぱい葵ちゃんくらいのもんだよね~」
近づいてきた声の主は、髪が長く、綺麗な金髪の女騎士だ。
アオイは鈍っている頭を働かせ、ヴィザーナ・チャペリンの傍にいた女騎士がこんな見た目で、フリューヌと呼ばれていたと思い出した。
だが、記憶している彼女は凛々しい顔つきをしているが、目の前の彼女は人懐っこそうな顔つきに見える。
「……すいません、私名前を名乗りましたっ――――け?」
見覚えの無い顔に、アオイは申し訳なさそうに日本語で返そうとした。
その時、アオイはようやく気が付く。
目の前の女騎士が、日本語で語り掛けて来ていたことに。
「あなた、地球人なの!?」
衝撃の事実に、身体を起こして日本語で問い正すアオイ。
「え? いやそうでしょ? 葵ちゃんだって地球人だし。……あ!? もしかして葵ちゃんが天才なのって、宇宙人とかだったからだったりすんの!?」
フリューヌが回答するが、どこか話が噛み合っていない。
その言動に、彼女は確かに地球で聞いた覚えがあった。
だが、どうも思い出せない。
「あの、どちら様かしら……?」
疲労の所為で頭が回らず、自分で結論を出せない為、恐る恐る問いかけるアオイ。
フリューヌは拗ねたように頬を膨らますと、日本語でアオイに返した。
「わっかんないかなー。私! 私だってば! 城南美琴! 葵ちゃんの、親友の!」
「――――は?」
城南美琴。
確かにそういった名前の友人が、アオイにはいた。
だが城南美琴という友人は、十七歳にして寸動体形だったはずだ。
顔も平均的日本の少女の骨格をしている。
アオイが城南美琴を名乗るフリューヌを見直す。
恐らくは天然と言える金髪に、ギリシャ彫刻の美女を思わせる顔の骨格。
更にはその胸は豊満であった。
「……どちらさまですか?」
「だーかーらッ! 城南美琴だってば!! おっぱいコンナだけど! ……割と大きいけど、葵ちゃんよりはちっちゃいな。え? 葵ちゃん今バストいくつ?」
アオイの記憶にある城南美琴の言動と、目の前にいるフリューヌの言動が一致する。
どういうことなのだと、アオイは頭を悩ませた。
「え? いや誰?」
そんな所へ、ガクウが健康に良さそうなジュースを手にやって来た。
「……地球に居た頃の、友人を自称してる人」
この星の言葉でガクウに答えるアオイ。
アオイ自身何を言っているのかわからず、困惑を隠せないでいた。
「自称じゃなくて名実共になんですけど!?」
その言葉に反応し、この星の言葉で声を張り上げるフリューヌ。
「……フリューヌ、お前、何やってんの?」
そこへ、ジャグーダを連れたチャペリンがやって来た。
どうやら一部始終を見ていたらしく、震えた指でフリューヌを指をさし、顔を青ざめ乍ら問いかけている。
「……え? アンタ誰?」
見覚えが無い、とフリューヌは首を傾げた。
『読声』を無意識に使ったアオイと、意図的に使ったガクウは、その言葉に嘘偽りがない事を確信する。
城南美琴を名乗るフリューヌは、本気で自分のクランマスターの事を、知らないと言い張ったのだ。
「――――――――」
フリューヌの言葉に、顔を硬直させるチャペリン。
それも当然だ、と付き添っていたジャグーダは同情した。
ここに来る道程で、チャペリンにとってフリューヌが仲の良い幼馴染であることを、ジャグーダは聞いていた。
そんな幼馴染に真顔でこんな事を言われれば、心に傷が付くのも仕方の無い事だった。
「え、ヤダ。何この人怖いんですけど」
そんなチャペリンを見て、フリューヌはアオイの傍に座り、盾にするようにアオイの肩を掴む。
その行動が、チャペリンを劇場させた。
「フリューヌを洗脳したのはテメェかァァァァアアアアアアアアアア!?」
アオイに襲い掛かろうとするチャペリンだったが、宿にいた他のクランのメンバーに差し押さえられ、、差し押さえられる。
「助けてアオイちゃん! この人怖い!!」
そう言って城南美琴を名乗るフリューヌに抱きつかれるアオイ。
だがアオイ自身、この状況がさっぱり呑み込めず、困惑するしかなかった。
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