第30話 負け犬の子分
惑星ティルナディアの月面の『虐殺遊戯連合』の本拠地、月面基地アラモサーラ。
その中には、『チーター』やその家族が暮らす為の、生活エリアというものがある。
無駄を排した簡素な作りだが、その実態は様々な星の技術が結集されて作られたハイテク都市だ。
住居や豊富な店の数々。
生活エリアにある喫茶店にて、カーミラは苦い表情を浮かべながら血液を飲んでいた。
現在の彼女は、非常に危うい立場にいた。
今までカーミラはCh.9の派閥に所属しており、Ch.9をそれはもうヨイショしまくっていた。彼女の保護下に入る為に。
なぜそのようなことをする必要があるかと言えば、『チーター』はひょんなことで他の『チーター』に殺されてしまう事がある。
蠱毒の様に争い、自分達を高め合っていく――――。
……と言えば聞こえがいいが、『チーター』には短気な人間が多いだけである。
しかし、リクライト・ガクウにCh.9が倒されてしまい、彼女の派閥は崩壊した。
故に、カーミラはやけになって血液を自棄になって飲んでいたのだ。
そんな所に、青い機械人形の様な大男がやって来た。
「やれやれ、こんな所で一人自棄飲みか?」
男はそう言うと、カーミラの隣に座る。
テーブルをトントンと叩くと、青い色のした飲み物が出て来る。
「あ、ウェスタン。Ch.1が死んで、その後どう?」
「この素体の調整で忙しい。まあ、今度はどんな卑怯な手を使われても負けることはねえよ」
そう、このウェスタンと呼ばれた男、全身火傷のガクウが最初に倒した『チーター』である。
彼もまたカーミラ同様、Ch.1が死に絶え派閥を失って、途方に暮れている内の一人である。
「奴隷も買ってみたが、何の慰めにもなりやしない。ヒューマノイドタイプのエイリアンは軟弱でいけないな。特に地球人は脆いのなんの……改造して楽しめるようにしなきゃな」
「ちゃんと頭撫でて愛情注入しときなよ~?」
素体で奴隷として売られている生命体の頭を撫でると、奴隷に搭載されているナノマシンが発動し、脳に幸福だと錯覚させることが可能となる。
これにより奴隷の裏切り等は存在せず、安心と信用を持って『チーター』達が買い取ることが可能となるのだ。
「そういうお前はどうなんだよ。最近奴隷買ってないらしいじゃねえか」
ウェスタンが問いかけると、カーミラは頬をだらしなく緩ませる。
「ほら~、私今ジャグーダが欲しいから~、レベル上げに勤しみ中なの!」
「やれやれ、気楽だなお前も」
呆れたウェスタンが飲み物を飲もうとするが、それは叶わなかった。
何故なら、そのコップから人が飛び出して来たのである。
それは当然の様に現れると、テーブルの上に寝転んだ。
「どうも~! 負け犬の子分の皆さん、お元気ですか~!?」
出てきて早々煽り散らすそれを見て、ウェスタンとカーミラは驚愕した。
「さ、SGM!?」
SGM。
GMを補佐する道化師の姿をした何かである。
その権限はCh.1等には及ばないが、GMから許可が出ればどんなこともできると噂されている。
そして彼に逆らった者は、皆一様にして姿を消してしまうという。
そんな人物が現れ、二人は委縮してしまう。
彼らは自分より弱いと思える者には、どうすることだってできた。
しかし、自分より遥か高みにいる存在には、平服せざるをえないのだ。
「あれぇ? 私は負け犬の子分の皆さんと言ったんですが、お返事はどこですか~?」
「「……はい」」
二人は振り絞ったような声で各々返事をするが、SGMは耳に手を当て続けて、まだかまだかと返事を待っている。
「ランキングTOP10に入るあの『チーター』のお二人も、教育がなってませんねえ。こんな歯ぎしりをしているような様子では、返事されてる方が全然気持ちよくないじゃないですかァ! ほら、自分の奴隷にさせてる事と同じことをするんですよ。奴隷に出来て、あなた方に出来ないということはありませんよねぇ? ほら! 返事!」
楽しそうに手を叩いて催促するSGM。
二人は地面に跪き、身体を震わせながら頭を垂れた。
「……ワン!」
「にゃーん!」
いつも自分の奴隷にさせている返事を、二人は頭を地面に擦り付けながら口にした。
それは、二人にとって余りにも屈辱的行為だった。
こんな事を、人間がやるものではないと思っているからだ。
「うヒャヒャヒャヒャ! 本当にしましたよこの負け犬の子分立ぃ! ダッセェ~! 情けなくなぁいんですかぁ~?」
あざ笑うSGMに、二人は何も言う事ができなかった。
自分はこんな事されるような存在じゃない。いつかお前をこき下ろしてやる。
復讐心がふつふつと湧きあがる二人だったが、SGMは全くもって気にすることは無かった。
「と、まあ。そんな事はどうでもいいのです」
だったらさせるな。と二人は心の中で訴えるが、もちろん実際に言える度胸は無い。
「実は今回、ウェスタンさんにお願いがあってきたんです」
SGMの言葉に、ウェスタンは表情を明るくして顔を上げた。
「まさか、俺に特別なミッションでも……!?」
自分が特別なモノに選ばれるという期待に胸を躍らせ、問いかけるウェスタン。
しかし、SGMはそれを聞いて怪訝な表情を浮かべる。
「貴方にそんな価値無いですよ。そんな勘違いして恥ずかしくないんですか?」
「うぐ……!」
ふざけるな! と心の中で吠えるウェスタンだったが、必死に怒りを収める。
「貴方が先日に買った奴隷、私に譲ってほしいんですよ」
「はあ!? なんで!?」
さすがの横暴に、思わず声を荒げるウェスタン。
しかし、SGMはにこやかな笑みを浮かべて問いかける。
「お礼に経験値一億ポイント差し上げます。いかがでしょう?」
「どうぞお好きにお使いください」
ウェスタンは頭を再び地面に擦り付けた。
それだけの経験値があれば、素体を好きなだけ強化することができる。
Sランクと呼ばれる特別扱いをされる『チーター』になれるのも視野に入って来るからだ。
「ありがとうございまぁす!」
SGMは空間にウィンドウを開くと、ウェスタン宛に経験値を一億ポイント送る。
すぐさまウィンドウを開いて確認すると、実際に一億ポイントもの経験値が振り込まれており、ウェスタンは喜びで小躍りした。
「あの、差し出がましいのですが、あんな男にそんなに経験値を差し上げてしまってもいいんでしょうか……?」
他人が良い思いをするのが許せないカーミラは、思わずSGMに進言してしまう。
「ええ、ちょっとGMがCh.0を使いたがってまして、それを止める為に私がテコ入れをしようかと」
「……Ch.0?」
聞き覚えの無い言葉に、カーミラは首を傾げた。
数字で呼ばれるSランク『チーター』は、Ch.1~100までである。
Ch.0という物は、カーミラは存在しないものと認識していた。
「ああ、知りませんか。なら結構です。忘れて下さい」
わざとらしく謝るSGMにイラつくカーミラ。
そんなカーミラのことなど梅雨知らず、SGMは話を続ける。
「それに、今回は他の数字持ちのSランクチーターが、張り切っているようでして……。黒騎士のCh.5、最終兵器のCh.2とか。本格的に動き出す前に、興味を失ってもらわなければ」
「……それは、いいことなのでは?」
何を懸念しているか分からず、顔をしかめるカーミラ。
SGMはそんなカーミラをバカにするような表情を浮かべ、懇切丁寧に説明して来た。
「GMとしてはそれでいいんでしょうが、あの二人が暴れたら勇者討伐クエストがあっという間に終わってしまいます。火力だけで言えば、あの二人はCh.1を超えますからねえ。簡単に勇者クンを倒してしまう可能性があるんですよ。それじゃあ、貴方達低ランクの『チーター』の立つ瀬がないでしょう?」
鬼気迫るSGMの言葉に、思わずコクコクと頷くカーミラ。
それを確認すると、SGMはすっきりしたような表情を浮かべた。
どうやら、SGMは二人をおちょくって、ストレスを発散したかっただけらしい。
「まあ、お二人が次にゴマをするなら、今挙げたお二人とかが良いんじゃないですかね? それじゃあ皆さん、コケコッコ~!」
八つ当たりした彼なりの謝罪なのか、一言助言を与えて、SGMは霧のように消えた。
「……鞘替えかぁ」
カーミラは思わず口にして戸惑ってしまう。
何故ならば、今SGMに挙げられた二人は堅物として有名なのだ。
自分の気性と会うか否か不安だった。
しかし、SGMの助言を実行しなければそれはそれで怖かった。
仕方なく、カーミラは重い腰を上げる。
経験値を夢中に振り分けまくって、話を聞いていないウェスタンを置き去りにして。




