第34話 星属性の魔法
ポッカルの港にて、その攻防は行われていた。
町を護る為『クラン・ヴィザーナ』に集った人々は、海から這い上がる『チーター』達を相手している。
基本的な姿は、二本足で立ち腕を振るって戦うが、その顔はどことなく海洋生物を思わせた。
そんな異形の『チーター』相手に、『クラン・ヴィザーナ』の面々は押されていた。
『チーター』達の不可思議な力に翻弄されているというのもあるが、『チーター』側が『クラン・ヴィザーナ』の動きに慣れているのだ。
まるで過去に殺し合ったことがあるとでもいうかのように。
だが、『クラン・ヴィザーナ』が今まで相手にしてきたのは、肌が無機質な構造で出来ている『チーター』だ。
この様な海の化け物を相手取ったことは無かった。
『チーター』の口から悍ましい液体が放たれ、一人の騎士がそれを剣で振り払う。
だがその剣は液体に触れると、氷に熱湯を注ぎこむように溶けてしまった。
「な……!?」
焦る騎士に、『チーター』は嘲笑った。
「お前、昨日俺の首を切ったやつだな? あれは痛かった」
「……何だと!?」
騎士はその言葉で何かを察し、驚愕しながらも炎の球を放つが、動きが分かっているように避けられ、距離を詰められてしまう。
もうダメだ。
彼がそう目を瞑ってしまった時だった。
「鎧化!」
凛々しい声が聞こえたかと思い目を見開くと、そこには竜の鱗を纏ったような鎧の戦士が、『チーター』の爪を剣で防いでいた。
「シャオラッ!」
竜を纏っているかのような戦士は、そのまま『チーター』を一太刀で切り伏せて蹴り飛ばす。
「な、何だお前!? 味方か? 敵か!?」
騎士が戸惑っているかのように問いかけると、その戦士は甲冑越しに視線を向ける。
「俺は味方! 新しい勇者だ!」
そう言って、竜を纏っているかのような戦士――――ガクウは勇者ジオーグの聖剣を掲げた。
「おお……!」
それを見た者は、皆一様に感嘆の息を漏らした。
この近隣に住む者なら、誰だって幼い頃から知っている。
その聖剣を携えし者は、聖剣に選ばれた勇者なのだと。
勇者ジオーグの剣は、この国で全幅の信頼と希望の象徴ともいえる証だった。
ふと騎士の声が、どこかで聞いた事があることにガクウが気が付く。
「って、あれ? もしかして検問してた騎士の人? なんで港にいるの?」
その声は、検問でジャグーダが絡んでいた被害者の騎士だった。
検問所と港は、正反対の方角にある。
だと言うのにその騎士がここにいると言うのは、おかしな話だった。
「あ、ああ。主に検問を担当している、アメラリー・ユラリックだ。……いや、仕事が終わったので家に帰ってこようとしたら、港が襲撃を受けたと聞いて駆けつけた次第だ」
ガクウ問いに、懇切丁寧に説明する騎士、ユラリック。
「じゃあ検問所の方には別に人がいるってこと?」
「あ、ああ、そのはずだ」
ガクウの問いかけの意味が分からず、ユラリックは不思議に思いながらも回答した。
「ならよかった!」
守りが手薄になって挟撃を受ける可能性が低い事を確認したガクウは、ホッと息を吐いて肩を撫で下ろす。
そしてすぐに安心している場合ではないとと意識を切り替え、ユラリックに対し話を続けた。
「俺がアイツらの復活ができないようにとどめを刺す。皆はアイツらを一か所に集めるよう誘導してほしい。あそこら辺とか」
できるだけ簡潔にして手短に伝えると、ガクウは港の傍にある広場を指さした。
いつもならそこでは釣り上げた魚の競落しが行われている場所だったが、今は時間も日が沈んだばかりで誰もいない。
そもそも、襲撃を受けたということで非難誘導されているのだから誰もいるはずがないのだが。
「やはり姿を変えて蘇っていたのか……。お前ならそれを阻止できると?」
ユラリックが甲冑越しに、睨みつけるようにガクウに問いかける。
その問いに、ガクウは元気な声で答えた。
「先代勇者の力をお借りしてるんだ。やってみせる!」
その宣言を聞くと、ユラリックは息を吐くように笑い声を漏らした。
「……わかった。嘘を吐いたらたたじゃおかんぞ」
「大丈夫。俺は正直者だ!」
そう言って頷きあうと、ユラリックはは他の騎士達にその作戦を鏡話で伝える。
そしてガクウは、今なお地上へ這い上がろうとする数えきれないほどの『チーター』達に手を向ける。
「《炎の竜巻》!」
ガクウの手から炎の渦が溢れだし、海に叩きつける。
その瞬間、水面が爆発して『チーター』達は空へと打ち上げられた。
「シャオラッ!!」
炎の渦が打ち上げられた『チーター』を巻き取り、広場へと叩きつける。
その広場でも、何とか他の『チーター』達を、『クラン・ヴィザーナ』のメンバーが誘導しているところだった。
「《暗影の舞》!」
ジャグーダの声が聞こえたかと思うと、闇の奔流が街角から溢れだす。
騎士、『チーター』問わず、多くの者達が闇に呑まれていく。
しかし、広場へと押し出されていくのは『チーター』のみで、騎士達は踏ん張る程度でその場に立ち続けることが出来た。
ガクウが声のする方に視線を向ければ、建物の上で闇を操作するジャグーダの姿があった。
「兄ちゃん!」
「御託はいい! さっさとやっちまえ!」
そう言われて『チーター』達の方を見れば、不穏な力が渦巻いていくのがわかる。
何か大技を繰り出すつもりだろうと、それを見た者達が察した。
騎士達は各々魔法を叩きこむが、不穏な力の渦巻きは止まらない。
ガクウは急いででマナをかき集め、攻撃的になるよう活性化させるが、敵の方が攻撃を繰り出すのが早そうだった。
「《眠りの守り手よ》ッ!」
ジャグーダはすぐさまガクウの元に駆けつけ、闇の盾を展開する。
耐えきれるかどうかはわからなかったが、ガクウが射出完了するまで耐えきるしかない。
そうジャグーダが覚悟した時だった。
「《星の腕に抱かれて眠れ》!」
どこからともなくアオイの声が聞こえると、『チーター』達が地面から引っ張られるように倒れ、不穏な力の渦が霧散した。
地面に倒れ込んだ『チーター』達は、立ち上がろうと力を入れるが、地面から引っ張られる力に抗えずにいる。
ジャグーダはこの魔法を知っていた。
星属性の魔法。
魔法こそは現代に伝わっていたモノの、この世にただ一人しか使えなかった魔法だった。
マスター・ボンジャーグが、敵を倒す為に使っていたのを、ジャグーダはよく覚えている。
それを、地球からやって来たアオイが行使している。
「嘘だろ……」
自分が見ている光景を信じられず、茫然としたジャグーダは、闇で作った盾を解いてしまう。
その瞬間、背後でマナが一層輝くのを感じ、ジャグーダは急いでガクウの背後へと移動した。
「――――《託された希望の聖剣》!」
聖剣の名を高らかに挙げながら、ガクウは攻撃的に活性化させたマナの奔流を、広場にいるチーター達に叩きつける。
チーター達は断末魔を上げることすら許されず、マナの奔流に呑まれて消えていく。
その光景を、ガクウはしっかりと目に焼き付けた。
「やったぞ! あんなにいた『チーター』達がこんなに呆気なく!」
「さすがは新しく選ばれた勇者だ!」
それを見た騎士達が、手を挙げて大喜びしガクウを賛美する。
ガクウはそれを、龍の鱗の鎧をまとったまま手を振って答えた。
その甲冑の下は、きっと苦い笑みを浮かべているんだろう?
そう思いながら、ジャグーダはその場を後にした。
◇
建物に隠れていたアオイは、初めての大規模な魔法の行使に疲れ果て、道の端に座りこんでいた。
広場に集めて一網打尽にするという作戦は、アオイがガクウに提案したものだったが、予想以上の疲労感にアオイは参っていた。
遠くでは、ガクウが騎士達に囲まれ称賛されているのが見える。
あれから抜けだすのは大変だろうな、とアオイは呑気に崇めた。
そんなガクウを眺めていると、アオイのすぐ傍にジャグーダが現れる。
「余裕過ぎて拍子抜けだったな」
皮肉を込めたように、ジャグーダはアオイに話しかけた。
「あんなでも私の星の軍隊を壊滅させるだけの力はあるのだけどね。この星の保有する軍事力と、貴方の戦闘力が強すぎるのよ」
自分にまでその不機嫌な感情を押し付けないでほしい、と思いながらアオイは返答する。
だがジャグーダは、それを聞いて溜息を吐いた。
「お前も星属性の魔法使えるの、大分ヤバいからな?」
「……あの重力操作、それほどの物なの?」
ジュウリョクソウサ。
ジャグーダには聞き覚えの無い言葉だった。
どうやら宇宙同様、忘れ去られた概念があるのかもしれなかったが、今のジャグーダにそれを確かめるすべはない。
更にはその希少性に気が付いていないアオイに、ジャグーダはさらに苛立ちを覚えた。
「そりゃそうだ。使えるのはマスター・ボンジャーグぐらいのもんだったからな。お前の希少性がますます増えたってわけだ。まったく、天才様は才能に恵まれて羨ましいね」
言うだけ言うと、ジャグーダは闇に溶けるように消え去った。
「…………」
アオイはその希少性に驚きを覚えながらも、徐々に納得していった。
ガクウがこの魔法を教える際、自分では使っていなかったこと。
こんな魔法が一人しか使えないのであれば、そりゃ英雄にもなるだろうと。
自分にそんな力が備わっていた事に恐怖を感じたが、それと同じくらいの喜びもあった。
宇宙船の修理ではなく、ガクウにもできない戦闘方法を会得したのだ。
――――ガクウ君が無理するのを、私の力で緩和できるかもしれない。
そう思うと、アオイは笑みを浮かばずにはいられなかった。
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