第33話 ヴィザーナ・チャペリン
ガクウ達一行がポッカルへの入場門へと到着すると、何やら検問をする為の簡易的な建物が建てられていた。
フルアーマーに身を包んだ騎士が、手袋をはめてガクウ達の乗っている車のドアをノックする。
ジャグーダがネジの様なものを回して窓を開くと、騎士が厳格な雰囲気を漂わせて話しかけてきた。
「現在、『虐殺遊戯連合』対策の為、車や武装などは町の方で預かる手はずとなっています。よろしいですね?」
それは同意を求めるモノではなく、命令に近い口調だった。
対してジャグーダは、ヘラヘラと窓の淵に肘を付いて顔を支えながら口を開く。
「いやぁ、そいつは参ったな。武器が無いんじゃ、『チーター』が来ても俺達が対応できないじゃないか」
「その場合、『クラン』の方で対処致しますので、どうかご安心を」
受け答えする騎士の声には怒気が積もっていくばかりだ。
だというのに、ジャグーダはニヤニヤと厭味ったらしい笑みを浮かべながら、懐を探っている。
「おい、ガクウ」
「ん? ……ああ!」
ジャグーダが声をかけると、ガクウも何かに気が付いたようで懐を探りだす。
そうして二人が取り出したのは、宝石の付いた勲章だった。
「そ、それはまさか……!?」
騎士がその勲章を見ると、恐れおののき声を震わせる。
「そう。俺達は国に軍隊と同等の価値があると認められた『聖騎士様』ってことだ。そんな俺達は、武器が持ってた方がいいだろう?」
言いながら、ご満悦の笑みを浮かべ勲章を騎士にペシペシと叩くジャグーダ。
それを見たガクウは、すぐさま後部座席からジャグーダの後頭部を掴み、騎士に向かって頭を下げさせた。
「兄がすいません。昔から捻くれたことしか言えないんです。本当にごめんなさい。どうか許してやってください」
「オイ掴むなッ! あと弟面をするじゃねぇッ!」
ガクウとジャグーダが言い争いをしだすと、アオイが溜息を吐いて話しかけてきた騎士に話しかける。
「すいません。車は預かってもらって、武器の所持は許しては貰えないかしら」
「え、ああ。はい……」
騎士は二人の喧騒に困惑しながら、アオイにあやふやな返事をするのだった。
◇
町の騎士に車を預けると、ガクウ達は一先ず宿を取ることにした。
このポッカルで一番大きな宿の『ヴィザーナホテル』に部屋を取ると、その宿にある大きなレストランで夕食を取ることに。
その際ジャグーダは、レストランの席についても、ガクウやアオイに一切話しかけることは無かった。
それを不審に思ったガクウが、ジャグーダに話しかける。
「……どうしたのさ兄ちゃん。突然見知らぬ騎士にマウント取るだなんて。いつもなら相手選ぶだろ?」
「俺が誰に何をしようが勝手だろうが。そんなに恥ずかしいなら、いい加減俺の弟面を辞めろ」
妙に不機嫌な声を漏らしながら、ジャグーダは口に緑色のソースのついた肉を頬張る。
これにはガクウも参ったようで、口を噤んでしまった。
何せ機嫌の悪い理由に、ガクウは心当たりが全く無かったのだ。
話しかけてもそれをぶつけてこないということは、自分に話しかけて欲しくない事なのだとガクウは判断した。
すまなそうにアオイに頭を下げると、ガクウも緑色のソースのかかった肉を口にする。
「あ、柔らかい。後この緑色の、しょっぱいけど甘い感じもして不思議だ……!」
途端に目を輝かせるガクウ。興味がジャグーダから食事に移った瞬間だった。
似たようなことをジャグーダさんもしていたな、と思いながらアオイは魚料理を食べる。
地球人の彼女にとっては、酸味が少しきつい様な気もしたが、美味しいと思える範疇であり特に問題は無かった。
「こいつら本当に聖騎士かよ。なんだか偽物っぽいなぁ!」
「あ?」
突然聞いた事も無い声に暴言を投げかけられ、声の聞こえる方を睨みつけるジャグーダ。
ガクウとアオイも同じ方を見るが、むしろ検問の聖騎士にご迷惑をおかけしたので、そういう意見もしょうがないなと思っていた。
声の主は、褐色の肌に金髪の男だった。年齢はジャグーダより少し若い程度だろう。
その服装は金がかかっているのが素人目でもわかるが、決して派手という装いでは無い。
傍らには、髪の長い綺麗な金髪の女騎士が佇んでいた。
「……オイオイオイオイ? 突然やって来て言いぐさだな。どこのどいつだ」
ジャグーダは席から立つと、褐色肌の男を真正面から睨みつける。
睨みつけられた当人はと言うと、それを平然と受け流し名乗りを上げた。
「俺はこの町で『クラン・ヴィザーナ』のマスターを務めている、ヴィザーナ・チャペリンだ。このホテルのオーナーでもある」
それを聞いてガクウは遠い目をし、ジャグーダは満面の笑みを浮かべる。
アオイが見る限り、その笑みには悪意が込められているように見えた。
「……ほう。マギアニウムを海で掘り当てて、戦争の引き金を引いちまった所のお坊ちゃんか。お目に書かれて光栄だな」
ジャグーダの皮肉に、チャペリンは眉を吊り上げた。
「ア? 喧嘩売ってるってことでいいのかお前?」
「オイオイ。俺はただ事実を言っただけだぜ? それとも何か間違ったことを言っちまったかな? 可笑しいな。お前の所の親父さんが引き起こした戦争で、俺は聖騎士の勲章を得た筈なんだが?」
ジャグーダがわざとらしく首を傾げると、チャペリンは拳を強く握った。
「それを喧嘩売ってるっていうんだよなぁ!」
「落ち着いてくださいマスター・チャペリン!」
殴り掛かろうとするチャペリンだったが、傍についていた女騎士に羽交い締めされ止められる。
それをジャグーダは嘲笑った。
「女にお守りをして貰ってるのか。そいつはいいご身分だな」
「テメェエエエエエエ!!」
言い争う二人を傍目に、アオイはガクウの袖を引いて耳打ちをする。
「……ねえ、『クラン』って何かしら」
アオイからすれば、聞いた事も無い単語のオンパレードで、何を言い争っているかもわからない状態なのだ。
それを『読声』を使って理解したガクウは、ジャグーダから目を離さずに、小さな声で説明しだした。
「普段は別の仕事とかをしている騎士とかが、非常事態の際に集まる騎士団の集まりの事だよ。国公認の自警団みたいなやつのこと。
ヴィザーナって言うと、多分彼のお父さんかな? マギアニウムを掘り当てたんだけど、その掘り当てた海が仲の悪い国の近くてさ。その資源の奪い合いで、戦争が起きたんだ。
今はそれはこっちの国のモノだってなったけど、採掘を主導してるのがヴィザーナカンパニーだったはずだよ。
そんな人が『クラン』のマスターをやってるとなると、彼なりに正義感があるのは間違いないと思うよ。」
「……なるほど。大方理解したわ」
その説明に、アオイはジャグーダが喧嘩腰なのが納得した。
機嫌が悪い所に、戦争勃発の一端を握る人物の子孫が、その戦争で必死に戦って得た自分の栄光を悪く言いに来る。
それを怒るなと言うのは酷な話だと、アオイはジャグーダに同情もした。
しかし、その子供にあたると言うのはいささか大人げないのもまた事実。
更には聖騎士であると疑われるような行動をした彼も悪い。
どうやって二人の言い争いを収めようと、ガクウとアオイは頭を悩ませた。
そんな時、どこからともなく鐘が鳴った。
耳をつんざく様な、どこか不安になるような音。
アオイは何の音だろうと首を傾げるが、この国の住人達は例外なく顔を青ざめさせた。
「『チーター』の襲撃か……! フリューヌ! 避難誘導をしろ! 俺は現場に赴く!」
「わかりました」
チャペリンがそう指示をすると、フリューヌと呼ばれた女騎士はすぐさまレストランから飛び出した。
それを見て、ジャグーダは感心するように口笛を鳴らした。
どうやら、金持ちの道楽で『クラン』のマスターをやっているわけではないらしいと。
「……おいガキ」
ジャグーダがチャペリンのの肩を、トントンと叩いてから掴む。
「今お前の相手をしてる暇はない! 後にしろ!」
その手を振り払うチャペリンに、ジャグーダは勝手に話を続ける。
「んなのは俺だってわかってる。だが俺は仮にも聖騎士だ。情報を共有してくれるって言うなら、お前に使われてやるよ」
その言葉に、チャペリンは驚いた様な目でジャグーダを見る。
それもそのはず。先程まで言い争っていた男が、突然態度を軟化して協力すると言ってきたのだから。
「……本当に聖騎士なら、アンタの方が位が上だと思うけど?」
「信用してないんだろう? なら戦場で認めさせてやるよ」
そう断言するジャグーダの目に、嘘は無いようにチャペリンには見えなかった。
素行が悪く、信用ができないのは事実。
しかし、『チーター』が相手であれば戦力は出来るだけ欲しい。本当に聖騎士ならばなおさらだ。
だが、もし『チーター』側のスパイだった場合は?
もう一度ジャグーダの目を見るチャペリン。
その目には『チーター』の様な薄汚れたものは無いと、商人として様々な人間を見て来た自分の勘が訴える。
チャペリンは目を思いっきりつぶると、ジャグーダの顔を真っすぐ見た。
「俺の期待が裏切られたら、その時は魚の餌だからな!」
そう言うと、チャペリンはレストランから飛び出していった。
「よし、行くぞガクウ……ガクウ?」
それに続こうとするジャグーダだったが、ガクウに呼びかけても返事が無い。
辺りを見回せば、ガクウもアオイも姿が見えない。
「……先に行きやがったなアイツら!!」
ジャグーダの絶叫が、レストランの中に響き渡った。
「竜の力を得た最強の聖騎士は、チートな異世界人達相手にも余裕で無双しますっ!」
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