第32話 港町ポッカルへ
ガクウ達一行は、港町ポッカルへと向かっていた。
アルマカイタウンの復興を手助けすると称して、町が保有している車を一つ買い取ったのだ。
舗装こそされてはいないが、それなりに幅の広い道を走る。
「最初から車買えばよかったのに」
後部座席に座っているガクウがぼそりと呟いた。
運転をしているジャグーダが、ルームミラーごしにガクウを睨みつける。
「頭を使えバカ。本来、列車でなら短時間でウィルバーナに着いたんだ。コスパでいうなら、本来列車が一番だったということだ。だが、列車は聞いての通り線路がオジャン。それに加え、車は整備やマギアニウムとかにも金がかかる。それに今回は経由する場所も違う。港町ポッカルに行って、水の神殿を奪い返してからウィルバーナへ向かわなきゃならんからな。なら高い金を出して、車を買っちまった方が早いってわけだ。分かったかマヌケ」
「わかった!」
長々と説明するジャグーダの説明に、元気よくガクウ。
傍から見れば本当にわかっているか不安になる様な光景だが、ガクウは基本的に物分かりはいい。
それに加え、『読声』も使える。故に説明されれば大抵の事は昔から理解できた。
二人が騒ぐ一方、アオイはガクウの隣で静かに読書をしていた。
魔導に関する基礎的な本をアルマカイタウンの本屋で見つけたので、今後の参考にとガクウに何冊か買ってもらったのである。
「っつーか、今のお前がそれ読んで理解できるのか? 魔法の基本を熟知してなきゃ、どういう理屈かもわからねえだろ」
ルームミラーを見た際、それが視界に入ったジャグーダが苦言を漏らす。
「魔法なら、昨晩あらかたガクウ君に教わったから、大丈夫よ」
「……は?」
アオイの返答に、ジャグーダはマヌケな音を口から漏らした。
「おいおい、魔法の基本がそんな短時間で――――」
「収めてたし完璧に使える」
バカにするように否定しようとするジャグーダだったが、即座にガクウがアオイを肯定する。
「……いや嘘だろ?」
「本当本当。アオイちゃん、教えればすぐできちゃってたよ。一教えたら十理解してたし!」
そんな事があるわけがない、とジャグーダは否定しようとしたが、ふと昨日の夜の事を思い出す。
『私が調べてみるわ。簡単な調査キットなら作れたし、何か分かるかもしれない』
そう言って彼女がカーミラの毒を調べ上げた結果、一般市民がどんな状態に侵されているのか判明したのではなかったか? と。
あの時ジャグーダは、ガクウが余計なことまで教えたことを非難していた所為で気が付かなかったが、短時間で魔法を習得した者にしてはおかしすぎた。
初心者であれば、一つの属性の魔法を使って単純な石ころを作るだけでも褒められるべきである。
しかし、薬の成分を導き出せるほど高度な道具を作るとなると、ジャグーダ程魔法を熟練していても面倒だった。
それを、アオイは何の苦も無くやってのけた。
ジャグーダがアオイの調査キットとやらを見た際、今までに見たことのないモノだった。恐らくは彼女の星の道具なのだろう。
惑星ティルナディアの道具を作るのであれば、本などにでも明記されているので作れないこともない無い。
だが、地球の道具であればそんな魔法が明記された本は無い。
これは《既存魔法の改変・応用》どころではない。
短期間で《魔法を一から作る》という暴挙である。
《魔法を一から作る》事体は、どんな魔法使いでもできておかしくない。
だが、それは長い月日をかけての話。
安請け合いで作れるようなものでは、決してなかった。
「……おい、お前天才か?」
「よく言われたわ」
ジャグーダの皮肉に、アオイは大したことでもないと言いたげに本を読み進めていく。
そして、ジャグーダはようやく思い出す。
こいつ、宇宙を渡る船を作り、地球からこの星までやって来たのだったと。
「……あーあ、世の中選ばれたヤツばかりで嫌になる」
ジャグーダはふてくされながら、車を走らせた。
◇
アオイが買ってもらった本を全て読破し、顔を見上げると、海に日輪が沈んでいくのが見えた。
ふとアオイが空を見渡すと、赤と黒が混じりあう光景が視界に映る。
そして前方を見れば、遠くに彫刻で削られたような、芸術的価値を感じさせる建物が立ち並んび、町となっていた。
港町と言うにはどうも豪華絢爛に感じ、アオイは不思議そうに手を顎に当てた。
「ポッカルは海の幸や、マギアニウムが産出される港町なんだ。お魚料理が美味しいお店がたくさんあるから、よく観光に来る人もいるんだよ」
ガクウがそう説明するが、アオイの疑問はまだ貼れていない様子だった。
「……この辺り、観光できるところ多いわね?」
「勇者ジオーグの剣を引き抜ける体験ができたからな! そりゃ人も一杯集まりやすい!」
そう言われたアオイがガクウの足元を見ると、件の聖剣が立てかけてあるのが見えた。
「もう聖剣が抜かれている事を知ったら、観光業にダメージが入りそうね」
「こればっかりはしょうがないな!」
はっはっは! とガクウは笑い飛ばした。
本来この世界を救うための聖剣であり、それを本来の用途で使っているので、文句を言われる筋合いはどこにもない。
二人が仲良く話している前で、ジャグーダは港町ポッカルの様子を眺めていた。
塀の修復作業をしている所があったが、建物には光が灯り、人々の賑わう声も聞こえる。
『チーター』の気配も感じないので、恐らく防衛に成功している町なのだろう。
ジャグーダはそう判断した。
「ほう、ポッカルは中々賑わっているようじゃないか。これなら宿やレストランにもありつけそうだ」
ジャグーダのレストランという言葉に、ガクウは敏感に反応した。
「俺、分厚い肉が食べたい!!」
先程魚料理を勧めていたのは何だったのかと、思わずガクウの顔を見てしまうアオイ。
「……俺も分厚い肉が喰いてぇ」
そしてなんと、ジャグーダもそれに乗っかって来る。
どんな星でも男は肉を求めるのか? 学術的にまとめるべきかどうか、アオイは少し迷った。
だが、ふと違う疑問が湧き、すぐさまガクウとジャグーダに問いかける。
「そういえば、水の神殿と言うのはどこにあるの? てっきり、この町の近くにあると思ったのだけれど」
街並みは確かに豪華だが、神秘的に感じるようなものは無かった。
もしかすると、自分がそう見えないだけで、実際はそういったものが目の前にあるのかもしれない。
アオイなりに色々と考えて見るが、明確な答えは出なかった。
「海底だよ」
「……え?」
ガクウの思わぬ返答に、思わず固まるアオイ。
「海の中って事!」
言葉の意味が分かっていないと判断したのか、海底の意味を説明してくる。
確かにアオイが『チーター』から学んだ語学に誤りがある可能性はあったが、どうやら今回はそういったことではないらしい。
なるほど、とアオイは頷くが、どうも海底にある神殿というのが上手くイメージできない。
ゲームなどではそういった物はあるが、現実ではどういった意図でそんな所に神殿を絶てるのか、アオイには理解できなかったのだ。
すっかり魔法を完璧に理解した気になっていたが、自分は未だ未熟だなと、アオイは実感させられるのであった。




